第202話 休日
母様を送り出してから数日が経過した頃階段の暗い所で何やら集まっている集団を発見した。
「なぁなぁ、やっぱり最高なのってあの娘だよなぁ!」
「いやいや、俺的にモロに来るのはあっちの娘だな。お前はまだ分かっちゃいない」
「は?こっちに決まってんだろ」
「あ?」
学校内のとある一角で睨み合う複数の男子生徒を目撃した事をアルフは凄く嫌そうな顔で表現した。
「アルフ?どうしたの?」
「え、あぁ、何と言うかあいつらは馬鹿なんだ。とびっきりの」
「ばか?」
アルフからあまり出てこない暴言に思わずキョトンとしてしまう。アルフはどうやらあまり聞かせたくない内容らしく私の耳を押さえて歩き始める。しかしその程度で私の耳が聞こえなくなる事は無いので男子生徒達の会話が聞こえてしまった。
「ステラさんのメイド服が至高に決まってんだろうが!あの笑顔で給仕してくれんだぞ!?もう尊過ぎて死にかねないレベルだろうがッッ!!!」
「フェリノちゃんの私服姿でのお兄ちゃん呼びに決まってんだろう!!えへへと笑うあの無邪気な笑顔で心臓が止まる!!後ろからちょこちょこ付いてくるいじらしさが堪らねぇだろうがッッ!!」
ちょっと聞こえただけで十分に把握出来るのは中々無い経験だった。そういえばアルフ達にはファンクラブが出来ているというのはジア達から聞いた事があった。あれがそうか。というか何であんな奥まった所でやっているのだろうか。
気になっているとそこに走り込んでいった男子が徐に興奮した様子で語り始めた。
「銅貨一枚でステラさんの私服姿の写真だ!フェリノちゃんの笑顔の写真もあるぞ!」
「買った!五枚くれ!」
「俺もだ!五枚ずつな!」
「ん、それは駄目かな」
「何だと!買わせる気じゃ……ってあれ?」
「何っ!?何で駄目……あ?」
「盗撮は駄目なんだよ?」
そっと右手を伸ばしてカメラを持った男子生徒の首を握る。左手で買おうとしていた二人を小指と親指で首の襟元を引っ掛ける。主に騒いでいたのはこの二人ではあるが他にも人は居るので逃がさないように結界だけは張っておく。
「あぇ?スイちゃん?」
「マジで?」
「…………遠くから愛でるだけならまだ許したけど許可無く撮った写真は許さないんだよ?」
この世界に盗撮を禁止する法があるかは知らないけれど私的にはアウトなのでそこはしっかりシメておこう。二人もあまり気分が良くはないだろうし。
「あ、これ死んだわ」
「なら最後にこれを……美少女の指は凄く柔らかかった、と」
何か気持ち悪かったのでとりあえず|悪魔の雷撃(デーモントーチャー)を発動しておいた。うぎゃぁぁぁぁああああ、という悲鳴と煙を上げて三人はパタリと倒れ伏した。まあ殺してはいないから後に回復することだろう。カメラは壊れたけど。
残りの人の方を見ると全員怯えた目をしていたのでニッコリ笑って一歩踏み出した。暫く後にそこには煙を上げて倒れ伏した男子生徒が十数名。むしろ階段下にどれだけ集まっているのかと驚いた。でもファンクラブというだけあって多分もっと人数は居るのだろう。どっかでシメようかな。
ファンクラブをシメた後は学内をぶらぶら歩く。今日は正直言って何もすることがないのだ。一昨日真達の服も創り終えたしメリーはテスタリカとグルムスに扱かれている。母様は出掛けたしお兄ちゃんは教職の仕事中だ。感覚を掴んで忘れない為に鍛錬自体はするけどそれだけだと流石に疲れる。なのでここ数日は何もすることがなくて学内をひたすら歩き回っているのだ。ディーンだけは常に私の後ろにいるみたいだけどわざわざ姿を消しているのだしあまり話し掛けるのも躊躇われる。
「……ふぅ」
学内をひたすら歩いているだけだがかなり広い。そもそも学園内に街がある時点で察していたが当の学園自体が馬鹿みたいに広い。帝都中の学生を多分普通に収容出来る。もしくは更に追加で法国の学生も入るかもしれない。それぐらい広いのだ。
ここまでの規模の空間拡張となると多分人の仕業ではないだろう。というか人どころか魔族ですら不可能だ。空間拡張は元の空間が小さければ小さいほど広げる際に馬鹿げた魔力が必要になる。これを維持すること自体は簡単だが広げる時は絶対に無理だ。魔王が百人存在しても発動すら出来ないと思う。
これを発動した神が誰かは知らないけれど多分これ制御全くせずに適当に魔力ぶん投げて作り上げたのではないだろうか。無難に考えるならドルグレイ一択だろう。天の大陸もそこそこ近いし。
そんな事を考えながら歩いていたらいつの間にか学内を抜けて街の方へと飛び出していた。まあ街と言っても学園内の街だが。適当にぶらつくだけでもある程度は楽しめるだろう。ちなみに授業はまだ始まっていない。街の至る所に学生達が出店するのでその後片付けに一週間程掛かるのだ。いや街広過ぎ。
屋台を発見した。中で売られているのはスープだった。香辛料を使っているのかお腹が空きそうになるようないい匂いだ。こっちの世界の屋台では基本的に一種類または二種類程度しか商品が置かれていないのであまり悩む必要が無い。このスープ屋さんは一種類だけだった。
一つ頼んで横の椅子に座ってスープを一口飲む。少し辛めに作られているのか舌がピリッとしたが中々美味しい。スプーンで一掬いするとディーンを呼ぶ。良くこうやって食べさせているからかディーンは特に嫌がることも無く近寄って来てその口にスプーンを入れてあげる。
「美味しいね」
そう呟くとディーンは頷く。ちなみに姿自体は消えているのでディーンが美味しそうに頷く姿は私にしか見えていない。これはディーンが私にだけ見えるように出来たとかではなく私の目がおかしいだけだ。どうやら一度しっかりと理解した魔法は基本的に見ただけで看破するようだ。これに関しては完全に自動で行われていて見えないようにすることも可能だが別にする必要も無いので放置している。前までは出来なかったのだがどうやら父様の素因群が回復するにつれて徐々に私の身体の制限のようなものが取り払われているみたいだ。
とはいっても現在完全に回復した素因は一つだけで他の素因はちょこちょこ取り込んでいる素因たちによって少しずつ修復されている程度だが。まあ修復されているけれど完全に治そうと思えばまたあの人形の苦痛を味わわなければならない。今から気が滅入りそうだ。
ふと違和感を感じて空を見上げるとそこから急激に落下してくる爺を見つけた。比喩でも何でもなく爺だ。爛々と輝かせた瞳で私を殺そうとしている。なので私は即座に結界を張ると落ちてくる爺に合わせて足を振り上げた。爆音が響き渡るが私の結界によってそれらは周囲に聞こえずまた被害が広がることもなかった。
「……はぁ」
思わず溜息を吐く。退屈ではあったがこういう来訪は求めていない。私が爺の方を見ると背後ではギャリンと刃物同士がぶつかり合った音が響く。爺以外の乱入者だ。それをディーンが防いだのだろう。
「まさか……一発目から当たりを引くとは思わなかった」
爺は私を見てにやぁっと気持ちの悪い笑みを浮かべる。
「私の初撃をいち早く発見して迎撃するとは剣聖や王騎士で出来るかは分からんな。最有力はこの娘であったか。よもや人族にこれ程の者が紛れ込んでいるとは」
……ふむ?
「クッハハ!喜べ小娘!この我がお前を殺してやる!感謝して息絶えるといい!!」
爺が直進してきたので私は迷わず一歩踏み出すと一気に急加速して爺の腕を切断した。爺は信じられないといった顔をするが即座に振り返る。けどその瞬間には私は爺の背後に回ってもう片方の腕も切り落とす。
「ガァっ!?」
「……弱い」
弱すぎて話にならない。あぁ、この爺が誰かは知っている。幻像のアールマス、そう呼ばれた古き魔族の最弱者だ。能力は自分を少しずらして認知させることが出来る能力。対人戦においては強い能力だがそれに胡座をかいていて尚且つ頭もそこそこしか働かない馬鹿だ。だって私をまず人族だと勘違いしている時点で彼我の実力差が良く分かる。
そもそも少し認知がずれるからなんだというのだ。カラクリさえ分かってしまえば範囲を広めに大振りで攻撃すれば当たってしまう。
頭もそんなに良くないから基本突撃からの認知がずれることによって生じる違和感を看破される前に攻撃するしか脳がない。そしてその部下も然りだ。アルフ達の中では一番弱い筈のディーンを全く抜けないどころか既に五人中二人がやられている。弱過ぎる。
「……とりあえず素因だけ貰っとくね?」
ぶっちゃけ修復にも使えない概念素因なのであんまり要らないのだが一応貰っておこう。何かに使え……るかも……?
「まさか魔族?」
うん、それに気付いていない時点でアウトだろう。ついでにこいつはヴェルデニア側の筈だから良心の呵責もない。素晴らしい。
「ありがとう、私の為に素因を捧げてくれて」
大した暇潰しにならなかった事だけが残念だよ。
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