第115話 素因の自覚について
「あそこがホレスかぁ。何だか不思議な街だね。植物が至る所に生えてる」
ルーレは空からその景色を見ていた。ドーム状に絡まり合ってまるで結界のようになっていて中の景色がかなり見辛くなっている。それでも隙間から見えた景色は多種多様な植物によって彩られていた。
『ふむ。我も見たことが無かったがこれは凄いな。地下に植物を扱う素因とそれに乗じるように発動している魔導具によってこの景色が作り上げられているようだな』
イルナが言ったその言葉に私は反応する。
「素因ってことは誰かがこの辺りで亡くなってるってこと?」
『いや、植物を扱う素因持ちの魔族はこれまで一度たりとも存在し得た事はない。あれはただの野良の素因だな。この世には至る所に素因が落ちているがその大半は魔族になることはない。何かが足りないのだろうな』
「至る所にってそんないっぱい落ちてるの?」
私の質問にイルナが不思議そうな表情をする。
『はぁ?ノスタークにも何なら今飛んでいる空にも大量に飛んでいるだろうが。何を言ってるのだ?』
「へ?何処にそんなのが有るの?」
慌てて周りを見渡すが全く分からない。無駄に青い空を感じただけだ。
『……シェティス降りるぞ。人気の無いところを探せ』
イルナがそう言うとシェティスが頷く。十分程してから高度がゆっくり下がっていく。いやゆっくりに見えるだけで実際はかなりの速さだが。
「どうしたのイルナ?」
『ふむ。シェティス少しの間周りを警戒していろ。魔物が寄ってくると面倒だ』
その言葉にシェティスは大きな姿のまま威圧するかのように周りを睥睨する。それを見てからイルナは自らの身体の中に魔力で作り上げた手を沈ませる。
「ってそれ大丈夫なの!?」
『大丈夫だ。だが慎重な作業だから少し静かにしろ』
私が口を噤んでから少しするとイルナの身体から手が引き抜かれる。どうやら身体に傷は付いていないようで少し安心する。しかし一体何をしていたのだろうか?まるで何かを掴むように魔力の手は握られているが何もない。私からしたらいきなり手をぶっ刺して抜いただけというグロ注意な光景だったのだが。
「終わったよね?何か身体に不調でもあったの?一応回復魔法使おうか?」
『手を』
「手?握ったら良いの?」
『違う。私が持っているのが見えんのか?』
持って?何を持っているというのだろう?もしかして今地面に降り立っている前足に何か握りしめているのだろうか。
『おい。なぜ私の手を触る。そっちじゃない。魔力で作り上げた方に決まってるだろう』
だよね。でも凄い毛がふわもこで気持ち良かったです。肉球もプニプニしてて凄い幸せでした。今度じっくり触らせてもらうことにしよう。
「でも何も持ってないじゃん。何を見ろって言うの?見るなら肉球があるこっちの手を見たい」
『いや何を言ってるのだお前は。素因を持ってるだろう?《王》の素因が分からんか?』
やっとこの言葉で分かった。いや何となく最初から分かっていたのだが出来たら信じたくなかったというのが正しい。
「……見えない」
絞り出すように言ったその言葉が妙に響いた。そう私は恐らく素因が見えない。いやもしかしたら見えるようになるかもしれないが少なくとも今すぐに見えるということはないだろう。
『ふむ。そうか。ウラノリアの奴と同じ症状だな』
「へ?ウラノリアってスイのお父さんの?」
『そうだ。恐らくだがお前の素因は概念素因の中でもかなり異質な部類に入るのだろう。それも《王》という強大な素因すら霞むような力を持つ強大な素因だ。ウラノリアも《混沌》という強大な素因によって他の素因が一切見えなくなっていた。まあ奴は仲間に持って来てもらうことで吸収していたな。出力しか上がっていなかったが。お前も同様なのだろう。強大な素因を持つが故に他の素因を遠ざけてしまっている。ウラノリアと同じようにして集める事は出来るだろうが同じ結果になるだろう。無駄にはならんから見付けたらお前に与えよう』
私の素因が強大?しかも《王》とかいうあからさまに強そうなそれよりも?それは何というか……。
「信じられない」
『そうだろうな。我からしてもお前から感じる素因の力はそこまで感じない。自覚するまでは恐らく本来の力は出せんのだろう。つまりはお前がすべき事は強くなり自分の力を早く自覚することだな。でなくば素因もまともに吸収出来んからスイの役に立つどころか邪魔にしかならんぞ』
はっきりと言われて凹む。しかし確かにこのままではまともに戦えないということも良く分かる。ゲームとかで良くある最強クラスの技を覚えるけどそれまでは仲間内最弱かつレベル上げないと話にならないキャラみたいな扱いなのだろう。私ならすぐに放っちゃうタイプのキャラだ。レベル上げとか面倒なんだよね。大体そういうゲームってそのキャラ使わなくてもラスボスが倒せるようにされてるから無理に使う必要ないし。
でもそれが私なら話は変わる。だって強くならなきゃ出てきた魔物にパクっで終わっちゃう。スイの役に立とうと思ったら更にそこらの魔物より圧倒的に強い魔族と戦わなきゃいけなくなる。面倒だからと放れないのだ。いや放ったら私がいつか死ぬだけなので放れる訳がないのだが。
「レベル上げ……」
『れべ?何の話かは分からんが強くなるだけならまだ簡単だ。適当な素因をお前に与えてやれば良い。出力が上がるだけでも魔法の威力が高くなるだろう』
「ん?そうだ。イルナ。私達魔族には属性素因っていうのがあるんだよね?」
『む?あるがそれがどうした?』
「持ってた方が良いのは分かるんだけどさ。どう変わるの?私属性素因持ってないけど割と高威力の魔法が使えるよね?」
『ふむ。確かに今の人族からしたらお前の魔法は高威力だが魔族同士であれば子供騙しどころか大陸に針で立ち向かおうとする程度には差があるぞ。当然今のお前が針で下位素因持ちの魔族が大陸だな』
「そんなに?そこまで差があるのにどうして人族ってまだ生きてるんだろう?」
『そんなもの魔族側が手を抜いているからに決まっているだろう。幹部連中は知らんが少なくとも魔軍の大半は倒されぬようにかつ倒さないようにかなり手加減しているのだろうな。難しい調整をよくやるものだ』
イルナの言葉が真実ならばウラノリアが亡くなってから千年近い期間を魔軍の者は調整しながら動き続けたということになる。途方も無い期間を終わりの見えない戦いに身を投じ続けるということがどれほど凄い事なのか。想像さえも容易に出来ない。
「それってやっぱり魔軍の人達は嫌々ヴェルデニアに従ってるってことだよね?」
『そうだな。しかし魔軍の全員とは言えん。故に慎重に動きながら敵対者を屠っているのだろうな。今の魔軍の長はかなりの賢人であるな。それでいて大胆だ。ヴェルデニアが魔軍を侮っているのも一因だな。そう動いたのかもしれんが』
「ふぅん。まあ良いや。今知っても意味は無さそうだしそれより私がどうやったら自分の素因を自覚するかだよね。私以外に自覚してない魔族の人がいるなら教えてもらいたいなぁ」
『まあ良いや……か。流石あのスイの友人なだけある。素因の自覚は時が経つか切っ掛けが必要だ。それが無ければ決して自覚は出来ぬ。何なら我が切っ掛けを作ってやっても構わぬがな』
「……その切っ掛けってもしかして下手したら死ぬとかそんな感じじゃないよね?」
『いや違うが人によっては死ぬより辛いらしい。まあお前ならそこまではいかぬであろう。死の危険はないから落ち着ける場所に着いたらやるか?』
「ん〜、死なないならやってみたいかな。自覚は出来るだけ早くしたいし。まあそれよりもこの子を早く天の大陸に連れて行かないとね」
そう言ったルーレの目はシェティスの背中に付けられた鞄の中に潜って幸せそうに眠っている小さな竜を見ていた。
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