第69話 死者



アルマを殺したあと商人達から言われたのは一定以上近付かないことと私の身体能力を制限する魔導具を付けた上でならば同行を許可された。

まあその辺りの事はされると思っていたのでその扱い自体に文句はない。ただ付けた魔導具がいかにも犬に付けていますと言わんばかりの首輪だと流石に思うところがある。というか何故首輪なのか。

話を聞いてみるとセイリオスの一部の貴族には力が強い亜人族の妻や愛人が居るそうで力を制限しないと気軽に接せれないのだそうだ。あと趣味が混じってると言われた。まあ……うん。

首輪の話は置いておいて私達は今集落に向いて歩いている。早く学園に戻りたいが商人達は獣国に着いたばかりのようで流石に私の我儘で船を出させるのもどうかと思ったので一緒に付いていくことになった。

付いていく理由は特に無いけれど万が一道中で魔物に襲われでもしたら船が出なくなるかもしれない。それは困るというのは建前で私が単純に集落を見てみたかっただけだ。学園に戻ること自体は急ぎじゃないし。

アルフ達には悪いと思うけど良い機会だとも思う。アルフ達はどう見ても私にかなり依存している。このままにしておいたらいつか自立出来なくなるかもと考えてしまうほどには依存している。なのでこれを機に少し考えが変われば良いかな。戻ったときにより依存する可能性もあるけれど。

そんなことを考えながら歩いていると指輪内で何かの魔力反応を感じた。指輪内で発動するのは一種類しかない。トランシーバーもどきならぬ携帯魔話だ。ちなみに名前は今付けた。まあ電気が魔力に変わっただけだし。取り出して分かった通信相手はガリアさん?


『スイ?』

「ん?久し振りですガリアさん」

『今どこに居るか分かるか?』


そう訊かれ何故魔話が来たのかを察した。


「あぁ、誰かノスタークまで来たんですか?」

『ローレアが来た』

「そうですか。ならえっと……今どの辺りか分かりますか?」


場所がいまいち分からなかったため商人達に声を掛けると最初に話したリーダー格の商人が答えてくれた。


「この辺りはまだ何処のやつのでもないな。もう少ししたら熊人族の集落の筈だ」

「熊人族の集落だそうです」

『熊人族の集落?ってことは獣国か!』

「そうですね。多分獣国トルモルの中心部から左寄りだと思います」

『そうか。お前を捕まえたっていう魔族は?』


魔族の話を母様が居る状態で話しているということは恐らく母様は魔族であることを話したのだろう。私のせいで危険を冒させることになったことが悔やまれる。それをさせる間接的な要因となったアルマを思い少し声が冷める。


「殺しました。あと協力していたらしい人族の人災"教授"も殺しました」

『は?』


人災である教授を殺したことを報告した辺りから何故か周囲が歪み始めた。明らかな異常事態。商人達も剣を抜き魔法を唱え始めた。妙に練度が高いので本来は商人ではないのかもしれない。


「まあその辺りの話は帰ったらしますね。では」

『ちょっ!』


とりあえず私も魔話を終了して周囲を警戒する。私に一切気付かれずに魔法を展開できる相手だ。油断できる相手とは到底思えない。ヴェルデニアが九凶星が二人死んだことを分かって私を確実に始末するため何かを送り込んできたのかもしれない。そう警戒する私の目の前に現れたのはあまりにも意外な人物だった。


「どうして……」

「やぁ。さっきぶりだね」


つい数時間前に死んだはずの教授が私の前に立っていた。



――勇者と名乗らさせられている少年――

レクトが語るスイという少女の話は食事の最中ずっと続いた。余程可愛かったのか話の最中に可愛いと何度も出てきた。数えてないけど最低でも五十回は間違いなく言ってた。

僕はげんなりしながらレクトの話を聞き終えると何と執事が来てスイの居場所を突き止めたそうだ。って早くない!?食事前に頼んだことだったよね?何で終わる頃にもう調査完了してるんだか。


「それでどうなんだ?」

「はい。スイなる者は学園に所属しておりノスタークでの滞在中に幾つかの魔導具を開発したり失われた技術である錬成などを復活させた天才だそうです。しかし現在行方不明の状態で捜索活動中です」

「行方不明!?大丈夫なのか!?」

「大丈夫と言いたいところですが生死不明でして分かりません。しかしそのスイなる者は魔法にも長けた者だそうです。余程の魔物相手でもなければ死ぬことはないでしょう」


僕はこんなに早く情報が集められたことを疑問に思ったので執事に問い掛けてみる。


「これです。対となるものがあれば遠方に存在する者と即座に連絡が取れるという画期的な魔導具で御座います。これを使い知己達と連絡を取り情報を集めました」


そう言って見せられたのはトランシーバーみたいな魔導具。世界が違っても似たような形になるものなのだろうか。意外なものを見て少し驚く。


「良ければ勇者様もお持ちになりますか。レクト様と離れても連絡が取れるようになれば色々と便利ではないかと愚考します」


なるほど。レクトから僕にそう語るのは難しい。勇者に紐をつけようという話なのだから。けれど話の流れで連絡手段を手に入れたということならそうは見えない。レクトがわざわざスイという少女のことを今調べさせたのはそれが理由か。僕はレクトを見ると和やかに微笑みを浮かべた。


「そうだね。持っておいても損はないかな」


僕がそう言うと執事がメイドを呼ぶ。すぐにメイドが魔導具を持ってきた。用意が良いな。いつからそうするつもりだったのだろうか。まあ僕としては不利になるわけでもないから別に良いのだけど。

魔導具を受け取るとレクトもまた受け取って使う。すると獣のうなり声のようなものが流れ始めた。うわぁこれは趣味悪い。


「……やっぱ返そうかな」


そう思った僕はきっと悪くない。



――???――

「あん?ヴェインがやられたと思ったらアルマもだと?」

「は、はい!確かな情報で御座います!」

「チッ、使えねぇなぁ。おい魔王の位置は分かったのか?」

「い、いえまだそちらも捜索中でして」

「あん?もう何年捜してんだおい?いい加減使えねぇようなら消すぞ?」

「も、もう少しお待ちを!必ず見付け出してみせます!なのでもう暫くの猶予を!」

「良いか?三ヶ月以内に見付けろ。出来なきゃ殺す」

「か、必ず見付け出してみせます!」

「良いだろう。出ていけ」

「し、失礼いたします!」


俺は目の前で頭を下げて部屋を出ていった悪魔を見て溜め息を吐く。


「ったく、面倒くせぇなぁ、魔王共は。さっさと俺に消されてしまえば良いのによぉ」

「ヴェルデニア様のお力に恐れをなしているのでしょう。逃げることだけがやつらの生き残る道なのです」


俺の言葉に反応した悪魔に顔を向ける。九凶星の一にして俺の側近バーツだ。俺がウラノリアのクソ野郎を殺す前から一緒にいる信頼できるやつだ。


「まあ、見付かったら殺されっからなぁ。出てきたくても出れねぇか」


俺が嗤うとバーツも一緒に嗤った。二人の声が暫く響き渡った。

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