第121話 滅びた街は後にして布教することにしよう。うん、街はどうでも良いんだよ?
この街ハジットについて少し話を聞いた。今では交通の要所として大きくなっていたが実は全く国からの支援を受けていなかった。元々交通の要所として栄えていたのは城塞都市エグンと呼ばれる街だけだった。そこはかなりルールに厳格であり犯罪者等は生活しづらい環境だった。いや犯罪者が生活しやすくなると色々と終わりだろうけど少なくともそこでの犯罪はやれないのが常識だった。
それによって爪弾きにされていった犯罪者やそれに類する行為をしていた者がいつしか城塞都市を攻撃するため寄り集まり出来ていったのがハジットの街の原型である村である。しかしここで予想外の事が起きた。集まってくるのは悪人のみ。何時の間にかお互いがお互いを牽制し監視し合う謎の関係が生まれた。
城塞都市を攻撃しようと集まってきた筈なのに何故か味方を警戒しなければならないという意味不明の関係が出来たのだ。しかもその間にも城塞都市以外の街からも噂を聞いて集まって来た悪人達によって徐々に規模が大きくなってくる。集まってくるのは役人や商人、職人等。しっかり働けば普通に過ごせた筈なのに犯罪を犯した者達だ。そこそこ大きくなってくると自分達で外壁を作り区画整理までしていく。
そうして年々と拡大し続けた結果街と呼べるレベルまで成長したハジット。ここに来て漸くイルミア帝国が動いた。というよりその前から状況は理解していたがイルミア帝国の軍に敵うわけではないので放置していたのだ。しかし流石に規模が大きくなった結果大規模な盗賊になられても面倒だと動いた。
とは言っても軍を差し向けたわけではない。外交官が複数人と少数の護衛を連れて国に帰属するよう言ったのだ。つまり非公認の街から国公認の街へと進化したのだ。まあその狙いは税だけなのだが。その証拠に本来その街の余剰金から数割の税が国に納められるのだがハジットの街だけ固定税なのだ。これは稼ぐ手段があまり無い事を理解しているが故にである。あまり稼げずにしょぼい税を貰うより最初から固定させた方が良いと思われたのだ。
貴族を派遣したイルミア帝国だが派遣した貴族は腐敗した貴族である。実質左遷である。イルミアにとってゴミ箱の様な扱いがこの街ハジットなのだ。交通の要所になったのは想定外だったようだがその辺りも含めて正直どうでも良いのだろう。何故なら国には敵わないと速攻で恭順を示した街なのだから。ちなみに税の払い方も城塞都市に持って行き一緒に持って行ってもらうらしい。いや最初の理念?はどこ行ったと言いたい。
そして今回来たエル達は城塞都市側の人で何時も同じ日にぴったり同じ金額を持ってやって来るハジットの人がやって来ないので不審に思いやって来たのだと言う。まあ当然来ないだろう。何せ街が死んでいるのだから。というよりこうやって税の徴収に来ない限り誰にも気付かれていなかった辺りにハジットの街が嫌われていた事が良く分かる。
「エルさんは城塞都市を治める貴族なんだね。確かに何か……うん……気品みたいな何かがある感じがしなくもないかな?」
「それ実際は一切感じてないという事じゃないのか?」
いやだって頭にシェティスが乗ってるとそう見えないんだもん。敬語じゃないと余計にラフな感じが出てただの格好いい男の人だから。まあそれはそれで私の好みです。ありがとうございます。
「ん?というかそれならエルさんってかなり若い方になるの?貴族のしかも当主なんでしょ?」
「そうだな。若いとは思う。先代の父が大暴走に巻き込まれて亡くなったからな。もう六年も前のことだが当時私は十六だったからな。周りからも反対されたが押し通してみた」
十六歳で貴族の当主って結構な重責の筈だ。素直に凄いと思う。
「まあそのせいで当時付き合っていた女性とは破談する事になった。元より家柄だけで付き合っていただけなのでそれ程惜しくは無かったがな」
!?
「エルさんってじゃあ今は付き合っている人とかは居るの?」
六年前の事だから可能性は低いけどちょっとだけ期待してしまう。いやだって本当に好みなんだよ!
「ん?いや今は居ないな。家臣達からは早く妻を娶れと煩いがそもそも相手も居ないのに娶れるわけないのにな」
その言葉に思わず小さくガッツポーズをする。いや失礼かもしれないけど抑えられなかったんだもん。格好いいのに皆目がないのかなぁ?それとも貴族で大変そうだから避けてるのかも?聞いてる限りじゃ結構辛そうだし奥さんになったらしんどそうだもんね。あぁ、でも貴族だから一般女性じゃ近寄るのも難しいのか。そして貴族女性だと余計に避ける。結果として独身男性なんだ。
「まあ私に娶られようなどという物好きな女性など居ないだろうがな。家にはまともに居らんし仕事柄どうしても女性と共に行動することも多い。嫉妬されるのも面倒だし何より女性に寂しい想いはさせたくないしな」
「ふぅん。そっか。まぁ私は気にしないけど結構そういうの気にする人も居るもんね。浮気とかする訳じゃないなら気にする必要なさそうだけどねー」
うん?何か変なこと言ったかな?皆がこっちを見てる?何で?
「あー、その今のはアプローチと思った方が良いのか?」
「アプローチ……?あっ!」
うわっ!今のだと私は気にしないよ?っていうアプローチだ!そんなつもりじゃなかったし別にそうなっても良いといえば良いけど意識せず言ってそれを指摘されるとすっごい恥ずかしい!!
「えっと……そんなつもりじゃなかったけどそうなっても構わないというか別に嫌ではないけど恥ずかしいというか何というか?」
私今めっちゃしどろもどろに話してる。何が言いたいのかさっぱり分からないけど混乱してて何を話してるか良く分からない!!
「そ、そうか。もし君が大きくなっても気持ちが変わらなければ検討はしよう」
そんな真面目な顔で言わないで!めっちゃ恥ずかしいんだから!
『はぁ、イチャイチャしてないでとりあえず城塞都市に向かうぞ。此処に居ても何も出来まい。シェティス大きくなれ』
『大きくなるのは構わないですけどこの数は流石に乗せられないですよぉ?』
『いやもう一体見付かったから大丈夫だ。来い!トルケス!』
イルナが吠えた瞬間天空より途轍もない速度で何かが降りてくる。それは地面に当たる瞬間に急激に減速するとそこに着地する。鷲のような姿だが巨大、優に十メートルを超える大きさを誇る。
『久しぶりだなイルナよ!このような場でどうした!』
『騒ぐな、囀るな。此奴らを運べ。その後は飛んで行って構わん』
『何だ、つれんな?まあ構わんが。では乗ると良い!我輩が運んでやろう!』
そう叫ぶとトルケスが今ですら大きいのに更に大きくなっていく。目測で二十メートルを超した辺りから考えるのは放棄した。
「イルナこの人?っていうか鳥っていうか鷲?は誰?」
『凶獣だ。ラグランドイーグルのトルケス。我よりかは弱いから安心せよ』
『いやイルナより強いとなると海と空の二匹か三神しかあり得んではないか』
海と空、イルナと同じ三神によりその強さを封印された凶獣。まだイルナと同じのが二匹も居ると考えると割と本気で良く世界保ってるなと思う。ぶっちゃけまだ滅びてないのって三匹が理性を持って接してくれてるからだよね。怒らせないように気を付けよう。
とりあえず私はシェティスに乗せてもらおうっと。だってあのトルケスって凄い毛がゴワゴワしてそうだもん。痛いのは嫌だよ。ほら冒険者さん達凄い嫌そうだもん。
とりあえずもふもふは正義ってことで女性の冒険者さん達はこっちに乗るように行ってこよう。そしてもふもふの素晴らしさを布教してみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます