第157話 虫は嫌い、でももっと嫌いなのもいる



「ところでスイ?さっきから気になることがあるんだ」


鼬達の眷属化をさらっと済ませた後ついに気絶していた二人を魔法で浮かしながら歩いていたらジアが突然そう呼び掛けてきた。


「何?」

「いや、この異界ってさ。凄く虫型が多い筈なんだよね。十分歩いたら十体と出会うって言われてる位密度も高いんだ。なのに異界に入ってからまだ一体も出会ってないんだけど何かした?」

「ああ、そのことか。それなら入ってからずっと殲滅し続けてるよ。攻性結界を作って私の移動に合わせてそれを動かして自動で虫型を殲滅していくようにしてるの。そうしたら絶対出会わなくて済む。画期的な発想だと思う」

「無駄に高等技術だね……そこまで虫が嫌いなのかな?」

「大嫌い。益虫以外滅べば良いと思ってる。いや益虫すら要らない世の中になって欲しい。そうしたら益虫も滅ぼすけど」

「うん。出来そうだけどやめてね。虫も一応世界を形作る大事な一面だから」


言われなくても分かっているからやらない。けど嫌いなものは仕方がないと思う。


「それにこの異界にいる虫で鍬形虫くわがたむし兜虫かぶとむしはまだ良いよ。いや嫌いだけどまだマシ。でも蜚蠊ゴキブリだけは許さない。絶対に会いたくない。むしろ滅べ。もしもこれが世の中に出て世界に蔓延するようなことがあれば国の十や二十は滅ぼしても構わない」

「そのゴキ?ってのはコックローチの事かな?確かにあれは嫌いな人が多いけどそんなに一気に蔓延したりなんかしないよ」

「甘い。こいつらだけは絶対に滅ぼしたほうが良い。こいつらが外に出たら一気に繁殖するよ。進化に進化を重ねてありとあらゆる環境に適応した種類が跳梁跋扈するようになる。世界中に四千種は現れて総数で兆を超える数が生まれる。間違いない。少なくとも……ってそういえばまだジアには言ってなかったか。まあ後で言うよ。とにかくこいつらだけは絶対に異界から出しちゃダメ。許されるならこの異界ごと消したい」

「異界ごとって出来るわけ……出来るの?」


ジアの問いに肯く。規模自体はそこそこ大きいが異界自体は消す事は可能だ。時間は掛かるがこの世界の人にも可能だろう。


「どうやって消すの?」

「領域系結界を消す方法は?魔力場を乱す方法は?つまりそういう事だよ」

「……いやごめん、分からない。多分知ってる人は少ないんじゃないかな。あっ、いや待って。ちょっと考える」


ジアがうんうん唸っているが私もちょっと驚いていた。領域系結界を消す方法や魔力場を乱す方法は昔なら至って普通な事だったしそれに対抗する術式、対抗術式に対して更にそれに対抗する術式といった感じで派生が幾つも生まれたぐらい基本中の基本だった。いつそれが失われたのかは分からないがヴェルデニアによる技術失伝の為の行動の結果ならかなり効果を発揮していると言わざるを得ない。


「領域系結界を消す方法は……上塗りかな?同じ領域系結界で密度を高めた物をぶつける?魔力場は多分高密度の魔力球を破裂させるとか?」

「ん、正解だけどそれじゃ効率が悪い。一番効率が良いのは結界の制御を奪うのと魔力場は吸収して使うだよ。どちらも自分の魔力は殆ど使わないから楽だよ」

「制御を奪う……どうやれば?」

「実演しても良いけどこの異界消えるよ?構わない?良いよね消しても」


良し。消し飛ばそう。そう思って行動しようとしたらジアに引き止められた。


「確かにこの異界は大したものがないから消えても問題無いかもしれないけど少なくとも消すのは僕達が出た後にして。何か怖いし僕達の責任になったら最悪だよ」


消す事自体に関しては何も言われなかったので後で消し飛ばそう。きっとそれが正義だ。


「まあ僕もコックローチはあまり好きじゃないからね。好きって人は見た事ないから大丈夫だと思う。でもスイはブレス達も消えるけど良いの?」

「別に?可愛いけどもう眷属化したし他の個体はどうでも良い。異界から出るまでの間に眷属化出来たらするけどそうじゃないなら別に構わない。あっ、でもこの子達にも親とかいる可能性もあるのか。なら連れてきて良いよ」


鼬達を出してそう言うと全力で走っていった。ついでにヒークも出しておく。鼬達はまだ強化をしてないから途中で魔物にやられるかもしれないし。


「後……ゴリラ達も出そうかな。暫く出してないし皆出て来て遊んでもらおうかな。たまには動かないと身体鈍っちゃうもんね」


私はゴリラ達を出して遊んでくるように言っておく。強化をしているからこの辺りのでやられる事はないだろう。ケルベロスも出してもふもふしてたら何体かのふわふわゴリラが残ってじゃれてきた。可愛いなぁ。


「パッと見た感じ襲われているようにしか見えない」


ジアが何か言ってたけど今は反応しない。というかこの二人組早く起きないかなぁ。魔法で浮かしたままだとちょっとそっちに意識がやられるから起きて欲しい。後十分後位に。



暫く遊んでたら二人組が起きる気配を感じたので名残惜しいけどケルベロス達を還す。その瞬間に女子が起きた。というか今更だけど服にも防御魔法掛けとけば良かった。どうでも良かったし見てなかったからはだけてるっていうか破けてる事に今気付いた。ジアも気付いてなかったのかパッと見てすぐに視線を逸らした。

服の大半が齧られたせいかまともに残ってない。繋ぎ目自体は無事。だから服の形かはさておいてそれっぽく残ってたのか。良く見たら男子側も似たような感じだ。どうでも良いけど。いやアルフ以外の身体なんて見たくないからうつ伏せにしておこう。あっ、服千切れた。見なかったことにして葉っぱ乗せとこう。


「わ、私生き、てますの?」

「生きてるよ。とりあえず起きたならさっさと帰ろうか」


鼬達が連れてきた親?か友達かは知らないけど二十体くらいの鼬も無事に眷属化したし用も残ってないから後は戻るだけだ。ちなみにここの異界に入った理由は奥にある薬草類の採取のためです。とっくに終わってるので後は帰るだけ。

魔物の連れ帰りを全グループがやるわけないのです。当たり前だけど全グループが魔物を連れ帰ったら管理も大変なので少数の精鋭グループが連れ帰ってくるのだ。私?精鋭だろうけど協調性がって話だよ。酷いよね。ジアはそんな私とこの問題児二人のまとめ役です。何かごめんね。


「そ、そうですわ!貴女!何で助けなかったのですか!」

「助けたよ。じゃないと今貴女生きていないと思うけど?」

「え、あっ、でも一回見捨てようとしましたわ!」

「防御魔法を掛けてあげてたから傷一つ無いと思うよ?本当に見捨ててたならそのまま食わせてる」

「そういえば……って何で私の服がボロボロなんですの!?あっ、待って見ないでくださいませ!」

「見てない。というか早く起きて?服とかどうでも良いでしょう?」

「良くないですわ!服、じゃなくて構いませんので何か身体を隠す物を寄越しなさいな!」


何でこうも偉そうなんだろうか。ジアを見ると頭を抱えてる。うん、聞いてるだけで頭痛くなってくるよね。


「何でそんなに偉そうなの?助けてもらっておいて礼もなく自分の要求だけを伝えるとか厚顔無恥って言葉がよく似合うね。一回死ねば変わる?」


かなり苛つくし普通にボコボコにしたい。ジアも何も言わない。なるほど、確かにジアが自分のことを魔族寄りと言うのも間違ってない。ここまで言っても助けるどころか周りを見渡して人が来ないかを警戒してる。何回か止めたのも人族目線じゃなかったしね。本格的にジアは引き込むことにしよう。アルフ達とも仲が良いし。


「わ、私を殺すおつもりですか?」


女子が怯えている。苛つくだけだから別に脅すだけでも構いはしないのだけどどうしよっかな。そう思って女子の方を見てようやく気付いた。


「胸……」

「え、胸?」


彼女の胸に掛かっているペンダント。あれは父様のものだ。父様がかつて友人にあげたものだ。でもその友人は亜人族だ。


「そのペンダント……何処で手に入れた」

「こ、これはお爺さまが私にとくれたものですわ。縁あって手に入れたものだと」

「そんな訳がない。それは亜人族のフェッツェに渡した専用の魔導具でもあるんだ。その家系のものにしか使えない筈だ!なのに何で持ってる!人族のお前が!」

「ひっ!わ、私は!?知りませんわ!お爺さまが!」


私はペンダントの記録を読む魔法を使う。フェッツェは子孫にこれを受け継がせた後その子孫は奴隷狩りに合う。奴隷を買ったこの女の先祖によって受け継がれていった。奴隷として生活している最中に癇癪を起こした先祖によって殺されたと。


「ふふふ、ああ、そうか。死ね」


女子の胸を貫く。信じられないものを見たと言った表情で目から光を失い倒れた。


「ルン?」


ああ、そういえば男も居たか。殺そう。右手をぶんっと振って少し離れた男の喉を開く。ジアは特に何の反応もないか。


「うん。少しだけスッキリした。ジア帰ろうか」


私は彼らの死体を埋めた後振り返って笑顔で言う。ジアは苦笑するだけで頷いた。うん。本当に良い日だ。

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