第151話 彼等の処遇
「んと……イジェ、大丈夫?」
とりあえず彼等をどうしようか迷った後元の場所に戻すことにした。元の場所と言っても地球という訳ではなく単純に彼等が送られていたらしい隣国の学園にだ。その場合にはスイが送るよりも王妃であるイジェが手続きをした方が良いだろう。
そう考えてイジェを探したら瓦礫に埋もれていた。そういえばアルフによって壊れた城は凄まじい速度で倒壊したので事前にある程度離れていないと巻き込まれるのは明白だった。瓦礫程度で死ぬことはないだろうがそもそも戦闘面はからっきしだったイジェ達研究者にとっては動けなくなる程度には重たかったようだ。あっ、シャトラのような一部は勿論除く。
「うぅ、酷い目に遭いました。まさか味方の筈の攻撃に巻き込まれるだなんて」
しくしく泣いているイジェの頭をぽんぽん撫でる。
「悪かった。味方が居るとは思ってなかったんだ。ごめんな」
アルフはすまなさそうに頭を下げる。
「いえ、良いんです。すぐに離れておけばいけたのに離れなかった私が悪いんですから。それにしても……ふむ」
首を振った後イジェはアルフの身体をじっくり見ると頷く。
「何かあるか?」
「ああ、いえ貴方がスイ様の大事なお方なのだなと思いまして。スイ様からの寵愛も受けていますし」
「寵愛?まあ愛されているとは思うけど」
「ん?ああ、違いますよ。吸血されているでしょう?その時に随分深い繋がりを作っているようでアルフ様の身体にスイ様の魔力が混じり合っています。今はまだ浅いみたいですがより深く混じり合っていけば凄まじい力を得られるでしょうね」
「そんなことしてたのかスイ?」
そんなことをしていたつもりはないので首を振る。吸血鬼族の常識みたいなのがあったのだろうか?流石にその辺りは父様からは教わっていない。父様は悪魔族だからだ。
「あぁ、ならば無意識に繋がりを作ったのですね。まあ特別変な事が起きる訳ではないので構わないんじゃないでしょうか?」
「そう?なら気にしない。でも次からは繋がりを意識してみる」
もしそれでアルフが強くなるならばそれだけ死ににくくなるという事だ。やらない理由がない。フェリノ達にも適用されるだろうか?
「寵愛に制限は殆ど無いので気にしなくて大丈夫かと。強いて言うならそんなに血を飲めるのかどうかって所ですかね?」
「どれくらい飲む必要があるの?」
「一人辺り普通にお腹いっぱいになる程度ですね。寵愛は二月もしたら無くなってしまうので定期的に飲まないといけません。だから難しいんですよね。あっ、寵愛によって上がった力は一部を残して無くなりますのでその辺りも含めて難しいです」
ならアルフ達に寵愛というのは出来るようだ。ローテーションを組まないと。ディーンは流石に厳しいかな?
「まあ寵愛に関しては今は良いや。とりあえず彼等をイジェに何とかしてほしい。正直に言って今は邪魔でしかないから学園に送るなら送って」
話を聞いた限りではまだ学園に到着していた訳ではなく向かっている最中だったようなので今なら適当な理由を付ければ送れるだろう。
「それなのですが帝都にある学園では駄目なのですか?何か理由を付ければ手元に残せると思いますが」
その言葉に彼等の方を見ると一様に不安そうな表情を浮かべている。少し考えた後にふぅっと息を吐く。
「まあどっちでも良いよ。邪魔さえしなければね。それに他国で私の存在が露呈するよりかは良いか」
手元でコントロール出来るならしても構わない。今は邪魔だがそれなら遠ざければ良いだけだ。私って案外甘いのかもしれない。いやそんなことないか。
「じゃあ条件を付けよう。学園、又は帝都で私の姿を見ても話し掛けない、知り合いに見えるようにもしない、近付く事は拒否、何か言いたい事があればイジェを通して、私のしている事に邪魔をするなら殺す、それらを呑むなら帝都の学園に通うことになっても許すよ」
関わりを極端に減らせば邪魔が入ることも無いだろう。いや私がしていると気付かずに正義感から動く可能性も無くはないがそれぐらいは別に構わない。むしろ多少の障害は無いと困る。彼等が反抗する事で彼等を皮切りに潜在的な敵対勢力を炙り出せるかもしれない。そうなれば話しかけてくる事ぐらいは許しても良い。
「基本的には関わる事はないけどね」
フラグとかではない。もしフラグなら半ばからへし折って燃やしてあげよう。
「ねぇ、それじゃあ先に教えられる範囲で良いから何をしようとしてるのか教えてくれない?じゃないと邪魔しようとしてないのに結果的に邪魔になったからって殺されかねないわ」
稲坂がそう言ってそれに同意するように彼等が頷く。
「教えても構わないけど血の誓約をさせてもらうよ?ただの約束事だと思われて破られたら堪らないから」
「血の誓約?どういうもの?」
「んと、簡単に言ったらお互いの同意のもと行われる強制契約執行能力。お互いが相手にして欲しくないことを提示してそれに対する罰を設定する。そうしたら破ると罰によっては死ぬ。さっきの条件は邪魔の部分以外は口約束の類でも構わないけど」
「それって貴女も死ぬの?」
私はその言葉に対し肯く。血の誓約は神の領域の一つだ。作り上げたのは魔族ではあるが作る時にドルグレイに手助けして貰っている。そのせいで強力な契約となったのだ。それは何人であろうとも執行からは逃れられない。例え父様やヴェルデニアであろうとも問答無用で死ぬことだろう。神の領域とはそれほどまでに高位の次元なのだ。この世界の住人は一切逆らえない。異世界人だからといってそれからは逃げられないだろう。
「じゃあその血の誓約の内容は私達が貴女の目的を知った上で余程の事が無ければ邪魔しないでどう?」
「良いよ。私からは何年掛かっても貴女達を元の世界に戻す手段を作るにしよう。それなら安心出来るでしょう?まあ確実性は無いけど作るのは確定するよ。ああ、それに邪魔しない限り殺さないっていうのも追加しよう」
「良いの?」
「ん、構わない。別に貴女達を殺す理由も無いし。それに私も貴女達の世界に行ってみたいから」
後半は小声で言ったからか稲坂は聞こえなかったみたいだ。アルフ達は五感が人族より強いからか聞こえたみたいだが私が転生して来たことは知っているので何も言わない。
「なら……えっと、どうやってやるの?」
「少し待って。
私の展開した魔法が私の頭上五メートル程に展開して広がるとこの場にいる全員を覆うほどに大きくなる。血の誓約を魔法として使うと見た目が派手になり過ぎるのが面倒だ。一応今は屋内?壊れて瓦礫だらけだが屋内なので他に見られることが無くて良かった。
「……誓約って第一番から第五番まであるのね。いっぱいあるのは契約の内容で変わるのかしら」
「は?」
稲坂の方をじっと見つめる。
「え?何か変な事を言ったかしら?」
「今意味を理解したの?」
「意味を?え、えぇ、不思議な言葉だったけど理解はしたわよ?」
「力ある言葉を理解したって……いや、そんなまさか。どうして分かるの?」
いや冷静に考えてみればこの世界は言葉に関しては実は種類が多くない。力ある言葉は除くがあるのは西方と東方と魔大陸の言語の三つだ。地球では言語だけでかなりの数がある。この世界に来るに当たって言語理解的な能力を得たのならば分かってもおかしくないかもしれない。
「……もしかしたら上手く使えばいける?」
私の脳裏ではアーティファクトであるグライスを構成する力ある言葉を考えていた。通常アーティファクト内部にある力ある言葉など見れない。しかし上手く内部を可視化出来る様になれば空間を操れるアーティファクトを作れるかもしれない。転移の魔導具はあるのだ。組み合わせればいけるかもしれない。少しだけ現実味を帯びた地球への道が私の顔を少し綻ばせていた。
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