第200話 仕えたがられる困惑



何で?私の頭の中は暫くそれが埋め尽くした。い今さっきメリーから言われた言葉が理解し難い。


「なのでスイ様の為にどんな事でもしたいと思うんです!どうかお傍に置いてください!」


ううん、待って、一旦整理しよう。メリーの親の仇を見付けたからメリーを呼んで処遇を任せた後は聞いていた親の店を取り戻す為適当にでっち上げた書類でギルドマスターに認可を貰いに来た。そしたら何故かメリーがディーンに連れられて先に来ていたから止めに来たのだと察した。でもまだ話し足りなさそうだったから商業ギルドの部屋を一室借りて結界を張ってから話を促したら何故か魔族だとバレていた。ついでに何故か仕えたいとかいう話になっていた。メリーって実は魔族至上主義とかいう阿呆なグループの一員とかだったりする?


「ち、違います!そんなのじゃないです!あんな頭のおかしな連中と一緒にしないでください!……いや、でも今の私ってあんまり変わらない??」


そうだよね。学園を襲ってきた偽魔族の連中がそれだったらしいけど流石にメリーがそれだとは思わない。というかメリーは一般人代表といっても過言ではないだろう。


「……ん、まあ話は分かった。けどメリーが出来ることなんて殆ど無いよね?」


別にメリーが私の味方になりたくて言ってくれたことぐらいは分かる。だけど仕えるとなると話が変わる。少なくとも私の立ち位置は奪われた国の姫となるのだ。信じられない事に。どういった形であれ仕えるとなると当たり前だが一芸に秀でる程度では全く足りない。

良く物語の中では料理人とかみたいに専属の者とかあるけど実際に全く戦えない人間が城に入っていたとは到底思えない。戦えない人間が増えるということはその分騎士や兵士に負担が掛かるからだ。例え本当に戦えなくてもある程度の護身程度であればやれた筈だ。

その場合メリーがやれるのはパン専門の料理人という極めて限定的過ぎるものとなる。流石にそれは駄目だろう。私が良くても周りの者は絶対に納得しない。それに私の国となるものは魔国という人族の強者が一般人扱いされる程度には強さがインフレを起こしている場所だ。危険過ぎる。今の状態では小突かれた瞬間死にかねない。


「な、ならどうすれば……?」

「……私の眷属にするというものもあるけどそれもあまり意味は無さそうなんだよね。最近知ったんだけど元々戦えない人が眷属になっても大して強くはならないみたいんだよね」

「うぅ……」

「メイドとかもありかもしれないけど今の状態じゃ要らないしやっぱり戦えないと難しいかなぁ」


それにそもそもメイド業務を教えられる人材が居ない。グルムスの屋敷のメイドさんに教えてもらうというのも良いが許可してくれるかは怪しい。グルムスはその辺り厳しいからなぁ。


「……ん〜、ちょっと調べてみようか」


私がメリーの方を見てそう言うと首を傾げている。何だか可愛い。そんなメリーの腕を取ると魔力を流していく。魔力が流れてきたことで違和感でもあったのかメリーが少し顔を顰める。魔力を身体の中で蠢かせる様にぐるぐると混ぜると嫌がる様に身体をもぞもぞとメリーが動かす。


「……ん、と、これなら……うん。いけるかな?」

「にゃ、何が…ですか?」


やり過ぎたのか少し呂律が回らなくなっていたのでメリーの身体を支えてあげる。


「メリーの体質の検査を今したんだけどね。魔力に対しての適性がそれなりに高そうだった。けどそれに反してメリー自身の魔力量が極端に低かったんだ。これだけなら最低の適性なんだけど私の魔力に対してメリーの魔力がほんの少しの拒否反応しか起こさなかったでしょう?つまりメリーの身体は外部からの魔力を許容する事が出来るんだよ」

「……そうだとどうなるのですか?」

「外部魔力を捕まえて利用することが出来る。しかもそれに対して不具合が起きない」

「……?」

「……ん、ごめん。言い方が悪かったかな。つまり外からの魔法に対して全部捕まえることが出来るんだよ」

「…………???」

「……魔法を捕まえて分解するなり利用するなり外部からの魔法に対して絶対的な優位を得ることが出来るって事だよ。魔族にはそれは出来ないからね。魔法で跳ね返すならまだしもほぼ無条件に魔法を無効化出来るメリーの才能は凄いってこと。後魔導具とかかな?魔力を動かすことに大した違和感を感じなかったならもっと少ない魔力で作る魔導具なら勉強すれば使い物になるかも?」

「……つまり頑張れば良いと?」


メリーの基礎知識があまりに無さすぎるせいで上手く伝わりづらいようだが何となくは理解してくれたようだ?これ以上に簡単な説明は私には難しいからとりあえず基礎知識の勉強からしてもらおう。テスタリカに教えれば使い物になるまで育ててくれることだろう。


「ん、頑張って。後でテスタリカを紹介するよ」


まあ上手く魔法や魔導具についての知識が付けば戦闘能力が皆無であっても魔法を使いこなすだけならいけるだろう。それにそこまでやった後なら眷属化による身体能力の向上も期待出来るだろう。


「スイ様、グルムス様にも教えませんか?魔法に関してならあの方以上の存在はそう居ないでしょう」


ディーンが姿を消したままそう進言してくる。それは構わないのだけどグルムスの魔法はやたらと高度な場合が多く基礎知識無しに見たら何か凄いとしか分からない。いや、でも最初から見せておけば何か変わるかな?ちなみに私もたまにグルムスの魔法の構成が分からなかったりする時もある。残念なことにそういう魔法は構成こそ複雑だし読み取りづらいけど繊細過ぎて力技で破壊できてしまう。そう伝えたら皆から呆れられたけど。


「分かった。グルムスにも教えておこうか。メリーも覚悟は出来てる?二人とも弟子とかにはかなり厳しいよ?」

「やってみます!そしてスイ様のお役に立ちます!」

「ん、ありがと」


少しだけ照れ臭くなってメリーの頭を撫でる。メリーの方が背が高いので無理矢理撫でる形になって腕がつりそうになった。やめておけばよかった。まあメリーが満足そうに撫でられた頭を押さえているから別にいいかな。

ちなみにここまでやったけど実は最も簡単で特にリスクの無い方法としてはある武器を探すというのがある。アーティファクト最強の五振りの一つ、寄生剣カンター。まあ言葉通り寄生してくる生きた剣だ。より正確に言うのならば魔物を生きたまま素材と化して剣として作り上げてしまった狂気の一振りだ。

その性質上カンターに魔物を住まわせる事が出来る。いや、取り込むと言う形が正しいかな。そして取り込んだ魔物達の肉体的強度を所持者に付与して一部の再現可能な魔物の技を再現させるものだ。今のカンターは最低でも数十万の魔物を取り込んでいるので手にしただけで一気に脅威の力を手に入れることが出来るだろう。但し所持者は自らが死んだ際にカンターに取り込まれ住まう魔物達の餌となる。流石にそれはちょっとと言わざるを得ない。魔族ですら嫌悪した剣だ。それをメリーに持たせるという選択肢は無い。ちなみに場所も分かっているから余計に簡単だ。カンターの保管場所は生を呪う者という異界の主である巨大白骨死体の手に持つ剣だ。普通に持てないレベルの大きさだが一応所持者として認められたならその者に合う大きさになるらしい。まあ行かないし持たせるつもりも無いけど。

メリーには真っ当に育ってそれでも私に仕えたいのなら喜んで受け入れることとしよう。二人にはしっかり教育してもらおう。メリーが私に付いていきたく無くなるように。

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