第208話 ダンジョン行こう?
「……ん?」
目を開けて周りを見渡すと何処かの屋敷の部屋のようだ。身体は何かで縛られている様で動かせない。しかも魔力を吸収しているのかはたまた封印でもしているのか魔力も動かせる様子はない。
透明になっていた女の子の気配を感じないのでこの部屋には自分一人しかいないのだろう。独房に入れられるよりかはマシなのかそれともそれ以上の事をするからここに入れられているのか判断が付かない。
指輪もしっかり回収されたようで脱出に使えそうな物は一切取り出せない。まあそれでも脱出出来るかは怪しいが。
「……寝ようか」
何かすることも出来ないので諦めて床に横たわる。床にはふかふかのカーペットが敷いてあり身体が痛くなる心配はない。寒さも特に感じないので大人しく寝るだけなら風邪を引くことも無いだろう。そもそも風邪を引く程生きていられるのかも分からない。
「……!?」
目を閉じた瞬間確実に居なかった筈の目の前から気配を感じた。しかも自分を気絶させた女の子の気配だ。慌てて目を開けると目の前にやはりあの女の子が立っていた。
「おはよう。簡潔に言ってあげる。死ぬか奴隷となるか選ばせてあげる。それ以外の選択肢は一切無いから早めに決めてくれると嬉しいなあ」
淡々と話す女の子の言葉に身震いする。
「……一応訊いても?」
「何を訊くの?」
「奴隷の場合の仕事は……何かな?」
「貴方の出来る全てをして貰おうかな。何が出来るかは分からないけどその辺り詳しく聞くつもりなんて無いから」
「全て?」
「そうだよ。嫌?」
「……嫌とかじゃなくて……自己申告で悪いけど僕はアーティファクトを作る事が出来る。いや作った事がある。それなら僕はアーティファクトを作らないといけないのかな?だとしたら寧ろ喜んで!奴隷になりたい!君の為に忠誠も誓おう!命も捧げても良い!あっ、でも一回も作れないまま死ぬのは嫌だからある程度作らせてくれた後ならという条件が欲しいけど。いや無理にとは言わないが。そうだ!指輪!あの中に僕の作ったアーティファクトが入ってる!それを見てくれたら信用されるだろうか?」
いきなり饒舌になったクオルタにスイは無言で腹を殴った。
「やかましい。貴方が作れるとかどうでもいい。今聞いているのは死ぬか奴隷か、でしょ?死にたいの?」
「ゴホッ、ゴホッ……ど、奴隷でお願いします」
クオルタが息が詰まりながらもそう答えるとスイは徐に近付くとクオルタの首に牙を荒々しく突き立てる。突然の痛みに暴れ回りそうになる身体を理性で押し留めたクオルタだがすぐに起きた身体が引きちぎられるような痛みに耐えられずに身体をのたうち回らせる。
「生きていたら良いね」
一言そうスイは言うと部屋から出ていってしまった。クオルタはただ襲い掛かる痛みにそれに気付くことも出来ず気を失った。
「アルフ、大丈夫?」
「大丈夫だって、擦り傷ばかりだろ?」
「うぅ、だってイグリアスに包囲攻撃されたでしょ?本当に細切れになっててもおかしくなかったんだよ?」
「でもそこまでの傷は無いぜ?」
スイがぺたぺた触るアルフの身体には大した傷は存在しない。治癒魔法が掛けられた訳でもないのにこの傷なのだ。治療を任せられたステラが困惑していたのを覚えてる。
「何でだろう?イグリアスは等級六の正真正銘桁違いのアーティファクトなのに」
「よく分かんねぇけど無事ならそれで良いんじゃないか?それよりその等級とやらが地味に気になるんだけど」
「むぅ、えっと、等級っていうのはアーティファクトのランクみたいなものかな。等級は一から七まであって順番に素人の作った物、素人の会心の出来と思われる物、玄人の汎用物、達人の最高傑作、超人の最高傑作、理解不能の作成者による等級七を目指して作られた失敗作、完成品、そんな感じに並んでるよ」
「突っ込みたいところがいっぱいあるな。そもそも素人の作品とかあったのか」
「あるよ?むしろ大半は等級一から三までの物ばかりで等級四以上のアーティファクトなんて全体の一割も無いんじゃないかな?」
「そんなにか。
「等級三の汎用品だね。それを作る事が出来て一人前だったかな?ちなみに私なら材料さえあるなら等級五までなら出来る。六以上はそれを専門にしないときついかな。何年も掛けたら行ける……かも?」
スイですら自信を持って作れるなど言えない。知識があり制御の素因を持っているスイが言い淀むのは中々無い事なのでアルフは驚く。
「ちなみに等級の説明は本来ならもっと頭の悪い説明なんだけどね」
「あぁ、素人云々じゃないのか」
「ん、本当ならね。駆け出しの小童が作った出来の悪い無駄創作物、駆け出しの偶然の産物、生涯を掛けても所詮その程度の残念極まりない阿呆の執念、少しマシになった程度の奴が作った不便の塊、見る事が出来る程度の奴の良く分からない用途不明物、喰らいつこうと必死に追い縋る努力の塊、私の作った物。だよ」
「ボロカスに言った挙句の最後が凄い気になるんだけど?」
「仕方ないよ。等級七の作品は未だにただ一人しか作れていないもの。等級七の作品は十二個ある。けれどそれらは全部一人の男にしか作れなかったんだよ」
「一人しか?」
「そう、アーティファクトの祖、宝王トナフ。神々の大戦時に真っ先に殺されてしまった脅威の怪物。人族とは思えない程の怪物だよ。どんな怪物かは説明出来ないんだけどね。基本何でも出来たから。山とか海を割るのは当然だったし」
「それが当然な辺り昔の怖さが良く分かるよ」
そんな話をしていたらアルフが起き上がる。止めようとしたがどうやら本当に傷が無いようだ。
「まあ、今回は負けちまったけど生きてる。まだ次を求められる。なら寝てる暇なんか無いだろ?」
そう言って動き出そうとするアルフに抱き着く。アルフは少し苦笑して私を抱き締め返す。大きな腕に包まれて少し安堵する。もしかしたらこの腕は二度と無かったかもしれない。この温もりは喪われていたかもしれない。考えただけでゾッとする。けれどアルフの言葉もその通りなのだ。今のままでは多分遠くない未来にアルフの屍が一つ出来上がる事だろう。フェリノもステラもディーンも、自分の知り得た知人、友人達は悉く死に絶えるのは間違いない。
「アルフ……」
「どうした?」
「……えっと、だ、ダンジョン行こう」
ならとりあえず修行!私が見る事が出来る範囲で可能な限り鍛え上げよう。罠にも場所にも一切左右されないように、そう考えたらダンジョンはある意味良い場所かもしれない。最初は遊び気分で行くつもりだったけどこうなったら修行場所として有効活用させてもらおう。
「ダンジョン?って何だ?」
「あれ?行ったことないの?」
「学園から出る事無かったからな。ディーンなら色々調べてるから分かるかもしれないけど少なくとも俺は知らない」
「ダンジョンっていうのは……えっと、異界の一種?」
「異界って事は迷いの森みたいな?」
「ん、ただ他の異界とは多少違うとしか。まあ知らない方が修行になると思う」
「模擬戦より?」
「間違いなく。模擬戦だと相手の癖を読み取れたら終わりだもの。アルフ達に必要な物は周りを見る力だと思う。その為にもダンジョンは良い練習場所じゃないかな?私も行ったことないけど」
「そっか……分かった。何時から行くんだ?」
「今すぐでも明日からでも良いよ?」
「良し!なら今すぐ行こう!じっとしてられないからな。すぐに強くなってスイを守れるくらい強く」
「……ん!分かった」
アルフの最後に呟いた声は残念な事に耳の良いスイには聞こえた。だけどあえてそれは言わない。というか言及出来ない。
「……(それに私もそう思ってるからね)」
少し幸せな気分になったスイは既にクオルタの事など忘れ去っていた。
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