第187話 恋愛話の結末?



「……何でそうなった?」


スイ姉に報せに行ったあと戻ってきた僕達に対してのアルフ兄の一言がそれだった。うん、気持ちは分かる。僕だって同じ状況なら絶対に言う。


「あ、あはは」


苦笑い以外何をしろというのか。今僕はステラと手を繋いでいる。普通に繋いでいるのではなくスイ姉いわく恋人繋ぎというやつだ。ステラの柔らかい手がどうしようもなく僕の鼓動を早くする。


「うん、いやまあ、気持ちは知ってたからおめでとうと言わせてもらうけどさ、あれ、そういう話だっけ?」


アルフ兄が自分の記憶をさらっているがもちろんそんな事実はない。僕自身いきなり過ぎて反応出来ていないのだから当事者ですらないアルフ兄が分かるわけがない。


「違うよ。まあフェリノ姉のは僕達の提案を受け入れるってさ。どうもスイ姉は勇者と面識があるみたいなんだよね」

「勇者と?スイが攫われた時か?」


苦い表情をしてアルフ兄が呟く。あれは僕達の最低最悪の失敗だ。それ以降スイ姉を一人にする事だけはしないでおこうと皆で決めた。スイ姉との連絡が取れないのは問題だとしてノスタークに無線機の発注もした。来たのはつい最近なんだけど。作成自体に時間が掛かるのと僕達の相互間での連携の為に合計で二十個は厳しかったかもしれない。何とか一ヶ月ちょいで仕上げた職人さんには敬意を払いたい。


「多分ね。僕達に知られずに会うとしたらそのタイミングしかないと思う」


というかスイ姉はどうやら僕達に出会う少し前に発生したらしいまさに生まれたてなのだ。出会ってから暫く離れたのはそのタイミングのみだ。あと可能性としてあるのは盗賊のアジトに勝手に向かった時とイルナ村での凶獣イルナとの面会にってあれ、覚えているだけでも数回単独行動があるな。

それに気付いたのかアルフ兄が若干苦笑している。スイ姉自由奔放過ぎないかな?まあ今回はスイ姉が信頼の言葉を授ける程には一緒に行動したらしいからほぼ間違いなくそのタイミングで間違ってないだろうけどね。


「ま、まあ力ある言葉で名前を授けたらしいから大丈夫だと思う。信頼って言葉らしいよ」

「信頼か。ならスイの判断に従うとするか」


アルフ兄はそう言うとフェリノ姉の方を見る。フェリノ姉はアルフ兄との会話で何を言われたのか若干顔色が悪い。


「……何を言ったの?」

「いや話し合いで決まった内容しか言ってねえよ。多分スイに捨てられる可能性を考えて青褪めてるんじゃねえかな?」


ああ、僕達も考えた可能性か。ならスイ姉は捨てる気は無いこと早く伝えてあげよう。


「フェリノ姉、スイ姉は別に捨てる気は無いって。フェリノ姉次第だけど応援するって」

「ほ、本当?」

「うん。さっき聞いてきたから間違いないよ」


そう言うとフェリノ姉はようやく顔色が戻った。僕にもその気持ち分かるよ。忠誠を誓った時に困った表情をされて捨てられるんじゃって思ったら泣きそうになったから。


「で、でもそれって……わ、私とあの人が、その、そういう関係に……!?」

「フェリノ姉は自分の事になると凄い狼狽えるって事は良く分かったよ」


アルフ兄の時は呆れてたくらいなのに。いやある意味兄妹らしいかな?


「ディーンも同じ事言えるけどな」

「むっ……否定出来ない」


ステラとの関係だと狼狽えたりはなかったとは思うけどイジイジしていたのは間違いない。


「まあそんな話は今は良いわ。とりあえずそう決まったのならフェリノとは暫く別行動した方が良いのかしら?」

「あ、僕も顔を見られているけどどうしたら良い?」

「ん、それなら皆で会えば?」


寮の部屋からいつ来たのか分からないけれどスイ姉が僕の後ろに立っていた。ちなみに今僕達が居るのは寮にある休憩室だけど個室があるからそこを使わせてもらっている。防音の結界もステラが張っていたから誰かに聞かれることもない。うん、聞こえていなかった筈なのに最初から聞こえていたっぽいスイ姉に驚きを隠せない。ステラが愕然としているんだけど。


「というか別に私の存在を隠す必要はまるで無いよ?さっきも言ったけどあの子なら変な事をするのはありえないから。周りが調子に乗ったら叩き潰すけど。あの子自体もそれは止めるでしょう」

「それは……でも、良いのか?」

「ん、構わない。周りに居たやつに教えるのはやめた方が良いとは思うけどね」


それはそうだろう。剣国の人は魔族と年がら年中戦っている。小規模な物も含めればほぼ毎日だ。そんな人達に例え味方であるとしても魔族が来たら襲われても仕方ない。そして襲われたらスイ姉は問答無用で叩き潰すだろう。多分文字通りに。


「フェリノが勇者の事を好きなら兄であるアルフはほぼ間違いなく会うことになるしディーンは既に顔を見られてる。学園のことを調べたらステラに辿り着くのは容易だろうし最初から会ってしまえば楽だよ。私はアルフ達の主であると分かったとしても直接会わない限りは魔族だとはバレない。あの子にならバレても別に構いはしないけど」


そもそもスイ姉は名前を変えてないからね。調べればすぐに分かるだろう。


「というか勇者が来たから早めに会ってきて?どうやら寮に見当を付けてやってきたみたいだけど」

「間違えたかな?」


僕の問いにスイ姉は首を振る。


「いや、あの様子だと様子見で来ているみたい。何の確信もないみたいだし当てずっぽうだと思うよ」


当てずっぽうで行き先を見付けられたらたまったものじゃない。


「ここでやり過ごすのは?」

「そうしたら入ってきてなし崩しに私までバレると思うよ?」

「分かった。なら出ようか。というかスイ姉バレても良いのに何で隠れるの?」

「ちょっと面倒な約束をしちゃったからね。とりあえず気にしなくていいよ。別に不利益になるものじゃない」


まあスイ姉がそういうなら良いか。どちらかと言うと本当に大したことは無さそうだし。そう思って僕達は自然な感じで寮からフェリノ姉と連れ立って出てくる。勇者の視線がフェリノ姉に向けられる。フェリノ姉は固まる。


「あっ……あぅ……ぃっ……」


フェリノ姉どれだけ緊張してるのさ。そして勇者も何か話せよ!?面倒くさいなぁ。僕はフェリノ姉の背後に回ると思いっ切り勇者に向かって押し出した。フェリノ姉の回し蹴りが僕に当たりかけた。これ模擬戦じゃないからね?条件反射で蹴り入れようとしないで?僕も背後に回られたら毒ぶち撒くけどさ。ちなみにステラだと黒剣が飛んできてアルフ兄だと裏拳が来る。裏拳がやばい。掠りでもしたら多分顔無くなる。

勇者がフェリノ姉の身体を支える。フェリノ姉の動きがピッタリ止まった。恐る恐る顔を向けて間近で勇者の顔を見る。勇者の顔は何故か見えないけど魔法か魔導具かな?


「……」

「……」


お互い固まってしまって動きがない。仕方ないから勇者の近くまで近付くとサッとフードを外した。特に抵抗が無かったけどどれだけ固まってるの?

二人の顔が真っ赤に染まる。そうしてようやくギクシャクしながら勇者はまたフードを被ってフェリノ姉はぺたんと地べたにへたり込む。


「あの……」

「う、うん」

「……好きです」

「……お互いのことを知ってからでも良い?」

「……うん」


僕何を見させられてるんだろう。ついでにこれで二回目の邂逅って本当?熟練したカップルとかじゃないの?あとフェリノ姉初っ端の一言目が「好きです」で良いの?いや、本人達が良いなら別に構わないんだけどさ。


「……フェリノ」


あっ、アルフ兄が出てきて頭抱えてる。そりゃそうだよね。こんな場面見させられたらそうなるよね。


「馬鹿か!もっと言い様があるだろ!捕まえるなら確実に捕まえるために言葉を尽くせ!」


そっちなの!?!?いや、アルフ兄の告白を確かに僕は聞いたよ。結構言葉を尽くしてたし聞いてた僕が恥ずかしくなるほどだったよ?でもそれを妹に強要する?あれ結構恥ずかしかったよ?もう一回言うね。あれ凄い恥ずかしかったよ?


「……ディーンは簡潔だったものね。嬉しかったけど」


ステラがやってきてそんな事を言う。


「うっ、分かってるけどさ」


言葉を尽くしてって結構厳しいんだよ?恥ずかしげもなくあんな告白出来るアルフ兄が凄いだけだからね?


「……何があったのよ?」


あっ、ルゥイさんが来た。


「えっと……勇者とフェリノ姉の告白シーン?」

「……何でそうなったの?」


ルゥイさんが食い付いてきた。そういえばルゥイさんはスイ姉の兄であるゼス様の事が好きだっけ。こういった話は好きなのかもしれない。ある程度スイ姉の事はぼかしつつ話すとルゥイさんは笑う。


「面白い事になってるのね。二回目であれって白狼族は随分と燃え上がるのね」


くすくす笑いながらルゥイさんは勇者に近付く。仕方なく僕達も近付くと勇者の気配が反応する。というか分かっていたけど恐ろしいな。気を抜いた瞬間が全くない。隙に見えて全く隙じゃない。まあそれは色ボケてるフェリノ姉もだけどさ。


「初めまして、勇者さん」

「初めまして、剣聖さん」


いきなりピシッと空気が張り詰めた感じがした。


「そう警戒しなくても大丈夫よ。教授とかとは違うんだから」

「……教授?」

「ええ、教授が魔族だったから警戒してるんでしょ?」


僕達はルゥイさんを見る。スイ姉に教えてもらった創命魔法の事を遠回しに僕達に伝えている?多分剣聖としての伝手で知り得た情報を僕達に流してくれているのだろう。


「知ってるのか。なら話が早いや。君から魔族の気配がするのは何故?」

「知らないの?魔族の気配って案外残るのよ。気配の持ち主はこの前帝都に忍び込んで騒ぎを起こした偽魔族達の物だと思うわ。何なら調べても構わないわよ。本当のことしか言ってないから。この子達も知ってるわよ。何せ当事者だもの」


まさか僕達のことも庇ってる?スイ姉の気配が残ってる可能性は高い。それを事情を説明する事で庇ったのか。ならフェリノ姉の告白を受けいれたのも計算?


「まあこの子達の気配は亜人族としての気配が強いから魔族の気配は残っていないみたいだけど」


関係無かった。万が一の対策か。有難い。


「ふうん、そっか」


勇者の漏らしたその言葉は淡々としていて感情が込められていなかった。まるでスイ姉のような口調に思わずその見えない顔を見ようとする。どんな表情をしているかは分からないけれど何故か凄く気になった。


「まあ良いや。とりあえず君達のご主人様に伝えてよ。意図しない再会をしたけど約束とは別にしてってさ。あ、あと流石に僕も女の子からの告白を無碍にはしないよ。ちゃんとお互いに知ってその上でなら付き合うのは構わないと思ってる」


バレてる!?


「あと女の子普通に可愛いし」


ボソッと言ったその言葉は僕にしか聞こえていなかったみたいだ。とりあえず頷いておいた。フェリノ姉普通に可愛いもんね。何故かさっきまでの全てを見透かした感じから一気に慣れ親しんだ感覚に戻された。あぁ、何故か分かった。スイ姉に似ているんだこの人。信頼の言葉を授けるのも納得した。

頷いた僕を見て聞こえていたことに気付いた勇者は少しだけ顔を逸らした。親近感が湧くなぁ。僕はアルフ兄達が緊張している中一人だけ場違いに呑気な表情でステラの手を握っていた。

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