第166話 行動が開始されました
「今日の授業は無しだ。全員正装に着替えて王城の方に向かう。一時間後に学園の門に集合するんだ。事情はそこで説明する」
教室に入ってくるなり担任の教師はそう言い放って即座に教室から出ていく。全員良く分からないなりに従い寮に戻って着替えてから門に向かう。スイの服装は元々貴族にしか見えないようなドレスしか持っていないので特に着替えていたりはしない。アルフ達は急いで戻っていったが。
その為スイだけ学園の門に向かって一番早く着いていた。ルゥイは最初から知っていたのか既に居た。儀礼用と思しき剣も携えていて小さいながらも剣聖としての姿を見せつけていた。
「ん、その姿を見ると剣聖なんだなって思う」
「いや私は最初から剣聖だから。途中で違うものに変わったりとかしてないわよ」
ルゥイの頬をむにっとするとペシっと叩かれた。残念だが今日はむにむにできない日のようだ。
「それで何で集まるの?」
「皆が集まってからじゃ駄目?二回も三回も説明するの面倒なんだけど」
まあその通りなのだが気になるのだから仕方ない。何となく思い浮かぶ事柄が無いわけでもないがそれの事なのだろうか。そんな他愛もない話をしているとようやく全員が揃ったようだ。別クラスどころか恐らく学園中の生徒や教師が集まっているように見える。
「何故集まってもらったか分からないだろうから今から説明するぞ。実は陛下が亡くなられた。どうやら病で亡くなられたそうだ。そして今日が国葬だ。学園の外では既にこの情報が出回っていて国中大騒ぎの状態だ。当日に教えた理由は簡単だ。生徒が国葬の日まで勉強が手につかないって状態を防ぐ目的だな」
勉強が手につかないって国葬なのにまるでお祭りのような表現に何とも言えない気持ちになる。まあだけど生徒の大半が陛下が亡くなられた辺りで膝から崩れ落ちているのであながち手につかないというのは間違っていないかもしれない。半数以上がそうなっているのだ。勉強ムードには間違いなくならない。
「だから今から国葬の為街に出る。くれぐれも列からはみ出ないようにな」
そうして私達は国葬を見ることになった。こうして見るとあの王はそれなりに親しまれていたのだと良く分かった。街行く人達が全員涙を流している。棺を載せた馬車の御者ですらしきりに涙を拭いている。それを見て私はかなり白けていた。
「はぁ、どうでも良い。早く帰りたいな。クドやリーシャ達を眷属にしないといけないのに」
呟いていたら背後にグルムスが居た。気付いてはいたけど何も言わないから無視する。グルムスは少し悩んだ後言葉を口にする。
「スイ様……ヴェルデニアが行動を開始しました」
「……詳しく教えなさい」
「いえ動いたというのもおかしな言葉ですね。対処に動き始めたが正しい」
「何の対処?」
「以前スイ様が戦われたヴェインを覚えていますか?あの者は未だ生きており現在ヴェルデニアへと反旗を翻し各地の隠れ家を襲撃しては離脱というのを繰り返しているようです。何かご存知ですか?」
「少なくとも私は知らない。というかやっぱりあれ本体じゃなかったんだね」
テスタリカが自身の基幹素因を切り離していた事から可能性として考えてはいたが本当にそうだとは思っていなかった。むしろどうやって切り離したのだろうか。テスタリカですらグライスの力を借りてしているというのに。
「天鏡の効果でしょう。自らの虚像を作ってそこに移す形で切り離したものと思われます。単独でそんな事が出来るのはまず間違いなくヴェインだけですのであまり気にしても仕方ないと思います」
「そっか。なら良いや。まあヴェインが生きていてヴェルデニアの行動阻害をするならそのまま放置すればいいよ。死んでも死ななくてもどうでも良い」
本心からスイがそう言うとグルムスは少しだけ躊躇ってから分かりましたと頭を下げる。
「……ただ私は関わらないけどグルムス、貴方が個人的に関わるだけなら許可しても良い。私達に迷惑が掛からないようにね」
グルムスは今度こそしっかりと頭を下げると失礼しますと言って人混みの中に消えていった。
「……はぁ、早く国葬終わらないかな」
退屈そうに人々を眺めるスイが一人そこに取り残されることになった。
「教授が魔族かぁ。人災の人が魔族だったのかな?それとも人災に成り代わったのかな?どちらにせよかなり面倒な感じがする」
拓也は一人アルドゥスへと帰る道のりを進みながら言葉を紡いでいく。
「まあアーティファクトも幾つか手に入ったしまあ良いのかなぁ?ただこの指輪なんか変な感じがする。歪み命だっけ?その時点で嫌な名前だよなぁ。使わずに死蔵しておこう。この勘っていうのは馬鹿に出来ないものね」
拓也はスイと別れて剣国で活動していたのだが突然未央が居なくなるわオルディンで魔族の姿が確認された等と色々な事が積み重なったので仕方なくオルディンまで向かう事になったのだ。晃でも良かったのだがその本人が拓也に行くよう言ったのだ。
結果的にオルディンには拓也一人で向かうことになった。従者や兵士の類は付いてきていない。そもそも拓也の速度に付いて来れない。その為指輪の中に食材などを沢山詰めてから単身向かったのだ。着いた先であるオルディンでは帝都方面に向かった事が知らされたので急遽進路を変更した。
途中エルン国でクーデターが起こったと聞いて現地に急行。そこでやたら強い人災の話を聞いて魔族と結びつけた。可能性としてはかなり高く無視出来なかったので帝都へと一直線に進むと魔族と人が複数人で纏まって行動していた。先手必勝と言わんばかりに首を切ろうとしたが間一髪避けられた。
その後ドラマでも見させられているのかと思う光景を見せられた後その魔族、教授アスタールと戦闘を繰り広げた。流層剣マウリアの攻撃は厄介だったが空間すら凍らせるイグナールで無理矢理止めた。マウリアの効果は層を規定して揺らすというものだ。良く分からないがそういうものらしい。それを揺れないように凍らせたのだ。やった本人である拓也が良く分かっていないが。
それ以外にも多彩なアーティファクトで拓也の攻撃を防いできた。
「ただ気になるのはあいつ勝つ気あったのかな?どうもアーティファクトの講習でも受けてる感じがして変な感じしたんだよねぇ……」
拓也との戦いでアスタールはアーティファクトを十数個は使ったがその全てで使い方が分かるやり方だったように思う。歪み命だけは何故か使わなかったので余計変な感じがしたのだが。
「……まあもう殺しちゃったし今更なんだけどあいつ敵だったのかなぁ?失敗したかな?まあ良いか。僕が殺したと分かった訳じゃないし大丈夫だよね?うん、大丈夫じゃなかったら白を切ろう」
拓也はそう決めると腕を伸ばして身体をほぐす。街道で人が居る中そんな事をしたから周りから顔を赤くして見られていたが拓也は気にしない。女顔なのは分かっているし前世から色んな行動で男子も女子も真っ赤になっていたから今更である。
「あぁ、早く帰ってヴェルデニアを殺さないとあの子にも大手を振って会えないよねぇ……ヴェルデニア僕の前に現れてくれないかなぁ」
拓也はそう言うと手元に淡い光の塊を出現させる。光の塊は〈神使〉という素因。誰にも知られていない素因の一つだ。
「僕が神の使いね……ふふ、面白いなぁ。これを持っているせいで僕は半魔族と変わらないっていうのに」
拓也は心底面白そうに笑っていた。周りの赤面する表情は知らない。それがどれほど邪悪な笑みなのかを。
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