第131話 修行パート前
「ふむ。感動の再会は終わらせたようだな。なら本題に入っても良いか?」
ドルグレイが私達が落ち着いたのを見計らって声を掛ける。その声に私達は全員振り向く。皆が注目したのを確認するとドルグレイは私の前に一つの光の粒を落とした。
「何これ?」
「それはまだ形を得ていない力の塊だ。それを使ってこの場所とお前達が居た場所を繋げようと思う」
「擬似的な転移を可能にするってこと?何の為に?どうしてそんなことをするの?」
その言葉にドルグレイは一つ頷くとほんの少しのドヤ顔で声を発した。
「それは勿論修行パートの為だ!!」
修行パートの所で元地球組が理解して異世界組が言葉の意味を理解出来ずに首を傾げた。この世界にそれっぽい単語が無いことは理解した。それと同時にドルグレイだけかは知らないが三神が地球のことをそこそこ覗いてるということは良く分かった。
「えっと……パート?ってのが良く分からないけど修行って事は稽古を付けてくれるって事で良いのか?」
アルフが首を傾げながらもそう問い掛ける。うん、ちょっと自覚しちゃうとそんな仕草にすら愛おしさが溢れてくる。私がそんな事を考えてるのが分かったのか横で脇腹をつんつんしてくるルーレちゃんが凄くうざったらしい。そのニヤニヤ顔やめよう?
「ああ、その通りだ。まあ俺と戦うのはそこの二人だけだがな」
「二人?誰と誰かしら?」
ルーレちゃんが疑問を浮かべる。私はまだ弱いけどスペックだけならこの中の誰よりも高いから私は確定だろう。だがもう一人が分からない。さっきから喋らずに私とルーレちゃんの絡みを見て若干興奮しているグルムスかな?それとも前勇者の未央?ルーレちゃんの潜在的な能力は高いからルーレちゃんかな?
「スイとルーレ、お前達二人だ。鍛えればこの中で飛び抜けられるだろう。今はまだ蕾の状態だから開花させてやる。嫌ならば無理強いはしないが」
「私はやる。強くならないといけないから」
「まだ私自分の素因が分かっていないのだけど……まあやっていたら分かるかしら?私もお願い」
「うむ。任せよ。何、死ぬことはない。安心せよ」
「ドルグレイの唯一の弱点は首元にある逆鱗だから最悪そこを狙おうね」
「おぉい!?何教えてんだお前!?」
いやなんかちょっと苛ついたから?私達より強いから仕方ないのだけど上から目線で話されると引き摺り落としたくなる?
「俺達はどうしたら良いんだ?それに彼処で所在無さげに立ってる女の人は?」
アルフがそう言って未央を指差す。注目されて居心地が悪いのか少し身動ぎする未央。む、胸が若干大きいから悔しい。アルフが普通に見ているから後でお話しよう。きっとただ顔を見ているだけなんだろうけど胸の方も見ているように見えなくもない。
「お前達は俺が呼んでくる竜族の戦士と戦ってもらう。まあ模擬戦だが普段は紳士的なあいつらもこと戦いとなると変貌するからな。気を付けろよ。死なせはせんと思うが腕の一、二本吹き飛ばす位はしかねんからな。死んでさえなければ俺が治せるからそこは気にしなくて良いぞ」
「基礎等は教えないのか?」
グルムスが主に私の方を見て言う。私やルーレちゃんが戦いにおいては初心者に等しいことを理解しているからだろう。私は完全にゴリ押しだしルーレちゃんは知らないが戦いとなると多分似たようなことになる。
「基礎も勿論教えはするが主軸は模擬戦だ。実戦に勝るものなど無い。短い期間で強くなっていこうとするのだ。それくらいの苦難は即座に乗り越えて貰わねば困る」
ドルグレイはそう言うとニヤリと笑う。成程、これはある意味挑戦状を叩き付けられたのか。ルーレちゃんもそれを理解したのか若干苛っとしたようだ。うん、ドルグレイのニヤケ顔って妙に苛つくよね。良く分かるよその気持ち。とりあえずあのニヤケ顔をぶん殴るまで二人で頑張ろっか。
「じゃあ戻ると良い。スイに渡したそれを地面に埋めれば転移門が発動する。それを使ってちょくちょく来るといい」
早速やるのかと思っていたらドルグレイから帰れと言われた。ルーレちゃんもポカンとしている。アルフ達も少し拍子抜けしているようだ。
「意外なことを言ったつもりは無いぞ?そもそも竜族の戦士達の選抜もある程度済ませているとはいえ最終調整はまだだしお前達は下である程度の生活の基盤を作っているだろう。それを疎かにするのは本意ではないだろうしそれにスイに至ってはそろそろ早く学園に帰ってやれ。イルゥだったか?その者の誤魔化しも限界に近付いている。もう少ししたら破綻するぞ?」
それはまずい。イルゥが私が居ない一ヶ月以上の期間を改竄し続けていたのだとしたら相当な負担が掛かっているだろう。早めに戻ってあげないと厳しいかもしれない。
「あの、ドルグレイ」
ルーレちゃんが言い難そうにけれど若干の悲壮感を込めた声音で呼び掛ける。
「安心せよ。イルナとシェティスにはあの後連絡を入れてある。今頃帝都に向かって走っている筈だ。スイと一緒に帝都に入ると良い」
ルーレちゃんは折角会えた私と離れ離れになるのを怖がっていたのか。可愛いなぁ。私はルーレちゃんを引き寄せて抱き締める。それで少しは安心したのか強張っていた身体から力が抜けた。
「そもそも弱い状態で会えば迷惑になるかもしれぬという杞憂から離れていたのであろう?ならば俺が強くするという確約が与えられた以上離れ離れになる理由は無い。存分に再会を楽しめば良い」
そんな理由で離れていたのか。ルーレちゃんの頬をむにむにして少しの抗議をする。ルーレちゃんが気まずそうにえへっと笑う。可愛い。何か最近女の子に対してより一層可愛さを感じるようになってきた。もしかしたら潜在的には女の子が好きな素質でもあったのだろうか。まあ今はアルフが……好…やめておこう。考えるだけでも顔が赤くなるのが分かる。
「あっ、そうだ。拓は?こっちの世界に来てる?」
「そういえば訊くの忘れてたね。この子の弟の%∞⌘⁂拓也って来てる?」
気持ち悪っ!?苗字の所が物凄い気味の悪い声に聞こえた。これは私が自分の名前を理解出来ない事の弊害なのだろう。何故一部の記憶や情報が思い出せないのかは分からないけど世界を渡る際に何らかのトラブルがあったと見るべきだろう。
「ルーレちゃん、その苗字のところは言わないで。気持ち悪い」
「えっ?」
「私が名前を思い出せないのは知ってるよね?それって聞き取ることも出来ないんだよ。そのせいか苗字の部分が凄く気持ちの悪い声に聞こえるんだよ。だからお願い。やめて」
私が本気で頼んでいる事が分かったのか少しだけ悲しそうな表情を浮かべてから頷く。
「ごめんね。でもそれは気にしなくて良いんだよ。だって名前が思い出せなくて聞き取れなくなっても私は私だし今はちゃんとスイって名前があるからそこまで悲観しなくても良いよ」
私の言葉に再度頷くルーレちゃん。
「……お前の弟に関しては俺の管轄外だ。来ていても知らんし来たことも知らん」
「私はドルグレイの管轄なの?」
魔族である以上そんな筈は無いのだが訊いてしまう。
「違う。だが、お前に関しては別だ。本来誕生し得ない作られた生命であるが故に管轄が曖昧なだけだ。簡潔に言えば三神全ての管轄内でもある。そのお前関連でグルムスやルーレ、未央と言った存在を呼び寄せられたのだ。未央は若干怪しかったからグルムスと関わらせるために転移させたが」
「待って。その前に訊きたい事があるの。物陰に隠れてたし動きが無かったからさっぱり気付かなかったんだけどね。今気付いちゃったんだ。彼処で倒れてる男の人達は誰!?」
そう言ってルーレちゃんが指差した先には異世界勇者一行の丹戸さん達が倒れていた。ごめん、凄く忘れてた。動きが無いと頭の中からストンって抜けちゃうよね。ドルグレイは指先を見て驚いていた。忘れてたなこの龍。私も忘れてたから許してあげよう。そんな下らない事を考えて現実逃避してみた。いや本当ごめん。約一時間近く放置はやりすぎたと思ってる。反省します。
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