第203話 情報提供(強制)



「が!?ァァィガァギァァ!??!」


アールマスの頭を触りたくないけど触りながら適当に指を刺して中身をぐちゃぐちゃかき混ぜ中です。ひたすらに気持ち悪い。ただ見た目だけは悪いけど実際に魔族相手に有益な情報を取ろうとしたらこうするしかないから我慢して指を動かす。


「…………ぅぇ」


ちょっと気分悪くなってきたけど我慢する。というか無駄に長生きしているせいで必要な情報が中々見付からない。腹立たしげにアールマスの腹を蹴る。全く反応しなかったけど。


「ディーンは目を逸らしてても良いんだよ?」

「ううん、僕も見てるよ。いずれ僕もやるかもしれないから」


あまり今の内からディーンに悪影響を及ぼしそうな物は見せたくないのだけど本人が見ると言うなら止めないでおこう。いや無理矢理見せないのも出来なくはないけどディーンの言葉通り実際に行う可能性は否定出来ないのだ。それを考えるとどうしたら良いのか分からなくなる。


「そう、分かった。ただ無理はしないようにね?」

「うん」


ディーンの場合返事は良いのだけど実際にそうするかは不明だ。何だかんだ凄く動くし。いつの間にか調べた情報とか持ってるから大丈夫か心配になる。商会の話とか全く知らなかったし。


「ィァァィぉぇィぁェ???」


ようやく終わりそうだ。最後に魔法を掛けてあげたら完成。くく傀儡くぐつという魔法らしい。名前に関しては私が付けたわけじゃないから変な目で見るのは勘弁して欲しい。と、誰に言うでもなく考えるとアールマスの頭から指を引き抜く。指には特に変な物体は付いていなくて少し安堵した。


「私の質問に可能な限り答えなさい」

「あ、あぃ!?わ、わ、らっちゃ!!」


……少し間違えたのかもしれない。呂律がしっかり回っていないけど意味は理解出来るので無視することにした。というよりディーンの目の前で失敗しちゃった、てへとかやりたくない。


「……アールマス年寄りだからね」

「?」


適当なフォローをしておいたけどディーンは首を傾げただけだった。何かごめんね。


「とりあえず私を狙ったのは何で?」

「ヴェルェニアたまに、ほうこっき、うぇいん!しぼっ?なぜか!」


……聞き取りづらすぎて仕方ない。ヴェルデニアに報告、ヴェイン?死亡かな?その理由を調べにって所かな?


「そしたら!ヴェインのとこ?剣聖!王騎士!あどおもえ!!候補!故殺害、えいじられた!」

「なるほど、私とルゥイ、リードさんが殺害を命じられたんだね。貴方以外にもこっちに来ているのは居る?」

「い、らい!ひと!で!少ない!ぶか、っれて!殺しに来た!先おもう!殺してほうきょく!不確定要素は!しぼう!」

「使える人手がそう多くないのか。それは有難いけど……」


逆に言えば少数で攻め込んだのに父様を最終的には消滅まで追い込み多数の魔族を従えさせたと考えればかなり強い。分かっていたことだが魔神王の素因が私に効かなくても純粋な戦闘能力で負ける可能性がある。


「……ヴェルデニアの素因の数は?」

「し、れ、らない!でも!ちいしいのよ含めれば百五十はある!」

「百五十……」


相当まずい。魔神王の素因のせいでほぼ制限なく素因を吸収出来ているのだろう。小さいのが多数だろうがその出力だけは間違いなく桁違いのものになっている筈だ。今から私がそれら全てを凌駕する数を手にすることは不可能だ。ならば最低でも父様の素因の完全回復に加えてかなり強力な素因を二十は必要になる。


「……時間も奴の味方ということ?」


もしもヴェルデニアが今から人族や亜人族の所に乗り込めば相対することすら許されないまま蹂躙されることだろう。それが行われていないのは間違いなく魔の大陸の四方に存在する魔王達のお陰だ。母様は居ないしエルヴィア達は離れているので実質は残りの二人のお陰だ。南の魔王フォルトとその側近ユースティア、西の魔王アガンタとその妻ミュンヒ。この二人の魔王は徹底的に抗戦しているようでヴェルデニアに殺される心配は今のところない。西の魔王アガンタとミュンヒは父様と親交の深い間柄だったけど南の魔王フォルトとユースティアは父様のことを軟弱者等と言って馴れ合わなかった者だ。こっちなら幾らでも死んでくれて構わないのだが混沌の力が無ければ父様ですら適わなかった程の強者だ。きっと殺されることは無いだろう。


「……とりあえず知っている事を吐いてもらおうかな。どんな情報が役に立つか分からないし」


アールマスに指示を出すとぎこちない動きで身体を起こす。そのままグルムスの家まで勝手に歩いてもらおう。きっと呂律が回っていなければグルムスが魔法を掛け直して有益な情報を入手してくれることだろう。私は言葉の解読に疲れたからもうやりたくない。

アールマスを見送った後は再び屋台の椅子に座る。というか結界を張っていたお陰で特に気付かれる様子もなく戦闘の余波も大して無かったので直す必要性もない。スープを飲むと流石に冷めてしまっていたけどこれはこれで美味しい。冷めても美味しい料理ってこういうものを言うのだろう。



僕も爺の襲来には気付いたけどどうやら直ぐに終わりそうだったから背後から襲ってきた黒子のような五人組の制圧をする事にした。一瞬街のごろつきかチンピラでも雇ったのかと思う程に弱くて逆に何かあるのかと警戒してしまった。結果的に何も無くてただただ弱いだけだったけど。スイ姉が言うには素因数一つの魔族なんてそんなものだと言われた。アルフ兄みたいに力も無いしフェリノ姉みたいに早くも無い、ステラみたいに魔法に長けていたり器用な攻撃をしてくる訳でもない。身体能力に胡座をかいていたと分かる体たらくだった。

だけど素因を一つ持つだけで一般人なら嬲り殺せるであろう力を保有する魔族という種族は分かっていたことだけど戦闘能力の塊みたいな存在だ。これをヴェルデニアは百五十も持っているらしい。小さいのとか大きいのとか色々あるらしいがどっちにせよかなり厄介であることは間違いないだろう。

というかアールマス?というらしい爺に使ったスイ姉の魔法が複雑過ぎてさっぱり理解出来なかった。ステラ程ではないけど僕もそれなりには魔法に長けている方だと自負していたので少しだけ悔しい。あの魔法を僕も使うだけなら多分教えてもらえば出来るだろう。だけどそれじゃ成長は見込めないだろう。僕一人であれを自由に使えるようにならなければ意味が無いんだ。そうでなければ影としてなんてやっていけない。


「ディーン?一緒に食べる?」


スイ姉が椅子に座ってスープと一緒にパン等を並べている。どうやらお腹が減ったらしい。そう考えたら僕も少しお腹が減っている。弱かったとはいえ動き回ったから少し疲れたのかもしれない。誘われるまま椅子に座ってパンを一口食べた。指輪の中から出したからかまだほんのり温かい。これだけでもメリーの存在は有難いのだけどそれだけじゃ駄目なんだろうなあ。

グルムスさんとテスタリカさんにお願いしたらしいけど死なないだろうか?メリーは一般人代表と言わんばかりに一般人だ。大丈夫だと思っててもちょっとした事故で大怪我を負う可能性は高い。その辺りは加減するだろうとスイ姉は思っているようだけど僕的にはかなり危険なんじゃないかなと思う。だってスイ姉に直々に頼まれたんだよ?あの二人は絶対に張り切る。まあメリーの安全を願って祈るしか僕には出来ないのだけど。


「そういえばあの五人組は?」

「ん?あれなら消したよ」


スイ姉からの問い掛けにすぐに答える。生かす必要性が微塵も感じられなかったので首を掻き切った後適当に身体に爪を刺しまくっておいた。勝手に解けて消えていくから魔族の処理は簡単で良い。まあこれが人族だろうが亜人族であろうが僕のすることは変わらない。スイ姉の敵を殺し影からお守りする。それが僕なのだから。

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