第68話 色々な思い
――アルフ視点――
スイが居なくなってから一週間が経った。未だにスイの居場所は分かっていない。俺達はスイが恐らく拐われた時真っ先にグルムスさんの屋敷に向かった。そしてグルムスさんがいる執務室に向けて駆け込み事情を説明すると思わぬ返事が返ってきた。
「はぁ……放っておきなさい」
「えっ?」
「その程度で死ぬというなら役に立たないでしょう。なら忘れてしまいなさい」
「は?」
「聞こえませんでしたか?あの子の事は忘れろと言っているのです。正直私もあそこまで役に立たないとは思っていませんでしたよ。凶獣から逃げたと思いきやそれほど強くもない魔族に不意を突かれる。はっきり言ってこのまま居ても邪魔にしかならないでしょう?だったらもう忘れて違う作戦を考え始めた方が良いです」
最初は何を言っているのか理解出来なかった。少し経ってから理解すると俺はグルムスさんに殴りかかっていた。けれど俺の拳はグルムスさんにあっさり止められる。
「貴方程度のパンチが私に届くとでも?冗談も程々にしなさい」
グルムスさんは全く興味無さそうに言うと手で虫を払うかのような動作で俺達は部屋から無理矢理出された。
「……何だよそれ」
俺達は呆然と廊下に暫く佇むことになった。
その日から俺達は色々なところを駆け回った。学園になんて通っていられるわけがない。でも俺達が行ける場所なんて限られてる。俺達はあくまで奴隷だ。つまり帝都の外に出ることが出来なかったんだ。
だから帝都の至るところを探し回った。貧民街に商業区、貴族街にも足を運んだ。ディーンに能力を使ってもらって王城にもギリギリまで近寄ったりもした。けれど探しても探しても全くの手掛かり無しにいつしか俺達は心が折れかけていた。
「帝都には居ないのかな」
「……そうだろうな」
「どうする?僕の能力を使えば多分出るのはいけるよ」
「帝都の外で常に俺達に能力を使えるのか?何日掛かるか分からない。そもそもそんなに持たないだろ」
「持たないけど……」
帝都の外に出るだけなら確かに簡単だ。けどそれにはディーンの力が不可欠。でも俺にはその選択肢を選べそうに無かった。ディーンはまだ幼い。受け答えがしっかりしているからたまに忘れそうになるが歳は二桁にもなっていないのだ。そんな子を危険な場所に連れていけるかといったら答えは否だ。
ディーンからしたらとっくに覚悟なんて決まってるんだろう。だけど……いや、つまるところ俺にはディーンの命を預かる覚悟が出来ていないのだ。自分一人の命ならば懸けられる。元よりスイに命を助けられた身だ。スイのために使うことに迷いはない。ディーンもそれは同じだろう。だけど命を懸けるのと命を預かるのには明確に差がある。何だかんだと理由を付けて俺は帝都の外に出る判断を下さなかった。皆悪い。
――ある獣達と魔族少女――
その人は凄い勢いでギルドに駆け込んできた。私はいつも通りギルドの依頼を適当に受けて宿に泊まれるだけのお金を稼ぐとガリアさん達に鍛練場で鍛えてもらおうと移動しようとした時にギルド前に馬車が止まり女の人が入ってきた。
妙齢の美女というやつか。凄く綺麗な女の人がギルドの二階にさっさと上がっていった。何故か見た瞬間にあっ、私と同じだって分かった。何が同じかは分からないけど目が離せなくて一緒に二階に上がってしまう。
「(何やってるんだろ私)」
そう考えつつも女の人が入っていった部屋を見るとそこはギルド長室。つまりガリアさんの部屋だ。気になって近寄るといきなり部屋の扉が開いてそこから腕がにゅっと出ると私の首元を掴んで中に引きずり込まれた。
「みゃぁぉ!?」
凄い変な声が出た。いや仕方無いよね。あの子みたいに基本無反応とか私出来ないから。
「ガリア?この子は誰かしら?」
「ローレア、いきなり来てうちの冒険者の首引っ付かんで何してんだ」
ガリアさんがそう言うとローレアさんは私の首元から手を離す。あぁ、びっくりした。一体何が起きたのかと分からなかったよ。
「……あら?まだ聞いてない?それともあの子言わなかったのかしら。別に言っても良かったのだけど」
「何の話だ?」
「あぁ、私も魔族だってことよガリア」
ローレアさんがそう言うとガリアさんは固まった。
「あ、あぁ、そういうことか。ずっと付き合ってきた筈なのに全く気付かなかったな……」
「当たり前よ。そんな簡単に分からせるわけないでしょうに。まあ良いわ。ねぇ、ガリア。この街にあの子はいない?」
「帝都に居る筈だろう?」
「……そう。居ないのね。あの子は今魔族に襲撃されて生死不明の行方不明の状態よ」
何故だろう。凄く嫌な予感がした。
「あ、あの!その子って一体?」
「そういえばガリアこの子は誰なの?魔族なのは間違いないけど」
「ん、あぁ、イルナが連れてきた魔族だ。スイと同じ転生者と言うやつらしいぞ」
「は、はい。私ルーレって言います。前世では榛原湊と名乗っていました」
「進む者か。良い名前ね」
「ありがとうございます。イルナに付けてもらったんです」
そう言うとローレアさんは凄く驚いていた。
「あのイルナが名付け親なのね。通りで妙に力が強いなと思ったわ」
「あっ、それでその子は……」
「スイよ。あの子ったら油断したのかそれとも不意を突かれたのかは分からないけど拉致されたのよ」
目の前が真っ暗になった気がした。スイが?まさかあの子がやられたの?
「なら連絡でも入れてみるか?」
ガリアさんの言った言葉がすぐには分からなかった。それはローレアさんもそうなのだろう。訝しげな顔でガリアさんを見る。
「いつ拐われたのか分からないが数日経ってるなら自力で脱出してるだろう。なら連絡を入れれば良い」
ガリアさんはスイが死んだとは丸っきり思っていないようだ。
「一週間よ」
「なら大丈夫だろう。一週間もあれば捕まえた魔族に報復してから抜け出してこっちに向かってるんじゃないか?」
「どうして死んでいる可能性を考えないの?」
ローレアさんが静かにしかしはっきりと苛立ちを混ぜて訊く。
「どうしてって血の誓約がまだあるしなぁ。死んでたら勝手に破棄されるだろ。それにその辺の魔族に負けるようなやつじゃないだろう。なら抜け出してるとみただけだが」
ガリアさんは至って普通に根拠を述べる。
「血の誓約……貴方していたの?」
「してるよ。というかさせられたが正しいか?まああいつのあの時の判断は間違っていないとは思うが。とにかくそれがあいつの生きている証拠だ。万が一まだ捕まっていても着信先の場所くらいならすぐに特定出来る。救出くらいなら迎えるだろう」
そう言うとガリアさんは何処からかトランシーバー?みたいなものを出して連絡を取る。あれは前にもあの子と話すときに使っていた魔導具だ。
「スイ?」
『ん?久し振りですガリアさん』
「今どこに居るか分かるか?」
『あぁ、誰かノスタークまで来たんですか?』
「ローレアが来た」
『そうですか。ならえっと……今どの辺りか分かりますか?』
『この辺りはまだ何処のやつのでもないな。もう少ししたら熊人族の集落の筈だ』
『熊人族の集落だそうです』
「熊人族の集落?ってことは獣国か!」
『そうですね。多分獣国トルモルの中心部から左寄りだと思います』
「そうか。お前を捕まえたっていう魔族は?」
『殺しました。あと協力していたらしい人族の人災"教授"も殺しました』
「は?」
『まあその辺りの話は帰ったらしますね。では』
「ちょっ!」
そこで会話が切れたのだろう。ガリアさんはポカンとしながらローレアさんを見てローレアさんもポカンとしていた。あの子は流石だ。凄くマイペースだ!
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