第127話 人外魔境(風評被害)



「ふむ。やはりか。そうかもしれぬと思っていたがこれで確証が得られた。間違い無く魔軍はあの若造の支配下にない。ではどうやってその支配から逃れている?敵対するように言われているならば会うこともままならない筈。魔神王の素因はそれほど有能ではないということか?抜け穴が存在するのは間違いない。何かに使えるか?」


突然アレイドが勇者召喚を強行したことや拓也くんが言っていた魔族の中に味方が居るという事、それらを話すとグルムスさんはすぐに理解したみたいで一人で納得していた。


「あの……」

「ん?ああ、悪いな。すぐに料理を持ってこさせよう」

「え、あ、ありがとうございます。ってそうじゃなくてグルムスさんは私が此処に居る理由というか原因って分かりますか?それが分からないと剣国に戻ってもまた連れ戻されそうで気になって」


グルムスさんは賢そうだし何より長く生きている魔族だ。原因が分かるかもしれない。


「漠然とでしかないが分かりはする。が、断言出来ないものはあまり言いたくない」

「そこを何とかお願いします」

「……私の考えでは君にメッドを渡した目による転移だ。恐らくだがな。だが何のためかはいまいち分からない。私と君の接点はまるで無いしそもそも転移するならば残りの勇者も呼び出すべきだろう。なので理由は分からない。その目の正体は分かっているから余計に下手なことは言えない。考えていることなど読めるものか」


あの目のせいか。でもこの話し方だと決して危ない存在では無さそう。気紛れで転移させられたのなら怒りたいけど…って転移!?


「転移……?そんなものがこの世界に存在したんですか?」


私の知る限りじゃ転移は出来ない。アレイド達も出来るとは言わなかったし何より危険極まりない。転移先の状況が一切分からない状態での移動など下手をすればそのまま死ねと言われてるのと変わらない。地面だってボコボコしてる、魔物が居るかもしれない、建物が出来ていたら、場所がずれたら。ありとあらゆる危ない条件があるのだ。それをクリアすることは限りなく難しい。


「いや本来ならば存在していなかった。が、つい最近それを使用されてな。魔族の中に恐らく魔導具だが転移の魔導具がある事が判明した。ならばそれよりも遥かに高位の存在であれば使えても何らおかしくはあるまい?現に君は屋敷の中と言うかなり危険な状況下での転移に成功させられている」


言われてみればそうだ。ほんの一メートルずれれば私は壁の中だ。これ程危険な転移も無いだろう。今更ながら顔が青褪めていく。


「ああ、まあ大丈夫だとは思う。何らかの安全策は取っていた筈だ。私は君が転移する兆候を読めなかった。であれば結界のようなもので保護されていたと思われる。万が一にも君がどうにかなることは無かったはずだ」


そう言われてほっと一息をつく。まだ顔は青褪めているだろうが少しはマシになったと思う。グルムスさんは安心させるように私の髪を撫でる。子供をあやすような感じだけど不思議と安心する。私が落ち着いたのを分かったのかグルムスさんが手を離す。


「とりあえず早く料理を持ってきてもらうことにしよう。先程から全く動けないのでな」


えっと……何かすみません。



グルムスさんが部屋を出て行ってから十分程してからメイドさんによって料理が部屋に運び込まれてきた。良かった。このメイドさんは普通の人だ。王城だと居るメイドさんは全員アイリスだったから変な感じしたんだよね。というかこのメイドさんは魔族じゃないんだ。もしかしたら事情を知らないメイドさんの可能性もあるからグルムスさんが魔族だってことは内緒にしておこう。

メイドさんは料理を運び終えると一礼して外に出ていく。部屋の外で待機しているのが分かるので早く食べないと。ずっと立たせたままって申し訳ないもんね。

運ばれて来たスープを一口飲む。美味しい!王城でも料理は美味しかったけどここも負けず劣らずの味だ!ちょうど昼時を過ぎたあたりでお腹が減っていたのもあってすぐに食べ終えてしまう。おかわりって叫びたいけどやめておこう。流石にそれは恥ずかしい。

メイドさんに食器を片付けてもらう。手伝おうとしたけど物凄くやんわりと断られた。心の声で邪魔すんなって聞こえた感じがしたけど気のせいだよね?そんな可愛らしい笑顔でそんな事考えてないって信じてるよ?

そんな下らないことを考えているとこの屋敷に近付く複数の気配を感じた。ああ、一応この屋敷内をカバー出来る程度には索敵範囲を広げてます。やったらグルムスさんの力が滅茶苦茶強くて敵対しなくて良かったって本気で安堵したよ。多分何も出来ずに死んでる。

それでその気配も恐ろしく強い。一対一ならまだ何とかなるかもしれない。けど二人以上来たら間違いなく負ける。最強だとは自惚れたりはしていなかったけどやっぱりこの世界のパワーインフレ度が半端無い。この世界を作った神様は頭がおかしいんじゃないだろうか。

その気配は特に何事も無く玄関に到着する。執事さんが開けているみたいなので敵対している人とかではないのだろう。ちなみにその気配達とグルムスさんならグルムスさんの方が強いよ。強すぎて逆に怖い。

そんなことを考えていたら部屋に居るはずの私にその四人組から気配察知されたことが分かった。その瞬間四人組の一人の気配が消えた。消えた!?さっきまで間違いなく感知していた一人が消えた。転移ではない。薄くなって消えた感じだ。もう気配を読めない。

まあ良いや。グルムスさんの味方なら私に危害を加えないだろう。そう信じよう。というより襲われても気付けないだろうから気を張っても意味が無いことが分かったのだ。索敵範囲を部屋の外までにして寝ることにした。今日はいろいろありすぎて疲れたな。おやすみなさい。



仮眠になってしまった。眠気は確かにあったのだが小一時間で起きてしまった。部屋の外にグルムスさんが来ている。ノックがしきりにされているのでそれで起きたのだろう。服の乱れを少し直してから扉を開けるとグルムスさんとその四人組と思われる三人組がいた。いやまだ一人何処に居てるか分からないんだよ。


「ミオよ。こいつらがスイ様の奴隷達だ。実際奴隷らしくはないが身分は一応奴隷だ」


グルムスさんが言っている意味がいまいち分からないけどとりあえず味方だってことは分かった。


「初めまして。未央って言います。剣国で前勇者やってました」

「初めまして。アルフって言います。スイの……何だろ?まあ奴隷だな。奴隷やってます?」

「お兄ちゃん……えっと、フェリノです。アルフの妹で同じく奴隷です」

「私はステラと言います。アルフ達と同じ奴隷ですね。よろしくお願いします」


三人は挨拶したけど気配を消している最後の一人は話さない。いや、当たり前か。グルムスさんが気付いていないとは思えないし試されているんだろうか。


「えっと、あと一人居たよね?その人は?」


私の言葉に三人が苦笑いする。


「ほら、やっぱり最初から気付かれてただろ?」

「それでも一応警戒しておくべきだよ。アルフ兄」


そう言いながら私の後ろから出てきた幼い男の子。ピンと立った兎の耳が可愛らしい。というか後ろから!?怖っ!?本当に気付かなかったよ!?


「まあ気付いていなかったみたいだから良かったよ。僕の名前はディーンだよ。よろしく!」


にっこり笑うその男の子を見てもしかしたら私は人外魔境の巣窟に入ったのだろうかと本気で悩んだ。まあ人外しかまともに居ない屋敷だからあながち間違いじゃないかもしれない。とりあえず私をここに送り込んだ目を恨んでおいた。

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