第107話 大暴走
オルディンの街に騎士団に護衛されながら再び入る。その時に気付いたのは出て行った時より明らかに活気付いていることだ。朝と昼という違いはあるがここまで差があるものだろうか。ジュダも不審に思ったらしく詰所の兵士に問い掛けている。
住人はそわそわしてるし冒険者らしい若者は少し緊張しているように感じる。商人達は何故か喜んでいるしどうしたというのだろうか。
話を聞き終えたのかジュダが戻ってきた。
「どうやら鬼哭の谷で大暴走が発生したようです。別に行動していた部隊が発見したそうです。群れの長は
「群れの長?大暴走ってバラバラじゃなかったっけ?」
「あぁ、他のならそうですが鬼谷の谷の魔物は殆ど同じ魔物で構成されているんです。出てくる理由も新天地を求めてでしょうから群れの中で最も強い個体が率いて移動してるんですよ。そしてそれが今回は将軍と呼ばれる段階の強さの個体ということです」
「へぇ、他にどんな個体が居るの?」
「一番弱いのは
「ふぅん、私も見るだけならいけるかな?」
「詰所の上からで良いなら可能ですよ。住人の何人かは詰所の上で見るでしょうし。始まるのは二時間ほど後です。あまり遅く行くと場所が取れなくなるのでご注意を」
そう言って笑うジュダ。スイは大型の魔物で美味しいと言えば思い浮かべたのはファンタジーの定番オークだ。あれなら変則的な豚肉で美味しいというのも分かる。まあそれなら武器防具に使えるというのが良く分からないが。皮でも剥いで盾にでも付けるのだろうか。割と気持ち悪い光景になると思うのだが。武器とかは何だろうか。骨とか牙とかだろうか。骨や牙の剣など切れ味無さそうで需要があるのか怪しいが。
うんうん悩んでいても仕方ないので騎士団の面々と離れるとその足で露店に向かった。ドゥレ達親子は一緒に付いてきた。腹が減っていたというのもあるだろうが一番は私から離れない為だろう。流石に街中で誘拐騒ぎとか乱闘が起こることは滅多に無いと思うがやはり不安ではあるのだろう。安全だと言われていた筈の街道で盗賊に襲われたのだから不安に思うのも当たり前かもしれない。
露店では目の前で肉を焼いて出す所で買った。外国の写真とかでもたまに見かける物に似ている。肉の塊を吊るしてそこから包丁で削ぎ落とすやつだ。名前が分からない。とりあえずお腹が減っていたのと親子の分も買おうとその肉の塊の半分程買っておいた。店主のおじさんがせっせと削ぎ落としてるのは何だか笑えた。おじさんは凄くしんどそうだったが。
他の露天からも果物や香ばしい匂いを放つ焼魚、串焼き各種に飲み物と大量に買っていく。途中で貴族の娘に勘違いされたけど敢えて否定せずににっこり笑うと何を思ったのか注文した量に色を付けて出してきたので慌てて否定しておいた。私はそれが好意ならまだしもタダで何かを貰うのはあまり好きではないのだ。
ちなみにドゥレ達親子は私が大量に買うから目を丸くしていた。まさかすぐに全部食うと思われているとは思わなかった。流石に食えないしそもそも私は少食である。指輪の中に入れておくに決まっている。そう説明したが何故か半信半疑だった。解せぬ。
そうこうしながら一時間ほど経っていたので詰所に向かっていく。兵士に言うとジュダが何か言っておいてくれたのかあっさり通してくれた。ジュダ達騎士団は迎撃のために外に居るようで会えなかった。後でお礼を言うことにしよう。
そうしてからおよそ四十分程経つと轟音と地響きが鳴り響いてくる。詰所の上から覗くと巨大な身体に鋼か何かで作り上げたような棍棒を持つ鬼が居た。それを見て兵士達が一気に顔を蒼褪めさせる。
「どうして……帝王が」
その言葉で理解出来た。もう一度見てみると一番奥に一際巨大な鬼が居た。そいつは他の鬼達と見た目は変わらない。強いて言うならば武器が棍棒ではなくて業物に見える大剣だということか。それ以外は殆ど同じである。しかし私はそれよりその横に居る一回り小さい鬼が気になった。帝王はそれを守るかのようにほんの少し前に居るのだ。
「あれは……まずいなあ」
私の呟きを聞いた兵士が訝しげに見てくるが私はあれだけは自分が倒さなければいけないと理解した。その小さな鬼は私を見ていたからだ。まだ遠い筈の距離でスイの視線に気付いて見返してきたのだ。
「仕方無いか。流石に街が壊されるのは許容しづらいな。この街は別に悪い街に見えないから。だから仕方ない。あぁ、でもすぐに街から出なきゃいけないかな。面倒」
私はそう言ってから息を吐く。そして詰所から飛び降りる。後ろで住人達が悲鳴を上げたが無視をする。着地するとすぐにその鬼達に向けて走り出す。右手にはグライスを握り締め左手には魔力を貯める。
「さぁ、鬼退治の時間といこうか!
地面が割れてそこから大量の岩塊が飛び出して周囲の鬼達に少ないないダメージを負わせる。それを見たスイは魔力を貯め一気に解放した。
「くたばれ!
大量の水が途轍もない熱量の炎に触れて一気に大爆発を起こす。周囲で動けなくなっていた鬼達は身体の一部を無くしながら吹き飛んでいく。殆ど全ての鬼達が先程の一撃で死ぬか瀕死の状態に陥ったようだ。
しかし小さな鬼とそれに付き従うように周りにいる上位種らしい鬼達は無傷だ。しかも先程死んだ鬼達も後から追加で増えていく。どうやらあれは未だ一部だったようだ。百は居たと思うのだが。
私は小さな鬼に向かって走っていく。すぐに進路上に上位種の鬼が来るがSランクと言うだけの魔物などは大して妨害にもならない。というか今確認しただけで帝王と呼ばれた個体が軽く十体近く居ている。ということはこれは本気で侵攻してきたということか。
帝王を始末しながら近付くと埒があかないと思ったのか鬼達が来なくなり小さな鬼がやってくる。その鬼はにやにや笑いながらゆっくり近付いて来る。近付く度に威圧感が辺りを支配していく。
「どうしてここに居るの。凶獣ラグランドオーガ、いいえ、ヒヒ」
『おお?俺様の名前を知っているとはお前は誰だ?』
「スイ、魔王ウラノリアと北の魔王ウルドゥアの娘」
『ほお?なるほど、あの男の娘か。理解したぞ。それで?俺様の侵攻を止めて鬼共を殺したのはどうしてだ?答え次第じゃあの男の娘だろうがぶっ殺すぞ?』
「その前にどうして侵攻してきたの?」
『ああ?質問に質問を返してくんなよ。まあ寛大な俺様は許してやる。侵攻した理由は簡単だ。そもそもあの街なんざ眼中にねぇよ。俺様の狙いはただ一つ、盗られたもんを取り返すことだ』
「盗られた?何を?」
『俺様の子供だ。盗られてからそう時間は経ってねぇ。まだ生きてる筈だ。わざわざ生きてる状態で盗ったんだ。すぐに殺すつもりはねぇだろう。だが人族ってのは魔物の剥製なんかも作りやがる。急がねぇと俺様の子供が死んじまうかもしれねぇ。そうなったら俺様は辺りの国全部ぶっ壊すために徘徊するからな?分かったら退けや。鬼共を殺したのには何も言わねぇからよ』
「子供……ヒヒ、その子供の特徴言ってくれたら私捜せるよ。だからこの街に来ないで。何なら私も手伝うから」
スイがそう言うとヒヒはギロっと見てから頭の中に何かのイメージを送ってくる。それを読み取ると小さな鬼の子供だ。角さえなければ見た目は普通の人族の子供にすら見える。スイはそのイメージを強く持つと薄く自分の魔力を広げていく。かなりの広範囲にスイの魔力が広がると途中で引っ掛かった。場所はオルディンの街の中だ。考えてみたら当たり前だ。誘拐されて日が経たないうちに飛び出してきたならば近くの街に寄るに決まっている。
『何処だ。答えろ娘』
「…オルディンの中に居る。私が必ず連れて来るから。だから待ってて」
『……俺様は待つのが苦手だ。一時間で戻って来い。じゃなきゃ街ごとぶっ壊す』
「分かった。すぐに連れてくる」
そう言うとスイはすぐに反転して街へと駆け戻る。この街を壊させない為に。
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