第50話 遊んで甘えて一時の安らぎ
グルムスが変態発言をしている頃スイとルゥイは屋敷内のルゥイの部屋に来ていた。案内する予定だったがスイもルゥイも学園の寮に泊まることになる予定であり屋敷の間取り図など知っても仕方がなかったのとスイがそもそもあまり興味が無かったのでルゥイと遊んでいた方が楽しいからである。
「お爺ちゃんって本来はあの姿ではないのよね?」
「違うよ。元々は確か二十代半ば位だったかな?」
「若作りならぬ老い作りなのね」
ルゥイと下らない会話しながら二人はスイがノスタークで作ったオセロやトランプで遊んでいる。ルゥイは頭が良くルールをすぐに覚えたのでスイは経験者として手加減することもなく本気でやっている。現在は三回目の盤面染めが成功したところだ。
「スイ強すぎるんじゃないかしら?盤面染めって絶対そんなに簡単じゃないわよね?」
「ん、ルゥイがやり始めたばっかなのと元々得意だから、良く拓にもやったよ」
「タク?」
「ああ、そっか。ルゥイは知らないよね。私ね、多分だけど勇者と同じ異世界に居ててそこで死んだらこの世界アルーシアに転生したんだ」
「転生……そんなこともあるのね」
「ん、起きた時は驚いたよね。誘拐かなって思ってたら魔族で吸血鬼に転生しましたよって教えられるんだもん」
スイが当時の事を思い出して喋っているとルゥイが興味深そうに訊いてくる。
「誰に教えられたのかしら?」
「えっと、あれ?何て呼ぶんだろう?長方形の板みたいなやつでそこから父様の姿が出てきて事情とかを簡潔に教えてくれたんだよ」
「長方形の板……イングルムかしら?そこから光みたいなやつが出た?」
「出たね。それが父様の姿を映し出したよ」
「イングルムね、しかも千年単位で耐えるとなるとかなりのものね。それって今持ってるかしら?」
「持ってない。すぐに砕けちゃったからね。あとそのイングルムって力の継承とか出来るの?」
「出来るわけ無いでしょう。イングルムに良く似た魔導具なのかもね。まあ持ってないならそれで良いわ。あと四回も盤面染めされると流石に泣きそうになるのだけど?」
話しながらもオセロで再び盤面染めをするとルゥイに抗議された。スイ的には勝負事で手を抜くのはどうなのかなと思うのだが流石にやり過ぎたかもしれない。
「ん、そろそろ話も終わるかな?皆のところ行こうか」
「そうね。あと話を逸らしても絶対にこの事は忘れないからね」
誤魔化されてはくれなかったようだ。露骨に逸らしすぎたか。部屋から出て二人でグルムスの部屋へと向かう。特に理由はないがスイは自分とルゥイに認識阻害の魔法をかけて覗くことにした。何を話しているのか気になったのだ。ルゥイも特に止めはしなかった。やはり気になっているのだろう。二人で静かに扉を開いて中を見るとそこではグルムスが何やら悶えていた。
「あぁ!やはり愛らしい!スイ様ぁぁ!!」
話の内容は全く分からなかったが何だか凄い気持ち悪かったのでルゥイと二人顔を見合わせるとそっと扉を閉めて部屋に戻りトランプで遊び始めた。二人ともその間一切先程の事は話さなかった。二人で笑い合いながらさっきのが嘘だと良いなあと思いながらも忘れることにした。グルムスは業が深い男である。
「ルゥイ、スイ様話が終わりましたよ」
二人で遊んでいると暫くしてグルムスが扉をノックして入ってくる。
「ん、そっか。グルムスこれあげる」
スイがそう言って指輪から出したのはローレアにも渡したトランシーバー擬きの魔導具だ。使い方をある程度説明してから次は鉱石類を適当に取り出す。
「グルムスだったら何とか使えるものにしてくれるでしょう?私だとあんまり使わないで死蔵しちゃいそうだから最低限残して後はあげる」
「必ず使えるものにしてみましょう。あと貰うのではなく買い取りたいと思います。金は多い方が良いでしょうし。私達は大して金を使いませんので気になさらないでください。それでも気になるようなら全てが終わった時にハーディスのためにお使いください」
「ん、分かった。ならよろしく」
スイが渡した鉱石類をグルムスは自分の指輪に入れたのを確認するとまたスイが指輪から書類等を出す。
「あとこの書類に書かれた奴隷所有者……殺して奴隷の回収を」
スイが渡した書類はハルテイア達を売っていた奴隷商の顧客履歴だ。何処の誰に何人売ったか等が詳しく書かれているのでそう時間も経たずに事は終わるだろう。ルゥイもハルテイア達の状況は聞いているので殺害命令に関しても特に何も言わない。まあ街を完全に消しても何も言わないのだから今更かもしれない。
「分かりました。奴隷達はどうしますか?」
「ん、私達に付くならそれでも良し、付かないなら獣国にでも送ってあげて。とりあえず……はい」
スイは奴隷達の扱いだけ言ってグルムスに白金貨を十枚、金貨を五十枚ほど渡す。
「これは?」
「何かに使うかもしれないから一応渡しておく。適当に使って」
「……ふむ。分かりました。力を尽くさせてもらいます」
「ん、頑張ってね」
「……少女に使われる老人。何だか変な感じがするわね」
グルムスとのやり取りを横で見ていたルゥイがそんなことを呟いていたが元々の関係上は主君兼親友の娘と側近という名の従者だ。 この状況こそが当然なのだ。
少なくともグルムスにスイが使われたりしたら本人達は特に何も思っていなかったとしても他の魔族達は黙っていないだろう。何処からか聞き付けたデイモス辺りとグルムスが戦う羽目になりかねない。ちなみにそうなったら如何に強いスイであっても二人を止めるのは至難だろう。倒せはするが止めるとなるとスイの高威力過ぎる魔法は役に立たないからだ。
「……高威力の捕縛魔法でも開発しようかな?」
「……何でそんな話になったのかしら?」
スイの思考から漏れた言葉を聞き若干ルゥイが引いていた。当たり前である。いきなり何に使うかも分からない捕縛魔法の開発云々等言い始めたらそうなる。
「まあそれは良いとしてアルフ達は?」
「亜人族の子供には私の友人に会わせました」
「友人?グルムスに居たの?」
「居ますよ。というか酷いですね。スイ様も知っている方ですよ」
「誰?」
「エルヴィア様です」
すぐに答えたグルムスにスイはぽかんとする。
「待って?その……えっと、東の魔王エルヴィア?」
「ええ、あの方は討ち取られる間際にアーティファクトで転移したそうです。その際にアーティファクトを自壊させて爆発させ死んだと思わせたようですね」
「アーティファクトなのに自壊したの?」
「気になるのはそちらですか。はい。アーティファクトを壊せるアーティファクトがありますからそれを使ったようですよ」
「そんなアーティファクトがあるなんて知らなかった。グライスとかも壊せる?」
「秘匿されたアーティファクトですからね。グライスは無理でしょう。壊すことに特化したアーティファクトと言っても壊せる物は結構限られていますから」
「ん、そっか。なら良い。で、エルヴィアは?」
「庭の方に居ますが挨拶しますか?」
「いや知識の中の会話的に私が嫌いそうな人だから良い」
スイの知識の中のエルヴィアはなかなか自信家でかなり鬱陶しい感じだ。千年も経っているので性格が少し変わっている可能性もありはするがわざわざ不快な思いはしたくない。なので最初から会わないでおくことにした。
「アルフ達のこと寮に入るまでの間任せても良い?」
「構いませんがスイ様はどうなさるのですか?」
「とりあえず私は暫くぶりに母様に甘える。あとハルテイア達もよろしく。ミティック達は知らない」
スイは暫く放棄宣言をするとルゥイをぎゅっと抱き締めて持ち上げる。
「え?」
「じゃあ任せた。ルゥイは預かるね。一緒に遊びたいから」
「はい。任されました。ルゥイ、スイ様を困らせては駄目だからな」
「ええ?」
ルゥイは良く分かっていない内にスイによって何故か拐われたのであった。
「それで私のところに突撃して来たわけね~」
スイはトランシーバー擬きでローレアに連絡をして家の場所を聞くとルゥイを抱えたまま突撃した。ルゥイは暴れたのだがスイの妙に強い力を引き離せず途中からぐったりしていた。当然だが街の住民は目を丸くしていたがスイは魔法を使ってますよと言わんばかりに魔力を垂れ流して無駄にアピールしていたので不自然には思われなかった。変な目では見られたが。
「ん、母様遊びに来た。後イルゥも回収してくる」
スイはルゥイを下ろすとすぐに踵を返して屋敷に再び戻っていく。
「……」
「……とりあえずお菓子でも食べる?」
「貰います」
無駄なことにこそ行動力抜群のスイに二人は何を言おうか迷って結局無視して戻ってくるまでの間お菓子でも食べながら待つことにした。
「それで貴女は私のことを知ってるのよね~?」
「ええ、北の魔王ウルドゥアでしょう?」
「ふぅ、あの人にも困ったものね~。こういう可能性があるかもって言ったのに」
「多分だけどわざとじゃないかしら?私ぐらいの人族じゃないとあの塔には近付くことすら出来ないわ。その時点で一定以上の力の持ち主ということが確定するわけよね。あの書類はその人族、もしくは亜人族を味方に引き込むための物に感じたわ」
「そういう考え方も出来るのね~。私はてっきり研究者が自分の成果を遺したいだけだと思ってたわ」
「……その可能性もあるから否定しづらいわ」
「ただいま、何の話?」
二人で話していると後ろにイルゥを抱き上げたスイがいつの間にか立っていた。イルゥは最初から諦めているのかスイに寄り掛かるような感じで捕まっている。
「おかえり、いえあの人の事を考えていたのよ。あの人は何を思ってあの塔に書類を置いていたのかしらって」
「書類……あぁ、私を作るときの?」
「そうよ。私はそのお陰で貴女の存在を知ったけどあれは味方に引き込むための物なのかなって」
「え?違うよ。あれはただ書類整理が面倒で放置しただけだよ?」
スイは真実を暴露する。スイの知識はウラノリアの物のためスイが断言すると言うことは間違いないのだ。それに気付いた二人は微妙な表情を浮かべてスイとイルゥの口にお菓子を突っ込んだ。正直会話を続けるのは危険だと判断したのだ。
「それでその子がイルゥちゃんね~」
「あれ?イルゥと会ってなかったっけ?」
「帝都に来たときならイルゥは改竄して存在を誤魔化してたのです。ウルドゥア様も気付けていなかった筈なのです」
「改竄してたんだ。気付かなかった」
「既に認識している人は改竄しづらいのです。あとお姉ちゃんにする必要がないからやらなかったのです」
イルゥが改竄してまで存在を誤魔化したのは恐らくスイとの関係を希薄にするためだろう。そうすれば少なくともスイが身動きが取れないといった状況になっても動きやすい。イルゥは外見こそ幼いがなかなか強かな性格をしている。
「私も欺くなんて強力な素因なのね」
「強力だけどイルゥは他の属性素因を受け付けないのです。他に持ってる素因は新鮮と軽い魅了なのです。新鮮は食材がどれだけ腐っていても元の新鮮な状態に戻すです。魅了の方は周囲から可愛いね~って孫扱いみたいな軽いものなのです」
イルゥが自分の素因について話す。本来なら弱点になりうるので言わないのだがイルゥは味方になるのならと全てを明かしていた。
「そう。教えてくれてありがとうねイルゥ」
「当然なのです。私は戦う力は大して持っていないので生きるのに精一杯なのです。わざわざ敵対して死に急ぐなんて馬鹿のすることなのですよ」
「戦う力は大して持っていないと言っていたけど人族相手には勝てるのよね?」
イルゥの言葉に疑問を抱いたのかルゥイが問い掛ける。
「人災であるルゥイお姉ちゃんには勝てないのです。でもその辺歩いている警備員程度なら勝てるのです」
何を当たり前の事をとでも言わんばかりに応えたイルゥにルゥイは驚く。どう見ても十代にすらなっていないイルゥであっても大人を倒せるということを聞いて魔族の強さを再確認したのであろう。
「まあ私ならヴェルデニアや竜神クラスが来ない限りは国相手でも勝てるけどね」
スイはそう言って無い胸を張っていた。その妙な可愛さに三人がそれぞれ頭を撫でたり抱き付いたりするとスイは小声で呟いた。
「何か恥ずかしいな」
そう呟きながらも満更でもなさそうなスイであった。
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