第167話 体育祭です



国葬は厳かに進み棺が最後に王城の中庭へと運び込まれる。スイ達はそれを遠目から見ていた。王城が幾ら広かろうが流石に一般人枠であるスイ達が入れる程余剰スペースがあるわけではない。ルゥイや学園長、一部の高位貴族の生徒などは向かったがスイ達は入っていない。正確に言うとスイだけならばローレアの娘という立場で入れるが遠慮した。表向きは顔を知らない娘に来られても大半の貴族が困るであろうと、裏向きは面倒臭いし行きたくないである。


「ん、終わったならさっさと帰って真達の服作りたい」


まだ完全に作り切れたわけではないのだ。連日ルーレちゃんと(強制で)一緒に作っているがなかなか終わらない。流石に数が多いのだ。それでも既に終わりが見えてきているので魔法は偉大である。まあ二度とやりたくないが。

そんな事を考えていたら王城の中庭で火が灯された。別に火事とかではなく送り火と呼ばれる死者の案内の火だ。無事に死後の世界に行けますようにという意味合いがあるらしいが実際に死んでこちらの世界に来ているスイからしたら変な感じがする。


「長いなぁ。早く終わって欲しい」


送り火だか何だか知らないがさっさと終わって欲しい。至極どうでも良い事で時間を取られるのがこれほど苛立つものだと思わなかった。この苛立ちはおもちゃで遊ぶ事で晴らす事にしよう。

やがて火が増えて大火となった時に棺がその火の中に入れられていく。燃える棺を見て人々が涙を流している。そうして国葬は終了した。



国王には一時的にイジェがなるようだ。イジェは才媛として知られており内政に詳しいことから次代の王が決まるまで女王として国を治めるらしい。その次代の王として期待されているのがイジェの(何処かから拐ってきた)息子だ。息子の年齢はそれほど高くない。ディーンより若いらしいので十年はイジェが治めることになるだろう。

ちなみにシェアルの街が滅びた事は国王の死という大事によってさらっと流された。まあ至極当然といえばそうだがもう少し話題にしてあげても良いのにと思わなくもない。スイはしないが。

そんな事を考えて過ごしていたら体育祭の日が近付いてきた。真達はこの体育祭が終わってから学園に入ることになる。一応客としては見に来ているようだが。

体育祭でスイが選んだのは魔法による射撃競技と魔物の調教、魔物との試合、剣による舞踊、屋台でご飯提供だ。見事に個人競技のみである。というか屋台でのご飯提供を競技に含んで良いのか甚だ疑問ではあるが屋台での人気がトップに近い順位になると学園内の街の店で物が安く買えるようになる。それが目当てで生徒からは結構な人気競技である。

そして体育祭が始まった。特筆すべきことがそれまでに起こらなかったからさらっと始まったが学園では結構な重大イベントである。国葬の雰囲気を無くすためか例年より張り切っているらしい。



スイがそんな話をジアから聞いたのを思い出しながら屋台で買ったパンを口にする。中には肉汁が溢れんばかりに滴る豪快な肉とそれを優しく包みながらもしっかりとその汁を受けとめ余すところなく味わせてくるシャキッとした野菜、味付けにピリッとしたソースが掛かっており重たい筈なのに幾らでも食べられそうだ。

スイが今開いている屋台は魔物の肉を使った焼き鳥屋さんに近いものだ。この為にスイは冒険者ギルドでかなりの数の魔物の討伐依頼を受けている。最終日まで余裕で持つだろう。ちなみにこのパンは隣の屋台のものだ。美味しかったので隣の屋台の生徒に見えない三十代の大柄男性にお裾分けで魔物肉の詰め合わせを渡しておいた。良い笑顔でグッとサムズアップしてきた。


「ヴェルジャルヌガの焼肉にこちらはストームバード!?更にオーガ!まさかこれはジェネラルか!」


誰か知らないけど私の屋台の前でお肉の種類を言い当てていくのやめて欲しい。何の為にお肉の種類を書かなかったか分からなくなる。安く美味しいお肉を提供する為にしているのにこれだと高くなっちゃう。ちなみにCランクの魔物以上のものしか置いていないので本来なら赤字しかない。だけどお肉は自分で調達してきたし調味料分しか掛かっていないので実際は黒字だ。


「こ、これで鉄貨五枚だと……!?信じられない!?君!これでは赤字じゃないのか!?」

「調味料分しか掛かってないから黒字だよ」


というか誰だこの男の人。食べただけで何のお肉か当てるのは凄いけど私にとっては迷惑でしかない。


「ということはこれらは君が自分で…!?」


愕然とした表情でお肉を頬張る男性。驚くのは勝手だが口だけはしっかり食べてるから逆にこちらが驚く。喋る時にはちゃんと口の中のものを飲み込んでいるから汚くも感じない。無駄に器用だ。


「邪魔」


一言そう言ったら男性はお金を渡してきて焼いているお肉の指定をして受け取ってから近くの席で食べ始めた。しかも無言になった。極端過ぎると思う。まあでもああいうキャラは嫌いではない。自分の欲望に忠実な人だ。しかも迷惑を掛けるタイプには見えない。今回は内緒にして出していたお肉を当てられたから迷惑になったが相手が嫌がっているのに気付いたら素直に引く辺り好感が持てる。

屋台の終了時間がやってきた。屋台は朝から昼までのものと昼からその日の体育祭の終わりまでの二種類がある。当たり前だけど一日丸々屋台は出来ない。私のは朝から昼までだ。

ちなみに屋台の形だが不思議な形をしている。円の形をしているのだ。その半円分を朝から昼までの屋台が使用して終了時間が来たら地面に付けている金具を外してぐるっと半周させる。そうするともう片方の半円が前に出るのだ。そうして午後からの屋台が使用している間後ろで屋台の片付けをするのだ。スペースを無駄に取らなくて済むようにしているのだ。面白いなと素直に思った。

屋台を片付けて競技でも見に行こうとしたら後ろから男性が走ってきた。先程のお肉言い当て男性だ。何やら私に用があるみたいだが無視して人混みの中に入って紛れ込んだ。なんか面倒そうだから仕方ないよね。

アルフの競技を見にきた。今日は屋台の分しかないからじっと見ていられる。アルフの競技は剣のみ使用出来るトーナメント仕様の試合だ。三日に分けてやるらしいが二日目は残念な事に私の競技の関係上見に行けない。その代わりこうして一日目と決勝戦だけは観に行けるようにした。


「頑張れアルフ」


剣のみなので素手や魔闘術も禁止だ。かなり厳しいものとなるだろう。アルフの戦い方は実戦仕様なので実力で勝っていてもルールで負ける可能性は高い。ちなみにこれにはフェリノも出場している。男子と女子ではトーナメント自体が違うので二人が相対する事はないが。あの二人はある意味戦闘種族らしい競技の選択をしたと思う。

ステラは私も選んだ魔法射撃の競技に参加している。やりやすいものねこの競技。そしてディーンだが本当にどうやったのかさっぱり分からないが何故か生徒名簿から消えていた。正直意味が分からない。もっと意味が分からないのがディーンの事を生徒達が覚えていなかった。ステラと二人で驚いたものだ。一瞬ディーンの事を夢だったのではと結論を出し掛けたぐらいには驚いた。そのディーンは今私の後ろに居る。別に気配とかは隠していないが存在感は限りなく透明だ。


「ディーンはアルフの試合どう思う?」

「厳しいんじゃない?アルフ兄の戦い方は実戦仕様だし試合形式は肌に合わないんじゃないかな。フェリノ姉も同じ」


結論は一緒だったようだ。有象無象相手であればごり押しでいけるだろうが恐らくジアに負けるだろう。ジアの剣技は対人において隙が見付からない。勝負に勝っても試合に負けるというのが私達の意見だ。フェリノは余程強い相手が来ない限りは優勝するだろう。ただしスペックに頼った戦い方になると思われる。

現に今始まったアルフの試合だがアルフの剣を受けた対戦相手が身体を吹き飛ばされて転がった所に剣を突き付けられている。木剣で人を吹き飛ばすってどれだけの力があれば出来るの?


「……アルフ兄の攻撃受けたくないなぁ」


それには同意の頷きを返すしか私には出来なかった。

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