第161話 ある女性の道
あの街を出てから少し進むと野営をすることになった。当たり前だが荷物など殆どの人が持っているわけがない。急な襲撃から逃げられただけマシというものだ。だけど食料もお金すらまともに持っていない状態だ。それに大半の人はあの街に基盤を持っている。他の街に伝手などあるわけがない。何人かは親戚が居るらしいがそれだけだ。
「ねえ、リン」
「ダメよ。あの宝石は渡しちゃダメ。貴女が優しいのは良いところだと思うけどやりすぎよ。今食料を提供しているだけでも善意の行動なのよ。やり過ぎれば人は増長するわ」
リンは私の言葉を遮るように話した。完全に見抜かれてる。でもこのままだと彼等に良い未来が訪れるとは到底思えない。
「良い?貴女が彼等の事を気遣う必要なんて全く無いのよ?貴女と彼等の繋がりは何?ただ街で会って話をした程度の仲でしょう?それに彼等は彼等で自分達の生活ぐらい確保するわ。その生活にまで私達が関わる必要なんて無いのよ」
リンの言う通りなのだろう。彼等は彼等でこれから生活していくのだ。私やリンに頼る生活をしてしまったら私達は身動きが取れなくなる事だろう。
「うん、分かった」
ここはリンの言う事を聞いておこう。私もその意見には賛同してしまった。ならこれ以上グタグダ言うのも間違ってる。それに私は私の方が大事だ。流石に他人のために人生を捧げることは出来ない。
そう決めてからは出来る限り他の人達との必要以上な接触は避けるようにした。そうしたら街の人達はそれぞれ固まって今後の話し合いをし始めた。リンの言う通りだったね。別に彼等は守って貰わないと何も出来ない子供なんかじゃないのだから心配する必要なんてなかったんだ。
街から離れて三日経った。最寄りの街である城塞都市エグンに着いた。エグンに着いた時に不思議がられたけど狂人と思われて街に入れないとかされたら困るので皆黙っていた。あの街の出来事は発覚するまでは私達の心の中に仕舞っておくことにする。
エグンに着いてからそれなりの日が経った。あの街の人達は溶け込んだようでもう皆仕事を得て働き始めているようだ。私達も事情説明をしたらBランクのカードが復活した。有り難い。低ランクの方は抹消するためギルドに渡してある。でもあの街の職員達が悪いわけではない。本来ならあの対応で間違えていないのだがエグンの職員達が気を利かせてくれただけだ。感謝の印に高難易度で放置されていた案件を幾つか担当しておいた。
「リンは……どうする?」
「何がよ?用件も言わずにそれだけ言われても分からないわよ」
「私はお金が貯まったら帝都の方に向かおうと思ってる。リンとは正式なパーティって訳じゃないからどうするのかなって」
「行くわよ?何、私には付いてくるなって言うの?」
「ち、違うよ!私は一緒に来て欲しいの!でもリンの事を考えたらそんなこと言えないから」
「あのね、私は私の意思で貴女と一緒に居るのよ。そんなこと気にしなくて良いわ。私の目的は世界を旅することだもの。貴女が行きたいところに私は付いていくわ。それに今更すぎるでしょ」
「うっ、うん。分かった。ありがとうリン!」
やった!これからもリンと一緒に居られるんだ!
はしゃいで暴れてたら宿の人に怒られた。反省。
「貴女達には感謝します。ありがとうございました。私達は此処で頑張っていきます。もし何かありましたら手伝いますので何時でも来てください。貴女達の旅に幸運があらんことを!」
あの街の人達がエグンを出るときに見送りに来てくれた。皆に頭を下げられて感謝された。私達がしたことなんて道中の護衛程度だけどそれでもこれだけ感謝されると少しだけ照れ臭い。
「ええ、何かあったら助けを求めるわ。だから助けられるように貴方達もこの街で頑張ってね」
「貴方達の道にも幸運があらんことを」
二人で照れながら言ったら街の人達から色々渡された。安物ではあるがそれでも用意してくれた。街の人達に感謝を伝えてエグンを後にした。
エグンを出てから四日目、私達は不運に見舞われていた。
「何でAランクの魔物が群れでいるのよぉ!!」
「知らないわよ!今は何も考えずに逃げなさい!!」
「ギャァアァァァーーーッッ!!!」
私達は何故かAランクのストームバード達に群がられそうになりながら走り続ける。かれこれ三十分は走っているが全然逃がしてくれない。そろそろ息が切れそう。
「も、もう無理ぃぃ!やだぁぁぁ!来ないでよぉぉ!」
「諦めちゃ駄目よ!頑張って生き抜くのよ!」
「数が少ないなら立ち向かったけど十体は無理ぃ!多いよぉ!」
「でも走り抜けなきゃ死ぬわよ!」
「死にたくないぃ!!」
そんな時に私達の前に人が居ることに気付いた。不味い。このままだと巻き込んじゃう。
「立ち向かう!」
「無駄よ!もう目を付けられたわ!一緒に逃げた方が良い!」
「そこの人逃げて!ごめんなさい!」
私が大声で逃げるように言うとその人は此方を向く。
「うん?ああ、なるほど。魔物ですか」
悠長に頷いてるその人を私は抱き付くように抱えあげて逃げる。
「走れるなら走って!流石に辛いの!」
「すみません。降ろして貰っても?」
私が降ろすとその男の人は走らずに立ち止まった。
「何してるの!死にたいの!?」
「はい?あの程度で私が死ぬわけないでしょう」
男の人はそう言って指輪から細身の剣を取り出す。
「脈動せよ、<
あれはアーティファクト!?何でそんなもの持ってるの!?
男の人が剣を振るうと大地が震え上がり一気に隆起してストームバード達を地面から大空に向かって叩き伏せる。言葉にすると意味が分からないけど確かにストームバード達は大空に叩き伏せられたのだ。まるでそこに壁があるかのように。
ストームバード達は身体から大量の血を流していて誰が見ても即死していた。リンも私もその光景を前に男から目が離せなかった。
「貴方は一体……」
「私ですか?そうですね。人からは“教授”と呼ばれることが多いですかね?」
それが私達と彼、“教授”アスタールとの出会いだった。
私達は向かう先が同じ帝都という事もあって共に行動することになった。彼は私達の知らないアーティファクトについて凄く情報を持っていて良く教えてくれる。私達と大して年齢が変わらない筈なのに凄く博識で女性に対しても丁寧でかなり好感が持てる。
「リン、彼の事どう思う?」
「何よ、私が横から奪うとでも?確かに彼は良い人だけど私のタイプは大柄な筋肉質な人なの。対象外よ。貴女が本気なら応援するわよ?」
「え、えへっ、応援して貰っても良い?」
うん、はっきり言おう。かなり好きになっていた。アスタールは他の人からはかなり毛嫌いされているようだが何故か分からない。かなりの好青年で尚且つ収入も良いし強い。これで放っておいた世の女性が信じられない。
まあそんな話をしてからはアプローチ多めにしながら三人で帝都に向かって進んでいった。時折アスタールは何処かに向かうと数人引き連れて戻ってきたりして驚いた。この人達の共通点がまるで分からないけどまあ何かあるのでしょう。
両親と娘の三人家族に魔導士らしき女性、何だか凄く偉そうな男性とその妹、本当に共通点が分からない。まあなるようになるよね。
そんなことを考えて帝都に向かっていると襲撃があった。魔物?盗賊?違う。私達を襲ったのは黒いローブを羽織った小さな人だ。ただし恐ろしく強く私達は勝てなかったとだけ言っておく。
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