第130話 会ったら恥ずかしくなった
「ん?ああ、安心せよ。あの者等も連れてきているからな」
そう言われてようやく周りをしっかり見渡した私は結界が張られていることに気付いた。認識に関する結界のようで外側と内側を完全に隔離してしまい両方から見えなくなる結界のようだ。ただしどうやら一部の景色を映しだしている関係からか不完全で内側から外側がぼんやりと分かる。外側からは恐らく張られる前の景色が蜃気楼のように映っているのではないだろうか。
「結界に気付くか。それほど高度に組んではいないとはいえそれでもこの時代においてはかなりの技術なのだがな」
「まあ今の時代に合わせた結界程度なら見付けて解除するくらいはそこまで難しくないから。神代の時代の結界は除いてね。七重以上の複層結界が当たり前の時代の結界なんて解こうとするだけで反撃で死んじゃうよ」
そうスイが言うとドルグレイは首を傾げる。
「ん?なぜその時代の結界を知っている?」
「父様の素因に当時の記憶も刻み込まれていたからだね。だから私は発生して一年も経っていないけど神代の時代やヴェルデニアの姿、ドルグレイ達三神の姿も知っているよ。クヴァレ様だけは姿が変わるから分からないけど」
「ほう、記憶を受け入れられたのか。器がかなり大きいようだな」
今度はスイが首を傾げる番がきた。
「どういうこと?」
「器が無いのならばその記憶の閲覧も出来ないだろう。閲覧した挙句自らの記憶として保管出来た以上少なくともウラノリアと同等かそれ以上の器の持ち主だということだ。ちなみにその身体の器もそうだが魂の器の方だ。その両方が揃って初めて出来る芸当だ。だから一部は出来ても全部は無理だと思っていた」
どうやら器とやらがあるおかげで全ての記憶を見れたらしいが正直な話何を言っているかいまいち分からない。だからスイは考えても分からないのだしと早々に考えるのをやめた。
「ん、まぁその辺りはどうでも良い。器なんかは調べようがないし。それよりもしかしてこの結界の向こうに居るの?」
「ああ、居るぞ。小屋があると言ったのにそこで待つと言ったのでな。急遽結界を張る必要が出た」
恐らく待つと言ったのはアルフだろう。言い出したのはアルフだろうが内心では三人もそんな気分だったのではないだろうかと思う。少しだけ嬉しく思いながら結界に手を当てる。結界は緩やかに波紋を浮かべながら消失しかけるその瞬間スイの耳に聞き慣れない声が飛び込んできた。
「アルフってスイのことどう思ってます?」
!!??
動揺してスイは結界から手を離してしまう。再び波紋を浮かべて戻りかけたので慌てて手を付ける。
「……では」
少し遅かったようでアルフの声が描き消えた状態で聞こえた。聞きたかったのか聞きたくなかったのか分からない自分の行動に若干の恥ずかしさを感じる。
「濁さずに」
またも聞き慣れない声が詰問する。こういった質問に答える必要性は皆無なのだがアルフは律儀に答えるようだ。もしかしたら自分が居なかった一ヶ月以上の期間中に仲良くなった女の子なのかもしれない。そう考えると何故か少しだけ震える。しかし次のアルフの言葉でその震えの意図は全く違うものに変わる。
「……好きだとは思う」
顔が赤くなるのが自分でも分かった。男子に告白されることなど決して無かったわけではない。むしろ普通に多い方だったと言っていいだろう。なのにアルフからのその言葉には今までの告白などよりも真剣なニュアンスが含まれていたからかアルフの顔を見るのが怖い。今どんな表情でその言葉を発したのだろうか。
「だそうよ。良かったねスイ」
どうやら聞き慣れない声の主はスイのことを知っていてわざわざそんな質問をしたようだ。もしアルフがスイのことを嫌々ながら一緒にいたらどうするつもりだったのだろうか。
「……アルフ後でお話しよっか」
アルフの方を微妙に視線を逸らしながら言う。その際に奥に黒い髪の女性とグルムスが少し離れた所に居ることは分かった。グラデーションのようになっている紫の髪の少女は同じ魔族のようだ。その魔族の少女がにっこり優しく微笑んでいることから問い掛けたのが彼女なのだろう。
奥の女性はメッドを持っている。黒髪はこの世界にも居るがメッドを持つ程となると限られるだろう。場所も相まって選択肢はそう多くない。彼女は勇者なのだろう。ただ聞いた話では勇者は少年だった筈なので彼女はその前の勇者と思われる。
「ス、スイいつ起きたんだ?」
少ししどろもどろになっているアルフが可愛くて少しだけ落ち着いた。
「三十分くらい前。ドルグレイが結界を張っていたのは知っていたけどまさか間近でこんな話してるとは思わなかった」
そう言うと頬を赤くするアルフを見て唐突に分かってしまった。ああ、私はきっとアルフに恋をしてしまっているのだろう。こんなに愛おしく感じるとは思わなかった。離れていた時にルーフェにからかわれたが成る程こんなにも分かり易かったのか。
そしてそれと同時に恐ろしく感じる。私はアルフが死んだ時正常で居られるのだろうか。少なくとも今は間違いなく無理だ。この恋を自覚してしまった以上そんな事は考えたくもない。いやこれはアルフだけではない。離れていた事でどれだけ自分がアルフ達に依存していたかが分かった。四人のうち誰かが死ぬだけでも私は狂ってしまうだろう。
そう考えて更に怖くなる。ヴェルデニア達との戦いに巻き込みたくない。安全な場所で終わりの時まで隠れていて欲しいと思う心と一緒にどこまでも付いてきて欲しいと身勝手な思いが渦巻く。それを思うと立ち止まってしまいそうな感じがして考えるのをやめる。咄嗟に魔族の少女を見て話を切り替える。
「そういえば貴女はいったい誰?」
「あぁ、そういえば名乗ってなかったわね。私の名前は……やっぱりやめた。スイが当ててみて」
悪戯な笑みを浮かべて少女が笑う。スイは少しも考えずに答える。
「湊ちゃん?」
「……すぐに分かっちゃうのね。何だか悔しいような嬉しいような不思議な気分だわ」
その答えに不満そうにしながらも湊ちゃんは笑う。
「姿が変わっても湊ちゃんのことはきっと分かるよ」
そう言うと湊ちゃんに私は抱き付く。
「ごめんね。二人でどこかに行っちゃって」
「……本当よ。馬鹿な子。次は置いていかないでね」
私達はお互いに涙を浮かべる。
「えっと、湊ちゃんじゃなくてルーレちゃんって呼べば良いのかな?」
「そうね。湊は死んだもの。ルーレって呼んでスイ。後ちゃん付けはやめてよ」
「可愛いよ?」
「可愛くなくて良いのよ。私はお姫様を守る騎士でいいわ」
「むぅ、実際に私お姫様らしいから冗談になってないんだけど」
スイの言葉にルーレはころころと笑う。それに釣られてスイも笑う。
「ん、それで湊……じゃなかった。ルーレちゃんあの女の人は誰?知ってる人?」
「ううん、私も詳しくは知らないわ。前勇者で名前は未央ってことしか知らないわね。まあ話した感じ悪い人ではなさそうよ。それに敵でもないわね」
「そっか。なら良いや。ここに居る理由も知らない?」
「グルムスさんに連れてこられたみたいよ?」
「グルムスに?んと、良く分からないな。まあ後で聞いとくよ」
まあ恐らくはグルムスというより正確にはドルグレイだろう。ここに来るのにドルグレイの許可無く来ることなど出来やしないのだから。最悪締めてでも聞く事としよう。
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