第209話 冒険者ギルドで一悶着(テンプレは駄目だったよ)



スイ姉がまた良く分からない事を言い始めた。何でいきなりダンジョンに行くことになってるんだろう?アルフ兄に呼ばれて来たらスイ姉が「じゃあ、行こうかダンジョン」ってさっぱり理解出来ないよ?

しかも行く場所はどうやら蒼龍の祠の様。これ絶対にスイ姉も大した情報を持ってないパターンだ。知ってたらそんな面倒臭い場所に行くとは思わない。

冒険者ギルドが蒼龍の祠に決めたランクはAランク。最奥のボスは当然蒼龍で全三十階層からなるダンジョンだ。ダンジョンの共通項として基本的に五階層毎に環境が変わるとされているけど実際に僕が調べた感じだとダンジョンには大まかに四種類に分けられる。

まず一つ目が地上風景描写型、草原や森、湖に山といったような地上風景が組み込まれたダンジョンだ。基本的に罠は少ないけど魔物の数が多種多様で且つ多いダンジョン。二つ目が環境特化型、砂漠、火山、氷原といった極悪環境が組み込まれたダンジョン。罠は殆ど皆無と言ってもいい位無いけれど代わりに天然の罠が立ち塞がる。それに環境が基本的に酷いのでそれに対する対策無しじゃまともに進む事など出来はしない。

そして三つ目が洞窟探索型、洞窟以外の層は出てこないけど圧倒的に多い罠の数とそれを利用する魔物達の攻撃がかなり厄介な場所。明かりなんかも無い為冒険者は明かりを用意しなければいけないし不利を強制的に押し付けられるダンジョン。最後が今から行こうとしている蒼龍の祠のような単一環境型ダンジョンだ。蒼龍の祠であれば常に水が冒険者達の膝近くまである。動きづらいし魔物も群れが多い癖に小さいから中々攻撃を当てられない。重装備で行けば攻撃の大半は防げると思うけどそれだけじゃ攻略は出来ない。何故なら蒼龍の祠には完全水没ゾーンが存在するからだ。水面が存在しないゾーンなので一度沈んだらそのまま帰らぬ人となる事は容易に想像出来る。

だけどスイ姉なら確かに問題なく攻略出来るだろう。だけど僕が気にしているのはそういう事じゃないんだ。スイ姉ってさ、泳げなかったよね?水没ゾーンとか泳ぐ事前提なんだけど大丈夫なの?



どうもディーンに心配そうに見つめられている感じがするけどダンジョン程度に正直遅れを取る事はまず無いだろう。中の魔物がそれこそ深き道に出てきた見てはいけない魔物とかのレベルだったら難しいかもしれないけどそんな物が出てくるなら流石にグルムスも止めるだろう。

とりあえず場所を知らないので冒険者ギルドに向かう。というか帝都の冒険者ギルドに初めて来た。アルフ達も来てはいないようだ。ディーンは迷いなく来ていたから多分調べてる。うぅん、情報収集どうやっているんだろう?流石に一人で調べ回ってるとは思わないのだけど。


「こんにちは。ご依頼でしょうか?でしたらあちらの受付で」

「違う。情報が知りたい」

「情報ですか?」

「ん、蒼龍の祠の場所って何処かな?」


受付の女の人にそう言ったらテーブル席に居た顔を酷く赤らめたおじさんがやってきた。お酒臭い。


「嬢ちゃん、蒼龍の祠になんざ何の用だぁ?」

「ダンジョンに行くのに理由が必要なの?」


だとしたら鍛錬の為と答えた方が良いのだろうか?それともダンジョンにあるという宝を見付けにとでも言えば良いのだろうか?


「嬢ちゃんがぁ?行くのか?」

「ん、行くよ?」

「やめとけ、やめとけ。嬢ちゃんみたいなちいせえのが行ったところですぐに死ぬのが関の山だ。大人しく家に帰ってな!」


絡まれているのかもしれないけど心配の要素が大きい感じがする。受付の人も止めないし、やっぱり私の見た目じゃテンプレは難しいのかもしれない。冒険者に絡まれるって一回位やりたいのだけど。


「死なせねえよ。俺が守るからな」


アルフの言葉を聞いたおじさんはあぁ?と睨むけどアルフも睨み返す。


「てめえみたいなガキがなにイキってやがんだ!嬢ちゃんが危ねぇ事に首突っ込もうとしてんなら止めんのが普通だろうが!馬鹿言ってんじゃねぇぞ!ガキ!」


どうしよう。やっぱりテンプレは出来ないみたいだ。グルムスが折角テンプレ出来そうな場面を用意してくれたのに。お酒に酔ってるなら正常に判断して欲しくない。


「うっ!」


アルフが凄い苦々しそうな表情をしている。それもそうだよね。普通に説教されただけだし。ステラとフェリノも居心地悪そうだ。ディーンは……また見えなくなっているから。あっ、そうか。おじさんにはアルフが調子に乗って女の子三人連れてダンジョンに向かおうとしているように見えるんだ。そりゃ止めるよね。


「大丈夫だよ。私達強いから」


私がおじさんの腕を掴むけどおじさんはアルフを怒るのをやめない。アルフも本来ならその通りだからか大人しく聞いてしまっている。


「嬢ちゃん、あのガキが強いのかもしれんが蒼龍の祠はやめとけ。彼処は生半可な気持ちじゃ攻略どころか一階層で殺されちまう。ましてや対策無しじゃ絶対に無理だ」

「あぁ、対策は最初からしないで行くつもりだから気にしなくても」

「は?」


あれ?私がそう言った瞬間おじさんの目付きが凄く鋭くなった。私に対して。そう思った瞬間伸びてきたおじさんの手が私のこめかみを!?痛い!?


「このガキィ!死にたいのか!?おぉ!?自殺志願か馬鹿なのかどっちだ!?」

「い、痛、痛い!?」


こめかみグリグリ痛いよぉ!?初めてやられたけどこれこんなに痛いんだね!?暫くされた後手を離された。痛い……泣きそう。というか少し泣いてる。


「おい……死にたいのか?」


おじさんが真剣な目でそう問い掛けてくる。それに対し私達は全員首を横に振る。


「なら余計に対策無しでダンジョンに行くなんざ馬鹿のすることだ。少しの油断が死に繋がるんだ。行くなとは言わねぇ。色々事情があるんだろうしな。だがだからと言って無謀に突撃して死ぬのをただ眺めるなんざごめんだ。良いか、命を失う危険よりも目先の金を惜しむんじゃねえ。生きてりゃ金なんざ幾らでも稼ぎようがあるんだ。だが死んだら元も子もねえんだよ」


そう言っておじさんは私を見る。おじさんの言葉はその通りだ。確かに私が大丈夫でもほんの少しの油断でアルフ達が大怪我を負う可能性はある。四肢欠損なんてしたら治……せるけどしない方が良いに決まってる。けどそれじゃ駄目なんだ。私の補助ありでダンジョンを攻略しても本当の意味でアルフ達に実力が付くことなんて無い。多少は付くだろう。だけどその些細な違いで後の死に繋がるならば妥協は出来ない。


「ごめん、おじさん」


私の謝罪を聞いたおじさんは少し目を伏せる。私の声音から全てを理解した上で対策を取らないと伝わったのだろう。


「そうか。ならせめて」


おじさんがふと言葉を途切れさせるとおじさんが元居たテーブルの人達が一斉に切りかかって来た。それと同時に今入ってきたばかりの冒険者が懐から投げナイフを投げてきて受付の女の人が小さな風の刃を無詠唱で放ってくる。

それに対してアルフが指輪からコルガを取り出してテーブルの人達を薙ぎ払いフェリノが投げナイフを掴み取りステラが魔法を防ぎ私がおじさんの腕を掴んでディーンはおじさんの首に爪を突き付けた。

私達の対応におじさんは目を見開く。


「強い事は証明出来たよね?なら蒼龍の祠、行ってもいいかな?」


私の問いに苦々しそうな表情をしておじさんは頷いた。そんなに嫌がらなくても大丈夫なんだけど多分信用はしないのだろうなと思う。実際実力はあっても罠解除等の技能があるかと言われたら無いと答えるしかないのだから。

受付の女の人は少しだけ不満そうにしながらも蒼龍の祠の場所を教えてくれた。さて、じゃあ行こうかな。後何で受付の女の人は横の販売所に行くのをオススメしたのだろう?行ったら何故か水着を買わされた。銀貨にして五枚、日本円換算五百万だ。まあ素材は良かったしデザインがそれなりに好きだったからいいけど高いなぁ。でも何でだろう?蒼龍の祠が少し怖くなってきたよ?

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