第60話 魔導具を貰いました
私の前でアルフが正座している。何故か隣にフェリノ達も同様に座っている。理由は簡単だ。全員が自らの実力を隠していた。それに尽きる。全員である。アルフだけかと思って問い詰めようとしたがアルフだけ責められるのは可哀想だとでも思ったのかステラが庇ったのだ。そこからは連鎖的にばれた。ステラが明かしたことでディーンもバラしフェリノも渋々明かした。
「で?どうして実力を隠していたの?」
私が問い掛けるとアルフが言いにくそうにしている。
「えっとな、皆それぞれ理由は違うんだ」
「ん?」
「まず俺はスイとの模擬戦で何回かしてから実力が更に付いたら一気に畳み掛ける形で勝ちたかったからだ。バレた時点で意味は無くなったけどな」
「ん、どうしてそこまでして勝ちたかったの?」
「…………」
スイの問いに顔を背けるアルフ。そこまで答えたくない何かがあるのだろうか。まあ無理に聞く必要はない。
「まあ良いや。フェリノ達は?」
「わ、私はお兄ちゃんと似た感じ、理由は……」
「ん、ディーンやステラは?」
答えにくそうにしているのでさっさと切り替える。
「僕は鍛練が辛かったからかな。多分もっと厳しいものになるでしょう?正直に言って身体が持たないから黙ってた。力を付けたいのは事実だけど身体を壊したら意味がないし。後は自由時間がもう少し欲しいからかな」
「私もディーンと似た感じね。身体の酷使が辛いわ。多分スイのことだから壊さないギリギリを分かっているのでしょうけど心情的にはね」
「…………辛かったんだ。言えば良かったのに」
スイの呟きに二人はポカンとする。
「……?休んじゃいけないなんて私は言わないよ?むしろ酷使するぐらいなら休みを取らせるよ。適度に休憩しないとパンクしちゃうじゃない。何のためにノスタークで街中を歩き回ったりしたと思ってるの?それに今すぐ魔族と渡り合える位に強くなれなんて思ってない。そもそもまだ勝ちの目すら見えてないんだから」
そうスイはヴェルデニアに勝てない。≪混沌≫は当たれば即死させるか戦闘不能にまで陥らせるだろうが今のままではそもそも当てることが出来ない。下手をすれば使う前に殺されてもおかしくない。それほどまでに実力差があるのだ。
「まあとりあえず皆の言うことは分かった。でも隠すのは出来るだけやめてね。鍛練が効率良くいかないし何より信用しづらくなる」
スイがそう言うと皆が俯く。
「まあ今回は許すよ。これからの鍛練で辛くなったら言ってね」
スイがそう言って締めようとした瞬間演習場入り口付近に人の気配がした。パッと振り向くとオルケンリッツ先生達が立っていて呆然としていた。先生達が来たので演習場の代わりになりそうな場所を教えてもらおうと近付くと……。
スイとルゥイ、アルフの三人が先生達に説教されることになった。当たり前である。
――ある獣達と魔族少女――
ノスタークはかなり活気に溢れた街だ。至るところで商品の呼び込みがあり美味しそうな匂いや香水のようなもの、宝石のようなキラキラしたものが付いた装飾品など色々なものがある。
私は歩きながらチラチラと周りを見渡す。異世界にはどんなものがあるのか興味深い。紫色の肉らしきものが焼かれていたり真っ赤な宝石の中に動いている小さな蜥蜴のようなものが売られていたり地球での常識がぽろぽろ壊れそうなレベルのものが大量にある。
やたら高いらしい指輪やネックレスは魔導具と呼ばれる物だったりするらしい。指輪は物を収納出来る魔導具でネックレスは衝撃から身を守る魔導具らしい。私も今すぐとは言わずとも欲しいものだ。単純にデザインも気に入ったし。そんなことを思ってたらイルナがその店に近付いていく。
魔物が街の中に居ることに店主が悲鳴をあげそうになったがガリアさんが近くに居ることに気付いたのかすぐに平静を取り戻す。凄い。私ならこのサイズの狼が来たら迷わず逃げて悲鳴をあげると思う。
『店主よ。その指輪とネックレスを買わせて貰えるか』
「こ、これは……凶獣様でしたか。少し値が張りますが大丈夫ですか?」
凶獣というのは恐れられる代表の筈だけど何故かこの街ではそれほど恐れられている様には見えない。何故か分からなくてシェティスに訊いたら『私に分かるわけないですぅ。馬鹿じゃないですかぁ?』とか言われた。腹立つぅ。
ガリアさんに訊いてみよう。この街の事なら住人に訊いた方が良いよね。
「あの、ガリアさんどうしてイルナが普通に受け入れられてるのですか?凶獣というのは魔物の頂点なのでしょう?」
「ん?あぁ、いやな。俺達もつい最近まではそう思ってたんだがな。スイっていう魔族が色々と常識をぶっ壊していってな。凶獣が魔族の素因だったかを取り入れた魔物であるとか意思を持った凶獣は無為に人を襲わないとか講義された時には驚いたな。確かあれは錬成の授業中に突如始まったな。今思えばあの娘はイルナの行動を予測してたのかもしれないな。それぐらいならしそうだ」
スイ……思った以上に精力的に活動していたようだ。
「そういや嬢ちゃんは魔族の悪魔か?」
「えっ?」
魔族の悪魔?魔族って悪魔の事ではなかったの?この言い方だと幾つか種族があるように聞こえる。
「あぁ、そっか。嬢ちゃんはスイと違って知識が無いのか。これは厳しいな。魔法の使い方どころか魔力の扱いも分からんわけだ。大変だが頑張れよ」
何故か励まされた。というか魔法があるのか。典型的な異世界といった感じだ。剣と魔法の世界。簡単に説明するならこんなところか。
しかし魔法か。確かにどう使って良いか分からない。聞いている感じでは基本的に扱える魔力が少ない人は使えない人も居るみたいだが大体の人は魔法が使える。というか使えない人が多いならこんな大々的に魔導具なんか売らないだろう。
そんなことを考えているとイルナが戻ってきた。口に小さな袋を咥えたまま。
「なにそれ?」
『ひははほはへひはっへひはほば』
「……ごめん。袋貰うね。何言ってるか全く分からない」
何故念話っぽいのに口に咥えた声みたいになるのか。
『貴様のために買ってきたのだ。中身は指輪とネックレス、ブレスレットだ。金貨が幾つか吹き飛んだな。思った以上に魔導具の値段が高いな。造れる者が少なくなってきたのかもしれん』
本当に買えたのか。というかお金をどこから出したのかそっちの方が気になる。あっ、店主の人がにこやかにこちらを見て頭を下げた。またのご来店を~とか聞こえてきそうだ。
「貰っても良いの?」
『我が持っていても仕方無いからな。それにもとより貴様のために買ったものだ。遠慮などするな』
「ありがとう。大事にするわ」
同級生の男子や女子に物を貰うことは何回かあったが狼から物を貰ったのは初めてだ。しかも聞く限りじゃ結構高額のものだ。しかしイルナにやってもらってばかりだ。お礼が何か出来れば良いのだが。
『私の分はないですぅ?』
『無い。適当に肉でも食っていろ』
そう言うと何処からかお金が出てくる。いや本当に今何処から出てきた。金貨と思われるお金が三枚ほど出てきてシェティスの身体の上に載せられる。金貨は割と大きいので潰されそうで少し心配になる。
『おぉ~!太っ腹ですぅ!いっぱい食べ歩きするですよぉ!』
シェティスはぱたぱたというよりバッサァ!って感じで何処かに飛んでいった。多分通り過ぎた場所に気になる物があったのだろう。でもシェティスの身体の大きさで何故あれほど大きな音がなるのだろうか。
『さてガリアよ。邪魔物は居なくなった。心置きなく話し合おうではないか』
気になりながら歩いているといつの間にか大きな建物の前に来ていた。何故か言葉こそ分かるが文字までは流石に分からない。中に入るとすぐに分かった。というより予想だが冒険者ギルドというものだろう。受付があり可愛い人や美人の人が応対している。近くにテーブルが十席近くありそこに併設されている幾つかのお店から料理を受け取ったりしている人も居る。
少し奥まったところに壁一面に作られた掲示板らしきものの前に男女が立って色々な依頼を眺めている。そう依頼だ。ならば冒険者ギルドでなくて何処だと言うのか。まあ単純にそうであって欲しいという私の願いかもしれないが。
つまりは異世界の小説とか読んだことある人なら一回は想像したかもしれない典型的な冒険者ギルドだ。もしこれで便利屋だったりしたら肩透かしを食らうけど多分違うだろう。何せ全員武器を持っている。便利屋だったら斧や槍は使わないだろう。まあ傭兵の可能性はまだ残っているけど。
そんなことを考えながらガリアさんに案内されるがまま二階に上がる。その一室に入ると書類作業をしていたらしい青い髪の男性が座っていた。しかし入ってきたイルナを見ると警戒の目を露にしていつでも動き出せるようにしている。
しかしイルナはそんなことは知らないとばかりにソファーにぐてっといった感じに寝そべる。私が座れないんだけど。抗議の意を込めてお腹をぐいぐい触っていたら尻尾でふわっと身体に乗るような形になる。いや乗っても良いなら良いけども。ふわふわしていて気持ちが良い。この毛の中に顔を埋めたら気持ち良すぎて寝て窒息死しそうだ。
私が乗ったことでイルナがすぐに動けなくなったと思ったのか青い髪の男性は警戒自体はやめないけど先程までの臨戦態勢とまではいかなくなった。まさかこれが狙いだろうか。いやそんなわけは無いか。
「さて……ガリアこの方は」
「ああ、凶獣イルナ。意思ある凶獣だ」
「それでそっちの女の子は?」
「見たら分かるだろう。魔族だ。多分悪魔だな」
「いや分かるんだけどね。ただどういう状況かいまいち把握出来なくてさ」
青い髪の男性は苦笑いをしながらも此方を見る目は一向に変わらない。まあ当然だろう。
『ふむ、青い髪に青い目。貴様がジールか。スイより話は聞いている。この娘を鍛えて欲しい。スイと同じく異世界よりの落とし子らしくてな』
イルナがそう言うとはぁっと大きな溜め息を吐いてジールと呼ばれた男性が頭を抱える。
「ああ、はい。あの子ですか。なるほど。色々と良く分かりました。ガリア、他の職員や冒険者達にしっかり言い聞かせてきて。この子に手を出すなって」
「分かってるさ。伝えてくる」
ガリアさんはそう言ってさっさと出ていってしまう。
『あれでギルドマスターか』
「あれでもマスターなんですよねぇ」
ガリアさんはギルドマスターだったのか。ならこの状況で放置して居なくなるのはマスターとしてどうなのだろうか。思わず出ていった扉を見ても仕方ないと思います。
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