第126話 転移事件発生



やっちゃったー!!十三歳の男の子に縋り付いて泣いた挙句そのまま寝るとか!!恥ずかしい!

私は今剣国アルドゥスの王城に用意された部屋のベッドでジタバタ暴れていた。そりゃ勿論恥ずかしいからです。だって一応私の方が年上だよ?しかも先にこの世界にやって来てるんだよ?なのに年下かつこの世界に来て浅い男の子に泣きながら抱き付いて寝たんだよ?羞恥心がオーバードライブしております。オーバードライブって意味分からないけどつまりそんな感じってことです。

一頻り悶えた後左手の指輪の中から一振りの剣を出す。それはアーティファクト最強の五振りが一、災禍の剣メッドだ。美しい装飾がされていて一見実用性皆無の宝剣にしか見えない。まあ実際この装飾は後から付け加えられたもので本来はかなり無骨な剣なのだが。つまり装飾を取ればそこそこ良い値段の宝石である。売ってやろうかと現実逃避気味にそう思う。剣国では宝石類は大して売れないが。


「何で私なんだろう?」


あの時私は拓也の方が強いのだから渡せば良いんじゃないかと思った。しかしそう思ったらあの目はその心境を読んだかのように、いや事実読んだのだろう。読んだ上で首を振ったのだ。私に使えと。しかしはっきり言って私はそこまで強くはない。いや当然兵士達よりかは強いし前勇者で今は賢者としてって私ももう賢者扱いか。

私の前の勇者であるおじさんよりは確かに強いだろう。だが世界には様々な強さを持った化け物達が存在する。そいつらと戦って勝てるかと言われたら相性によっては負けるとしか言えない。一体一の真剣勝負ならば勝てるだろう。この身に宿った魔力や馬鹿げた力は正面から挑まれても余程下手に立ち回らない限り返り討ちに出来る。だが最強ではない。

最強であるなら魔族をとっくに追い返してヴェルデニアを討ち果たしていることだろう。勇者と言われようがゲームではないのだ。RPGのようにラスボスがずっと同じ強さで玉座に座っているわけじゃない。自分が強くなるのと同様に敵も各々強くなっていくのだ。そう簡単に勝てるものではない。それどころか相手に今は手加減されている状態なのだ。ゲーム的に言うなら私なんてレベル十もあれば良い方だろう。相手は最低ラインが五十かな。無理に決まってる。

そんな私に最強の剣を渡されても何が出来ると言うのか。卑下ではなく単なる疑問だ。はっきり言って無駄になる可能性が高い。強いが振り回されれば意味は無いのだ。


「拓也なら分かるかな」


あの男の子はどうも私より賢い感じがする。というか多分賢いだろう。年上としては悔しいけど頼りになるのだ。何とも言えない微妙な感情が湧き上がってくるが抑える。今はそんなことどうでも良いだろう。私は暴れたせいで皺が出来た服を叩いて戻すと部屋を出ていく。拓也に会いに行こう。あと謝ろう。

そんな事を考えながら歩いているとふと立ちくらみがした。少しよろけそうになる身体を踏ん張るとその瞬間お腹に強烈な衝撃が来る。えっ?

私が倒れる寸前見えたのは全く見知らぬ場所と私を見下ろす一人の男性の姿だった。この人は…魔族…?



目が覚めたら手足が縛られていた。少し周りが暗いが牢屋なのではない事は分かる。豪華ではないがそこそこ高そうなベッドに手足が括り付けられているのだ。


「落ち着け私、冷静になって考えよう」


この部屋には現在私しか居ないようだ。少し暗いが棚らしき物があることから牢屋があるような場所ではない。高そうなベッドから少なくない金を持つ者の屋敷か何かである。だけど私を捕えはしても拷問や尋問をしない事から外道ではなく寧ろ私という不審者を捕らえただけである。後ろ暗い事もやってはいないのだろう。やっていれば多分私はとっくに殺されている。武器は取り上げられたようだがそれだけだ。


「少なくとも問答無用で殺す人じゃなくて良かった。まあ問答次第では殺される可能性も無くはないけどそこは間違えないように頑張れば?いけるかなあ?」


ちょっと心配だ。私は決して弁舌に長けた人物ではない。寧ろ苦手な部類だと言っていい。いや得意気に言うことでもないけども。

まあとりあえず分かることは脱走とかを考えるのは論外だということだ。何故かというとそもそも油断していたとはいえ私を一撃で気絶させるだけの力を持つ者がいるという事。脱走出来ても見逃してくれるならば良いがそうでなければ見付かれば即殺という可能性もある。逃げないよりマシかもしれないが博打は打ちたくない。勝算薄そうだし余計に。

後魔族の男性が居たのが気になるしそもそも此処が何処なのか分からないといった理由もある。闇雲に逃げてもすぐに見付かるだろう。かくれんぼとか出来なさそうだ。

まあどうでも良いが本当に此処は何処なのだろう?少なくとも剣国ではない。何故なら窓から普通に外が見えるのだが城下町が全く見たことない。というより規模が大きすぎてさっぱり分からない。これ多分街の一角だよね?大きすぎじゃない?窓から外を無理やり見ていると部屋の扉が開いた。


「ん?ああ、起きたか。すまないが暴れられると困るので手足は縛らせてもらった。いきなり屋敷の中に現れたのでな。様子見のために少々手荒な方法を取らせてもらった。疑いが晴れるまではすまないがそのままでお願いする」


そう言って魔族の男性は椅子に座る。私もその話が本当なら仕方ないとは思うので頷いた。手か足どちらかは解いて欲しいと思うがそれは出来ないだろう。この世界の人族は色々と元の世界と比較すると頭おかしいレベルの化け物が居るのだ。足だけで大地割るとかするんだから仕方ない。うら若き乙女としてはこの無駄に扇情的なポーズは変えたいが。まあその乙女は足で大地を割れるんだけどね?


「とりあえず君は誰でどうやって入ってきた?」

「私は未央って言います。入ってきた方法は分からないけど立ちくらみがしたと思ったら此処に居ました」


そう言うと男性は少し考えるように頷く。


「では次の質問だ。君はどういう立場のものだ?何故あの剣を持っている?」

「信じられるかは分からないけど勇者です。今は前勇者なので賢者です。あの剣って多分メッドですよね?それなら変な目から貰いました」

「……なるほど、理解した。では最後の質問だ。君は私の敵か味方か?」


理解出来たんだ。私はまだ理解出来てないのに。


「貴方が誰か分からないので何とも言えません。貴方の行い次第でしょうか。仮にも元とはいえ私は勇者なので悪事に手を染めるつもりはありません。勇者じゃなくてもやるつもりはありませんけど」

「……理解した。私はグルムスという。魔王ウラノリア様の臣下であり現在はスイ様にお仕えするものだ。君はイルミア帝国の帝都イルミアに居る。ここは私の屋敷だ。ここで暫く過ごすと良い」


そう言うだけ言ってその男性は私の手足を縛るロープを解くとさりげなく治癒魔法を掛けて跡を治す。


「あの……そんな簡単に信じて良いんですか?嘘を吐いた可能性もあるんじゃ?」

「私がそんなヘマをするものか。君が嘘を吐いていないのは分かったし此処に送り込まれた理由も漠然とではあるが分かった。ならばそれ以上の詮索など無意味だ」


そう言い切って男性はさっさと部屋から出ていこうとする。私はそれを咄嗟に呼び止めた。


「どうした?腹でも減ったならすぐに持って来させるが」

「いえそうじゃなく、あっ、食事は貰いはします。じゃなくてスイ様って誰ですか?」

「ウラノリア様とウルドゥア様のご息女だ。それだけか?」

「そのスイ様っていつ生まれましたか?」

「おかしな事を聞くな?聞いているのではないのか?ふむ、まあ隠すようなことでもないか。そうだな。一番最近の勇者召喚と大して変わらなかったと思うが。それがどうした?」

「勇者召喚……ならやっぱりあの召喚は指示されたからなんだ……」


そう私が呟くとグルムスと名乗った男性が近寄る。


「その話もう少し詳しく聞かせて貰おうか」

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