第201話 メリーの教育



「スイ様……あの、この娘を使えるレベルまでに仕上げろというのはもしかして私共に対しての嫌がらせか何かでしょうか?」

「私は〜嫌だって〜断りたいですよ〜?」


グルムスとテスタリカは全力で断りたそうな雰囲気だ。というかテスタリカに至っては断りたいとはっきり言っている。


「違うよ。メリーの才能が確かに殆ど無くてどれだけ鍛えても見込みが無いのは間違いないけど私に仕えたがっている。だからせめて使えるレベルまで仕上げて、一応外部の魔力に対しての適正は比較的高い方ではあると思うから」

「……つまり自衛の魔法と後は外の魔法に対しての抵抗を教えれば良いと?」

「私は〜魔導具関連ですかね〜?」

「それと魔法に対しての基礎知識とかだね。つまり殆ど一からの教育ってことだよ。自分達好みに育ててくれて構わないよ。それと途中でメリーが折れたなら放置して良いから」


私の最後の一言で二人の目が変わった。私が言葉に込めた意味を理解したのだ。これで二人はメリーに厳しく接することだろう。


「分かりました。使い物になるまで私が面倒を見ましょう」

「グルムスのあほうに〜任せていたら〜心配なので〜私も一緒に〜頑張りますね〜?」

「テスタリカ……」

「何です〜?」

「そろそろ阿呆呼ばわりを辞めて欲しいのですが?」

「はい〜?鼻たれ小僧が〜何言ってるんです〜?いつまで経っても〜貴方は〜私にとっては〜あほうでしかありません〜。辞めて欲しいなら〜それこそ私を〜驚かせるような〜何かを成し遂げてみせなさい〜」


二人の間にちょっとした火花が散り始めたので割って入る。というか実際に火花が散っていて多少ピリッと来た。


「二人とも喧嘩しない。私は二人に頼んだのだから協力しあってメリーの事教育してね」


私がそう言うと二人はしっかりと頷いた。まあ私がこの場から居なくなったら何だかんだでまた火花を散らせ始めるのだろうが。


「とりあえず任せるね」


私はそれだけ伝えて離れる。さて、後やることは何があるかな?



「スイ様……」

「何か〜おかしいですね〜。把握したのですけど〜異常しか〜ありませんでした〜」

「テスタリカ、それはどういう意味ですか?」

「言葉通りですよ〜?スイ様の〜身体の中は〜私でも把握出来ない〜何かがありました〜。私よりも高位の存在によるプロテクトですね〜。まあ害があるようには感じませんでしたけど〜」

「テスタリカよりも高位の?」

「ええ〜、多分三神の〜中の〜どなたかの物だと〜思いはするんですけど〜さあっぱり〜分かりませんね〜」

「なるほど、流石はスイ様。三神にすら目を掛けて貰っているという事ですね」

「間違いないですね〜。ただ何の干渉をしているかが〜分からなかったので〜それだけは気になりますけど〜」


二人は会話しながら自分達の元にあっという間に置いて行かれた哀れな少女の方を見る。少女の瞳は不安でいながらも強い眼差しであり二人の瞳が少しばかり笑んだ。


「使い物になるレベル……ですか」

「あは〜♪そんなので満足する訳ないじゃないですか〜♪」

「やるならば徹底的に」

「今までの自分は〜すり潰して〜新しく作り上げましょうね〜♪」

「では」

「行きましょうね〜♪」


二人から手を差し伸べられて一瞬ビクッと反応した少女はすぐに頭を振ると迷わず手を握り返した。



「スイ、後で少しだけ用があるから」


とりあえずまだ皆が居るであろう学園に戻ってきたらお兄ちゃんに話し掛けられた。学園内では一応教師と生徒なのであまり話し掛けてこない。だから不思議に思いつつも了承する。

お兄ちゃんに連れられてやって来たのは使われていない教室だった。中に入ると何故か母様が居る。


「あぁ、来たのね。スイ」

「母様?」


母様は私を見ると近くに寄って抱き締めてくる。私も抱き返すとお兄ちゃんが私の頭を撫で始めた。少しの間そうしてから離れると母様が徐に話し始めた。


「簡潔に言うと私はこれからかなり忙しくなるわ。各地に散らばらせた仲間達の連絡である程度の量の素因が集まりそうなの。でもそれらを持って帰ってくるには許容量的に難しいの。だから私が回収してきてスイに渡していくわ」

「それって私じゃ駄目なの?回収するだけなら幾らでも可能だと思うけど」

「難しいわね。剣国にあるものもあるし魔の大陸にかなり近い離島もあるのよ。貴女が動き回ったらヴェルデニアに気付かれる可能性が高いわ。それに学園内は結界があるから中々外には状況は伝わらない。出来たら此処で暫く生活していて欲しいのよ」

「僕も行けたら良かったんだけど許容量がかなり少ないからさ。此処で待機するしかないんだ」

「ん……母様以外じゃ無理なの?」

「数個はいけるかもしれないけど各地を回って違和感がない存在なら私ぐらいでしょうね」


確かに普段から外に出ているらしい母様なら違和感は無いであろう。でも出来たら近くでずっと居て欲しいと思う。だが自分で回収するのは論外みたいだしここは任せるしかないのだろう。


「ありがとう。だから暫く会えなくなると思うわ。回収したら戻ってきてまた回収って感じになると思うから戻ってきた時はいっぱい遊びましょうね」

「ん、分かった。母様何時から出るの?」

「明日には出ると思うわ。他の魔族達に気付かれたら意味が無いから」

「ん……」


私はその言葉を聞いてすぐに母様に抱きつく。母様もまた抱き返してくれた。お兄ちゃんは私ごと母様に抱きつく。お兄ちゃんの手が少しだけ震えていたのは気付かなかった。そしてきっとそれが私にとって気付かなければならないサインだったのだと後から分かった。分かった時には……遅かったのだけど。



その日の夜私は嫌な夢を見た。どんな夢だったのかは覚えていないけどとても悔しくてとても悲しくてとても胸を描き毟られるようなそんな夢を見たことは分かった。けどすぐにその気持ちは消えたので私は母様が出て行くことに対して不安に思っているのだと思う。

まあ母様は仮にも魔王だ。そんな簡単に負けるような存在じゃないし死ぬなんてそんな事は起きないだろう。怪我をして帰ってくる可能性はあるが母様は魔王の中では珍しく高位の治癒魔法や結界を使える。生半可な連中では殺すどころか怪我を負わせることすら難しい。

日が変わり母様が挨拶に来た。アルフ達にも事情は説明しているので皆で見送ることになった。お兄ちゃんの横にルゥイが居るけどまあ最終的には家族になる可能性が高いから良いだろう。グルムスやイルゥ、デイモスも母様を見送ることになっているけどこの場には居ない。私との繋がりは出来るだけ知らせない方が良いからだ。三人は門を出てから見送ることになっている。


「じゃあ行ってくるわ。アルフ君と仲良くするのよ?」


耳元で囁かれて私の顔は真っ赤になる。というか今は何者かに見られているのでそういう行動はしづらいのだが。


「分かった。とりあえず頑張ってきてね」

「ええ、頑張るわ」


そういって母様は私を抱き締めてからその場を後にする。無事に帰って来るのを祈って私は少し目を閉じた。胸に残る嫌な予感を振り払うように。

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