第102話 説教、後にデート



「勝手に魔導具に触らないで。クライオンがどんな改造を施してるか分からないんだから死んでも知らないよ?」


レクトとレアを治療した後はそのまま説教コースとして二人を床に正座させる。レアは少し不服そうではあったが主を危険に晒したという負い目があったのか正座をしっかりしている。

まあ最初二人とも正座を知らなかったので教えることからスタートしたのだが。考えてみたらこの世界では椅子ばかりで床に座るという習慣が無いことに後から気付いた。


「死んだら治せないからね?分かってる?流石にこんなことで死んだりしたらお馬鹿さんだからね?レクトは少し考えて行動しよう?好奇心が抑えられないのは分かるけどそれならそれでその結果起きることを想像しよう?そうじゃないと周りに迷惑を掛けるんだよ?それが出来ないなら法王なんていう地位は返上した方が良いよ。レアもレアでレクトに追従するだけじゃ駄目だよ?それじゃただの犬だよ。護衛なら危険から遠ざけないといけないよ」


スイが説教したら二人とも黙ってしまった。しかしスイは止まらない。エントグも二人に対して思う所があったのか途中から説教に加わり一時間以上二人で説教をし続ける。

途中で魔導具暴発の話から何故か貴族…というより法王という位に位置する者としての在り方や護衛としての心得といった話に変わっていたが言いたいことは言えたので満足したスイがまだ話し足りなそうなエントグを止める。


「まあとりあえずこれぐらいで止めておこう。一気に詰め込んでも覚えられるのは限りがある。後はじっくりと教えこめば良いよ」

「そうですな。叱ってくださりありがとうございますお嬢様。何せ二人とも貴族としては高位に位置する者ですので叱る者が居なかったのです。これを機に教え込ませましょう」


凄い良い笑顔でエントグおじさまが言う。まあ片やこの国最高の貴族に聖騎士という明らかに高位の騎士だ。その中でもこの二人は多少我儘だったのだろう。レアの方は多分甘やかされたのが原因だろうしレクトの方もまだ幼いというのもある。しかしそれでは駄目なのだ。この国の貴族がどういう感じかは分からないがこのままであればいずれ蹴落とされることになるだろう。それは少しだけ面倒だ。スイの目的を考えると知り合いが高位の貴族であるというのはプラスに働くだろう。


「ん、まあその辺りは任せるよ。私はこの国に居ないからね」


スイがそう言うとレクトが酷く驚いた表情を浮かべる。


「スイ、この国から居なくなるの?」

「イルミアの方に向かうんだよ。あそこの学園に今は通ってるからね。アルフ達とも合流したいし母様と連絡を取ったから生きてるのは知ってるだろうけど心配は掛けただろうし早く安心させてあげないとね」

「アルフ……あの時一緒にいた白狼族の?」

「そうだよ。私が買った奴隷なんだけどね。あっ、でも奴隷としては扱ってないよ?多分」


スイが断言しないのは奴隷に対する扱いを知らないからだ。奴隷を持っている者をスイは見たことない。とは言っても実際は奴隷自体は見たことがある。ブルノー子爵の屋敷に居た幾人かは奴隷だったのだがスイは殆ど見ていなかった。

まあそんなスイの言葉をレクトは聞いていないようだが。アルフという自分より強く尚且つ格好も良く頼れる年上であり奴隷という裏切らずに自分に付き従い見た感じでは敵意どころか好意を抱いているように見えた男。レクトはアルフを恋敵として認識した。最初は自分の貴族としての位から優位性を疑わなかったがスイが魔族で魔王であり本来なら王女であるならばかなり話が変わる。

それだけではなくスイ自身もアルフの事を嫌いどころか寧ろ好意を抱いているのは名前を呼ぶ際の声の弾み方からも分かる。それに貴族云々はスイにとって何ら意味を持たない事も理解したのでかなり焦る。この調子からスイがアルフと恋人である事は無さそうだがそれも時間の問題だろう。


「ス、スイ!街を案内してあげるよ!美味しい店や綺麗な服を売っている店も知ってるんだ」


そのためレクトが取った行動はスイの好感度稼ぎだった。そしてそのまま良い雰囲気に持ち込み告白をしようと考えたのだ。ちなみにその考えは残念な事にスイに見破られた。そもそもあまりに分かりやすい態度であり顔色や態度からその人物が考えているある程度を理解するという特殊過ぎる能力を保有するスイにとってレクトの行動は分かりやすすぎた。


「ん、分かった。案内して」


しかしスイはそれに乗ってあげた。まあ例えスイが特殊な能力を持たずとも告白されても受けはしなかっただろう。スイがレクトに抱く感情は親戚の子供に対するものだ。そもそもそういう感情の対象外なのだ。だけど告白もせずに玉砕するのは諦めにくいだろうと考えたので告白まではさせてあげようと思ったのだ。この年ならば失恋したとしてもすぐに立ち直れることだろう。

そんな事も知らずにレクトは素直に喜ぶ。それを見ると何とも言えなくなる。しかし早く諦めさせた方がレクトの為にもなるだろうと思う。貴族が何歳程度で結婚などをするのかは知らないが拓から聞いたラノベ?とかいうのではかなり早い年齢で結婚したりするらしい。魔物等もいるので死に別れが多いからだろう。いや知らないが。



ということで街に繰り出してみた。屋敷からレクトと一緒に出てきて街を見て回る。レアは少し離れた位置で護衛だ。離れるのはどうかと思ったが良く見るとレアが居る方向以外からも護衛らしき人物が複数居る。全部で十六人。レアと一緒に一人、その他はレア以外の八方向に二人ずつだ。かなりがっちり守っているので離れていても大丈夫なのだろう。

それを知っているのかレクトはとにかくスイを楽しませる為に色々な店を紹介していく。食事は美味しい魚料理が出てくる少し高めに見える店だ。雰囲気も良いので気に入ったのだが店名を良く見ると王味亭となっていた。通りで美味しい筈である。

服屋さんにも行ったのだが綺麗なドレスから普通の服といったものまで幅広く取り寄せているかなり大型の店だ。ただしこういった服に使われているものは極々普通の糸なので強度不足だ。

スイの全力どころかちょっとした動きにすら下手を打てば破けてしまうだろう。少し残念だったがデザインなどは沢山見れたので何処かで作ってみようと思う。

そうやって過ごしていると思いの外楽しかったからか時間がかなり過ぎていた。今現在は夕暮れの光を見ながら海を眺めている。綺麗な光景にうっとりしているとレクトの護衛達が気を利かせて少し離れる。まあそれほど遠くもないがスイは少しだけ気分を害される。いや離れた事に気分を害された訳ではない。ただ離れたせいで襲撃を受けただけだ。

襲撃者はどうやらレクト狙いのようだ。まあまだ襲撃はされていない。というよりされる前にスイがピンポイントに万毒の針を打ち込んだのだ。睡眠毒と麻痺毒を混ぜて自白剤も後から作用するようにしてみたものだ。万毒の応用性が高すぎる。自分で作った魔法ではあるが自画自賛したい。


「スイ。君に伝えたいことがあるんだ」

「何?」


レクトが先程から迷っていたのを覚悟を決めたようでスイに向かう。


「君と釣り合わないかもしれないけど釣り合えるように努力する。だから私と付き合ってください!」

「レクト、ごめんなさい。レクトは良い男の子だと思う。けどそういう対象には見れない」


スイがはっきり言うと分かっていたのか少し口を結ぶ。


「そっか。分かった。ありがとうスイ」

「ん、こっちこそ私なんかを好きになってくれてありがとう。出来たらこれからも友達で居て欲しいな」


スイがそう言うとレクトは少し驚いた後微笑んで頷いた。

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