第177話 商業ギルド再び
「という事でドゥレこの子お願い」
「それは良いのですがこの子には何をさせるつもりなのでしょうか?」
「ん、パン作り」
「パンですか……分かりました」
宿屋にやってきた俺達は商人らしい男性の所にいた。スイが一人で行動していた時に知り合った行商人らしいんだけど何でその人が眷属化してるんだ?というか眷属化してたら何となく分かるもんなんだな。見た目は変わらないってディーンから聞いてたんだけど雰囲気がまるで違う。言葉では説明しづらいからどんな雰囲気かは言えないけどさ。
ちなみに白パンの女の子の名前はメリーで俺と一緒の十七歳だった。借金の理由は分からないらしい。いつの間にか借金を作っていて更に一週間ぐらい前から両親とは連絡が取れないそうだ。夜逃げかな。一人娘を置いていくのはいまいち腑に落ちないけど。
「ついでにこの子の両親も捜しておきます。何か分かりましたら都度連絡を入れさせてもらいますね」
「ん、よろしくね」
「あ、あの、ありがとうございます!」
「とりあえずメリー、貴女にはドゥレの元で過ごしてもらうことになる。学園に行く時は誰かを迎えに行かせるよ」
「えっと、スイさん学園には私は通っていないので大丈夫です」
通ってなかったのか。そういえば一般の屋台もあるって話だったな。というか考えてみたら分かった話か。ただの生徒がお店のパンみたいなのを売ってたら逆に驚く。パンなんて下準備が長い時間必要なんだから当然だ。
「そう?なら良い。何か必要な物があったら言ってね。可能な限り揃えるから」
「は、はい。本当にありがとうございます」
「ん、美味しいパン期待してる」
スイ食欲に負けてないか?まああのパン美味かったけどさ。
「じゃあ私達は行く所があるからもう行くね」
「はい。行ってらっしゃいませスイ様」
ドゥレさんに見送られて宿屋を出る。メリーは宿屋にそのまま置いてきた。どうやら借金の担保に家もあったらしく戻れないそうなので宿の別の部屋を借りてそこで一旦住んでもらうことにした。
「スイ」
「ん、商業ギルドに行こうか。どうもきな臭い」
やっぱりスイもそう思ったか。ただの借金ならあれだけのパンを作れるんだ。すぐに稼げるだろう。本来の借金はもしかしたら開店資金とかの融資のものだったのかもしれない。それに借金の返済を求めるにせよほぼ同タイミングでというのはあんまりないだろう。
「スイの考え的にはどんな感じだ?」
「ん、まだ情報が足りないからいまいち分からないけど借金は融資、多分開店資金かな。それで一等地かそれに準じる場所に土地を買って開店した。少しした後その土地が欲しい人が出てきて裏から攻撃を加えてきた感じかな。じゃないと借金の返済のタイミングがおかしいし両親が同時に居なくなるのも何かしらで強引に消されたようにも見える。本当にただの夜逃げの可能性も無いわけじゃないけど一人娘を放って逃げるほど嫌われていたとも思えない。そして残った娘は奴隷にして……可愛かったし飼うかな」
「そっかぁ。ならスイの考えではあの子の両親は」
「ん、死んでるだろうね。生かす理由がない」
メリーには聞かせにくい話だな。夜逃げしていて欲しいと思う。
「だから商業ギルドに行くよ。土地関連の話ならそこで聞けると思う」
スイの言葉に頷いて一緒に向かう。というか最初はデートの筈だったんだけどなぁ。せめて手を繋いでおこう。スイから握り返されてにぎにぎされると可愛くて抱きたくなる。それはもう性的に。やったら間違いなく止められないからやらないけど。理性を強くする魔法とかないかな……。
スイに連れられてやって来た商業ギルドの中は人の行き来が多く冒険者ギルドにはあまり無かった個室もかなりの数あるみたいだ。やっぱり多額のお金が動くからかな。
「これはお客様。どうされましたか?」
「……誰だっけ?まあ良いや。トットかギルドマスターか解体所のおじさん呼んできて」
「……当ギルドのサブマスターのログスです。私では駄目なのでしょうか?」
「……?聞こえなかった?早く呼んできて」
「……畏まりました。すぐにお呼びしますね」
ログスが居なくなった後スイに小声で問い掛ける。
「良いのか?サブマスターって言ってたぞ?」
「だから余計に嫌。あの人同じギルド員の人を大事にしてなかったから」
「そうなのか。まあスイが良いなら良いや」
暫くするとそこそこ歳のいった男性がギルドの二階から降りてきた。
「昨日ぶりだね。もう持ってきたのか?」
「ん、それもあるといえばあるけどその前に訊きたいことがある。個室に案内して」
「ふむ。分かった。それとそこの男の子も一緒か?」
「そう。私の関係者だから気にしないで」
「スイ、この人は?」
「ああ、名乗るのが遅れたな。私はこのギルドのマスターをやっているホルヴァーという。立ち話をするのもなんだしさっさと個室に行ってしまおうか」
そう言ってホルヴァーさんは歩いて奥の方にある個室に案内してくれた。勧められた椅子に座ると机の上に置いてあった防音用の魔導具を発動させる。
「さて、どういった用件だろうか?」
「単刀直入に言うね。一週間ぐらい前に土地を買う人が居なかった?もしくは借金の担保を理由に土地を持った人」
「ふむ。守秘義務があるのでそういった情報は渡せないのだがそれを分かった上で聞いているのだろう。なら理由を聞きたい。何故その情報を求める?」
「借金の担保にされた娘がいる。話を聞く限りじゃどうもきな臭いから確かめたかった。本当に合法だったのかどうか。合法なら何も言わないけど違うなら捻り潰す。それだけだよ」
スイの言葉って結構淡々としてる事が多いから本気なんだって信じやすいよな。今回は本気だろうけど。
「そうだな。もしも非合法なやり方で土地を手に入れた奴がいるなら許してはいけないな。分かった。こちらでも調べてみる事にしよう。それでいいかな?」
「ん、構わない。じゃあ後は昨日のやつかな。解体はどうなった?」
「そうだな。もう終わっていたと思うが解体所に行くとするか。個室では出せんし」
昨日の解体ってスイ何をしてたんだ?後でディーンにでも聞こう。というか今ちょっと探ったら遠いけどディーンが居るな。まあ俺一人じゃスイを守りきれない可能性が高いし良いけど。力加減下手だしな俺。
解体所に向かうと大きな包丁を持った男性が居た。スイが言ってた人だな間違いなく。というか解体所の一箇所に大量の魔物の肉やらが置かれてるんだけどあれか?ニードルレイン凄い居るしあれだな。
「おぉ!来たか!解体は済ませておいたぜ!全部売りで良いのか?」
「ん、良いよ。全部あげる」
「そりゃ助かる!じゃあ解体費用抜いてこんな所だな」
大きな袋を二つほど渡してきた。中身は片方が金貨でもう片方が銀貨だ。いやどれだけ渡したんだ?解体費用抜いてこれは高いな。
「オーガジェネラルが高かったのかな?」
「まあそれが一番高額なのは間違いないが単純に数が多いのと素材の全てを売却だからな。それくらいにはなるってもんだ。それで今日も売りにか?」
「ん、疲れてるようなら少し減らすけどどうする?」
「まあこれくらいなら大丈夫だろ。それよりこんな数大丈夫なのか?そっちで使う分もあるんだろ?」
「ニードルレインだけでまだ四万近くあるけど?」
「……マジか?」
「マジ。オーガジェネラルはそう数は居ないけど確かこの街にあるダンジョンで出たよね。狩ろうと思えば狩れるから別に気にしなくて良いよ」
まあジェネラルなら多分俺でも狩れる。キングやエンペラーは知らない。そもそもどれくらい強いか分からないからな。キングはまだ良い勝負すると思うんだけど。
「だから数は大丈夫。とりあえず昨日と同じ量出しとくね」
「分かった。おいお前ら!仕事だぞ。持って行きやがれ!」
至る所から野太い声が響いてくる。スイがそれに一瞬ビクって動いたのが可愛すぎて仕方ない。その俺の視線に気付いたのかスイが少しむくれる。
「ん、あ、そうだ。ごめん。やっぱり大型のやつ一つ追加しても良い?」
「あ?構わないけど何だ?」
「海の魔物なんだけどね。グレートタイラントウェールっていう物凄く大きい魔物なんだけど」
「やめてくれ。解体所どころかこの付近の地域がぺしゃんこになっちまう」
謝るから怒って数キロ単位の化け物魔物出そうとしないでくれ。いや本当ごめんなさい。
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