第204話 茶番劇
アールマスをグルムスの方に送り出した後は再び街の探索をし始めた。ここ数日見て回っているがまだ全てを把握出来ない辺り相当広いのだろう。一応所々に地図板が置いてあったりするので何があるかは大体分かる。それでも実際に目で見るのとはやはり景色が違う。百聞は一見にしかずとは確かにその通りだなと思う。
地図板は常にこの学園の結界と連動しているようなので見れば何処に何があるか分かるのだがそれじゃあ楽しくない。知らない道を適当に歩いていくというのは探索の醍醐味だと思う。まあ今は少し後悔しているのだけど。
考えてみれば帝都内部にそこそこの数のごろつきが居るのだ。学園内部の街に居ない訳がなかった。だけど何でこんなのを学園側は放置しているのだろうか?それとも上手く隠れていて気付かれていないとか?どちらにせよ学園の教師には少しばかり失望する。多分お兄ちゃんなら気付いているだろうがあくまで一教師として活動しているから動かないのだろうなとそう思う。
私がそう結論付けた後周りを見渡す。そこには何と言うか凄いモブっぽいのがいっぱい居た。十三人居るその人達はそれぞれ何故か刃物を持って舐めたり奇抜すぎるファッションで歩いてくる。世紀末かな?こういうのを何かで見た記憶があるのだけど興味が無かったからあんまり覚えてないなぁ。
「ヒュー!良い女じゃねぇか!」
「嬢ちゃんどうしたんだぁ?こんな所でさぁ」
「危ねぇぞぉ?何せ俺達みたいなのが居るからなぁ!」
ヒャハハハハ、ギャハハハハと耳障りな笑い声を上げるモブ達を見て私はこの人達はこんな服装で寒くないのかなと全く関係ない事を考えていた。学園内部は空間こそ拡張されていて不思議な場所となっているが天気に関しては外の天気に完全に左右される。そして今日はそこそこ風が強く肌寒い日だ。腕は剥き出しでジャケットは前が閉じられておらず腹筋が見えている。下も決して長くはない。凄く寒そうなのだが。
「……寒くないの?」
「ヒャハハハハ!寒いに決まってんだろぉ!?」
あっ、寒いんだ。なら何でそんな服装してるのだろうか。もしかしてこの服で皆で統一しているのだろうか。普通にやめればいいのに。
「これは俺達のボスがやってるんだよ!」
「俺達だけやめられるわけねぇだろうが!」
「……」
「やめろ!憐れみの目で見てんじゃねぇぞ!」
「やめられるなら俺達だってやめてぇんだよ!」
「そっか。可哀想に」
「うるせぇ!」
「容赦はしねぇからな!」
短気な人達は一斉に飛び掛ってきて私が展開した結界にぶつかって地面にぶつかった。痛そう。結構勢い良くぶつかったけど大丈夫だろうか?
「なーにやってんだい!あんたら!」
突然威勢のいい女性の声が路地に響き渡る。私が声の主の方に目を向けると驚いた。見た目はごく普通の女性に見える。街の中で会ったら特に違和感無く溶け込めることだろう。だがそのファッションだけは無いなと本気で思った。
大きくはだけさせた胸元にやたらとどぎつい全身赤色の服。手には何故か鞭を持っていてどう見てもそっち方面のプレイ中の人にしか見えない。その癖化粧とかは特にしていなくて一般女性にしか見えないから違和感が凄い。
「姉御!」
うん、何となく分かってた。君達の仲間だよね。姉御と呼んだということはこの人もまたボスでは無いのだろう。本気でそのボスが気になってきた。でもあまり見たくないかも。
「ガキ一人にどんだけ手こずってんだい?あたしに任せな!あんたらはそこで大人しく見てるんだよ!」
「へい!」
手こずるも何も飛び掛ってきて結界にぶつかって痛がっていただけだけどあの一連の行動は手こずるに入るのだろうか?というかそろそろ分かってきた感があるけどとりあえず最後まで進ませよう。
「あたしはあいつらとは違うよ?覚悟しな!」
女性が鞭を振るってまだ展開していた私の結界を打ち破れずに跳ね返って女性にそのままぶつかった。
「ひぎぃ……!ぁ……!」
なんかビクビクしているのだけど大丈夫かな?良く見たら鞭自体に変な魔法が掛かってる。……快……やめておこう。どう見てもそっち系アイテムだ。だけど分かった。跳ね返ってきてぶつかったからこうなっているのか。女性はぐったりしているけど頑張って耐えはしたようだ。
「はっ!やっぱりお前らじゃ荷が重すぎたか?何にせよ来てよかったぜ」
今度は背後から声を掛けてきた。いや回り込んでいるのには気付いていたけど敢えて気付かない振りをしてみた。ちょっとこの展開を楽しみにしてきてる私が居る。とりあえず振り返ると白い鳥の羽付きの帽子を目深に被って建物に
「ま、この俺に任せるんだな。お前らは下がりな。ここは俺の狩場だ」
男性はそう言うと背中から弓を出した。そして即座に放たれる矢。なかなか早い早撃ちだ。しかしその瞬間横合いからその矢にもう一つ矢が刺さり軌道を変えて壁に突き刺さった。男性は驚いたようで横を見ると屋根に登って男性が弓を構えた瞬間に即座に弓を構えて放ったステラが居た。早撃ちすぎて私も何時放ったか分からなかった。流石としか言えない。
「んな!俺の矢を矢で撃ち落としたってのか!?」
驚愕している男性の背後から小柄な影が躍り出た。その影にはフリフリと揺れる白い尻尾が生えていた。まあフェリノなんだけど。どうやら私の探索時間はそろそろ終わりに近いようだ。
フェリノに背後から首元に刃を向けられた男性は冷や汗を流している。まあそうだろうね。多分一切気配感じなかっただろうし。ディーンはちなみに動いていない。私が傍観に徹していたことを知っているから呆れながら見ていたことだろう。何時でも動けるようにはしていたみたいだけど。
「……殺すよ?」
低いフェリノの声とか初めて聞いた。男性がガタガタ震えながら弓を落とす。ふぅ、残念だけどこうなったら茶番は終わりだろう。青色が出てきて信号機みたいなのが見たかったのだけど。あとボスも見たいけど見たくなかった。
「駄目。この人達は私を楽しませようとしてくれたんだから」
「……?」
私の言葉が良く分からないのか首を傾げるフェリノ。可愛い。
「茶番ってことだよ。何処かの劇場の人達じゃないかな?その矢だって殺傷能力なんて殆ど無いよ。遠目からだったから気付かなかったんだろうけど」
矢の先は丸くなっていてどう見ても殺すためのものじゃない。女性のも鞭は鞭でも革製の物で殺すまでやるのは難しいし最初の人達の刃物に至っては……やっぱり刃の部分が引っ込む。玩具の類だ。
「ほらね?」
「……はぁ、そっかぁ。あっ、ごめんね」
安心したのかフェリノは溜息を吐くとすぐに男性に謝罪して離れた。近寄って来たフェリノの頭を撫でるとえへっと緩んだ表情を見せてくれる。あぁ、可愛い。後ろでずっと気配を消しているディーンがむくれている気配があるから抱き寄せて頭を撫でる。一瞬驚いたみたいだけどすぐにふにゃっとした笑みを見せた。私の子達可愛すぎない?どうやら危険がないと判断したらしいステラがこっちにやってきたのでステラにも抱き着いておく。頭を撫でようとするとお互い疲れちゃうからね。
ほんわかしていたらいきなりズドンっと大きな音を立てて何かが吹き飛んできた。気絶しているそれは大柄な男性で何処かの野盗と言われた方が納得のいく姿をしていた。でもこの奇抜ファッション、もしかして。
「ボス!」
あっ、やっぱりそうか。ということは……
「てめぇ……スイに何してんだおい?」
滅茶苦茶柄の悪くなったアルフが現れた。その肩には既に抜かれたコルガがありかなり本気で振り抜いたんじゃないだろうか。ボス死んでないよね?大丈夫?
「えっと……」
とりあえずアルフに抱き着いておいた。放置したらボス殺しそうだったんだもん。アルフが驚いた様に目を丸くするがすぐに体勢を整えて私を受け止めてくれた。しっかり私に負担が掛からないように抱き寄せる形にしてくれているのが好き。思わずアルフにキスをするとアルフからも返してくれた。好き好き好き大好き好き好き好き好き………………………………。
ちょっと暴走して二人の世界に入ってしまった。まあ……うん、十分くらいキスをし続けただけだから大丈夫だよね?うん。人前では少し自重……したくないからこのままで良いか。
とりあえず皆からの目線に隠れたいんだけど何処か良い穴は無いかな?
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