第101話 鑑定



「なるほど、これがクライオンから渡されたという魔導具。見た限りでは見知らぬ魔導具が複数あります。クライオン手製の魔導具と見ていいでしょう」


目の前でカイゼル髭を触りながらナイスミドルと言いたくなるおじさまが私が指輪から出した魔導具を見ながらそんなことを言う。

あの後アレイシア様が居なくなった瞬間レクト達は何も言わずに部屋に戻ってくると何事も無かったかのように話し掛けてきて意識の誘導の恐ろしさを改めて感じた。

もしかしたら獣国でされた意識誘導はアレイシア様がやったのかと思ったがそれならわざわざ目的などは聞かないだろう。ということはまた別の人物というわけだ。恐ろしい。

そしてレクトが家に居たいっそ感動を覚えそうなほど完璧に執事をしているカイゼル髭おじさまとはタイプの違う優しげなナイスミドルに鑑定が出来る人を呼んできてもらうと来たのがこのカイゼル髭おじさまだ。ちなみに執事さんの方は顎髭が綺麗に整えられているので顎髭執事さんだ。いやまあ名前を教えてもらってないからそう呼んでいるだけだが。


「エントグ、どのような効果か分かるかい?」


カイゼル髭おじさまはエントグというらしい。問われたエントグおじさまは何も答えない。困ったような表情を浮かべるだけだ。


「レクト様、この魔導具はそこのお嬢様の物でしょう?あくまでも所有権はお嬢様の物です。勝手に効果を覗き見たりましてやそれを誰かに教えるなど鑑定士としては許容出来ませんな」


え、何このエントグおじさまイケメン。仕事の関係上当然なのだろうが高位の権力者というかこの国においてトップに位置する貴族にここまではっきり物を言えるというのも珍しいのではないだろうか。

地球なら総理大臣とかにわざわざお前は間違っていると直訴しているようなものだ。勇気が要るし間違えたらその場で逮捕だ。文明的に地球の中世に近いこの世界では最悪死刑だ。それでも言ったのだから凄いと思う。そのカイゼル髭は伊達ではないということだ。いや関係ないが。


「エントグおじさま、構わない。私では効果を確認出来ないしお願い」


あっ、間違えておじさま呼びしちゃった。少しキョトンとエントグおじさまはしたがすぐに優しげな表情になって「分かりました、お嬢様」って格好いい。私がもしも年齢が今の倍近い年齢であれば好きになっていたかもしれない。いや今でもそれなりに好感は抱いている。お父さんとか親戚のおじさんみたいな感じだけど。


「では、まず此方の魔導具。何かの取っ手のようですがこれは鍵穴に自動で刺さる魔導具のようです。つまり言いにくいですが泥棒必須の魔導具のようなものでどんな鍵穴だろうが開けれるというものですな」


初めからいきなりピッキングアイテムが出てくると何とも言えない気持ちになる。しかも結構使い勝手良さそうなのが余計に。


「次、こちらは一見砂のように見えますがこれは形状を破壊する物のようです。つまり人体には影響はありませんが武器や防具に投げつけるだけで自壊させる、そんな魔道具のようです。自動修復の機能も確認出来ましたので一部を手に持って魔力を流せば戻ってくるのでしょう」


なんか恐ろしげな魔導具が出てきた。効果が酷すぎる。投げつけられたら砂だと思って目だけ隠して下がったら鎧や盾が壊れるのだろう。この世界の人からしたら初見はほぼ防げないだろう。


「最後にこれですが全て同じ魔導具のようですね。どういう意味があるのかは分からないのですが全て同期していて場所が分かるだけのようです。ある程度その辺りの地形も分かるようですね。上手く使えば地形把握にいいのですがそもそもその場所に置いてくるのが前提なのでどう使えば良いのか」

「……あぁ、それってもしかして地図作る時に使ったんじゃないかな?」


スイはそう言ったがこれは恐らくGPSのような扱いなのではないだろうか。持っているもの同士で場所が分かるのだから誘拐されたりしてもすぐに向かえるということではないだろうか。勿論地図作りにも使っただろうが。

見た感じはポケベルみたいなやつだ。いやポケベルなどスイは見たことないので多分こんな形だったと思うというだけだが。ポケベルといってもボタンは起動用のボタン一つしかないし画面には正常か異常かを示すものしかない。ポケベルというより何かの観測用道具と言った方が正しいだろう。数は全部で十三個。凄く半端だが元々適当な数を作って余った物だろうから仕方ないだろう。


「後の物は殆どが既存の物のようですな。幾つかは性能が上げられたりしているようですが誤差の範囲で済む物もあれば高性能になっているものもありとバラバラですな」


そうして教えて貰った後エントグおじさまが小さく手招きする。レクト達は他の魔導具を見ては珍しい魔導具があったのか驚いている。


「さて、これだけはお嬢様にだけ教えます」


そう言って渡されたのは小さな指輪。装飾も無い銀色の指輪だ。


「これは崩壊の指輪。起動すれば指輪を中心に半径二十メートルを起動者を残して崩壊させます。生物、無生物を問わず一切を残しません。起動にほぼ魔力を使わないというのも覚えておいてください。冗談でも使わないように」

「それって……」

「はい。それは魔力量を最低値だけ入れた時です。魔力を込めれば込めるほど規模が桁違いに変わります。お嬢様が魔法を使うように使うだけでこの屋敷は確実に消し飛びます」


言われて渡された指輪を見る。じっと魔力の流れを見ると確かにこの小さな指輪に込められているとは思えぬほど緻密でいて恐ろしい程の魔力量が込められた魔法陣が刻まれている。


「ん、これは使わない。指輪の中で死蔵しておくよ。こんなもの使う機会は無い方が良い」

「それが良いでしょう。まあ最低値だけであれば身を守るのも使えそうですし完全に記憶の外にはしないでおいた方が良いでしょうな」


そう言ってエントグおじさまは頷く。その言葉に私も頷く。使いようによってはこれはヴェルデニアを消滅させるのにも使えるかもしれない。まあ恐らく力技で回避されるだろうが魔力は使わせられる。私にとっては最も使い勝手の良い魔導具だ。


「何故笑って……?」


エントグおじさまがそんなことを呟いて不思議がっているが気にならない。ヴェルデニアに対しては手札が多ければ多い方が良い。


「ううん、何でもない。気にしないで」


私は指輪を指輪に入れていく。文字にしたら意味が分からないけど崩壊の指輪を次元の指輪に入れたのだ。というか指輪じゃなくてネックレスとかの方が良かったかもしれない。まあどうでもいいのだが。

そんなことをしていると突然爆音が響き渡る。爆音の方を見ると何かの魔導具を起動してしまったのか目を回しているレクトと少しボロボロになったレアがいた。回復させないといけないようだ。何をやってるのだろうか。少し溜息を吐くとそっちの方に向かっていった。とりあえず勝手に触るなと怒らなければいけない。面倒だ。

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