第156話 ウィーズル
鼬を楽しみにここ数日ウキウキしていたスイだったのだが現在のテンションはかなり低い。
「思ってたのと違うし可愛くない」
なるほど、確かにもふもふではある。だけど歯を剥き出しにして凶悪な表情で噛みに来たりするこの鼬は流石に可愛がれない。
「うさちゃん出してもふもふしてたら駄目?」
「そもそも魔物を眷属に出来る時点で人族じゃないって言ってるようなものだけどそれでも良いなら」
ジアが多少呆れた表情で言う。
「可愛いってジア言ってたのにこれ可愛くない」
「いや可愛いよ。スイが今捕まえてる魔物はイビルウィーズルだよ。ブレスウィーズルじゃない」
「え?何、鼬…じゃなくてこの形の魔物いっぱい居るの?」
「居るよ。この異界の中にはウィーズル系が十種類は居てた筈。虫系も十種類は居たと思うけど」
「が、頑張る」
体育祭の準備で異界に潜るとなった際にグループを組むことになっていて全員バラバラで潜っている。アルフは誰か知らない男子四人とフェリノは同じく知らない女子四人とステラとディーンは一緒で男女二人組と一緒に組んでいる。そして私と組む相手はジアと名前も知らない男女二人。名乗られていないから名前が分からない。ジアも名乗らなかったのを見て笑顔の仮面を被って内心でキレている様子だった。
その男女二人だがジアには話し掛けるが私には何一つ話し掛けてこない。一応この異界探索では一週間一緒に居るのだが初日の今日はこの二人からの言葉を最初のよろしくか文句しか聞いてない。
仲良くする気の無いやつと仲良くしようと努力するつもりもないので私からも話し掛けたりはしない。結果としてジアには負担が掛かるが後で謝っておこう。何だったら自作魔導具を十個位渡そうと思う。
「ん、ジア。前方二十メートル先にウィーズル系二種を確認したよ。どうする?」
「何体?」
「右十二、左十一」
「様子見で」
ウィーズル系はやたらと数が多く十規模で群れている事が多い。弱いので特に何もないのだが群れた状態で戦闘になると何処かしらを噛まれる。噛まれると種類によっては軽微な毒を流し込まれるので良い判断だと思う。ちなみに私はリーダーを辞任したのでジアがこのグループのリーダーだ。
「ウィーズルがそんなに群れているのか?嘘を言ってないだろうな?」
男子が文句を付けてきた。うざい。
「突っ込んでいきなよ、嘲笑ってあげる」
私が索敵で数を間違えるわけがない。ここのウィーズル系や虫系に隠れるのが得意なものは存在しない。だからといって油断はせずに結構本気で索敵しているのだ。見逃すわけがない。
「ちょっと!聞いただけでしょう!」
「やかましい。敵地で騒ぐな。死にたいなら自分一人で」
女子が騒いだ。うるさい。
「クザ、ルン。静かにしてくれ。スイ今ので魔物は?」
「……チッ、気付かれた。ウィーズルの勢力争いに巻き込まれるよ。左からも十七のウィーズルが来てる。ブレス十一、イビル十二、シザーズ十七、計四十のウィーズルが来るよ」
「……シザーズを任せていい?」
「すぐ倒して応援するよ」
あー、イライラする。このクザとルン、終始こんな感じで足を引っ張るのだ。いちいち文句を付けてくる。最初は普通に返したのにクザがあまりに鬱陶しいからじゃあ見てくれば?って言ったら本当に行った挙句逃げるのが遅れて怪我をして帰ってきた。それを見たルンがキレて騒ぎまた魔物に囲まれた。
それからずっとこんな感じだ。治療してあげたのも私だし騒いで来た魔物も殆ど私が駆除したのに礼を言うどころかお前のせいと文句を言ってきた。
現れたシザーズウィーズルは両手の所が刃になっている鼬だ。この手で挟んで切るから
飛び掛かってきた鼬を顔を掴んで近くの木に叩き付ける。地面を這うようにして接近してきたやつは少し跳んで頭に着地して潰す。連携して近寄ってきたのは互いの刃に首が当たるように片側の鼬を蹴り飛ばして処理。木の上から急襲してきた鼬は手を伸ばして足を掴んで地面に背中から落とす。その際にしっかり魔法で尖った岩を作る。死んだのを確認したらその鼬を向かってきている集団に投げ込み即座にその集団の中心部から花が開くように尖った岩を放射状に作る。
「弱い。もう終わり?」
十七体居た筈だがもう終わってしまった。仕方ないので振り返ってジア達の援護をしよう。ジアは特に問題は無さそうだ。数が多いのにしっかり優先順位を決めて一体一体処理していっている。何もせずとも解決しそうだ。
問題はこの二人だ。ブレスウィーズル相手に凄くまごまごしている。ブレスと名が付いているが別に竜族の
確かに祝福を受けた個体はそこそこ強い。だけど祝福の時間は十分程度で尚且つ戦闘中に出来るほど強くもない。祝福は掛ける側も掛けられる側も十分は動けないのだ。余程の群れでなければそんな猶予が得られるわけもない。
「あっ、まごまごしてたら祝福個体が出来た。凄い。十体ちょっとの群れで成功した例はこれが初めてじゃない?」
「おい、お前!終わったなら応援しろよ!」
「そうよ!早くしなさい!」
イラッとした。何でこいつらに命令されなければならないのか。
「がーんばれ、がーんばれ」
「何ふざけてるんだお前!」
「何って応援だよ?ちゃんと最初に言ったでしょ?応援はしてあげるって」
そう、別に助けるなんて一言も言っちゃいない。現にジアはそれに気付いていながら無視をした。つまり助ける必要などない。
「はぁ!?私達が危ないでしょ!早く助けなさいよ!ふざけていると学園にいれなくするわよ!」
何でこの阿呆どもの為に力を尽くしてあげなければいけないのか。というかそんな無駄口叩いている暇があるならさっさと一体ずつ処理すれば良いのに。魔法で一体ずつでも削れば楽だろうに何でしないのか。
「ん、嫌。助けるメリットがない。助けたいと思う気持ちがない。助けても助けなくてもデメリットがあるならこのまま貴女達が死ねば問題無くなると思わない?だってちょっと泣きながら強力な個体が現れて二人はって言ったり私が力不足でとか言って泣いたら誰も責められないよね?」
「何を言ってますの!?早く助けなさい!貴女の奴隷達にも不幸が訪れますわよ!」
「ふふ、アルフ達は私が鍛えてあげてるんだよ?不幸なんて早々起きないよ。むしろ目の前の不幸に目を向けたらどうかな?幾ら弱くても魔物だから無防備に喰らえば死んじゃうよ?」
二体目の個体が祝福を受けた。その瞬間クザが引き倒された。
「うわぁぁぁぁぁ!?!?」
「クザ!?い、今助けますわ!ってきゃあぁぁ!?」
二体目の祝福個体にルンが押し倒される。一応弱めの防御魔法を掛けているので肌に傷が付くまではいかない。二人には恐怖体験を味わってもらうことにしよう。私に来ない理由?簡単だよ。どす黒い魔力を垂れ流してるから怖がってこっちまで来ない。魔物にだって生存本能ぐらいはあるからね。というかブレスウィーズルを見てみたけど確かに可愛い。鼬というよりフェレット?アルビノだから余計にそう見える。そういえばフェレットって家畜化された鼬だったっけ。
「おいで〜、怖くないよ〜」
何体かが恐る恐るやってきた。クザとルンは引き倒されて噛まれている。混乱しているのか傷が付いていないのにずっとキャーキャーワーワー言っている。他の魔物がやってきそうだから防音しておこう。
「あれは何をやってるの?」
「じゃれてる。可愛いからね」
ジアがイビル達を倒し切ったようだ。息を切らしていないので余裕だったのだろう。
恐る恐るやってきたブレス達を引き寄せる。若干顔が引き攣っているが私の機嫌を損ねたら死ぬと思っているのかなすがままだ。腹をわしわし頭を撫で撫で尻尾をふみふみ、癒される。凄く可愛い。ジアが若干羨ましそうにしていたので一匹渡してあげる。一番小さな個体なので何かされても問題無いだろう。それでも六十センチ位あるけど。ちなみに私の前のは1メートルクラス。結構でかい。でも可愛い。
ちょっと慣れたのか頭をすりすり擦り付けてくる。はわぁあぁぁ。可愛い。もう何も言わない。お腹に顔を埋める。尻尾を自分からもふっと当ててくれた。幸せ。うさちゃんとはまた違ったもふもふ加減だ。うさちゃんは若干もこもこしていてゴリラ達は意外にふわふわしていて鼬達は少しサラッとしている。
「持って帰っても良いかな?」
「持って帰ったら学園に報告しなきゃいけないし自分で飼うなら内緒にした方が良いと思う。後僕もこの子欲しいんだけど難しいかな?」
ジアが抱えていた一番小さな子もジアが気に入ったようで目を閉じて抱かれている。あっ、ちょっとキスされた。私もして欲しい!
「眷属にする方法はジアには難しいかな。魔族限定だもの。ジアが魔族の眷属になるなら出来る。もしくは私の眷属にしてジアに与える形かな」
「そっか。残念だけど諦めるしかないのかな」
「私の眷属にはなりたくない?」
「なるのは構わないけど危険なんだろう?もう少ししっかり考えたいかな」
「なるのは構わないんだ。ならこのブレスは私の眷属にして渡すよ」
「構わないよ。残念なことに半分魔族って訳じゃなかったけど気分的には魔族とあんまり変わらないんだ。仕える相手が魔国のお姫様だって良いじゃないか。いやむしろかなり良いよね。ブレス名前何にしようかな?それとももう名前があるのかな?」
ジアが結構乗り気だった。安全な眷属の仕方を何処かで模索しよう。後名前は知らない。
「まあ、とりあえずあれはもう暫く放置しておこう」
何故かショックでも受けたのかピクピクしている二人を横目に見ながらブレス達の眷属化をしようっと♪
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