第175話 アルフの想い
今日は剣技大会の最終日だ。スイが見に来てくれるから無様な試合だけは絶対にしない。少しだけ気合を入れて会場となる場所へと足を運ぶ。
会場に着いたけど女子組とは待機場所が違うのかフェリノの姿は見えない。応援ぐらいしようと思ったんだけどな。まあ良い。フェリノがそう簡単にやられる訳が無いからな。
試合用の剣を確かめる。ごく普通の剣だ。刃引きされてはいるが当たり所が悪かったら切れるだろうな。まあ即死させたりしない限りはすぐに治療出来るように先生達が常駐してるし大丈夫だろう。心配なのは剣を握り潰してしまわないかなんだよな。スイと出会う前に持っていた剣も特注だったしスイからの剣も特注だ。そうじゃないと剣の方が俺の力に耐えられない。
あんまり力入れずに握らないとなとか考えていたら剣技大会が開始したらしく会場の方で熱気溢れる応援が飛び交っている。少し耳に意識を傾けてみるとスイが絡まれてるのは分かった。ディーン程じゃないけど俺達亜人族は全員五感に優れている。会場の大量の声からスイ一人の声を聞き分けるぐらいなら容易だ。
あっ、ディーンが助けたみたいだな。良くやった。スイの護衛に着いてるのか。なら安心だな。俺とかだと相手を威圧して手首握り潰すぐらいしか出来ないからな。
さて、そろそろ俺の試合だ。スイが見てるからちょっとばかり格好良い所見せないと。会場に入ると大柄な男が立っていた。多分上級生かな。まあ俺の敵じゃない。最近ようやく安定して出せるようになってきた技を使ってみるか。スイ驚いてくれるかな。
「空剣・窮」
原理としちゃ簡単だ。一瞬だけ加速することですり抜けたように見せ掛けるという技だ。ただその加速度が尋常じゃない。最初に見せた速度の七倍以上の速度だ。そうする事で防御をすり抜けたように見えるのだとか。ここできついのが最初の速度は割と本気で振っていないと騙されてくれないという事だ。当たり前だ。遅い速度で振っていきなり加速しても反応出来てしまうだろう。一瞬の判断を求められる速度で更に加速するから理解出来なくなるのだ。
腕への負担がそれなりに大きいけど俺ならそれだけだ。だから空剣系統の急加速を主体とした技は皆の中で俺しか使えない。スイはそういった一瞬の判断は苦手なのか加速するタイミングがおかしかったり加速出来なかったりと習得は出来なかった。フェリノは加速は出来たが腕が耐えられなかった。だからこの技はちょっとした自慢だ。
審判のコールが響いて俺の勝利を言い渡される。だけどこの場所から動かない。次が決勝で最初が俺だからだ。普通に意味が分からない。試合の後の休憩は俺に渡されないようだ。審判を見たら俺から視線を逸らしている。多分俺が亜人族だからか。幾ら平等を謳う学園だろうが亜人族を見下す連中は一定数存在する。まだ国としての方針が変わったわけじゃないし変わっても暫くはこの風潮は変わらないだろうな。
決勝の相手は確か貴族だな。別のクラスに居たのを確認してる。だけどあれはあからさますぎるだろう。会場の裏でも見てるけどあんな服着てなかったぞ。わざわざ着替えたのか。審判も気付いてるだろうが無視。会場の何人かはスイと一緒で気付いてるみたいだけどその辺りは気にしてないのだろうか。
「ふん。貴様の女は随分と卑しい目をしているようだ。この様な獣を好きになるとはな。あれ程の女であれば私のような高貴な存在が囲うべき存在であって………………………」
何か凄い事を言ってるけど全部無視だ無視。じゃないと試合そっちのけで殴り殺したくなる。スイも苛つくだろうな……ってやばい!スイからどす黒い殺気が漏れ出てる!!あれ絶対聞こえてるやつじゃねぇか!?
対戦相手の阿呆は言いたい事は言えたのか気分良さそうに剣を構える。いや、今はとりあえず試合に集中してその後スイのケアだ。じゃないとこいつ人知れず消えててもおかしくない。
試合開始からは少しだけ情報収集だ。何かの魔導具なんだろうけど俺には流石に何の魔法かまでは分からない。ステラやディーンなら分かるんだろうけどな。流石に攻撃魔法じゃないとは思うから治癒魔法か防御魔法かな。動き的に想定するなら防御魔法だろうな。身体ごとぶつかりに来る動きってそれ以外考えられないし。つうか剣技大会でタックルしに来るなよ。阿呆なのかこいつって阿呆だったわ。
「はぁ、はぁ!この!逃げるな!」
「やだね。お前みたいな大して強くもない奴に合わせてやってるんだ。むしろ感謝しろよ」
防御魔法だと仮定するなら剣で殴れないか。確か衝撃に反応して発動する筈だったよなぁ。だったらこうするか。少しだけ後ろに飛んで舞台端に立つ。そうしたら何を勘違いしたかにやにや笑いで気持ち悪いなこいつ。魔力が動いたから範囲でもでかくしたか?
「これで終わりにしよう」
ドヤ顔で言われると凄い腹立つな。もし剣に当たらずに俺が吹き飛んだら明らかな不正だとバレるんだが多分何も考えてないな。
「ははは!吹きとべぇ!!」
横薙ぎに振られた剣を確認しながら一気に飛び越えて相手の後ろに着地する。このまま殴れたら一番楽なんだけどそれをしたら多分剣が壊れるからどんな状況だろうと俺の負けだ。という事で剣が魔法に当たる瞬間に一気に速度を落としてちょんと触れる。そしてそのまま掬いあげるように相手を吹き飛ばす。あくまで防御魔法なんだからただ触れた程度では発動するわけないんだよな。
「確かに終わりにしたな?しかも吹き飛んだ。占い師にでもなれるんじゃないか?」
そう言った瞬間会場の外でべしゃっと音が鳴りそうな感じで相手が地面に落ちる。痛いだろうが自業自得だな。不正行為をした自分を恨め。
さて飛んで行った相手を遠目に見ているスイが若干怖いから剣を適当に投げ捨てるとサッと会場から降りてスイの前にやってくる。
「スイ優勝した」
「ん、したね。格好良かった」
「ご褒美が欲しいな」
「ん、何が欲しいの?」
スイにそう問い掛けられて俺はスイの身体を抱き締めると啄むようなキスをする。ぽーっとしているスイが可愛い。これで少なくとも俺があれについて気にしていないことやスイにして欲しくないことまで聡いスイなら分かってくれたと思う。
「後で貰いに行く」
まあそれはそれでご褒美を貰えるならしっかり受け取っておこう。会場に戻ると剣を拾う。あっ、ちょっと凹んでる。だから脆い剣は嫌なんだよな。
優勝宣言をしてもらった後はスイの元にサッとまた戻る。というか今聞いたら明日がフェリノの試合だった。一日ずれてた。ちょっと恥ずかしい。
「じゃあスイご褒美として俺とデートでもしてくれないか?」
「……ん、はい」
くっそ可愛い。いきなり恥ずかしそうに笑顔で微笑まないでくれ。いつもの作り笑いじゃなくて本当に心からの笑顔だって分かるから凄いドキドキする。
「あっ、ディーン居るな?今日は俺が付いてる」
流石に見られたままじゃ恥ずかしいからな。言外にちょっと離れているように言うと苦笑の声と共にディーンの気配が離れる。わざわざ気配まで出して離れたことをアピールしてくれたか。有難い。
スイの手の前に手を差し出すとおずおずとゆっくりスイの小さな手が乗せられる。その小さな手を離さないようにぎゅっと握る。驚いたようにこっちを見たスイに笑顔を向けると嬉しそうに笑顔になる。こんな可愛い子が俺の彼女なんだと至る所で叫びたくなる気持ちを抑えながらスイの手を引いて歩き出す。
少し我慢出来なくてそこから五分ぐらいしか歩いてないのにキスをしちまった。スイが可愛いのが悪い。これであと数年したらどうなるんだろうか。スイの姿は基本これ固定らしいけど魔族はある程度成長を促せるんだよな……俺の理性が試されるな。まあ後悔はしていない。スイのこの笑顔を絶対に守り抜いてみせる。だから今だけは俺だけのスイで居てくれ。
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