第189話 ゆっくり過ごし……たいのだけど?
「……勇者が居なくなった?」
体育祭中はずっと居るものだと思っていたのに何故かすぐに居なくなってしまった。いや私からしたら有難いけどいきなりどうしてだろう?
「まあ良いか」
気にしても仕方ないし気にした所で分かりはしない。勇者が何かしらの理由で帝都を出た、それだけで構わないか。寮にこもろうと思っていたけど様子を見て出ても大丈夫かもしれない。まあ別にすぐに出る用事もないし体育祭中ずっと引き篭っていても良いのだけど。その場合競技は無視する事になる。
競技か。面倒臭い。面白くも無かったしイルゥとディーンに頼んで出たことにしてもらおうかな。二人ならそれぐらい出来そうな感じがする。空いた時間は真達の服でも作ろう。あともう少しだから体育祭中には完成することだろう。それでも空いたらデートとか母様と遊ぶとか皆で見て回るとかでも良いかもしれない。よし、そうと決まれば動くとしよう。
「ディーン、私の競技とか」
「やってるよ」
早くない?今考えて言ったばかりだよ?
「イルゥさんと合同でスイ姉の競技は出場したことにしてる。まだ始まってすらないけどイルゥさんの能力って凄いね」
改竄の能力ってそこまで出来るんだ。私競技が始まる度に発動してもらう必要があると思ってた。まさか始まる前から発動出来るとは。
「ん、凄い」
何故かディーンが私が知っている前提で話しているからとりあえず乗っておこう。私知らなかったけど。
「それで空いた時間で何をするの?」
「服作りと皆との交流?」
「分かった。でも服の方はもう終わってるよ?ルーレさんが連日徹夜で作ってたから」
「ルーレちゃんが?」
「うん、スイ姉と体育祭を見て回りたいからだって」
ルーレちゃん可愛い。その期待に応えて丸一日一緒にデートすることにしよう。
「ん、ルーレちゃんとは一日中遊ぶことにする」
「分かった。後で伝えておくよ。多分今は寝てると思うし」
実は魔族は寝なくても大丈夫な種族らしいのだが大半は寝るらしい。ずっと起きておく事も出来るけど精神的に疲れると母様が言っていた。多分元々が戦うための種族として生まれたからこその不眠なのだろう。
「ん、じゃあやること無くなっちゃった。ディーン何かしたい事はある?」
今日は服を作ろうと思っていたけど必要無いのならディーン達がしたい事をするのも良いだろう。最近ドタバタしていてちゃんとした交流が出来ていなかったし私もたまにはゆったり過ごしたい。
「したい事……鍛練?」
「ん?えっと……鍛練がしたいの?街を見て回ったりとかで遊んだりとかはしたくない?」
「いや?帝都はもう大体見て回ったし街の把握も終わらせたから別に?あぁ、そうだ。言う必要無いかなとか思ってたけど奴隷商の幾つかは潰したよ。国公認じゃなかったから別に大丈夫だと思う。関係者は全部潰したし。残党がいたとしてもかなり少数だと思う。それで実は奴隷の数が結構増えちゃったんだけど資金を遣り繰りさせて自分達で増やしてるみたいだから安心して」
「……???」
「確か今の数は二百人を少し超えたくらいだったと思う。ハルテイアが今のところリーダーとして動いてるよ。スイ姉が前に商売でもって言ってたからスイ姉の今まで開発した石鹸とかその辺りを扱わせた商会にさせたよ。とりあえず今の所軌道には乗ってるみたいだから何か扱う商品増やすなら言ってくれたら僕から伝えるね」
「……???」
ディーンが何を言っているのかいまいち分からない。いや分かるが理解が追い付かない。少し纏めよう。いつの間にかハルテイア達奴隷組が二百人を超える大所帯になっていて生活していくために私の作った細々とした物を売る商会を建てていた。増えた理由はディーン達がいつの間にか潰した奴隷商の奴隷達。多分この調子だと助け出した奴隷達は殆どが亜人族なのではないだろうか。奴隷を解放するのは安全が確保された場所でない限りやらないだろう。ならその奴隷達の主は一体誰になっているのか。
「……主は誰?」
「スイ姉だよ?」
「ごめん、じゃあ訊き方を変えるね。いつ私の血を?」
「スイ姉が偽魔族と戦った際に出た血だけど」
偽魔族……ああ、ヴェインの時か。なるほど、確かにあの時私は幾度か血を流している。問題はいつそれを回収したのかだが。
「どうやって?」
「えっと、イルゥさんが魔族の血は人族や亜人族の血と違って強力な魔法の触媒になりかねないから出来るだけ回収しておけって。イルゥさんが回収を手伝ってくれたよ」
「ん……まあ、確かに?」
まあイルゥならそう言ってもおかしくないか。魔族は身体の全てが魔力で出来ている。それは血液も変わらない。魔力が液状になるまで固着化した存在だ。確かに強力な触媒になることだろう。場合によっては魔力溜りが出来て異界が出現しかねない。しかもこの帝都にはどうやらダンジョンとかいう形らしいが異界が複数発生している。意図して作られた物なのは間違いないがそれでもあれだけの数を作れるのだ。異界が出現しても何らおかしくない。
「まあ良いか。それで契約をしたって事?」
「うん。皆快く了承してくれたよ。帰りたがった人が居たけど何人も残るって言ったら渋々だけど残る判断をしたのも何人か居たよ。ちょっと生意気だからまた後で締めておくね」
「……ん、ちょっと色々聞きたいけどその人達に会いに行くよ。今日の予定はそれで」
「まだ躾終わってないよ?」
「大丈夫。アルフ達は?」
「呼んでくるよ。少しだけ待ってて」
ディーンが居なくなったあと私は少しだけ頭を抱えた。皆何をしてるの?いや奴隷商は確かにいつか潰そうとは思っていたけど。あんまり強くないだろうからアルフ達でもいけるかなあとか思っていたけどまさか私が居ない一月の間にそんなことしていたのか。グルムスは……うん、逆に煽りそうだね。母様は意外とスパルタだから
二百人か……。とりあえず私は名前を覚えられるかを頑張らないといけないかもしれない。もしも双子とかいたら覚えられる自信が無い。亜人族の中には多産の種族も居たりするから双子どころか八つ子とかいてもおかしくない。ちなみに亜人族の中で最も多い多産は十七つ子とかいう意味の分からない数だ。どうやってお腹の中入ってるの?
まあそんな話は置いておいても二百人は普通に多い。流石にその数の人の顔や名前を覚える経験は無いから少しだけ不安でもある。まあ最悪ハルテイアに全てぶん投げるが。
ディーンがアルフ達を連れてきた。今更だけど良く見たら皆の指に指輪がある。買った記憶が無いからまさか自分達で揃えたのだろうか。指輪はそこそこ高い筈なのだが。
「皆凄く今更なんだけどその指輪何?」
「ああ、これステラが作ったんだよ。魔導具の作り方をローレア様に教えて貰って」
「へえ、自作か。凄いね。指輪の制作はかなり面倒なんだけど」
「ええ、でも自分達で買うのはちょっと資金的にね」
まあそうだろう。容量が低くて時間経過も止まらない指輪でも一般人の三ヶ月分位の金が掛かる。流石に全員分揃えるだけの金額は難しいだろう。
「言ってくれたら作ってあげたのに」
父様は魔導具に関してはかなり詳しかったみたいで大体の魔導具の作り方ぐらいなら頭の中に入ってる。指輪もあったはずだ。
「良いのよ。これはこれで良い鍛練になったわ」
……皆鍛練好き過ぎじゃない?どんな事も鍛錬で流せるのはある意味凄いけどさ。魔導具の作成は確かに魔導師にとっては鍛練になるけども。
一度皆の一日の動きや今まで何をしていたかを知る必要があるかもしれない。あと鍛練に関しては調べない。何か私のせいな感じがして墓穴掘りそうだもの。うん、平穏な感じがしたけど案外色々起こってた。次からもっと周りに目を向けていくことにしよう。
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