第178話 デートの続き……をしたかった



商業ギルドで用事が終わった後はアルフと一緒に手を繋いで少しぶらぶらする。メリーの件を調べても構わないけど個人的に調べたところで大した事は分かりはしないだろう。他にする事も多い訳ではない。真達の服は未だ全部は作れていないがそれももう数はない。今日一日程度であればやらなくても問題はない。

という事でアルフとデートの続きをしようと思う。体育祭で色々と回って遊びたかったけど出来なくなったので街を見て回る事にする。帝都の街はそれほど詳しくはない。殆どグルムスの屋敷周辺と学園、たまに王城と異界の何処かにしか居なかったので全然知らないのだ。


「この辺りは職人街みたいだね」

「そうだな。どんなのが売ってたりするんだろ?」


デートの筈なのに何でこんな場所に来たんだろう?どう考えてもデートで来る場所じゃないよね。何処からか金槌の音とか鳴り響いているし火を使う所が近くにあるのか若干暑い。適当に歩くと変な場所に着くね。帝都って色々なものがごちゃ混ぜになってるのかな?

適当に入った店を見てみると中にあったのは魔導具だった。看板の名前が熱の対流とかふざけた名前だったのに扱ってるのは魔導具なんだ。というか熱の対流って何?まあこの辺りの店の名前は何処どこ彼処かしこもふざけた名前ばかりだったけど。具体的には明らかに服飾店なのに炎の腕とかだったりした。


「いらっしゃいませ!本日はどのようなご用件でしょうか?」


入った瞬間店員さんがやって来た。若い男性でその後ろに何人かの店員さんが出遅れたって顔をしている。ノルマでもあるのだろうか?


「ん、ちょっと入っただけだから何があるか良く分からない。少し見させて貰っても良い?」

「はい。それは勿論。ではどうされますか?」

「どうって?」

「ああ、お客様の中には一人で見たいという方もいらっしゃいますので私が付いていき都度解説を入れた方が良いかそれともご購入の際にのみお声掛けさせてもらうという形にした方が良いかという問いでございます」

「ん、購入の時だけで良いかな?一応……デ、デート中だから」

「左様でしたか。畏まりました。ではお決まりになられた際はお伝え下さい。購入なされない場合も出来たらお教え頂けると幸いです」


そう言って男性は少し離れた位置で待機する形になる。うん、良い店だ。中々店員さんでこれが出来る人は居ないだろう。しっかり教育しているようだ。

その後二人で見て回る。魔導具は私でも作れるけど私では思い付かないような魔導具も幾つもあって案外楽しめた。ボタンで起動する魔導具というのは分かるがボタンを幾つも用意してそれぞれで効果が違う魔導具を作るというのは想像していなかった。しかも組み合わせることでまた違う効果を作るのは一種の芸術に等しいだろう。気に入ったので使うかは分からないが買っておいた。銀貨で三十枚も使ったが良い買い物だったと思う。店員さんは驚いていたが。

そうして二人で笑ったり手を握ったりして過ごしていると誰か店に入ってきたようだ。中に入ってきたのは貴族かな?かつてのティモ君を更に丸っこくして脂を垂らして図体だけ大きくしたような存在だった。うん、あそこまで行くといっそ清々しいとすら思える。いやあの人自体は清々しいどころかドロドロしてそうだけど。


「ぐふっ♪良い女が居るではないか♪おい!そこの女!お前を今夜私の屋敷に呼んでやる!光栄に思えよ!」


そう言って指差したのは店員さんの一人だ。確かに可愛い。店員さんは他の店員さんの背後に逃げて嫌々と首を振るが貴族の従者らしき人が後ろに居た護衛に話し掛けて無理矢理引っ張らせる。背後に隠していた店員さんはどうやらその女性の彼氏のようで必死にお願いしているが貴族はむしろ厭らしい笑みを浮かべてその男性も拘束させる。話を聞く限りではその男性の目の前で犯すつもりらしい。下衆過ぎる。


「ん、そこの豚」


私の声が聞こえたのか豚がこっちを見る。と思ったらにちゃぁって感じの笑みを浮かべる。気持ち悪い。生理的に受け付けないレベルだ。


「こっちにも良い女が居るじゃないか。まだ幼いが成熟すれば中々の物になりそうだ」

「レジェス伯爵様、この方はお客様です。是非お考え直し下さい。お客様もすぐに離れて下さい」


最初に応対してくれた店員さんが必死にそう話すがレジェス伯爵様とやらは聞く耳を持たない。というかレジェス伯爵?イルミアにそんな名前の貴族居たかな?貴族名鑑とかには載ってなかったと思うんだけど。


「うるさい!あの女はもう私のものだ!口出しするんじゃない!そこの女!付いてこい!セイリオスにおいて伯爵である私をおざなりにするんじゃないぞ?そうすれば両国の間で戦争が起きるぞ?」

「だから?」

「は?」

「だからそれがどうしたの?」


もしもそうなるのならばレクトに言えば一発で終わりそうなものだ。仮にもセイリオスの王のような存在だ。可能かそうでないかで言えば可能だろう。


「戦争だぞ?」

「ん、それしか言えないの?」


というかどうしよう?間違いなくレクトにとっては邪魔な存在の筆頭の存在だよね。消してあげようかな。最終的にレクトが法国を治める際には役に立つ事だろう。


「ん〜、そうだ。店員さんに委ねるよ」

「何を……ですか?」

「この人邪魔だよね?」

「スイ、大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ」


さて、結界はもう貼ったし血の誓約も使っている。ここで交わした約束は必ず守らなければならない。但し私にとって有利な約束のみだが。血の誓約はどれだけ理不尽であろうとそれで交渉が成立したのなら必ず成立させなければならない。


「貴方達が望むのならば私は彼等をこの場より消してあげる。その代わり貴方達には私にとって不利な発言、行動の一切を不許可とする。それを呑むのなら彼等は消えて尚且つ貴方達にも迷惑が掛かる事もない。どうする?」

「な、何を言っているのだ!?わ、私を消すだと!?殺すつもりか!?」


護衛の人が殺気立って剣を構えるが瞬時にアルフが動いて剣を叩き折る。アルフ今手で剣斬らなかった?魔闘術の応用?凄いね。手刀って言葉を思い出したよ。

従者の人が逃げ出そうとするが外には出れない。結界に弾かれて吹き飛んでくる。ごろごろ転がってきた従者の顔に足を下ろす。グチュッと嫌な音を立てて男の顔が潰れる。魔法で靴や飛び散ったせいで服に付いた血を剥がして適当に捨てる。


「は?ユジン?」

「ん、望んだね?血の誓約って優秀だよ?言葉に出さなくても望んだなら誓約は成立するんだ。望んだのは店員さんの全てか。嫌われたね?」


私は少し歩いて近寄る。レジェス伯爵様とやらは必死に店から出ようとしているけれどそんな事で逃げられるわけがない。護衛の人達が折られた剣を捨てると懐から短剣を取り出して襲いかかって来る。私はそれを避けることも受け止めることもしない。短剣は刺さることも無く服の表面で止まる。皮膚に向かって突き出された短剣も同様に皮膚の表面で止まっている。彼等程度の技量で私の肌を斬れるわけがない。

私はにっこり笑うと護衛の人達の目を見る。その瞬間護衛の人達は一瞬にして正気を失い狂った笑い声をあげている。なるほど、思った以上に凶悪だ。ディーンの武器に付けた魔法を再現してみたら一般人では一秒も耐えられないという事だ。元ネタがクトゥルフ神話だからか想定以上に凶悪な魔法になっているようだ。流石としか言いようがない。

必死に逃げようとしているレジェス伯爵様をその護衛達の前に投げ入れたら一気に襲われた。まるでゾンビ映画のように護衛達に喰われていく。耳障りな悲鳴は結界で閉じ込めているのでこちらまで聞こえることはない。私は護衛達が投げ捨てた折れた剣を魔法で全て浮かせると針鼠のように護衛越しにレジェス伯爵様を貫かせた。


「ん、終わったね。後は焼却処分してイジェに投げればいいかな」


イジェに頼めば彼等がこの国に居た痕跡も消してくれることだろう。これで戦争も起きない。それよりどうして何だかんだと動いたらトラブルに巻き込まれるのだろうか。実はトラブルメーカーだったのだろうか。

……アルフ達に少し優しくしようと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る