第129話 なんか泣いてばっかりだけど私はこういう立ち位置なんだろうか?



「そうですね。まずはこの場所にどうやって来ましたか?次に何が目的ですか?あの子の事どこまで知っていますか?」


ルーレちゃんは私の目に針を突き付けながら少し早口でそう言う。とりあえず思うのはこの子めっちゃ怖い。何でいきなりこんなに変貌したの?選択肢間違えた?


「えっと、来たというか誘われたというか?正直どうやって来たのかは私も分かってない。グルムスさん、あっ、男の魔族の人に連れられて来た感じかな。目的とかはないよ。いきなりだったし一日前には私剣国に居たんだもん。強いて言うなら魔族との戦争というか争いが無くなれば良いとは思ってる。あの子が誰かは知らないから何とも言えないかな。せめて誰を指してるか教えて欲しい」


素直に全部答えたらルーレちゃんは私の目をじっと見つめて針を下げた。これは一応危機的状況は脱出出来たと思って良いのかな?


「そうですか。分かりました。いきなりごめんなさい。勇者だったのでちょっとばかり過剰に反応しちゃいました。あの子はスイって名前です。知っていますか?」

「魔族だと仕方ないと思うから気にしないよ。スイって子は名前だけなら知ってる。グルムスさんがその子を主って言ってたから。というか今この場所にやってきた筈だよ。なんか暴走?してるみたいで触れないけど」

「そう。なら起きるのを待ちましょうか。あの子ったら仕方ないんだから。この家にやって来たら驚かせてあげましょう」


ルーレちゃんはそう言って悪戯な笑みを浮かべる。美少女がやるとすごい可愛いんだなって分かった。私が一回それっぽくやったら友達に邪悪って言われちゃったし。邪悪な笑みって失礼すぎるでしょ!


「あ、そう言えばなんで私が勇者だって分かったの?私達勇者は何故か魔族を見たらすぐに分かるけど魔族側にそんなの見抜ける力なんて無かったよね?」

「それは簡単ですよ。だって貴女この世界の住人じゃないでしょう?黒髪黒目に違和感のある力、身体を鍛えた形跡が他者より少ない、身体の動かし方と力が見合ってない、まあとは言っても私も転生者だから身体の動かし方と力は見合ってないんですが。まあ見る人が見ればすぐに勇者だと分かる筈ですよ」

「あー、そう言うもんか。というか転生者!?」

「今更そこに驚きますか?クライオンについて話していた時に転生者ではと言った時点で何となく察してるものだと思ってましたけど」


そう言えばそんな話してたけど文字通り目の前の針に意識がやられてそこまで考えが回らなかったよ!


「あれ?でも転生者なら私が何となくでも敵じゃないって分かったんじゃ?」

「いいえ?人間なんて裏切りが横行するでしょう?例え元々同じ世界の住人だったとしてもそれが信用や信頼に変わることはありませんよ。人は最初に信じたものを中々変えません。それを考えると魔族=敵になっていても全く不思議じゃありませんし個人同士が仲が良くても国家間とかでその意思は完全に無視されます。敵じゃないとかは武器を向けない理由にはならないんですよ」


言われてみればそうだ。私達の世界での犯罪なんか身近な人の犯行だったなんて良くある事だ。信用や信頼を逆手に取る人間も居る以上その考え方はおかしくない。むしろ私が甘かった。この世界はあの世界よりかは単純かもしれないけどその分よりシンプルに人が死ぬ。信用や信頼をしたくて、されたいならそれ相応にお互いがお互いを知らなければ出来ない。


「ごめん。確かにそうだね。私が甘かったや」

「まあ勝手な事言いましたけど貴女はそれでも良いと思いますよ?」


ちょ、いきなり躓かせないでくれるかなぁ!?私の決意みたいなのを捨てないで!?


「貴女はそんな甘っちょろい考えのままでも良いと思います。こんなふうに考える私みたいなのが悪役をやれば良いだけですから。貴女はただ支えられたら良い。それが貴女の使命だと思いますよ。……多分」

「途中までなんか感動の言葉っぽいのに最後ので台無しだよ!?そこは断言してよ!?」

「いやあ、私貴女の事大して知らないですし」

「そうだけど!分かるけども!」

「私無責任な言葉って嫌いなんですよね」

「今の説教みたいなのはじゃあ何だったの!?あれ結構無責任だったと思うよ!?」

「私、過去の事は良い事は覚えていて悪い事は忘れやすいんですがどうしてでしょう?何を話したか覚えてないです」

「十分は経ってないよ!過去とかいうレベルの昔じゃないからね!?ついさっきだよ!」


ルーレちゃんはクスクス笑っている。あぁもうからかわれてるのは分かるんだけど凄い美少女だから似合い過ぎて可愛い。私女の子が好きだったわけじゃないはずなんだけどなぁ。


「まあそんな事は置いといて、未央さん今まで良く頑張りましたね」


ルーレちゃんはそう言って私を抱き締める。その瞬間何かプチっと小さな糸が切れた感じがした。じわっと目が潤んでくる。今までの辛かった事や苦しかった事を全てを包み込むかのような優しさで受け止められた感じがして涙が止まらない。


「私は貴女がどんな人生を送ってきたかは知りません。この世界にやってきてからどんな生活をしたかも知りません。けれど貴女の目はとても寂しそうでしたから私だけは貴女を受け止めてあげます。何があったのか話したくなれば聞いてあげます。話したくないなら抱きしめてあげます。私が出来るのはそれくらいだから。頑張ったねとそう言ってあげるしか出来ませんから。今だけは勇者ではなくただの一人の女の子として受け入れてあげます。だから一人で考え込んで傷付けちゃ駄目ですよ?」


さっきまでの会話はきっと私の緊張を和らげるためだったのだろう。ルーレちゃんが言葉を発して頭を撫でるたびに涙が出てきて嗚咽が止まらない。短期間に小さな子に慰められるのは二回目だけどそんなにも私は限界に近かったのだろうか。ただ涙を流して縋り付くようにしか出来ない。


「今は休んで良いんですよ。おやすみなさい」


ルーレちゃんが何かしたのかそれとも私が限界だったのかは分からないけどいつの間にか私は縋り付くように眠ってしまった。

起きた時私はベッドに運ばれていた。恐らくルーレちゃんに運ばれたのだろうけど魔族だから力も強いのだろうか。そこそこ重たかったと思うのだけどと思ってから私も似たようなことなら出来るのを思い出す。うん、この世界の住人は基本的に頭おかしかったね。子供が瓦礫運んでる姿とか良く見たことあるわ。魔族の襲撃でたまに壊れる城壁の瓦礫とかを七、八歳にしか見えない子供達が運んでお小遣い貰ってたね。大人くらいありそうな瓦礫だったはずだけど。

そのルーレちゃんは今は近くに居ないようだ。索敵範囲を少し広げても居ないようなので恐らく家の外に居るのだろう。もしかしたらスイって子に会いに行ったのかもしれない。それなら私も会いに向かった方が良いのだろうか。そう思うとベッドから起き上がる。武器とかは外されていたので手早く付けると家の外に出る。

家の外ではアルフ君達がルーレちゃんと話している。何を話しているんだろうか?


「えっと、誰?」

「ルーレって言います。スイに会いに来たんだけどまだ起きてないですか?」

「あぁ、まだ起きてないなっと俺はアルフだ。スイの……何になるんだろうなほんと?一応奴隷?こっちが妹のフェリノ、エルフのステラ、兎人族ウェアラビットのディーンだ。全員スイの奴隷?だな。奴隷だけならまだ居るけど基本的にはこの四人が一番近くに居ると思う。多分。一ヶ月以上離れてたけど」


先程来たばかりのようで自己紹介してただけだった。けれど随分と詳しく話したけど隠す内容でもないから?それとも白狼族の真偽判定で大丈夫だって判断したのかな?あっ、白狼族って言うのは個人差はあるけど嘘か本当かを見極める力があるらしいです。出来る人と出来ない人が居るみたいだから単に感が鋭いだけかもしれないけど。


「……アルフってスイのことどう思ってます?」


なんかすっごい直球で聞いたね!?私も若干気になってるけど!


「ん?まあ凄いけど若干抜けてる?」

「ああ、いやそういう事じゃなくて好きか嫌いかですね。勿論尊敬や友愛とかじゃないですよ?異性としてです」


妹が目の前にいるのにそれ暴露させるの!?何それ鬼畜過ぎない!?聞きたいけども!


「まあ……嫌いでは」

「濁さずに」

「……好きだとは思う」


ルーレちゃんガツガツ行くね?そんなに気になってたの?


「だそうよ。良かったねスイ」


へ?


「……アルフ後でお話しよっか」


横になっていた筈のスイちゃんが起き上がった状態でそう言う。いつ起きたの?というか立っている位置が微妙にずれている。どういう事かはさっぱり分からないけどアルフ君が窮地に立たされたことだけは分かった。スイって子顔が若干赤いから大丈夫だとは思うけど気をつけてね。


「ス、スイいつ起きたんだ?」

「三十分くらい前。ドルグレイが結界を張っていたのは知ってたけどまさか間近でこんな話してるとは思わなかった」


まあ起きたら間近で恋愛トーク、しかも自分関連聞かされるとか恥ずかしいよね。仕方ない。乙女の可愛い心を沸騰させたんだから折檻されてきなさいアルフ君。生き残ることを期待するよ。

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