第117話 皆に知られる凶獣って普通討伐対象じゃないのかなぁ?でも知性があるって分かってるから?みたいな感じの長いタイトルらしいよ?



「んー、終わったかな?」


街中を歩き回っては焼いて行ったがそろそろ終わりかもしれない。どうやら此処の貴族が引き金を引いたのだろう。中央付近にやって来るとより濃い魔力が感じられたので向かうと崩れ去った屋敷の中に不思議な物があった。


「えっと、これ何だったかなぁ?ファ、ファリ、ファラ?何ちゃらの雄牛だったと思うんだけど名前が思い出せないや。でもわざわざこんなのがあるって事は……とやっぱり入ってたか。スイに手を出すなんて……馬鹿な貴族さん」


馬鹿な貴族の事は放っておこう。それよりそろそろこの街に人がやってきたようだ。というか街が焼かれたの自体はかなり前の筈だが気付かれていなかったとかどれだけこの街が他の街の人に嫌われているのだろうか。ここに向かっている人達もちょっと嫌々来ているみたいだしここまで嫌われているといっそ清々しい。


「イルナ、人が入ってきちゃったけど気付かれずに出られる?」

『ふ、我に認識阻害等の魔法が使えると思うのか?』

「え、使えないの?」

『隠れる必要など何一つ無かったからな。使えん。むしろ受けて立つ側の凶獣が認識阻害等使えるわけないだろう。よってシェティスも無理だ』


それもそうなのだろうがちょっと納得しにくい。しかしならどう出ようか。シェティスに乗って出るのは論外だ。認識阻害が使えない以上モロバレだし攻撃されたら反撃で壊滅させてしまいそうだ。かといって街から普通に出ようにも彼等は街の入り口付近で呆然と立っている。暫くはあそこにいるだろうし万が一を考えると一部は移動はしないだろう。

数は二十人程度。男性が十五人程に女性が五人、奥に少しだけ他の馬車より綺麗な馬車があるから彼処に貴族かそれに類する者が居るのだろう。二十人のうち十五人程が護衛のようだ。意外にも女性達は固まって護衛している。男性十人はテキパキと動いているがそれとは別に動いているので恐らく二〜三パーティの冒険者達なのだろう。残りの男性達は未だ呆然としている。服装はピシッとしていて税務官か何かに見える。

少し綺麗な馬車が開いて中から男性が出てくる。決して華美ではないがそれさえも引き立てる材料になっていそうな格好いい男性だ。ぶっちゃけ言うと凄く好みです。でもきっとあんな格好いいんだから奧さんとかいるんだろうなぁ。


『どうしたルーレ?』

「何でもない」


少し落ち込んだがすぐに落ち着く。さてどうやってこの街から出ようか。逆側の門から出るのも構わないが至近距離に居る以上気付かれそうだ。別に気付かれても構わないといえば構わないのだが無駄に面倒事を増やす必要もない。というか面倒だ。

そんな風に考えていると格好いい男性が何か小さな物を出す。手の平サイズのようで何を持っているか分からない。それを覗いた後顔を上げるとじっと私の方を見つめてくる。咄嗟に隠れたので気付かれてはいないと思うが何故か視線はこちらに向いたままだ。そのまま護衛の人を呼ぶと護衛の人は三人程で固まってこちらに向かってって何で!?

まずい、このままじゃ気付かれるだろう。イルナはそれに気付くと私の背中をぐいっと前に押す。いや、押したら気付かれちゃうんだよ?何してるの?


『気付かれている。まさかこんな所で羅針盤を見ることになるとは分からなかったが既に無駄だ。出ろ』


羅針盤?どうやら何かを見付ける魔導具のようだがイルナの様子からしてアーティファクトかな?というかアーティファクトって本当いっぱい落ちてるね。結構持ってる人居るんだけど。ガリアさんやジールさんも持ってたよね?確かファナさんも持ってた筈。実はそこまで貴重じゃないのかな?

とりあえずイルナに押されるまま前に出る。三人の護衛は気付いたみたいで一瞬警戒して緩んでイルナを見て警戒するというちょっと忙しいことをしていた。


「イルナ様……ですよね?」


あの格好いい男性がイルナを見てそう呼ぶっていうか知ってるの?


『うむ。我がイルナと呼ばれる個体で合っている。貴様はベルンリヒの末裔か?いや違えば喰らってやるが』

「はい。英雄ベルンリヒ様の末裔で合っています。私はリヒャエルと言います。このような場所で会うことが出来るとは望外の喜びです」

『慣れぬ敬語などやめておけ。ベルンリヒの末裔が敬語が使えるとは思っていない。気にするな』

「しかし……いえ分かりまし…分かった。では普通に喋らせてもらおう」

「切り替え早っ!?」


思わず突っ込んじゃった。いやだって突っ込むでしょう?何か敬意を払ってそうだったのにしなくていいって言われたからってすぐにやめたら本当に敬意を払っているのか分からなくなるよ?


「この少女は?」

『ふむ。何と言ったものか。この者は我が名付けた存在だ。故に傷など付けようものならその首を噛み砕く、そういう存在か』

「いや怖いよ!?私何時からそんな存在なの!?初めて知ったんだけど!?」


思ってた以上に私は物騒な存在だったようだ。それを聞いた男性は若干引いている。そりゃそうだよね。私も引くもん。


「私はイルナに名付けられたのは本当だけどそこまで物騒じゃないから。至って普通の女の子だから。だから引かないで〜」


何でちょっと好みの男性に引かれなければならないのか軽くショックである。涙目にもなるというものだ。


「ふむ、分かった。してお二方は一体何故このような地に?それにこの町の惨状は一体?何か知っているのならば是非ともお教え願いたい」


その言葉に私が答える。イルナだと何かはっきり言っちゃいそうだから。


「分からない。私達が来た時には既に終わってた。上空からの急襲だったんだと思う。死体が全部上を見上げるような形だったから空を飛んでた何かにやられたんだと思う。イルナとは違って理性が無いタイプの凶獣とかじゃないかな?抵抗も許してないみたいだし多分だけどね」


私の説明に納得したのか頷く男性。やっぱり格好いいなぁ。スイもこの世界で格好良く感じた男の子とか居るのかな?居たら居たで拓也が騒ぎそうだな。そうなったら殴ってでも止めてあげよう。親友の恋を応援するためならその弟なんてビシビシ殴るんだよ。まあ何だかんだ言っても拓也も認めたらきっと懐くんだろうけど。あの子スイが認めた子なら懐くから。

そんな事を考えてたら少し離れて見回っていた護衛達が戻ってきたようだ。護衛達はイルナを見て一瞬固まってすぐ傍に私や男性が居るのを見ると安堵する。


「そういえばイルナって凶獣なのにあんまり怖がられないね?知性のある凶獣って知られてるの?」

『む?人族にどう伝わっているかまでは知らんがそこそこ人前には出ているからな。知っている者は他の凶獣に比べれば多いのではないか?まあ近くに住んでいたにもかかわらず我の事を知らん村人とかも居たがまあ他の場所ならばそれほどでもないという事だろう。此奴は我が以前助けた者の子孫のようだし代々伝わる事もあるだろうしな』

「なるほど、シェティスは?」

『あいつは人前には出ているが今の姿でだ。語り継がれていることはないだろう』


今の姿=雀みたいな姿か。確かに語り継がれはしないだろう。例え守られたことがあっても雀に命を救われたとか言い辛くて仕方ない。


「それでその少女の名前は何だ?」

「ん?あぁ、そういえば名乗ってなかったね。私はルーレだよ。宜しくね。えっと、リヒャエルさん?言いづらいしエルさんで良いかな?」

「構わん。宜しく頼むルーレ。それと言いたいことがあるのだが」


顔を少し赤くしたエルさんが言い辛そうに口ごもる。


「何?」

「いや簡単なことだ。ちょっとな?人を前にして格好いい云々は言わない方が言いと思うぞ?いや思っていることを素直に言っただけなんだろうが言われた方も恥ずかしいし言った方も恥ずかしいだろう?」


まさかの心中ダダ漏れだったようだ。


「わ、忘れてください」


顔を赤くしちゃった私はとりあえずイルナのお腹目掛けて抱き着いた。恥ずかしいよぉ。あっ、イルナのお腹は凄いもふもふでふわふわで幸せでした。

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