第67話 裏切り者の始末



私は狂っている。そんなこと誰に言われなくても私が一番気付いている。例えば虫を戯れに殺す男子は一定数居ると思う。しかしそれを更にぐちゃぐちゃになるまで潰したり解体したりする者は居ないと思う。

私はそうだった。最初は中身がどんな風なのか気になって潰した。少し大きくなるまで解体することを思い付いていなかったからだ。思い付いたらすぐに解体した。確か最初は蝉だった。夏に探したら割と見付かったのでそれで試した。見付けた蝉を網で捕まえたあとは石を叩きつけて殺した。なかなか潰れなくて苛々したのを覚えている。その次は羽をむしったり足を一本一本取ったりした。当時私は幼かったのであまり内容は覚えていないけど妙に冷静だったと思う。

今の私の心境を言うならその時と同じだろう。妙に冷静に観察している気持ち。私の足元には虚ろに此方を見つめる無駄に整った顔の女がいる。私を捕まえ拷問してきたアルマだ。拷問中にされたことを今はやっているだけなのに心があっさり壊れてしまった。これでは憂さ晴らしにもならない。しかも腹の立つことにまだやり終わってすらいない。


「ん……仕方無い。持って帰ろうか」


仕方無いと言った瞬間アルマの表情が一瞬安堵の表情に変わり持って帰ると言うとその表情を一瞬で歪ませた。なんだ…まだ心が完全に壊れてない。良かった。

私は機嫌良くアルマの顔を掴むと壁に叩き付ける。そしてそのまま歩き出した。アルマの身体が顔が削られていく痛みに痙攣している。

部屋から出ると周りを見渡す。どうも生物の気配がしないので無人島とかそういう場所なのかもしれない。部屋から出たことで壁が途切れたのでアルマの顔を地面に潰すようにくっ付けて歩き出す。腕が結構疲れる。仕方無いのでアルマの足を掴み地面に顔が当たるように振り回す。小学生とかがやっていることがある傘の振り回しみたいだ。

鼻歌を歌いながらアルマを地面に叩き付けながら周りを散策する。周りの景色は綺麗な草原だ。大自然と言われて思い浮かびそうな草原。そんなところにあった一軒の屋敷から出てきたようだ。少し先に丘が見えるのでそこから周りを見渡すことにする。


「……これは予想外かな」


丘から周りを見渡して場所は分かった。しかし意外な場所だった。亜人族を逃がすために父様が造ったセロニア大陸、別名を……。


「獣国トルモル」


アルフ達の故郷だった。



どうして人族であったアスタールが亜人族の大陸であるこの場所に屋敷を建てられたのかは分からないが一軒しか無く尚且つ周りに人の気配が一切しないことを考えると自ずと答えは絞れる。

一つ、誰にも知られずにこの場所に資材を持ち込んで勝手に建てたor屋敷を指輪に入れて持ち運んできた。

二つ、周辺住民を残らず虐殺して悠々と勝手に建てたor屋敷を運んできた。

のどちらかだろう。私としては後者が疑わしいと思われる。はっきり言って亜人族に一切見付からずにここまで来るのはかなりの至難だろう。人族とは比べる必要すらないほど五感が違いすぎる。人族の上位互換みたいな存在なのだ。

ちなみに友好的に接して建てさせてもらったということはほぼ間違いなく無い。それなら周辺に住民が居ないことの説明がつかないからだ。それにあの屋敷内に魔族であるアルマが通っているのを知れば亜人族に攻撃されたことだろう。そこに話し合いの余地はない。


「とりあえずどうしようか……アルマはどうやってここまで来た?」

「…………」


アルマの返事が無いので右足を掴むと力任せに引き裂いた。


「ぎゃあぁぁぁぁぁ!?!!?」

「答えなよ。もう一回やろうか?」

「言う!言うからやめてぇぇ!!」

「あっ、返事が遅かったからもう一回ね」


左足も同様に引き裂いた。アルマの悲鳴がうるさいのでアルマの靴を取ると口に蹴りで突っ込んだ。


「げぼっ!」

「……早く答えなよ」

「!?げぼっ!げっ!げっ!」


アルマの言葉が分からなかったので首を裂いて言葉を通りやすくする。


「ヒュー、ヒュー」

「私、あんまり気が長い方ではないんだ」


私がそう言うとアルマは必死に口から靴を出そうとする。その前に腕を引き千切っていたので舌と口の動きだけでだ。仕方無いのでアルマの顎を無理矢理開くと靴を取り出す。ゴキゴキという音が鳴ったが私もされたのでそんなに睨まないでよ。うっかり殺してしまいそう。


「あ……まど、魔、魔導具で転移しました」

「へぇ、転移ね。それが出来るようになったんだ。なるほど、道理で凶獣がいきなり出てきたりしたわけだ。天の瞳がまるで役に立ってなかったものね」


転移が千年の間に魔導具で実用可能になっていたようだ。しかし未だに魔法で転移は難しい。例え出来るとしてもはっきりと座標を認識し障害物がないことを確認しながらやるなど面倒極まりない。やるとしても物に限るだろう。指輪があるのでわざわざ転移させなくても近寄れば良いだけなので余程のことがないと多分使わない。


「で、その魔導具は?」

「……壊れた」


アルマの顔を見るがどうも嘘を付いているようには見えない。


「どうして壊れたの?」

「あれは使用回数が決まってて使いきったからだ」

「予備は?」

「予備なんて配られない」


どうやらその魔導具はヴェルデニアによって量産されはじめているがそれほど量がないようだ。作成に時間が掛かるのかはたまた作れるようになったのがつい最近なのかは知らないけど恐らく最近なのではないだろうか。でなければ幾つか国が滅びていてもおかしくない。


「ん、じゃあ良いや。貴女は此処が何処か分かってる?」

「……獣国トルモル」

「知ってるか。ならこの辺りに亜人族が居ないのはどうして?」

「アスタールが屋敷を建てるときに邪魔だからって言って殺してた」

「……そう」


やっぱりもう少し苦しめてから殺すべきだったか。私の雰囲気が変わったのが分かったのかアルマがビクビクしている。


「あ、あんたは結局誰なんだ。魔、魔王なのか?」


その質問には答えずアルマの身体を折る。ありとあらゆる骨を折ってから横たわらせてその上に座る。


「あぐぅっ」

「貴女は私の質問以外には話すな。声を聞くだけで苛つくから」


私の言葉にアルマは顔を青ざめさせながら頷く。魔族だから骨を折ったところですぐに治るのがある意味利点であり欠点か。すぐに治るので戦闘中には骨を気にしなくて良いのが利点。欠点はこういう拷問の最中ではひたすら骨を折られるということだ。

私はそんなことを考えながらアルマの左腕を取ると指先の骨を一本一本時間を掛けながら折り続ける。小指を折る頃には人差し指まで治っているので延々と折れる。


「魔族ってこういう時にはすぐに心が折れそうだよね?アルマ」


私が折りながら言うとアルマは何も言わず口を必死に右腕で抑えている。悲鳴を我慢するなんて涙ぐましい努力をしている。なので座りながらアルマの腹を踵で抉るように蹴る。


「ごふっ!」

「あはっ、アルマ?私貴方が言ってた嗜虐って持ってるのかな?貴方が苦しむのを見て凄く楽しい」


楽しいのは父様の死を作るきっかけとなったアルマを拷問出来ているからだろう。アルマがしたことは別に直接的なことではない。ただ父様達が暮らしていた城の門を無断で開けてヴェルデニア達を城内に入れたことだ。城には結界が大量にあったのでヴェルデニア達が城内に入れなければ何事もなく今を過ごせただろう。まあその場合私は生まれないわけだが父様が死ぬよりマシだろう。

延々と折るのにも飽きたのでアルマを掴んで振り回しながら歩き出す。誰かに見られたら困る状況ではあるが周辺には獣すら見当たらない。暫くは大丈夫だろう。

歩き始めて一時間くらいしてようやく人の気配を感じた。アルマを振り回すのをやめて腹の中に手を突き刺すと魔法を埋め込む。魔法の内容は奴隷紋だ。アルフ達のを解析する際に覚えているので簡単に成功した。


「アルマって処女?」


ふと気になったので命令すると頷く。アルマは自分の身体が勝手に動いたのだろう。顔が歪んでいる。誰かに見られたら面倒なので命令で喋れなくして表情も変わらないようにしておいた。


「処女か。意外。ヴェルデニアかアスタールにやられてると思ってたけど……まあ良いや。なら亜人族の誰かにやらせれば良いか」


当然訊いたのは誰かに犯させるためだ。亜人族は魔法抵抗が全体的に弱いので最悪洗脳してやらせれば良い。一番良いのは普通に犯してくれるのが良いのだが亜人族は無駄に良い人が多いのでどうなるか分からない。アルマは犯されると分かって身体が震えているがどうでも良い。

人の気配の方に歩いていると見付けたのは人族の商人達が馬車の近くで焚き火を焚いていた。どうみてもおかしい。ここは獣国トルモルで人族の通行は一切許されていなかったはずだ。


「おい。あそこに女がいるぞ?」

「あん?んなわけ……って居たな」

「誰だ?亜人族か?」

「いや人族に見えるが……」


私は近寄っていくと理由を納得した。最初は奴隷商かと思って少し警戒したのだが彼等の馬車の製作所の紋章は法国セイリオス。ノスタークを擁する大国で奴隷を表向き否定している国だ。逃亡奴隷もセイリオスに逃げ込めれば庇ってくれるような国で奴隷達にとっては唯一の逃げ場だ。そんな国の商人達が奴隷商はやっていないだろう。

ならそこから推測されるのは法国セイリオスと獣国トルモルは秘密裏に商売をしているということだ。恐らくは海中に存在する海の都ロフトスもそれを手伝っているだろう。でなくば船が魔物に襲われて大体大破する筈だから。


「止まれ。それ以上は近寄るなよ」


私は素直に従って止まる。別にわざわざ敵対する理由はない。強いて言うなら少し予定が狂って苛ついた程度だ。


「お前は誰だ?」

「スイ」

「……人族か?」

「……魔族」


一瞬迷ったが素直に白状した。商人とはいえ多少は魔物とも戦えるだろうが私の敵ではない。敵対されても勝てるからだ。それに私はあくまで友好的に接したいのだ。人族であると偽り後にバレた時の方が厄介だ。


「魔族……だと」


誰かが喉を鳴らす。勝てないことは理解しているのだろう。商人達が目配せをしあって逃げようとする。逃げられても面倒なので魔法で適当に壁を作る。商人の誰かが舌打ちをする。私は敵対の意思が無いことを示すために地面に座る。ひんやりして気持ちが良い。


「ん、商人さん。話があるんだけど聞いて貰える?」

「この状況で俺達に選択肢があるのか?」

「ん……無い。貴方達を逃がしたら面倒だから」


私がこの大陸から帝都に戻るには海を渡らなければいけない。しかし獣国トルモルは何処の国とも表向き繋がっていない。なので船は存在しない。だから私が大陸から帝都に戻ろうとすると海を走るか飛ぶか泳ぐかしかない。幾ら強い魔族であると言っても魔物と戦いながら海を走ったり泳いだりは嫌なので船があるならそれに乗りたい。そもそも速度的にも全く違うし。ちなみに飛ぶ方法は私がティルに魔力を込めて飛ぶのだ。ただし魔力が切れたら真っ逆さまに海に墜落する。


「……話ってのは何だ?」


商人達のリーダーなのか最初に話しかけてきた男性が問い掛けてくる。


「ん、イルミアに行きたい。だから船に乗せて」

「イルミア?俺達はセイリオスの……」

「分かってる。船に乗せて海を渡ってくれるだけで良いよ」

「……イルミアに行って何をするつもりだ」

「何も?学園に通うだけ」


私の答えが意外すぎたのかポカンとする男性。


「は?学園に?」

「ん、私学園に通ってるから」


ますます混乱したのだろう。周りの商人を見渡している。


「ん、説明が面倒。誰かイングルムを持ってない?」


私が聞くと商品の一つだったのか持ってこられる。


「……銀貨二十枚だ」


何だかんだお金を取る辺り流石商人と思ったがちゃんとお金を渡した。そしてイングルムに私の記憶とかを転写する。以前トリアーナ達に使った記憶転写メモリートランスファーだ。私は説明下手なので記憶を見せた方が楽だからね。あと単純に説明内容が多くて面倒臭い。記憶を転写したあとは商人達にイングルムを返す。イングルムは一度しか記録できないので持っている意味があまりないのだ。

イングルムを再生させて内容を見ている商人達。途中私の着替えシーンが出てきた瞬間全力でイングルムを回収して無理矢理制御で消しておいた。記憶転写は全ての記憶か一部のものかを選択できるが連続した記憶はなかなか切り離せないのだ。私の着替えシーンを見た商人達が真っ赤になるかあからさまにじっくり見る者が居たのは流石に恥ずかしかった。

イングルムを見終えた商人達は警戒を少し緩める。完全に信じられるとは思っていないためこれで良い。むしろ今ので警戒が解かれたら私が信頼出来ない。イングルムは再生時はとんでもない速度で流れるが見ている本人達にはちゃんと記憶に刻まれる。魔導具だからと言えばそうなのだがこれは本来記憶転写の魔法を魔導具で代用するものだからだ。直接刻まれれば魔族以外の種族は頭が焼ききれてしまう。竜族なら多分いけるが逆に言えば竜族しか無理だ。それを解決するために作られたのがイングルムなのだ。


「なるほどな。事情も状況も分かった。ならそっちの方は……」

「ヴェルデニア派の魔族だよ」


私はそう言ってアルマを放り捨てる。正直まだ生かして色々としたいが商人達と行動を共にしようと思うと邪魔だ。なのでイングルムをもう一つ買うと強制的にアルマから記憶転写させる。


「……こいつ殺すけど良いよね?」

「尋問とかした方が良いんだろうが……」

「このイングルムあげるから良いよね?」


私はそう言ってイングルムを渡す。私が殺すと言うとアルマは助かったという思いと死にたくないという思いがぶつかって非常に訳の分からない表情をしている。なので私はせめてと思い眠らせてから悪夢ナイトメアを掛けてから殺した。悪夢の内容は簡単だ。千年の間拷問される夢。夢の中で散々拷問されたせいか死んだ時アルマは安堵の表情を浮かべていた。そして私はアルマの素因を抜き取った。何故だか私はアルマが味方であった時のことを思い出し凄く空しくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る