第74話 ???
それっぽく積んだだけの外壁、申し訳程度の適当な柵、バレバレの罠。酷い光景に頭を抱えつつも歩いていくと街らしきものが見えてきた。てっきりテント暮らしのようなものを想定していたので割としっかりした?街っぽいのを見て驚く。
「いやこれ街?」
「一応は国の首都扱いですよ」
遠目からはごく普通の人族の街っぽく見えていたのだが近くに寄るとそれが全く違うものであることが分かった。灰色の砂が無理矢理押し固められた上で何かの植物が纏わり付いているのだ。その植物には砂を固める効果を持つ液を吐くらしくこぼれた砂が植物から滲み出た黄色い液に触れるとピシッという音を響かせて固まる。
どうやら他の街で言うスラムに位置するようだ。ふらふらと頼りなく歩くくたびれた亜人族が所々に居る。一見人族に見えるスイや人族のアスタールを見ても特に何も思っていなさそうだ。というより思う気力もないというのが正しいか。
スラム自体はそれほど大きくはなく少し歩くと一般人らしい亜人族が歩く通りに出た。ここでは流石に砂を固めた家ではなく意外にしっかりとした造りの家が並び始めている。
「ねぇ、アスタール?スラムの亜人族達とこっちの亜人族達の違いは何?」
「特にはありません。強いて言うなら今の獣王、ああ亜人族達の王に嫌われているか否かでしょうか」
アスタールの言葉が聞こえたのか周囲の亜人族達の耳がピクリと動く。
「アスタール……少し離れようか」
私の言葉に小さく頷くアスタールを見て私は少し早足で駆ける。追い掛けられたら面倒なので建物の陰に入った瞬間に偽装魔法で私とアスタールの姿を亜人族に見えるようにする。私は猫人族と呼ばれる姿にアスタールは狐人族に変えた。同じ姿に変えなかったのには理由がある。それは身長の問題だ。猫人族はちょうど私と変わらないくらいの身長で止まるのだ。それは大人であっても一緒でこれ以上大きくならない。逆に狐人族は身長の高いアスタール位が平均となる。
そういった理由から変えた。勿論猫耳尻尾と狐耳尻尾を生やした程度ではすぐにバレるので髪の色は私は白から黒に、アスタールは金から茶色に変えた。更に顔が印象に残らない魔法も掛けた。ある程度離れれば印象に残らない魔法は消すつもりだが。
「おぉ……何と美しいのですか我が主」
何か気持ちの悪いトリップをしかけたアスタールを腹パンして引き摺るように陰から出る。そしてそのまま街の中心部に向けて歩き出した。
「……撒いたかな」
一応匂いや声も多少印象に残らない魔法を使ってあるので魔法に比較的弱い亜人族なら恐らく騙されるだろうとは思っているがエルフが居たならすぐにバレるだろう。そう思っていたらアスタールからエルフがこの街に居ることはないとお墨付きを貰った。エルフは賢いからこの馬鹿げた街に寄ることすらしないそうだ。
正直そこまで言われるこの街に少しだけ可哀想に思っ……いや思わなかったけれど私も同意見だ。この街は寄る必要性を感じない。……あれ、ならなんで私はこの街に来て…………?
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いやこの街に来た理由はこの馬鹿げた状況を変えるためだ。上手くこの街を味方に付けられたら……ちょっと待って。何だ私の考えじゃない。これは……?
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誰かに……精神操作を……され……
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「スイ様?お顔が優れませんが大丈夫ですか?」
アスタールの言葉にハッとする。アスタールを無視して私は頭を押さえながら歩き出す。心と身体は裏腹に何故か街の中心部に向かって私は歩き出していた。
――ある獣達と魔族少女と異界の勇者――
「スイの事について話がしたい」
そう切り出したタンドに私は警戒する。それに比べてローレアさんは動揺も警戒もしていない。
「あら、この街に居たっていう女の子の話?女性との会話の最中に他の女性の話は感心しないわね」
「とぼけなくていい。貴女達が魔族と呼ばれる種族なのは分かってる」
ローレアさんの返しに対してタンドは直球で打ち返してきた。ローレアさんはほんの少し言葉に詰まる。
「大丈夫だ。俺は魔族が本質的には敵でも何でもないと思ってる。だから貴女達が魔族であろうと敵じゃないなら戦ったりはしない。俺は訊きたいだけなんだ」
タンドの語った言葉から違和感を感じた私はタンドに問い掛ける。
「……ねぇ、貴方は……何処から召喚されたの?」
剣国アルドゥスで召喚されたのだとしたら違和感のある発言に私は仮説を立てた。即ちこの者は……。
「俺はこの世界に送られたんだ。召喚じゃないよ」
タンドの言葉に疑問符を浮かべるローレアさんに私は確信した。このタンドという人物は全くこの世界の召喚とは関係無く来た異物なのだ。その考えに遅れて到達したローレアさんが驚愕の表情を浮かべる。
「まさか……」
「あぁ、俺は異世界召喚されたのは間違いないがこの世界じゃない」
そう言って語ったのは私の想像を少し越えていた。地球から異世界へ行き勇者として活動、その後別世界に渡りそこでも勇者として活動、最後にこちらへ送られてきたのだそうだ。
「あぁ……で、訊きたいことがあるんだ。スイについてなんだが」
語り終えた後私達が意見を固めるのを確認した後タンドが本題に入る。
「あの子がシェアルという街を滅ぼすように命じたのは本当か?それとあの子は一体何者なんだ?魔神王に対しての執着は一体何なんだ?あの子の目的は?それが訊きたいことだ」
街を滅ぼすように?そんなことは初めて聞いたがローレアさんには情報網があるのだろう。特に疑問にも思っていなさそうだ。
「そうね。街を滅ぼすようにというのは少し違うわ。いえ合っているけどそれを実行したのは部下であって滅ぼすように命じてはいないわ。それとあの子は千年前に死んだ魔王ウラノリアの娘で私の娘でもあるわ。実際は作られた存在だけれども私の娘よ。執着に関しては殺すためでしょうね。目的は魔神王ヴェルデニアの消滅と三種族間友好協定よ」
その言葉を聞いて良く分かった。あの子らしい。遺言を目標に歩き出しているのだろう。これが他の誰かの遺言であればやらないかもしくは親が居ないことを知って自殺しているわね。良かったわね。アクションを間違えなくて。
私は納得したがタンドは納得しにくいという表情を浮かべている。まあ私にとってはどうでもいいけれど。あの子に手出しだけはさせないからねとタンドを睨んでおく。するとアウル達が少し警戒して身体が固まる。当の本人であるタンドは私の睨みなど意にも介さない。まあ本気で睨んだわけでもないので当然か。
私達は何とも言えない空気が流れる中運ばれてきたデザートを見て私が食べ始めた事で空気が緩和した。
まあ何かしようとしたら恐らく隠れて見ているシェティスに殺されただろうけどもね。
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