第114話 移動中に色々と



さて天の大陸に移動することは決定した。どうやら付いていくのは私とイルナ、シェティスのみでローレアさんも付いてはいけないらしい。まあ例え付いて行けたとしても立場上行けないみたいだが。そしてまあ何やかんやあって今実は空を飛んでます。何かイルナが言うには早く戻してあげないと天の大陸が落ちる可能性があるのだそうだ。

竜王というのは竜族の中で最も強くそして天の大陸を支えるだけの魔力を持つものがなるものらしい。ちなみに天の大陸の大きさは大陸というだけあってかなり大きいようです。この世界のパワーのインフレが凄まじいですね。


『天の大陸まで到着するまで何事も無ければ一週間といった所だな。それまでドルグレイ様が支えていてくださるであろう』

「ドルグレイ様って亜人族の神…だっけ?」

『そうだ。そのお姿は竜族に似ているが違う。もっと荘厳で美しく気高いお姿だ』

「随分持ち上げるんだね?どうして?」

『ん?当然であろう?この世に獣の概念を生み出してくれたのはあのお方だ。ならば魔物の大半にとってはあのお方は父である。あのお方を敬わずに誰を敬うというのだ?』


そっか。亜人族の姿は見た目獣耳や獣尻尾を生やした人にしか見えないけれど魔族や魔物からしたらそれだけで獣の概念として成立するのか。普通の獣と呼べる動物が居ないから盲点だった。ちなみにこの世界には獣はいないらしい。どう見てもただの熊にしか見えなくてもキラーベアとかワイルドベアと言った魔物に分類されるというのが正しい。

魔物の定義は魔力を持つ獣であるか否かなんだけど魔力を持たない獣がそもそも存在しない。この世界に満ちる魔力というのは生物にとって害にしかならないのだそうだ。それに対して耐性を持とうとした結果魔力を産まれたその時から持つ事で無力化したらしい。だから生まれる場所によっては魔力量を増やしたりも出来るらしいがそういう所は大抵強力な魔物が居るので理論上可能だというだけだ。

なら異世界召喚された勇者とかすぐに死ぬんじゃって思うけど召喚の際に使われた魔力の大部分が召喚された勇者に注がれるようで今のところ問題は見付かって居ない。それにイルナがいうには呼ばれる勇者は死にかけらしい。これは瀕死状態でなければ魔力を弾いてしまう可能性があるからだそうだ。というかそうでなければ呼んでもすぐに死んでしまう。まあ死にかけの人を助けていると考えればそこまで忌避感も持ち辛い。普通なら拉致するなんて!みたいに怒るんだろうけどその人瀕死だからなぁ。


「まあそっか。地球では普通に動物が居るからパッと思い浮かばなかった」

『そうか。魔力を持たぬ獣か。少し見てみたい気もするな』

「多分味のことを気にしてるんだろうけどこっちの世界の食べ物の方が明らかに美味しいよ」


イルナって意外にグルメだから味のことを気にしているのだろうと当たりを付けたが当たっていたようだ。少し残念そうにそうかって俯いた。

魔力を持つと普通の獣も美味しくなるのかなぁ?この世界で食べた料理の大半は調味料をがっつり効かせる物ではなくて素材本来の味を楽しめるように必要最低限の調理だけされているものが多かった。そしてそういうものは物凄く美味しい。もし地球と行き帰り出来たりするなら調理した物を売るだけで大儲けできそうな位には美味しい。まあそんなことしたら地球の人達が欲を出しそうだし出来たとしてもやりはしないけれども。


「そういえばさ、イルナ不思議鉱物とか不思議植物とか暇だから教えてよ。前に言っていたことがあったでしょ?」

『む?分かった。ではそうだな……よし、植物から教えてやろう。シェティス少し高度を落とせ』


シェティスが頷いた気配がした。ちなみに今私の下に居るのが物凄く巨大化したシェティスです。どうやら元の姿がこれらしいのだけど雀サイズからビル六階建て位の巨大な鳥になった時は滅茶苦茶怖かった。

この状態だと何故かシェティスは喋れないらしい。念話だからいけるんじゃ?って思うけどどうやらこの姿はシェティスにはまだ負担が重いらしく念話まで意識が割けないのだそうだ。この姿が元だよね?後凄い大人しくなっている。本当にシェティスなの?って聞きたくなるくらいには大人しい。

大人しく高度を落としたシェティスの背中から眼下を見下ろす。イルナは下に生えている木を指して説明してくれたのだが……うん。説明されたものがどれもおっかなくて当分聞くのは良いかなって思った。


『あれは甘い香りを出して近付いた者を枝と根で挟んで殺す。そうして地面に埋めるとそれから栄養を摂取するのだ。素材としての価値は特に無い。ただの捻れた木材だな』

『あそこの草は外周部に触れるだけでは何も起きん。しかし中に入ると一斉に麻痺や誘眠する特殊な粉を吐き出して獲物を動けなくする。そうしてから外周部からめくれ上がってな。中の獲物に覆い被さるにようにして閉じ込めるのだ。当然囚われた獲物は死ぬまで動けずに栄養を貪られる。ほらあの辺りに球体があるだろう?』

『見よ。あそこに枯れた植物のようなものがあるだろう?あれは……む?魔物だな。ちょうど良い……見えたか?高速で剣のようになって飛んでいったのを。ああやって獲物を刺し貫いて養分にするのだ。枯れているように見えるのはただの偽装だな』


もう私一人で植物の近くに寄れないかもしれない……何でそんなにおっかないのが至る所にあるの?この三十分程度の間に私にトラウマを植え付けた植物達の事は忘れよう。私は二度と生きた植物の近くには寄らない。


『鉱物の方はどうする?実物が欲しいのなら幾つか採ってきてもいいが』

「いや、良いよ。持って来られても加工出来るわけじゃないしね」

『ん?錬成すればいけるだろう?』

「錬成?」

『……ノスタークで指導もしていたのに気付いていなかったのか?』

「えっ……あはは。ごめん。知らなかった。教えてくれる?」


私のお願いに呆れたように溜息を吐くイルナ。うん、ごめんね。ここで教わらなかったら私のことだから結局後回しにしてしまいそうだから必死に頼もう。


『分かった。まあ彼処で教えていたのは基礎だけだからな。最終的には教えることになっていたのだろうし構わぬ。では基礎から教えていくぞ』


シェティスの上で授業が始まった。これもある意味青空教室ってやつかな?雲めっちゃ近いけど。何ならちょっと高度を上げてもらったら触れるけど。

授業の内容は素人の私にもかなり分かりやすいものだった。イルナには教師の才能があるかもしれない。魔物の頂点に位置する凶獣からの授業とか誰が受けるのか知らないが。魔物かな?

錬成。物に作用する魔法技術の一種で神代の時代では武器が無くなった際の咄嗟の武器錬成で使われていたらしい。簡単に言うと物に魔力を馴染ませて形を変えたりその物が持つ効果を強化したり能力を追加したりと色んな事が出来るらしい。

ここで言う魔力を馴染ませるというのは纏わせるわけではないのが注意点だ。纏わせたらただの強化であって錬成は出来ない。この馴染ませるというのが案外難しく最初の難関らしい。らしいというのは私がすんなりやれてしまったからだ。馴染ませるというより水が浸透していく感じが近いかもしれない。要は言い方が少し悪いのだろう。

浸透させたらその魔力の形を変えていき内側から変形させる。この際に形が歪になるようであれば外側にも魔力で形を作りそこに沿わせれば良い。そして形を整えたら内側に魔力で魔法陣を書き加えていく。

魔法陣は円形というイメージがあるが魔法自体はイメージで幾らでも出来るので魔法陣もその意味があれば何でも構わないようだ。つまり文字だけでもいけるし何なら良く分からない図形を組み合わせたものでも構わない。魔法陣というが要はこれも特定条件下で発動する魔法と考えればいい。

これで基礎は終了だ。これに素材の能力をより発揮する魔法陣を書いたり複数の素材を組み合わせる時に素材同士の力を連携させたりで応用していくようだ。


「そういえばイルナ、ファンタジー物定番のミスリルやオリハルコン、ヒヒイロカネとかは無いの?」

『知らん。少なくとも我は聞いたことがない』


長く生きてるイルナが知らないのならば無いと見てもいいだろう。ミスリルの鎧とかオリハルコンの剣、ヒヒイロカネの盾とかちょっと期待したけど無いらしい。後どうやらドワーフとかも居ないようだ。ショックである。微妙に定番どころが居る様で居ない異世界である。

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