第173話 商業ギルド



ここ帝都にはギルドと呼ばれるものが複数存在している。冒険者ギルドは当然として商業ギルド、魔導師ギルド、薬師ギルド、鍛冶師ギルド、魔具ギルドの五つだ。実際はそれぞれ東西南北四つに中央の五つ存在するためギルドだけで二十五も存在する。帝都が広すぎるせいだ。

しかしそれでは当然立地の関係上魔物を狩りに行くのも一苦労する地域が生まれる。だがそうはならない。何故なら驚く事にこの帝都には異界が存在するからだ。迷いの森の様な系統ではなく深き道の様な亜空間系の異界だ。それらの異界はダンジョンと呼ばれているらしい。名前的にどう考えてもクライオンか学園を作ったとされている人辺りが関わってそうだ。

ダンジョンは明確にされてはいないが恐らく人工的に作られた物と思われ階層毎に魔物の強さも採取出来る物もランクアップしていくらしい。見た目は遺跡や平原、森に湖、木の中とかがあるらしい。階層を上り降りするには魔法陣を使うらしい。まるでそこだけゲームのようだ。

まあそれよりもそのダンジョンの数の方が凄い事になっている。その数大小合わせて百十三個。多すぎて意味が分からない。異界の横に異界があったりするらしいので魔力溜りでも近くに存在するのだろう。ちなみに人工的にとは言ったが人族や亜人族、魔族でもありえない。異界を作るだけなら出来るが管理が出来ない。なので憶測になるが三神の誰かが関わっていると思う。彼等は地球の事も知っているし作ろうと思えば出来るだろう。

まあそんな話は置いといて今向かっているのは中央に存在する商業ギルドだ。トットが先導して向かっているのだが未だにスイが魔物を倒したというのが半信半疑なのか頻りに大丈夫かな?といった声が聞こえてくる。そしてそれを聞く度に背後で隠れているディーンの機嫌が悪くなっていく。スイはディーンの頬を偶に摘んで機嫌を直しているが早めに着いて欲しい。ディーンの視線に敵意が混じり始めている。

そんなスイの思いが届いたのか少ししてから商業ギルドに到着する。スイが中に入ると人が多いのか常に何処かから声が聞こえてくる。個室も明らかに多く中では商談が行われているのだろう。冒険者ギルドとは違って多額の金が動く場所だ。こういった配慮はしっかりされているのだろう。

そんな中入ったスイの姿はかなり場違いだ。どう見ても貴族の少女にしか見えないドレス姿でそれなりに高い年齢の男達の中に現れたのだ。目立つに決まっている。しかも連れてきたのは魔物肉販売員のトット。どう見ても普通ではない。


「ん、さっさと渡すから渡せる場所に連れて行って」

「あ、あぁ」


トットが心配していたのは男達の視線に嫌な思いをしないかなといった物だったと気付いたのかディーンの機嫌が一気に良くなった上若干プラス判定でもしたのかさっきよりもトットを見る視線に好意的な物を感じる。


「トット、お前何処から連れて来たんだ?」


悪意のある言葉にスイが反応する。ディーンの方から前へ視線を向けるとトットに同い年くらいの男が話し掛けている。その視線に好意的な物は無い。


「お前じゃ貴族の相手は務まらないだろ?俺が代わってやるから引っ込んでな」


そう言って強引にトットをスイの近くから引き剥がしてスイの方へと向き直る。


「お待たせしました。商業ギルドのサブマスターを務めさせて頂いておりますログスと言います。本日はどの様なご用件でしょうか?」

「…………」

「…………」

「…………」


スイが無言になったのでログスも同じ様に無言となる。確かに実際貴族相手であればサブマスター等が相手するのはある意味当然ではある。だが、それを理由に連れて来た者を蔑ろにするのは別だろう。それにこのログスの言葉には悪意がこもっていた。ならば悪意には悪意で返してあげようと思う。


「ご用件は?」

「…………」

「お客様?」

「邪魔」

「はい?」

「邪魔だから消えろ。目障り」


ログスの顔が笑顔のまま固まる。そんなログスに右足を少し上げて脛を蹴る。


「……っ!?」

「邪魔だから消えろ。次は言わない」


ログスは痛がりながらも退こうとはしない。なのでスイはログスの頭を掴むと背後に向かって投げる。しっかり魔法で保護したので物が壊れたりはしないがそのせいでログスの身体に机などが当たり随分と痛そうだ。


「トット、早く案内して」

「えぁ、良い…のか?」

「何が?邪魔な障害物を退かしただけだよ?」

「……そ、そうか。分かった。案内するよ」


若干引きながらトットは素直にスイを案内することにしたようだ。



そうして案内された場所は魔物などを解体する所らしい。指輪を持つ冒険者等は丸ごと持ち帰ってくることも多いためこういった場所を用意しているようだ。この帝都には指輪を作れる者もいるようなのでそれなりの数の冒険者が持っているというのも理由の一つのようだ。


「此処で魔物を出してくれるか?俺はちょっと此処の責任者を呼んでくる」


そう言ってトットは小走りに誰かを探しに行った。スイはとりあえずニードルレインを十羽にヴェルジャルヌガを一頭、オーガジェネラルを一体出しておいた。拓が偶に読んでいた小説等では大量に出してドヤ顔をする主人公や無自覚にする主人公、逆に少量しか出さずに目立ちたがらない主人公等が居たが何故そうするのか良く分からなかった。

だって普通に考えて解体所に大量に持ち込んだら迷惑だろう。解体にも当たり前だが時間が掛かる。スイだってヴェルジャルヌガ一頭を解体するのに優に一時間近く掛かった。手際良くやれたとしても三十分は絶対に切らない。小さいニードルレインですら十分は掛かった。別にスイの魔物だけ解体する訳じゃないのだから余計に大量に持ち込んだら迷惑だ。

だけど少量しか渡さないのも良く分からない。目立ちたくないのなら最初から渡さなければ良いのだ。無難な物だけ渡して生活費を稼げば良い。それをしないという事は何処かで目立ちたがる自分がいるという事だ。なのでスイは別に隠さない。力を隠していた理由は単にヴェルデニアにバレたら厄介だからだ。だがイルゥが居る以上少しぐらいならバレたりはしないだろう。


「うおっ、こいつはすげぇな。オーガジェネラルなんざ久しぶりに見たぜ」


声のした方を見るとトットともう二人ほど男がいた。一人は解体所の責任者とやらだろう。片手にかなり大きな包丁を持っていて身体も大柄だ。腕はかなり太くスイの細い腰とあまり変わらないかもしれない。もう一人は商業ギルドの責任者だろう。サブマスターがあれだったので面倒ではあるが関わらずに済む事は難しいだろう。


「これをこの少女が倒したという嘘を信じているのか?」


疑わしいのは認めるが初めから嘘だと決め付けるのは良くないと思う。見た目詐欺な人災ルゥイも存在するのに。


「嘘だと思うならこれは渡さない。私が自分達で使う」


オーガジェネラルの肉は結構美味しい。引き締まった部分もあれば蕩けるような部分もあり一度で二度美味しい優秀な肉だ。一体だけでも一週間分は優にある。この世界では自分の体重よりも多い量の肉を食べたりする人外は存在しないので五、六メートルはあるオーガジェネラルは優秀だ。角や牙は加工すれば刃にすら使えるぐらい硬度も高いので使えない部分の方が少ない。


「な!?マスター!?早く謝れ!!久しぶりのオーガジェネラルの解体を逃したくねぇ!!」

「あ、ああ、すまない。疑うのが仕事な部分があってつい口が滑ってしまった。君のような少女が他ギルドからの調査員なわけないのに。悪かった」


思いの外普通に謝られた。だけど他ギルドと仲が悪いのだろうか。中央には異界が殆ど無いからそのせいかもしれない。売上的にはどう見ても他ギルドの方が高いだろう。だけど中央にあるから他ギルドを纏める立場にある。厄介な場所である。可哀想ではあるがこれに関してはスイから出来ることは無い。あるかもしれないが状況も良く分からない状態では手の出しようがない。


「気にしない。謝罪を受け入れるよ。とりあえずこれだけ出したけど明日以降も持ってくるね」

「ん?まだ持ってるなら出してくれて構わねぇぞ?」

「あんまり出しても迷惑だろうし疲れるでしょう?私の指輪は時間経過しないから気にしなくて良いよ」

「そうか。気を遣わせちまったか。だけど本当にまだ大丈夫だ。ここが使われる回数はそう多くないんだ。異界が近くにあんまり無いからな」

「それなら出すよ。ちょっと大きいのを一体と小さいのを数十体、どっちがいい?」

「小さいので頼めるか?暇してる人間が多い内に数をこなしたい」

「分かった」


ニードルレインを二十体にストームバードを二十体、トルトルムという土竜のような魔物を二十体、イビルとシザーズのウィーズルを十体ずつ渡してみた。計八十体だ。多かったら少し減らそう。


「……凄い量入るんだなその指輪」

「ん、まだあるけどとりあえずこれだけにしとく。多かったら直すよ」

「いやこれくらいならそう時間は掛からないだろ。今は流石に遅いから今日中には無理だが明日のこの位の時間には余裕を持って終わらせられるだろう」

「そっか。じゃあ明日もこれくらい持ってくるね」


今のだけだと一割も減っていない。ニードルレインの数が多すぎる。四万は流石に減らしにくい。


「……おう。過労で死ぬかもしれん」

「その辺りは調整するから大丈夫だよ」


慣れたら数を増やしても大丈夫かな?

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