第113話 さあ行こう、ラピ〇タへ!



スイが亜人族の神ドルグレイによって天の大陸へと攫われるおよそ一月程前にノスタークではルーレの膝の上に現竜王という凄い肩書きを持つ小さな竜が座っていた。というより抱えられていた。

竜はニコニコ?笑っていて(顔が完全に竜なので笑っていても良く分からない)ルーレは死んだ目をしていた。


「あなたはだーれ?」

「えっと、ルーレだよ。竜王さん?」

「りゅうおー?それがあたしのなまえ?かわいくなーい」

「違うよ。それは貴女の肩書き。立ち位置っていうかうーんと、偉い……人?ってことだよ」


肩書きって言っても首を傾げたので噛み砕いて教えるルーレに対し多分ニコニコ顔で「そっかー」というこの竜王の娘は間違いなく分かっていないだろう。雰囲気からしてまずまともに聞いていない。多分暫くしたら偉いということだけ理解していることが分かるだろう。まあその程度の認識で今は構わないだろう。そもそも竜王が何をするのか知らないしこれ以上教えようがない。


「イルナ、この娘どうしたら良いの?」


ルーレは困った時のイルナ頼りをしてみた。というか言外に面倒ごとを持ち込んできたなら責任を取れと言っている。


『ふむ、とりあえず元の場所に戻してやればよかろう。まあ謀略で逃げてきたのならば死ぬかもしれんが別に我等にとっては関係あるまい。何かあるにせよ向かわねば何も分からんだろう。まあ放置しても良いとは思うがその辺りは好きにせよ。ルーレ進む者は自ら選ぶ道によって未来を切り開くからな』


つまり自分で決めろということだ。少し悩んだがこちらをじっと見つめるつぶらな瞳を見ていると悩みが晴れた。


「連れて行こう。その上で何が起きたのかを調べて解決する。イルナ、シェティス付いて来てくれる?」


私が尋ねるとイルナは小さくうむと頷きシェティスは聞いていなかったのでイルナが踏み潰していた。うん、まあシェティスは強制で良いか。


「おうちにかえるの?」

「うん。もし貴女を傷付けた人…?竜が居たらイルナが怒ってくれるから」


私がそう言うとイルナは苦笑する。仕方ないじゃん。まだ竜と戦えるだなんて言えるほど私は強くないよ。魔法とかも教えて貰ってるから逃げるだけならいけるかもしれないけど。


『あぁ、あとそこの男達を巻き込もうとしているみたいだが連れて行かんぞそいつらは』

「えっ、何で?」


丹戸達を指してそう言うイルナに問い掛ける。すると踏み潰されていたシェティスがくぐもった声で返答する。


『それは当然行き先が天の大陸だからなのですぅ。彼処に連れて行くとなったら相当な理由が無いと駄目なのですぅ。ただ巻き込んだだけなら連れて行くことは無いのですぅ。あとそろそろ息が辛くなってきたですぅ。助けて欲しいですぅ』


ですぅですぅ言いながら喋っているがイルナも別に本気で踏んでいるわけではないから無視をする。場所は天の大陸。この世界でただ一つ浮いた大陸。いやこの言い方では変な大陸という風に聞こえるか。変なのはその通りだが物理的に浮いているのだ。

高度は分からないが少なくとも人が辿り着ける高さではない。飛行機がこの世界にあったとしても容易に到達出来ないほどの高さと結界、辺りを飛び交う亜人族最強の種である竜族の面々、天の大陸の真下に広がる強力な重力場と竜族以外は辿り着かせる気がない場所だ。

つまり天の大陸に到達したいなら竜族に送ってもらうか何らかの強力な飛行手段を得ていなければ行く事は出来ないのだ。イルナは飛べるから良いのだろうが私には行けない。


「イルナ私を乗せて飛べる?」

『出来ないわけではないがそれならシェティスに乗った方が良いだろうな。こう見えてもこやつはそれなりに強い。今は小さくなっているから分かりにくいだろうがな』


シェティスの姿は小さくなっているのか。初めて知った。この雀サイズが通常だと思っていた。肩に乗った時の重さがまんま雀と変わらなかったからだ。質量保存の法則とかはこの世界に適用されないのだろう。というかそうじゃなければ指輪や魔法が全く意味が分からなくなる。流石異世界ということか。


「まあそういうことならシェティス私を乗せてくれる?」

『ふーんですぅ、助けてくれなかったルーレなんて知らないですぅ』


すっかり拗ねてしまっている。どうしようかなって思ってたらゆっくりイルナが近付いて流れ作業のようにそっとシェティスを咥えた。


『噛むぞ』

『もう軽く噛んでるですぅ!?分かったですぅ!?だからやめてほしいですよぉ!?』


何か見た目は可哀想だがイルナもシェティスも本気でやっていないし若干楽しそうでもあるから無視することにした。


「ということは俺達は付いて行かなくて良いんだな?」


丹戸が慎重に問い掛ける。それに対してイルナはシェティスを咥えたまま頷く。あっ、若干力が入ったからかシェティスが叫んでる。まあ血が出てるわけでもないし大丈夫だろう。そんなことを思ってたらシェティスが自力で抜け出してローレアさんの肩に乗っかる。しかしすぐに飛び立ちイルナの頭の上に乗った。今の動き何?


『何ですぅ?凄く気持ち悪くなったですよぉ?』


シェティス自身良く分かっていないようで首を傾げている。それに対してローレアさんがごめんなさいって謝りながら小さなネックレスを外した。そのネックレスからは少ないがかなり濃い魔力が漏れてきて私もつい離れてしまった。


「あら?ルーレちゃんどうしたの?」

「何だかそのネックレスが気持ち悪くて、いや見た目は好きなんですけど何だろう。近寄ったらお酒に酔ったみたいな感じになるっていうか?」


例としてお酒を出したけど勿論飲んだことはないよ?お酒入りのチョコとかは食べたことあるけどあれで酔ったことはない。一番近いのは車酔いだが車がこの世界に無いから二日酔いを例に出しただけである。


「そう?これは魔物避けなんだけどもしかしたらルーレちゃんの本質が魔物に近いのかもしれないわね」


本質という言い方をローレアさんはしているがそれがまだ分からない私の素因の事を指しているのは明白だ。馬鹿にしているようにも聞こえる発言だがローレアさんは真剣に言っていて私も自分の素因について考える。が、そもそもの前提条件として大して素因について知らない私が考えても意味は無いと思ったのですぐに考えるのをやめた。


「まあそれは良いとしてとりあえず天の大陸に向かうってことで良いかな?」


スイと会うのは少し難しくなるかもだけどあの子ならこれを放ってはおかないでしょう。だったら会う時に少しは功績みたいなのを作ってドヤ顔で会うのも良いかもね。

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