第150話 最高の交渉術



「ん……アルフ……ちょっとやり過ぎかな」


アルフの振り抜いた剣は城の柱でも壊したのか一気に城のあちこちを粉砕していき最終的に倒壊した。アルフはしかし平然としていて意図的にそうした事はすぐに分かった。


「あの人達は殺すつもりなんて無かったのにあれじゃ死んじゃってるかも」


スイは振り抜いた瞬間一気に戻って来たアルフに抱き締められて倒壊していく城から脱出したがあの中で何人が生き残っているか定かではない。ちなみにアルフは凄い事にその一瞬でフェリノとディーンも抱えていた。


「悪い。でもあいつらからスイの血の匂いがしたら止められなくて」


そういえば怒っていた時なんかは結構刺されたり斬られたりしていた。血はべったりと付いていたことだろう。スイからしたら殺される事はないと分かっていたので気にも留めていなかった。だが嗅覚が鋭い白狼族である二人からしたら集団で斬り掛かってきた敵でしかない。


「……ん、嬉しいから何とも言えない」


自分のために怒ってくれたというのが凄く嬉しい。結局それは自分の意図とは違う空回りではあるがその気持ちは素直に嬉しい。


「……まあ助けられるなら助けるって思ってた程度だし別にそこまで気にしなくても良いかな。というか正直どうでも良い」


今はアルフに抱き付く事を考えよう。イチャイチャしたい。機嫌が悪くなった後だから余計に。ぎゅっと抱き付くとアルフはすぐに抱き締め返してくれる。暖かくて力強いその腕に身を任せるように力を抜く。するとアルフは腕を少し動かして私の顔を持ち上げると…………ふぁ。

きっと私の顔は真っ赤だろう。まあその何というかごちそうさま?自分で何を言ってるのかさっぱり分からない。あっ、まってもう一回。フェリノ達が顔を赤くしているのが横目で見えたが今はアルフの顔しか見えない。幸せ。

その幸せを壊すかのように背後で瓦礫の崩れる音が響く。ガラガラガラと煩い音を立てて崩れた場所からあの人達が出てきた。良く生きてるなぁと感心する。


「くっそ、城を壊すとか無茶苦茶すぎんだろ」「女神様の加護がなかったら間違いなく死んでるね」「というかまだあの子達居るのね。とどめ?」「勘弁してくれ、流石に勝てる気しないわ」「というか王様達どうなったかな?」「助けられてないからもうそこは察してくれ」


殆ど無傷のまま出てきた事にアルフ達が警戒する。そんなアルフ達の前に一歩踏み出す。アルフが慌てて前に出ようとしたので振り向いてキスをする。驚いて止まったアルフを置き去りにして彼等の前に立ち止まる。


「え、何今の?見せ付け?」「リア充だったか……イケメンもげろ!」「そうだよなぁ……こんな可愛いんだもんなぁ……リア充爆発しろ!」「後ろの子も可愛い……異世界って最高だな!いや待てまさかハーレムか……死ねリア充!!」「イケメンだけは地獄まで叩き落としてヤルゥゥ!!」


阿鼻叫喚?の状態の彼等の前でにっこりと笑ってグライスで瓦礫を吹き飛ばす。


「黙れ、うるさい、殺すぞ?」

「「「「「「……………………」」」」」」


うん、静かになった。やっぱり脅迫って最高な交渉手段だと思う。だって今のだけで一気に優位になれた。


「元の世界に戻りたい人は居る?私の邪魔をしない、私に協力する、迷惑を掛けない。これを守ってくれるなら何年掛かるかは分からないけど戻す手段を作ってあげる」


正直に言って確約は出来ないがドルグレイやアレイシアと試行錯誤すればもしかしたら戻すことも出来るかもしれない。私も地球に戻れるなら戻って一回だけで良いからお母さんやお父さん……のお墓を…あぁ、思い出したら涙が出て来た。分からないように一気に拭って意図的に思い出さないようにする。まあ私自身も一度は戻りたいので彼等はついでだ。


「戻れるのか?」「王様は戻る手段は無いって」「いや待て、作るだから戻れるかは分からないぞ」「変な異世界に行く可能性もあるのか」「でもお母さんに会いたい」「お父さんも含んであげて」

「確約はしないよ。戻れるかは知らない。だけど作るだけならいける。それでも良いなら武器を下ろして。術式に操られていたとはいえまたぐっさり刺されるのは嫌だからね」


まあはっきり言ってここで彼等を助ける必要は無い。戦ってみて分かったが不思議な力こそ持っているがそれだけだ。一人一人は全く強くない。ヴェルデニアの時の戦いに連れ歩く事は出来ない。でも同郷の人間を見捨てるのはなんとなく気が引ける。何かの事故で死んだとかなら別に気にはしないのだが。

というか凄くどうでも良いのだが彼等は全員で一気に喋るので普通に聞き取りづらい。誰か一人に代表でも決めさせようか。ということであの治癒していた女の子を指名した。最初に話した茶髪男でも良かったのだがまだ術式解いてないから面倒くさい。それに解くだけなら多分ルーレちゃんでもいける。だったらルーレちゃんに魔法の授業として解かせるのもありかなと考えた。危険性はそれほど高くないし。


「じゃあ、えっと稲坂?だっけ?とりあえず私の提案を受けるか受けないかだけ答えて。受けなくても構わないよ。その場合でも殺しはしないし、この世界を好きに生きれば良い。私の邪魔をしたら殺すけどね」


私の言葉に少し悩んだ後に頷く。


「それは受けるって事で良いの?」

「はい。魔族の貴女に付くのはどうかなとは思うのだけど……ただこの国と貴女なら私は貴女を信じる。ううん、信じたい。私は元の世界に戻る術を手に入れたい」

「もう一度言うけど可能性があるだけだよ?確実性はない上危険性は相応に、そもそも出来ない可能性も高い。それでも?」

「うん。この世界を旅して元の世界に戻る術があるとは思えない。だったら敵だろうが何だろうが私はそっちに付く」


その言葉に私は少し笑みを浮かべる。こういう子は好きな方だ。好感が持てる。


「ん、分かった。貴女は提案を受けるんだね。他の人はどうかな?ちなみに受けなくて私がその術を手に入れた後にのこのことやって来ても帰さないからね?協力しない子にやってあげる理由は無いし」


利益だけ享受するのは絶対に許さない。腹が立つというのもあるが単純に私が嫌いだ。


「稲坂さんが受けるなら私も受ける」「俺も」「受ける」「帰りたい」

「僕は…受けない。怖いのもあるけど戻りたいとは思わない」「私も受けない。この世界は楽しいもの」


意外ではないがそこそこ別れた。受けると言ったのが大体二十人くらいか。残りは受けないらしい。教師が受けないに入ってるのは驚いた。


「へぇ、まあ受けたからと言っても今貴方達に何かして貰う事は無いんだけどね。そもそも何出来るのかも知らないし。まあ邪魔さえしなければ良いや」


別にこの人達に積極的に関わるつもりなどない。元の世界の人など丹戸さんだけで充分だ。ルーレちゃんは除くけど。


「あっ、でも聞きたいことはあったかも。貴方達の能力というか魔法?というかそういうのは何?少なくとも私は知らないけど」

「女神さまから貰いました」「チートスキルってやつかな」「ユニークスキルっていうのを貰ったのよ」「女神様綺麗だったよなぁ」「女神様にまた会いたい。教会とかで礼拝したらワンチャン?」「ないない、俺ならワンチャン」「お前にもねぇよ」


私は思いっきり地面にあった瓦礫を踏み付けて壊す。その音で全員整列して静かになった。やっぱり脅迫って最高の交渉術だよね。静かになった中から一人の男子生徒を指差す。


「こ、この世界に来る前に女神様からチートスキル……じゃない。特殊な能力を全員貰いました!効果は全員バラバラです!」

「ん、この世界には女神が居る事は居るけどそんな力は無い。元の世界の女神かな?」


この世界には三神が最高神として存在するが地球と一緒でその下に神が存在しないわけではない。まあ力などは圧倒的に下なので神というより細々した事をする天使のような存在だと思った方が良いかもしれない。


「多分そうだと思います!私達の文化について詳しかったので!」

「……そう、なら良いよ」


本音を言うなら面倒だなとは思う。まあそれも含めて使ってやれば良いかと考えた。元の世界とスキルという形で繋がりがあるなら帰る手段としても使えるかもしれない。可能性が少し増えたと考えたら良いだろう。とりあえず微妙に話に付いて行けていないアルフ達には後で説明しておこう。

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