第179話 酒場
レジェス伯爵とその護衛達、従者の人を纏めると
「あぁ、私が貴方達に何かすることは無いよ。血の誓約でも縛ってあるから。良いお店だったし助けただけだよ。この貴族?……豚かな?は話通じなさそうだったから殺しただけだもの。まあ他に思惑が無かったかと言うと嘘になるけどそれは貴方達には関係の無いことだよ」
まあそうは言ってもあまり意味は無いだろう。時間を掛けて信用してもらうしかない。信用されたい訳でもないけど。この人達凄く普通の人だし。私と深く関わりを持つのはこの人達には危ないだろう。
「とりあえずデートの続きでもう少し店の中見てもいい?」
アルフが何だか呆れている感じがするけど私にとっては重要な事なの。デートすらまともに出来ないとか思われたら嫌だもの。
その後多少居心地が悪くはあったけど最初に応対してくれた店員さんが必死に感情を押し殺して接客してくれた。緊張させたかもしれない。更に幾つかの面白そうな魔導具を買って店を後にすることにした。金貨が飛んだけどその価値はあったと思う。
店を出た後はディーンにイジェに連絡するよう伝える。隠れていたのだろうけど私に気付かれないようにするのならもっと修行が必要だね。そう伝えたらディーンが少し悔しそうに頑張ると言った。ディーンってまだ九歳だよね?まだ気付ける程度には拙いけどもう少し成長したら気付ける気がしない。主人としての面子があるからもう少し緩やかに成長して欲しいと思う。
その後は職人街で買い物するのもどうかと思ったのでとりあえずアルフに付いて行く形で外に出ることにした。いや私が歩いていたらここに入った時点でこのまま歩いて行ってもまともな場所に辿り着ける気がしない。
そう思ってアルフに付いて行ったら路地に連れて行かれた。この路地に何かあるの?そう聞いたらアルフからキスをされた。結構ディープなやつだ。それ以上の事はしない代わりにキスらしいけど激しい。
たっぷり十分以上キスをした。か、身体に力が入らない。油断したらへにゃって倒れそう。アルフを見上げると何か勘違いしたのかもう一回された。いや、違うの。上手く立てないだけで…………
路地から出る時ふらふらな私を見て街行く人は何を想像したのだろうか。何人かは顔を赤らめている。いや実際はキスをずっとされていただけだよ。たっぷり一時間以上もしたけど。息も絶え絶えになるの当然だよね。アルフは流石にやりすぎたと思っているのかさっきから顔を合わせようとしない。
「アルフ……」
「な、なんだ?スイ」
「……もう」
アルフの姿を見ていたら怒っている気持ちが何処かに消えてしまった。そしてそれ以上の愛おしさが溢れ出てくる。
「……別に我慢しなくても良いんだよ?」
小声でアルフに言うと顔が真っ赤になる。可愛い。
「い、いや我慢する。後四年くらい」
四年?ああ、私の元の年齢を考えたのか。十四歳で死んだから十八歳か。今の身体で計算しても十六歳程度か。私的には正直どっちでもいいのだけど。
「ん、分かった。なら四年間頑張って誘惑するね」
私的には早く身も心もアルフに捧げたいからね。そう小さく言うとアルフが口をパクパクさせている。これは手応えがあるかな?四年待たずに行けそうかも。まあそれ以上にやる事はまだまだあるから実際はそんな上手くは行かないだろうけど。
そうやってイチャイチャしていたらいつの間にか暗くなってきていた。人の行き交いも少なくなってきて幾つかの店は既に閉店している。その中でも開いている店に入ってみると酒場だったようだ。面倒な事に絡まれたくないので酒場から出ようとしたら後ろからやって来た客に押されるようにして入ってしまう。
アルフと絡まれる前に一緒に外に出ようとしたら声を掛けられた。声を掛けたのは入口付近のテーブルに腰掛けた七十代程の白髪の老人だ。既に酔っているのか顔は赤らんでいる。一緒のテーブル席に座っている友人らしいこちらも白髪の老人は多少マシのようだが目が完全に据わっている。もう一人白髪の老人が座っているがこちらは酒を飲んでいないのか飲んでいても酔わないのか素面のように見える。
「お嬢ちゃぁん、だめだぁよ?こぉんなさけばに居たらからまれっちまいますよぉん?」
呂律が回っていないせいで喋り方がかなり独特だ。普通に聞き取りづらい。
「んだ、んだ?あぶ……れ?」
据わっている人の方が酷かった。思わず聞き返したくなった。したら余計に絡まれそうだけど。多分危ないみたいな事を言った……のかな?
「こん酔っ払いどもは気にせんでえぇ。嬢はなんしてこん所におる?さけばじゃから危ねぇ。はよう嬢うちに帰りん」
ほ、方言かな?何となく喋っている内容は分かるけどこっちも聞き取りづらい。
「お嬢ちゃぁん、危ねぇんなところ来とっちゃ危ねぇんな?」
?えっと、危ないところに来たら危ないよ?かな?最早これ会話というより解読って言った方が良い感じがする。
「んだ、んだ、じゃけぇの、こっちゃこれある」
さっぱり分からない。
「そじゃな、これあるからやろか、んで嬢うちに帰りん、そったら危ねぇんなところにすくっとる。大事にしゃあよ」
何の話かはさっぱり分からないまま一番素面っぽい老人から御守りを渡された。
「へ?あ、いや大丈夫だよ」
「お嬢ちゃぁん、だめだぁよ?こんいはかえんしはあかん」
「んだ、んだ、気にせんでえぇ」
「嬢うちに帰りん。やのところはおぼろうつつやけぇの。ゆめうつつのままほしはまわるんよ」
「ん?どういう……意、味」
問い返した私の前から三人の老人がいつの間にか消えていた。周りを見渡すがそれらしき人物が存在しない。ただ自分の手に握られた御守りが現実であった事を示していた。
「アルフ……」
「どうした?」
「老人居たよね?」
「?酒場に居たか?」
近くに居た筈のアルフが覚えていない。その事実に思わず幽霊の存在を幻視して身体が震える。
「幽霊って居ると思う?」
「ゴーストとかファントムは居るからまあ居るんじゃないか?知らないけど」
「そっか。居るかもしれないんだ。うん。アルフ今日一緒に寝ない?」
「え!?い、いや!?だ、駄目だろ?」
「幽霊怖いの……」
アルフにしがみついて暫く動けなかった。異世界にまで居るなんて幽霊なんて嫌いだ!あ、ごめん。謝るから出てこないで。絶対だよ!?
暫くアルフに抱き着いて少し落ち着いた。そう、大丈夫だよ。フェリノを無理矢理連れてきて暫く抱き締めて眠れば幽霊なんて怖くない。あっ、嘘。怖いです。
とりあえず酒場から出よう。やっぱりトラブルメーカーなのかもしれない。何で店に入っただけでこんなトラブルに巻き込まれなければいけないのか。厳密にはトラブルじゃないけどさ。酒場から出ようとした瞬間今度は普通に絡まれた。
「可愛い女連れて歩きやがって!てめぇ!モテない男共の心を折って楽しいか!あぁん!?」
「そうだ、そうだ!ふざけんじゃねぇぞ!羨ましい!その場所代われよぉ!!」
「ふざけんな!!スイの隣は俺だけのもんだ!!誰にも渡さねぇよ!!」
うん。顔が赤くなるのが分かる。そしてそれ以上に嬉しい。大好き、愛してる。
思わずアルフに抱き着いてキスをすると周りから吐血する音が聞こえた。うん。こういうトラブルなら幾らでも来てくれて良いんだけどなぁ。人生思う通りにはいかないものだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます