第192話 商会の中を見てみよう



ヴァンをスカウトしたあとは立候補者が出てこなかったので一旦人材発掘はやめて商会を見せてもらうことにした。倉庫しかまだちゃんと見てないからね。まあその倉庫も木箱ばっかりで何が入っているのかさっぱり分からなかったんだけど。


「私が作った物を売ってるって言ってたけど何を売ってるの?」

「基本的にはスイ様がお作りになられた生活用品ばかりですね。石鹸や色んな形のお皿といった便利な物ばかりです。恥ずかしながら私達にそういった物を作る事を得意としている者が居なかったので」


ハルテイアが本当に恥ずかしそうに応える。いやむしろ私としては石鹸とかだけで二百人を養うその手腕に驚いているんだけど。本当に細々とした物ばかりだったし。歯ブラシとかボディタオルとかこの世界にも似たようなものくらいあるでしょうに。


「石鹸がかなり役に立ちましたね。匂い付きの物や逆に無臭の物など多岐に渡りますし何より製法が分かっていないというのが大きいと思います。現在は私達のみが作成可能であるというのが価格を吊り上げる事に貢献しています。とはいってもそれ程高くはしていません。あくまでこの中では高価な部類であるというだけですね」

「ん、石鹸がそんなに役に立つとは思わなかった」

「魔法を使わずに身体を綺麗にすることが出来るというのが大きいですね。貴族の中には魔法のみで清潔を保つ者も多いですが魔導師に身体を見られることを嫌う者も居ますし。冒険者にも魔力を使わずに綺麗に出来て尚且つ無臭であるというのが人気な理由ですね。依頼で遠出する冒険者は多いですから」


そうか、確かにそういう理由なら石鹸が人気になるのも分かる。私的にはお風呂に入る時に石鹸が無いと変な感じがしたから作っただけだったけど。


「……そういえばハルテイア達はお風呂はどうしてるの?」

「お風呂?ですか?」

「……水浴びは?」

「していますよ。何人かのグループに分けて街の外の川まで行って浴びてきています。ヴァンのようなエルフも数人居ますので到着したら簡易で防壁を作ってそこで浴びています。綺麗にはしていますよ?」

「ん、分かった。ハルテイアこの商会内で要らない場所は無い?」

「えっと、幾つか要らない部屋はありますが」

「そこに案内」

「分かりました」


幾ら水浴びが慣れているといっても季節的にはそろそろ寒くなってくる時期だ。川の温度は更に下がるだろうしそもそも外で裸になる事の寒さは半端なものではないだろう。それにハルテイア達は美人さんだ。そんな人達が外で複数人で水浴びをしているというのは幾ら何でも無防備過ぎるだろう。何より私は福利厚生はしっかりするべきだと思うのだ。

まあ福利厚生の意味はあまり知らないけど雇用者が従業員に対してお金以外にサービスを充実させるみたいな感じだったよね?いやごめん、言葉でしか聞いた事ないからいまいち分からないんだよね。クライオンや丹戸辺りに聞けば分かるだろうか。


「あの、スイ様何をされるのでしょうか?」

「お風呂を作ってあげる。石鹸とかも折角作ってるんだから使わなきゃ。あ、そういえばシャンプーとかリンスも作ってる?」

「一応作りはしているのですがあまり人気は出ないですね。石鹸で身体を丸洗いする方が意外に多いようでして。石鹸だと髪がゴワゴワしますよと言ってもあまり真剣には聞いてくれませんね」

「そっか。丁度いいからハルテイア達が使って接客すれば良いよ。匂い付きとかで。きっと女性客は真剣に吟味してくれると思うよ。あっ、男性陣は無臭のやつを使った方が良いかも。ヴァンみたいなのなら許されると思うけど他のは……」

「あぁ……そうですね。そうしてみたいと思います。ですけどお風呂というのをどうお作りになるのでしょうか?その部屋には大規模な排水設備などありませんよ?」

「別にそのくらいなら作るよ。排水設備と浄水設備の二種類だけど。そのまま棄てたりなんてしたら流石に環境汚染しかねないし」


石鹸やシャンプー、リンスは天然素材のみで作り上げたけどだからといってそのまま棄てると何か起きる可能性はある。まあ問題など殆ど無いと思うけど可能な限りそういった要素は排除しておきたい。それに棄てた水を万が一畑に撒かれたりしたら何が起きるか分からない。疫病みたいになられても困るのだ。

案内された部屋は二階の六部屋だ。流石に部屋一つ一つだと小さ過ぎるので三部屋分をぶち抜いておいた。しっかり補強の為の柱は建てておいたから崩れる心配もない。壁も天井も床も固めたし。柱は大理石みたいに白い柱だから景観を損なう事も無いだろう。多分。

ノスタークで一度作っているから二回目の今度はもっと楽だ。というか作っていて思ったんだけどこの商会大きくない?二階に六部屋余っていたから全部使っているわけじゃないんだろうけどまだこの商会三階と四階に寮もあるんだよ?二階の部屋数だって数えたら普通に二十部屋位あったし。倉庫も含めたらかなりの規模だ。あの倉庫も名前が第二倉庫ってなっていたしどれだけのお金を使えばそうなるの?私が渡したお金流石にそんなに多くなかったよね?


「……ハルテイア、後でこの商会の帳簿とか見せてもらってもいい?」

「分かりました。でもスイ様流石にこの商会に帳簿の内容を誤魔化す人は居ないと」

「いや別にそういうのじゃないから」


何で帳簿を見せてもらおうと思っただけでそんな勘違いされるの。私の行動は別にそんなに大した理由が無いことも多々あるからね?……自分で言ってて悲しくなってきちゃった。

お風呂をササッと作ると残りの三部屋分も同様に作る。これで男湯と女湯の出来上がりだ。男性と女性の割合が全く違うけどそれでも男性だけで七十人も居るのだ。これでもまだまだ小さい方だろう。まあ七十人も入れるお風呂とかそんな簡単に作れないけど。レジャー施設かな?女性陣の百四十人に至っては作れるわけが無い。というかもうそれはお風呂じゃないだろう。

あと排水設備と浄水設備に関しては正直殆ど知らないので魔法で代用することにした。魔法って便利。魔導具にしてしまえば誰でも扱えるしその点においてはこっちの世界は優秀だね。その分個人的な才能は度外視されかねないのが残念なんだけど。あっ、戦闘の才能に関しては逆に凄く注目されるんだけどね。

設備も完備させた後はハルテイアが基本的に居るらしい執務室みたいな場所に行く。正確には執務室じゃないらしいけど名前を聞いてないから知らない。中にはかなり質素な大きな机ときっちりと整理された書類群が置かれていた。

ハルテイアは机の引き出しに鍵を刺して中からかなり分厚い帳簿を三つ取り出して机の上に置く。ちょっと待って、これで一月分なの?多くない?開けて中を見てみると細かい数字でしっかりと支出と収入が書かれている。

何処に何を卸したのかも書かれているし良く見たらしっかりと人物毎に分けているようだ。もう一つの方は人物毎に分けたせいで分かりづらくなった時系列順に並べているようだ。更にもう一つは……こっちは帳簿じゃない。人の名前の後にその人の噂話等が書かれている。犯罪歴等も調べたのか幾つかは赤字で注意と書かれている。どうやって調べたんだろう。


「なるほど、分かりやすいね」


多分地球の帳簿とかに比べたら見にくいのかもしれないけどそれを知らない私からしたらこれで十分だ。とりあえず時系列順の帳簿から見よう。その後で人物像のやつを見たら大体分かるかな。さてと、どうなってるのかなぁ。あれ?最初お金がどうなってるのか調べるつもりだったのにいつの間にか貴族の弱みを探す事になってる気が……?まあ良いか。後でイジェ辺りに教えてあげよう。

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