第124話 過去を浮かべて
大地を砕く一撃が辺りに轟音を響かせる。砕けた大地が散弾のようにして降り注ぐが最低限だけ弾くと突き進む。振り下ろした腕を引き戻そうとする魔族の懐に入ると握った拳から内部へと衝撃を浸透させる。その一撃で素因に罅でも入ったのかゆっくりと倒れ臥すその首目掛けて剣を一閃。更に素因があると思われる心臓に一突き入れる。完全に動かなくなったのを確認して周りを見渡す。
死者はかなり多いが同時にこちらも相当数の魔族を狩っている。死者の数はこちらの方が多いが相手は種自体に数が少ない。痛み分けという結果に終わった形だろう。それもやはりあの子のおかげだ。今代の勇者、拓也。彼の立てた作戦が上手く嵌ったが故の痛み分けだ。むしろ作戦が上手く嵌ったにも関わらず痛み分けに終わらせてくる魔族の強大さを改めて感じた。
「ふぅ、やっぱり強いかぁ。まあこれでも雑兵も雑兵。この程度は楽に捌けるようにならないとね」
拓也はそんな事を言って生き残った魔族へと向かう。その魔族は四肢を失っている為動けないのだ。
「ぐぅ、今代の勇者よ!今回は負けたが次は必ず我等が勝つだろう!今は精々……!っ!!」
「えっ?次も僕が勝つに決まってるでしょ?下らない事言わなくていいよ。死ぬんだしどうせなら無様に死ね?ん?ていうか死んだ?」
負け惜しみを言おうとした魔族の顔にアーティファクトの剣を突き刺す拓也。一瞬止めようとしたがあのまま喋らせても兵の士気が落ちる可能性もある。未然に防いだだけでも良かったのかもしれない。それでもたった十三年しか生きていない男の子にこんな事をさせてしまっている事は一生忘れてはいけないだろう。私達の不甲斐無さが彼を呼び出す結果になったのだから。
私の名前は
私はこの世界アルーシアに来る前、つまり地球にいた頃は壮絶ないじめに遭っていた。いやあれは最早いじめではなくて殺意に溢れた攻撃だった。理由は知らないが恐らく単に気に食わなかっただけなのではないだろうか。だって私いじめてきた相手と話した事も無ければ接点自体が殆ど無かったから。
自分で言うのも何だが私の顔とか色々な要素を見たら美人だと思う。綺麗系じゃなくて可愛い系なのがちょっと不満だけど。高校に入学して一ヶ月頃からいじめは始まった。ちなみに私その時まで学校内で話した事があるのは教師と中学からのクラスメイトのみで後は殆ど挨拶止まりだ。だからいじめられる理由があるとするならばクラスメイトから言われていた私の事気になってる男の子が何人か居るよという言葉。むしろそれ以外思い付かない。
靴を隠す、教科書を破る、黒板に誹謗中傷を書く等から果てには呼び出して殴る、蹴るの暴行に強姦させようともした。まあ運良く教師が通りがかったから未遂に終わったけど。その時にいじめられているということは伝えた。それで終わったら良かったんだけど更にいじめは酷くなった。止まるどころか加速した。
廊下を歩いていていきなり腹を殴られた、二階から鞄を落としてぶつけてきた、階段から突き落とされた。どれも腹の立つ事に誰も見ておらずしかも私以外には良い人間のふりしていたから私が訴えても嘘吐き呼ばわりで終わった。教師は何とか助けようと動いてくれていたのは知っている。しかしそれより狡猾だったというだけだ。
そして私はついにキレた。まあキレたからといって出来る事なんて殆ど無い。無いからこそ私は私が出来る最大限の嫌がらせをした。その頃母親が死んだのも原因の一つだろう。だってもう自制する必要がない。私が犯罪を犯したとしても誰にも迷惑が掛からない。親戚に掛かるかもしれないけど会ったこともない親戚に対してそんなことは思わない。
心が病んだ風を装ってノートにいじめられた内容を書き連ねた。突発的な行動に見せかける為普段通りのように見せた。いじめられた時にあいつの目にカッターを突き刺してやった。一緒に居た女の腕を二の腕から指先まで思い切り切った。体当たりして階段の一番高いところから落とした。ライターで制服に火を付けてあげた。ついでに財布とかにも火を付けた。化粧品を口の中に突っ込んだ。散々ボコボコにした後私は屋上に走った。
スッキリした、スッキリした!これで思い残すことはない。気持ちが晴れ渡った後空を見た。凄く綺麗な青だった。雲一つない快晴。まるで私を祝福しているかのようではないか。曇り一つない未来を指しているかのようで私は笑った。そしてフェンスを乗り越えた時に後ろでいつも親密に接してくれた先生が居た。
やめるんだ!って言ってくれて凄く嬉しかった。本気で心配してくれているんだと分かって涙ぐんだ。だから私はその先生に、好きになっていたその先生に笑顔を浮かべた。さようなら、好きでした。そう言って飛び降りた私を見て先生は私の名前を叫んだ。ずっと苗字呼びだったのに今更名前呼びするなんて狡い。そんなことを思いながら鋭い衝撃が頭を揺さぶり私の意識は途絶えた。
次に目覚めたのはふかふかのベッドの上だった。頭には包帯が巻かれていて生き残ったのだと分かった。病院では無いことはすぐに分かったけどまさか異世界だとは思わなかった。ついでに私が勇者とか何の冗談かと思った。
流石異世界。なんか大体の人が美人さんだ。いやあくまで城にいる人がだが。美男美女のみが勤められる仕事なのだろうか。なら私は勤められないだろう。基準が凄く高そうだし。
勇者としての活動は基本的に魔族を追い返す事だ。むしろそれ以外の役割は求められていない。下手に政治なんかに関わらせても碌な事にはならないだろうから正しい判断だと思う。動く事で悪化する事もあるって事だね。政治についてあまり理解していない私に関われと言われても断るけど。
私の前の勇者を見せてもらった。全く成長してなくて化け物かと言ってしまった。何年成長してないのさおじさん。おじさん呼びしたらガチ泣きされた。だって元の世界でも私十七、おじさん二十八だよ?やっぱりおじさんじゃん。
魔族との戦争が始まった。戦争という名の小競り合いに近いらしいが。とは言ってもそこで戦う私からしたらやはり戦争だ。小競り合いとか思えない。一歩間違えれば死ぬ世界。いや一歩どころか半歩の違いで死ぬ。強大すぎる敵に心が折れそうになる。これより更に強い敵がラスボスでこれが雑兵とか信じられない。ラスボスのレベルが万どころか億を超えてて雑兵が五〜六百レベル見たいな?やばい、クリア出来る気しない。むしろ生き残ってる事実を褒め称えたい。
そんな力関係なのに人族?だっけ。人間で良いじゃんってなるんだけど考えてみたら人の
どうやら王様はラスボス……名前忘れた。それに反発する魔族の勢力とコンタクトを取っているらしい。なのに攻められているのはそれがラスボスの能力だからだ。詳しくは分からないけど命令に抵抗出来ないらしい。何それチート?まあ魔族にしか効かないらしいけど充分過ぎるほどチートだと思います。
まあそんな中でも魔族達が出した結論としてラスボスに同調する魔族を差し出して首を切らせてるっていうのが現状。実際に首を切るだけじゃ死なないから心臓を突かせてる?どっちでも良いか。
最初は大変だった。殺すのに慣れるとかありえないとか思ってたけど今は慣れた。というか慣れないと死ぬ。死にたくないから慣れた。そんな感じです。
まあそんな事ばかりしていたら王様が遂にやりやがった。私の後に勇者を召喚した。確かにこの子も死にかけていたのだからそういう意味では命の恩人である。けれどこんな残酷すぎる世界で殺されかけた私より小さい子を戦わせるなんて信じられない。それに召喚しないって言っていたのにどうしていきなりしたんだろうか。魔族の男の人と直前に話していたそうだからそれが原因だろうか。訊いても教えてはくれないだろうが。
まあ呼び出された子は色々と規格外だったけれども。勇者ってこんな邪悪な笑みを浮かべる存在だったっけ?勇者怖い。あっ、私も元勇者だったわ。私も怖かったのだろうか。ちょっとショック。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます