第154話 体育祭のお話



「体育祭?」

「うん、何でもこの学園の創設者が絶対にやるって言って決めた行事だよ」


ジアがそう言ってその行事の説明をしてくれる。多分学園の創設者は地球の人だと思うから体育祭が何をするのかぐらいは想像出来るがわざわざ説明してくれているのをぶった切る必要もない。

グルムスの屋敷に戻った後ティモ君の記憶を誤魔化してくれたディーンだったがジア達に関しては何もしていない。いや正確にはしようとしたがジア達の態度やその場に居たテスタリカの事を考えやめたらしい。

つまり今のジアはあの時の私の事を全部覚えているが変わらないまま接してくれているということである。心境の変化はあるかもしれないが少なくとも接し方は変わっていない。それだけでも有難い。


「やるのは玉入れに大岩転がし、的当てに瞬間走とかかな」

「ごめん、最初の一個以外良く分からない」


あれ?最初の玉入れ以外謎の競技があった気がする。大岩転がしって大玉転がしの亜種?的当てって何?瞬間走に関しては何かすら想像出来ない。


「えっと、大岩転がしは縦十メートル、横八メートルの大岩を指定の場所に転がしていく競技だね。持ち上げるのは不可、魔法も強化以外禁止で何人で運ぶかで点数が変わるよ。的当ては三十メートルほど離れた位置に置いた的に正確に矢を当てられるかっていう競技だね。中心に近いほど点数が大きいよ。それと瞬間走は一気に飛び出して二秒以内に何処まで走れるかっていう競技だね。距離で点数が変わるよ」


色々と突っ込みたいけどこれが異世界ならではの体育祭なのだと無理やり納得する。絶対に創設者の思い通りの光景にはなってないと思うけど。いやもしかしたら悪ノリした可能性もあるか。


「とりあえず凄く迫力ありそうな競技だって事は良く分かったよ」


体育祭は全員参加らしいが適当に玉入れでもして終われば良いかな。正直そこまでやる気も起きない。地球ではあまり動けなかったから体育祭は好きな方じゃない。むしろ嫌いですらあった。暑いし大半の競技は眺めるだけだし盛り上がれる人達の心境が理解出来なかった。


「スイがやるとしたら何にゃ?魔法競技かにゃ?それとも色々出来るしいっそ大半の競技に出るにゃ?」

「面倒くさいから最低限の数を適当な競技で埋めて終わる」


その言葉を聞いてアルフが驚いた。え、何で?


「スイやらないのか?負けず嫌いだからやるかと思ってた。全部出て優勝かっさらっていくのかと」

「しないよ。目を付けられそうだし面倒。私は確かに負けず嫌いだけど何でもかんでも勝負事なら受けるわけじゃない」


少しむくれながら言うとアルフはごめんごめんと軽く謝りながら頭を撫でてくる。むぅ、許す。いややっぱり許さない。スッと顔を上げてアルフの撫でてくる手を捕まえて薬指にキスを落とす。しっかり上目遣いでアルフを見て。


「……っ!」


アルフが咄嗟に目を逸らしたので仕方なくやめる。手は握ったままだが。


「こっちが赤くなりそうだからせめてそういう事は二人きりの時だけにしてくれないかなぁ」

「言っても無駄にゃ。朝からこんなのばっかにゃ」


ジアとメリティが何か言ってるが今の私はアルフしか見ていない。いや聞いているけどあえて無視している。アルフは私のものだと周知させておきたいから所構わず甘えているのだ。


「ちょっと!貴女!アルフ様が困っているでしょう!その手をお離しなさい!」


アルフの手を握ってグイッと引っ張る。アルフがバランスを崩して私に向かって倒れ込む。その時にアルフの唇に唇を合わせる。アルフは顔を真っ赤にしている。唇の奥へと舌を捻じ込んでアルフの舌に絡ませる。いきなり行われた情事にしか見えない行為に絡んで来た女子は真っ赤になりながらも毅然と睨んでくる。


「ん……ちゅ……んぷっ」


そのまま二十秒はたっぷりとした後唇を離す。垂れてくる唾液を舐め取り話し掛けてきていた女子の方をチラッと横目で見る。若干涙目になっている気もするが追撃する。アルフは誰にも渡さない。


「何か用?下らない用事だったら帰って欲しいのだけど?見ての通りアルフと愛し合うのに忙しいの」

「こ、この!エロ娘!破廉恥です!変態です!恥を知りなさい!」

「え、エロ!?そんな事ないもの!私がこうなるのはアルフだけだから!」

「公衆の面前でやっておきながら何を言っていますの!どう見てもエロ娘ですわ!」

「うっ、でもしなかったらアルフが誰かに取られるかもしれないし仕方ないの!」

「いや俺はスイ以外の誰かに取られるつもりなんて無いけどな」


思わず抱き付いた。アルフ好き。大好き。絶対離さない。奪おうとする人は決して許さない。


「うーん、エロ娘だったのは間違いないと思うよ。他の男子諸君は必死に目を逸らすかガン見してたからねぇ」

「女子も興味津々だったにゃ。大体ガン見してたにゃ。引くレベルだったにゃ」


ジアとメリティの言葉でバッと目を背ける音が鳴った。気付いてはいたけど凄い見られてる。まあ私は見られても構わないのだけど。


「エロ娘は自重しなさい!二人きりでするならまだしもこのような場所でしてはいけません!」

「ん?二人きりならしても良いの?貴女はアルフのこと好きなのかと思って牽制したのに」


あんな止め方したから好きなのだと思ったのに違ったのだろうか。


「違いますわ。私には婚約者が居ますもの。ただアルフ様が困っていらしたように見えたので少々釘を刺しに来ただけです。アルフ様を狙っておられるご令嬢を多いですからその内の一人だと思ったのです。まあ貴女が主人だとは思っていませんでしたけども」


成る程。むしろ私以外の悪い虫が付くのを防ごうとしてくれたのか。良い人だな。お友達になりたい。


「ありがと。アルフを守ってくれてたんだね」

「い、いえ構いませんわ。何だか先程とは違いますわね」

「牽制の時位は強気に行かないと舐められちゃうからね。見た目が小さいから余計に」

「そう、ですわね。アルフ様の主人ですので女と分かっていてももう少し上の方を想像してましたわ」


まあ誰が見ても初見で私がアルフ達の主人とは思わないだろう。私だって思わない。


「だろうね。まあ見た目はどうしようもないから良いけど」


正確には出来るが成長とか無駄にするわけない。というかしたら流石に魔族とバレる。最初の時の成長?あれはきっと必要な事だった。多分。


「まあスイはどんな見た目だろうと可愛いけどな」

「アルフ……」

「ちょっと待ちなさいなエロ娘」


イチャイチャしようとしたら顔を掴まれた。怒りの表情で掴んできている女子は私の身体を押さえ込むように抱き締めると無理やり引き剥がす。


「むぅ、何するの」

「人の話聞いてましたか!?公衆の面前でするなと言いましたわよね!?」

「だめ?」

「駄目です!」

「ほんとにだめ?」

「駄目ですわ!淑女たるものどんな時も優雅であれと……」


可愛く問い掛けても駄目だった。それどころか淑女教育を受けさせられ始めた。どうしようこの子全然話止まらない。

助けを求めてアルフを見るが苦笑するだけで来ない。フェリノは行ってらっしゃいと手を振っている。ステラはディーンと話していてディーンはそもそもこっち見てない。

話区切れたらそこで会話をやめようと思っていたのだがこの子息継ぎ無しでずっと喋ってる。しんどそうだなぁ。


「って聞いてますの!?」

「聞いてない」

「キィィー!こうなればもう一回初めから話してあげますわ!貴女が覚えるまでずうっと話してあげますからね!」


その根性はどこから出てくるのだろうか?どうでも良いけど先生が既にやってきてこっちをずっと見ているのだが。私を巻き込まないで欲しい。

無理だった。最終的に二人揃って頭を教科書で叩かれて怒られた。解せぬ。

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