第49話 ルゥイの過去
「眷属……?それって何かしら?」
ルゥイがスイに対して問い掛ける。それに対してゼスは渋い顔をしていた。当然だろう。メリットはあるがデメリットもかなりのものだ。しかも恐らく間違いないと思うが好きな相手がその対象だ。嫌な顔しないで受け入れられる方がおかしい。
「ん、眷属っていうのは簡単に言うと半魔族化?人族か亜人族は魔族と主従関係を結んで寿命の解放と力を一部受け継ぐ、魔族側は人手がメリットかな?デメリットは身体の改変に耐えきれずに死ぬ可能性があって姿が一生変わらない、その魔族が死んだら寿命関係無く死ぬってことかな」
「なかなかきついデメリットね。力を得る代わりに命と人生を捧げよということね」
「そうだね。でもその技術があるってことはそこまでして力を求めた人もいるし寿命が怖かった人も過去には居たってことだよ」
スイはそう言うとルゥイを見つめる。見つめられたルゥイは少し考えると首を横に振る。
「ごめんなさい。少なくとも今は無理ね」
「良いよ。特に期待は……って今は?」
「えぇ、流石に今は駄目よ。だって……」
「だって?」
スイが問い掛けるとルゥイは叫ぶ。
「姿が変わらないなら私はずっと少女のままじゃない!せめて後三年、いや四年くらいして大人になってからじゃないと眷属にはなれないわ」
「……あっ、ん、分かった」
スイは一瞬ぽかんとして頷いた。というかまさか眷属になることじゃなくて姿が変わらないというところに引っ掛かっていたなど誰が分かるのか。
「分かってくれたなら良いわ。ということで今は駄目よ。それに今だとゼスは少女趣味に思われるじゃない。流石に好きな人を貶める趣味は私には無いわ」
「……えっと、本人はこう言ってるけどお兄ちゃんの返事は?」
「この場面で僕に振るのか~。そうだね。眷属のデメリットを呑んででも僕と一緒に居たいって言うのは正直嬉しい。だけど本当に良いのかい?」
「良いのよ。それに今の私じゃ貴方には釣り合わないっていうのも分かったもの。スイに付いていくっていう面でもまだ私は弱いわ。眷属になればその問題は解決しそうだしむしろ歓迎よ。ということで大人になったら眷属化……よろしくね?」
ルゥイはそう言ってスイに目配せした。スイは恋する乙女は凄いなあと思いながらも頷いた。
「とりあえずお兄ちゃんあの屑達よろしく」
「ああ、分かったよ。二人はどうする?」
「ルゥイを宿に送ったら私も泊まってる宿に戻る」
「そっか。分かった。気を付けてね……さて、こいつらはどうしようかな」
ゼスと別れて歩き出すと後ろの方で呻き声が聞こえ始めたがスイ達は完全に無視してそのまま歩き出す。
「そういえばルゥイ、何処でお兄ちゃんと出会ったの?前から好きだったみたいだけど」
スイがふと疑問に思い問い掛けるとルゥイは少し悩んでから話し始めた。
「まず最初に前提として私はゼスが魔族かもとは思っていたわ」
「……えっ?」
「何故分かったのかって顔をしないでよ。別に貴女達魔族の偽装が下手とかそういう話じゃないわ。理由は簡単で私が物心付くくらい……大体四歳かそれくらいの時に私ゼスと会ってるのよ。その時と姿が変わってなかったからそう思っただけ。確か城塞都市から帝都に向かう馬車で盗賊に襲われたのよ。結構規模が大きかったのか護衛達は皆死んでいったわ」
そこまで語るとルゥイの泊まる宿に着いたらしい。話が聞きたかったのでスイも少しの間部屋に上がらせてもらうことにした。
「それで私達は盗賊に捕まったのよ。連れていかれた先には盗賊達が何十人も居たわ。私は怖くて震えていたのを覚えてるわ。父さんはその時に盗賊達に……玩具にされて蹴られたり殴られたりして遊ばれていたわ」
ルゥイが当時の事を思い手を握り締めていたのを見てスイはそっとルゥイの手を握った。それを見てルゥイは少し微笑むと話を続けた。
「父さんは私と母さんを助けるために自分が生きている最中は私達に手を出させないって約束させてやられていたのよ。馬鹿よね……そんなに身体が丈夫ってわけじゃないのにそのまま何と一週間も耐えたのよ。けどその後意識を失う直前に私達に向かって手を伸ばしながらね。ごめん、愛してるって掠れた声で何回も呟いてから亡くなったわ」
「……そっか。良いお父さんだね」
「ええ、自慢の父さんよ。誰にも負けたりしないくらい凄い……父さんよ」
少し涙を浮かべながら言いきったルゥイは指で涙を拭ってから続けた。
「その後は母さんね。今度は自分の身体を好きにしていいから自分が屈しなければ私を解放するだったかしら。解放するって言っても期限は決められてなかったから事実上無理なものなんだけど盗賊は面白がってそれを受け入れたわ。綺麗な母さんだったから代わる代わる男が来ては犯され続けていたわ。何日も何日も飽きずにね。その間私はそれを見させられたわ。何度こいつらを殺したいと思ったか数え切れないくらい考えたわ」
「……」
無言でスイは握った手を更に強く握り締めた。
「その時にね、冒険者がやってきたって外の見張りが言って何人かの男達が出ていったわ。冒険者って言っても一人よ?すぐに殺されると思って期待してなかったわ。そうしたらね、盗賊達の首だけを握った青年が入ってきたのよ。それがゼスよ」
「お兄ちゃんはどうやってそこを突き止め…あぁ、心を読んだのか」
「そうね。当時は分からなかったけどきっとそれで知ったんでしょうね。物凄い怒った表情で入ってきて私達を見ると悲しげな表情をしてね。すぐに母さんを犯してた男達を吹き飛ばすといつの間にか私と母さんは入り口に居たわ。その後はゼスの独壇場よね。魔法が凄い飛ぶわ近寄ってきた盗賊は切り飛ばされたり吹き飛ばされたりってまるで相手になってなかったわ」
ゼスは魔族としては弱い部類に入るが人族と比べると圧倒的な強者の部類だ。文字通り相手になどならなかったのだろう。スイはその状況がすぐに浮かんだ。
「盗賊達は多分二十分も持ってなかったわね。そして倒した後は私達を入り口から出してね。近くの街まで送っていってくれたわ。その時に母さんとゼスが何かを話してから私の事を母さんが抱き上げてごめんなさい、愛してるわって言ってね、息絶えたわ。殆ど気力だけで生きていたみたいで安心したらそのまま」
「……そう。愛されてるんだねルゥイは」
「ええ、愛されていたわ。凄く」
「……その後は?」
「ゼスに連れられて帝都に来たわ。その時に私の事を受け入れたお爺ちゃんが……ってもしかして魔族なのかしら?」
「名前は?」
「ええと、グルムスよ」
「げほっ!?あの人は何してるの!?」
思わぬ名前を聞いてスイは珍しく声を荒げる。
「知っているの?ということは魔族なのね」
ルゥイは大して驚くでもなく受け入れた。むしろその状況で魔族じゃない方がある意味不自然なので仕方無いだろう。だがスイの胸中は物凄い複雑だった。
「あぁ~、グルムスは知ってるよ。凄く」
「そう。どんな人なの?」
ルゥイが訊いてきたのでスイは前置きとして驚かないように告げる。ルゥイは特に何を言うでもなく頷く。
「えっと、まずはグルムスの立ち位置から言おうか。魔王ウラノリア、父様の数少ない友人で魔法開発の一任者で側近でもある。ついでに今では人族の神に扮してる可能性があってルゥイの……人災のお爺ちゃん?でもある。後私が知ってる限りじゃ魔軍の将軍の一人でもあって割と参謀的立ち位置に居た。父様の死後ヴェルデニアから離反した将軍達を率いていて私の生み出しにも関わってる」
「……頭が痛いわ。物凄い重要人物じゃない」
「ん、重要人物だね。ってことで出来たらグルムスの居場所を教えて欲しいな。連絡が取れないのは不便だから」
「分かったわ。流石に今は迷惑になるだろうから明日でもいいかしら?」
「ん、大丈夫……ってお兄ちゃんのことを好きになった経緯を訊こうとしたのに思った以上に暗いのとまさかの人物登場に完全に持ってかれちゃったよ」
「……否定出来ないわ」
そう言って二人は向かい合って少し笑うと後は当たり障りの無い会話をしてから明日の約束をしてスイは宿に戻ることになったのだった。ある意味罪深い男グルムスである。本人からしたら堪ったものではないだろうが。
「スイ、来たわよ。行きましょう」
翌日宿に来たルゥイに連れられて帝都の中心部へと向かう。中心部といっても実は帝都は幾つかのエリアに別れていてその内の一つの中心部という意味だ。実際に中心部が一つだけだと広すぎるが故に足りないのだろう。なので正確には学園前エリア中心部というのが正しい。前が付くのは単純に学園エリアが別にあるのだ。エリアを区切る際にどうしても一緒に出来なかったようだ。
ちなみにスイ以外にミティック達も来ている。グルムスに会いに行くと言ったら付いてきたのだ。そうなるとアルフ達も連れていくことになりハルテイア達を置いていけないので連れてきてとなったら大所帯になってしまっていた。
「……貴女達今更だけど人多いわよね」
「純粋な人族は実は居ないけどね」
「そういうことじゃないわよ……」
下らない会話をしながら向かった先は大きいが落ち着いた雰囲気の屋敷だった。
「グルムスはお金持ち?」
「さあ?お爺ちゃんが何してるかは知らないけどお金関係の揉め事は聞かないわね」
屋敷の前で話していても仕方無いので入ることにする。ルゥイが門を叩くとすぐに何処からか警備員のような者がやって来る。ルゥイの姿を確認して開けようとして私達を見て固まる。明らかに大人数でルゥイと関わり合うことがなさそうなミティック達は違和感だらけだろう。
「大丈夫よ。彼等はお爺ちゃんの知り合いで挨拶に来ただけ。開けてくれるかしら?」
ルゥイがそう言うと少し渋い顔をしながらも門を開ける。スイ達は少しだけ頭を下げてルゥイの後を追って屋敷に入る。
「ああ、そうだ。ミティック達の言っていた素因を預けたのってグルムスなの?」
「いえ、違います。ウラノリア様亡き後に発生した魔族ですのでスイ様はご存知無いと思います」
スイが後ろに問い掛けるとダスターが返事をする。
「血の誓約してるみたいだから良いけど本当なら駄目だからね?」
「分かっています。しかしヴェルデニアに表面上付き従っている者で付き従っていない魔族は貴重なのです。表面上だけ付き従っている者も居るのでしょうが私達にはそれを知るための時間がなかったもので」
「ん、まあ良いよ。味方みたいだし。それよりグルムス?さっきから見ていながら気付くか試すのは悪趣味だと思うよ?」
スイがそう前を向きながら言うと空間が揺らめきそこに白髪の八十代に見える男性が現れる。ミティック達は現在は弱体化しているため気付かなかったようで驚いている。アルフ達は大して驚いていない。亜人族は感覚が人族より優れているが今回は関係無い。何故ならグルムスは匂い自体を消していなかったので少し嗅げば亜人族ならそこに居ることぐらいはすぐに分かっただろう。
「そうでしたね。ミティック達が気付いた様子が無かったので少し試してしまいました。それで……スイ様で合っていますか?」
「ん、合ってる。魔王ウラノリアと北の魔王ウルドゥアの娘スイ。それよりグルムスは随分と老けたね?」
「老人の方が年齢調整しなくても大体誤魔化しやすいのでついこんな感じになりましたよ。スイ様は逆に可愛らしいお姿ですね。開発、いえ発生に携わっただけのことはあります。ウラノリア様だとここまで美しい少女にはならなかったでしょうね」
「自画自賛するのはどうかと思うけど確かに姿は良い。けど父様ってセンス無かったの?」
「無いですね。ドン引きするレベルです。スイ様が今着られているその服も私やウルドゥア様がデザインしたものです」
「そっか……その記憶が無いんだけど父様……」
「娘にセンスが無いとは言われたくなかったのでしょうね……微妙に格好付けたがりでしたから」
「……父様」
自らの父親の微妙な心境を思ってスイは完璧な人というのはそう居ないんだなぁと無駄に実感することになり場の雰囲気が微妙になってしまう。
「とりあえずミティック達は教育するとしてスイ様はウルドゥア様とはもう会われましたか?」
「ん、会ったよ。それで学園に行くことになった」
「そうですか。では私も本格的に動き始めることにしましょう。ルゥイ、お客様を案内しなさい」
「お爺ちゃんの話し方が……」
「……気にしてはいけません。亜人族の者達は私に付いてきなさい。スイ様はルゥイと少しの間離席していただけると」
「分かった。けどアルフ達は血の誓約で……」
「ええ、分かっています。少し話したいことがあるのですよ」
「……ん、分かった。じゃあルゥイ行こう?」
「えっ、分かりましたわ。行きましょうか」
二人が移動していった後にグルムスは本来の姿に戻る。白髪青目の穏やかな雰囲気の男性だ。
「さて、貴方達には色々と話したいことがあります。付いてきなさい」
グルムスはそれだけを告げると屋敷の奥に入っていく。ミティック達は何を言われるのかと少し躊躇いながら歩き出しアルフ達は迷い無く突き進んでいく。
グルムスが入っていった部屋に入るとそこにはスイの写真が何故か大量にあった。全員ぽかんとしていると真剣な表情でグルムスが言葉を発する。
「さて、スイ様の恥ずかしい姿や可愛いエピソード等を語りなさい」
あまりの変態ぶりに全員が固まったのは仕方無いだろう。やはりグルムスは罪深い男であったのだった。
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