第122話 投げられて掴まれてどーん?
ゴォォと凄まじい轟音と身体に掛かる強烈な力に思わず目を瞑りそうになる。しかし、目を開けなければいけない。というか目を開けていないとちゃんと着地出来ない。そう私は今何故か凄い高高度からの自由落下中なのだ!いや何でこうなったの!?
時は少し遡りエル達と一緒に城塞都市に向かおうと私と女性冒険者達の合計六人はシェティスに乗って男性陣はイルナによってヘイ!タクシー!みたいな感じで飛んできた巨大な鷲、トルケスに乗って移動することになった。
私はその最中ひたすらにもふもふについて布教してみた。シェティスの羽毛の素晴らしさやイルナの柔らかいふわふわとした毛などを実地体験させることで見事布教に成功させてみた。ふっ、これでこの女の人達はモフラー初心者にジョブチェンジするかもしれない。いや実際されても困るけども。
まあそんな下らない話をしながら城塞都市に到着した。そう、そこそこ普通に何事も無く到着したのだ。ただその後の展開が理解出来ないだけでこの時はまだ普通だったのだ。
私達が到着すると城塞都市の至る所から完全武装した冒険者と兵士がぞろぞろと出て来て私達を囲む。まあこれは想定出来ていたのでエルが武器を収めるように言い始める。階級が高そうな兵士によって騒ぎが収まる。私が攫われる。はっ?
余りに理解出来ない現象に一瞬白昼夢でも見ているのかと本気で思った。突如として背中を掴まれたと思った瞬間凄まじい迄の力によって引っ張られた。それにいち早く気付いたイルナが吠えながら追い掛けてくる。一瞬遅れてトルケス、シェティスが追い掛ける。
「……っ!!」
力が強過ぎて抵抗出来ない。何か魔力の様なものが私の身体を覆っていて魔法が完全に抑えられている。これはイルナに教えてもらった竜気?身体の中の魔力を錬成して変質させ自己の強化をするものだ。けれどこれは人族は無意識にしか使えず亜人族にも近接戦が得意な種族が少数だけ意識して使える程度のものだった筈。まさか魔族?
けれど振り返って見ても姿が確認出来ない。ステルス能力でも使っているのだろうか。けど私だってやられっぱなしでいてやらないんだから!
自分の身体を覆う竜気に干渉する。力が強過ぎる上密度が濃過ぎて干渉が出来ない。なら自分の身体の中の魔力を錬成して竜気に変える。急加速と急減速を混ぜられたせいで制御が乱れて解ける。手や足を振り回して居そうな所に殴り掛かる。何か当たった感じはするけど無傷の様。万策尽きた。
いやだって仕方ないじゃん!?私これくらいしか出来ないんだよ!魔法も力も試した竜気も乱されたとなったら何をしろと!完全にこの人?私より圧倒的に強い人?だよ!抵抗出来ないよ!
私が一応竜気を試そうとすると唯一抵抗らしきものはするのでそれだけはしておくけどもう万策尽きたのでそうやって嫌がらせしつつも力に任せるように身体から若干脱力する。後はイルナ任せたー。私はやれることはしたよ?
しかしこの人?やばいな。イルナから逃げているし飛んでくる極悪な魔法も瞬時に
私はゆっくり振り返り私の背中を掴むものに触れる。ごつごつとした鱗の感触に私は完全に脱力した。脱力したのがいけなかったのかなぁ。何だか凄い力で上空に投げられた。ってええぇぇぇっっ!?
その瞬間に下から轟音が鳴る。ちらっと見えた下は地面が消滅して……イルナ怖っ!?あれ私投げられてなかったら巻き添えで死んでない!?意識して空中で身体の姿勢を保持して下を見るとイルナの爪撃が地面に深い傷を付け吐き出す白い炎が地面を溶解させる。そこからの尻尾による叩き付けは地面が浮き上がるほどの衝撃を与える。
流れるような連撃をしても当たっていないのか当たっていても無傷なのかイルナが更に力を込めた瞬間頭から地面に落とされる。上空過ぎるし未だ落下してないから何がイルナを叩き付けたのかは分からないけど私の予想が正しければイルナでは敵わないだろう。
まあ何でかは分からないけどあれは恐らく三神の一人亜人族の神ドルグレイかそれに類する存在だ。力を抑えられているらしいイルナでは無理だ。それと同時にトルケスやシェティスも論外だろう。
イルナは即座に顔を抜くとその勢いのまま地面ごと持ち上げる。うーん、あの辺りの土地って壊しても大丈夫なんだろうか。比較的城塞都市に近い平原だったものなのだけども。あっ、今はドロドロの溶岩地帯?マグマ地帯かな?みたいになってます。あの炎やばすぎるんだよ!
さて、そろそろ自由落下が始まった。どうしよう?私飛べないのだけど。シェティス達はあまりの力の奔流に近付くことすら出来ないようだ。落ちたらどうなるんだろう?魔族は魔力生命体だと聞いたけどやっぱり落ちたら痛いよね?死ぬことがないとしてもあまり体験したくはない。そう悩んでいると突然落下が止まった。イルナが地面に伏せの状態で倒れてる。噓ぉ!?あの一瞬に叩き伏せたの!?ということは私の身体を支えているのは?ちらっと見ると鱗の手、というか爬虫類みたいな?
「ドルグレイ?」
「少し惜しい。これは魔力で作った身体だから本体ではない。今よりお前と竜王の娘を回収する」
「イルナは?」
「駄目だ。今も見ただろう?あいつは俺を尊敬してるし態度でも表しはするが本質は魔物だ。出会えば殺し合いになる。あいつは来たいだろうが許可出来ん。シェティスやトルケスも同様だな。故にお前と竜王の娘だけだ」
その言葉に頷くとイルナに向かって声をあげる。
「ということだから行ってくるねイルナ!心配しないで!ちゃんと皆と仲良くするんだよ!」
その言葉が聞こえたかは分からないがさっきまでの唸り声は途切れたので大丈夫だろう。いつの間にか竜王の子も回収されてるし頷くとドルグレイの手に少し力が入ったと感じた瞬間視界が消えた。
すぐに視界が回復する。目を開けると景色が切り替わっていた。何処かから水の音が聞こえる。水源が近くにあるのだろうか。
「目を覚ましたか?」
目の前には身体を横たえた巨大な龍。この世界でただ一体のみ唯一許されたその姿。神秘的で厳かなその姿は憔悴しているように見えなくもない。やはりイルナと多少とはいえ戦ったから疲れているのかもしれない。
「うん。此処は天の大陸?」
「そうだ。此処は私達が最初に居た地であり今は竜族達を保護する地となっている」
「保護?竜族は亜人族の中でも最強種だって聞いたよ?」
「その通りだ。それが故にかつての大戦、そして千年前の反乱、それによってかなりの数を減らした。なまじ好戦的な種族故に余計にな」
数が少ないと言われたが少し感知しようとしただけでそこそこ数が居るように感じる。まあ神視点で言えば恐らくこれでも少ないのだろう。もしかしたらスイとヴェルデニアの戦いに参戦させようとしているのかもしれない。それならこれでも確かに少なく感じるだろう。種族というのはある一定の数を割ると急激に減少する……って何かで見た感じがする。知らないけど。
まあそんなことはどうでも良い。竜族が最悪滅ぼうと亜人族や人族、魔族も全滅したとしてもどうでも良い。スイが居ればそれだけで良い。あっ、拓也も居るなら拓也も追加かな?後はいいや。
「それで?どうして私を連れてきたのドルグレイ。竜王が欲しいだけならあの子だけで良かったんじゃないの?」
「まあそうだな。だがお前には会っておきたかった。ついでに後からスイも呼ぶが」
「私に?あとスイを呼ぶの?ならちょっと着替えないと!」
汚い格好で会いたくないもんね。あの街のせいで血とか埃とかでそれなりに汚れちゃってるし綺麗にしたい。
「そうだ。お前は何だ?俺はお前を知らない。呼んだ記憶も無いし誰かが呼んでるのも見ていない。一体誰に呼ばれた?後まだスイは呼ばないから着替えなくて良い」
「そんなこと言われても知る訳ないじゃん。私はスイに会いに来ただけだもん。後着替えは普通にさせてよ。それなりに気になるんだよ」
一度気になるとむずむずする。血とかは特に洗いたい。あの子吸血鬼らしいからすぐ気付きそうなんだもん。あぁ、早く会いたいなぁ。スイ綺麗にしておくから早く会いに来てね。
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