第51話 学園見学



「……学園って考えてみたら世界中から人が来るんだよね。大きくて当たり前か」


スイ達はあれからローレアの屋敷で二日ほど遊んで過ごした後にローレアから学園の入学式が明後日だと聞いたので学園内の把握のために学園に向かっていた。

そして最初に学園入り口に置かれた地図を見てスイが呟いたのがそれだった。どう見てもノスタークまではいかずともホレスと同等の大きさかそれ以上の大きさである。地球ならまずあり得ない。帝都が広いのは分かっているが学園に当てられた土地はそれほどない。

しかしこれだけの大きさなのは簡単でスイが最初に来たときにも感じた内部拡張と次元隔離の魔法によって実際の広さが変わっているのだろう。それでもやりすぎだと思うが。


「これでも手狭に感じる人も居るって話だし実際はそんなこと無いのかもしれないわよ」


隣で同じように地図を眺めていたルゥイがそんなことを言う。


「信じられない。ここに一生住む気なんじゃないのその人?」

「かもしれないわね。まあでも教師とかは住み込みの人もいるみたいだし案外そうかも」


ルゥイと話しながら移動していると地面を走るモノレールのようなものを見付ける。近付いてみると形はモノレールそのものであり違いはレールが何処にも見付からないというところか。いやかなり致命的な違いだが。


「何これ?」


スイが疑問に思っていると目の前のそのモノレールに二人の男女が乗り込み何やら操作しているとモノレールの扉が閉まり空に浮かび上がる。


「あぁ……レールが無いのはそういうことか」


空に浮かび上がりそのまま何処かに飛んでいったモノレール?を見ると空には幾つも同じようなものが浮かんでいっては何処かに飛んでいっている。


「……何かここだけSFの世界みたい」


スイが呆然と呟いているとルゥイが誰かを引き連れて戻ってきた。どうやら知り合いを見付けたようだ。


「やぁ、スイ」


知り合いというより自分の今世の兄のゼスだった。


「ん、お兄ちゃん久し振り?」

「そうだね、数日振りだ」


スイはそっと然り気無くゼスの腕を取る。ゼスはちらっとルゥイを見たが特に気にしていないようなので少しだけ安堵する。

それを見たスイは少しだけ意地が悪そうな笑みを浮かべると偽装魔法を掛けまくってから成長を使う。美しく成長したスイを見て思わずゼスは見惚れる。

成長の瞬間が偽装されていたのとルゥイが目を逸らしていたタイミングでやったせいでルゥイはスイと気付かなかったのかゼスを見てムッとすると腕に抱き付きながら肘でゼスの腰を抉る。更にシャイラの柄をグリグリと押し付ける。そこまでしてゼスは痛みを堪えながら笑顔を浮かべてルゥイを撫でる。


「ふふ、ごめんなさいね。ルゥイ。私達愛し合っているのよ」


しかしスイが演技しながら爆弾を落とす。スイの本気の演技は拓と湊を除けば誰にも見破られたことがない。ちょっとした演技ならば勘の良いアルフは見破るが本気となると見破るどころか違和感にすら気付かないだろう。当然スイと出会ってまだ数日程度のルゥイが見破れるものでもない。


「ゼス……どういうことかしら?」

「ルゥイ違うからね?こら、スイ駄目だよ」


ルゥイの怒りのオーラに顔をひきつらせながらもすぐにゼスは間違いを訂正する。種明かしをすぐにされてスイは少しだけむくれながら再び偽装魔法を掛けまくってから退化する。


「もう少し遊ばせてくれても良いのに」

「スイなの?」

「そうだよ。ルゥイ。これが魔族の特徴の一つ、成長と退化だね」


スイがそう言うとルゥイが興味深そうに頷く。しかしすぐに据えた目付きに変わりスイの頬をむぎゅっと指でつまむ。


「ルゥイ痛いよ」

「痛くしてるのよスイ」

「二人ともやめなさい。今は学園を案内するよ」


ゼスがそう言って二人の頭をぽんぽんと叩く。その様子を遠くから見つめる存在がいた。


「何なのです!ゼス様とあれほど親しそうになさるあの方々は!」


その存在はそう言って暫く眺めては怒りを繰り返している。当然スイ達は全員気付いているが正直関わりたくなかったので無視を決め込んでいた。


「で、あの娘は誰?」

「僕の……追っ掛けかな?」

「お兄ちゃんモテモテだね。ヒューヒュー」


ジト目で問い掛けたルゥイに対しゼスは少し悩んでから答える。スイは適当に煽った。こういう恋愛事情などは結構好きなスイからしたら目の前で繰り広げられそうな修羅場は大好物である。


「スイ……貴女変わってるわね」


何故かルゥイに呆れられた。解せぬ。



「ここが主に学園の授業が行われる場所だよ。さっきまでの擬似的な街は生活するための空間だね。あそこで授業することはまず無いよ」


ゼスに案内された場所は試験会場であった場所より少し離れた所にあった校舎だ。試験会場はあくまで試験会場であって授業があそこで行われることはないらしい。土地がやたら広くなっているがゆえに出来る無駄遣いである。

校舎の見た目は地球の高校などと変わらない。やはりここも地球人が関わっているのだろう。若干その人が気になったスイだが恐らくもう亡くなっているだろう。というより百年以上経っているから亡くなっていなければ普通に怖い。そこでふと疑問に思ったスイがゼスに問い掛けた。


「ねえ、お兄ちゃん」

「ん?どうしたんだい?」

「勇者って召喚何回目?」

「何回目?つまり父さんが死んでから何回行われたかってこと?」

「そう」


少し考えてからゼスは答える。


「確か今回ので六回目じゃないかな」

「……六回。それってヴェルデニアが来なかったから召喚する必要が無かったってこと?」

「いや?ヴェルデニアはずっとこの千年の間攻め続けているよ」

「……六回、六回かぁ」

「何か気になるのかい?」

「気になる、というより十回以上されてないと変だなって」

「十回以上?どうしてだい?」

「私の知らない異世界が何個もあるなら別だけど同じ世界なら人間は百年も生きれないんだよ。いや生きる人も居るけど極少数でね。生まれたばかりの赤ん坊とかなら百年生きてもおかしくないけどそれは勇者としては使えないでしょう」

「百年しか生きられないのかい?勇者の中には二百年以上生きている人も居るけど」

「二百…身体の構造おかしくなってるんじゃない?」

「さあ?そこまでは分からないけど今も生きてるよ」


ゼスがさらっと言った言葉にスイはぽかんとする。


「あぁ、なるほど。正に生きる伝説なわけだ」

「二百年生きてる勇者って上城晃だったかしら?そんな感じの名前だった筈よ。今はアルドゥスで賢者として居るわ」


ルゥイが言った名前は地球の名前のように感じる。であればやはり身体の構造がおかしくなるかもしくは此方の世界に来ると老化が遅くなるか単純に寿命が延びるのだろう。


「だから今アルドゥスには元勇者が二人、現勇者が一人の三人いるわ」

「あれ?まだ一人いるんだね」

「ええ、まだ若い勇者なのに呼び出されたから驚いたのよね。双葉未央っていう女性よ。二十代の筈ね」

「だからアルドゥスは無理矢理決戦を仕掛けようとしている可能性があるんだよね。それを少し止めようと母さんは奔走してるんだよ。今挑まれて勇者どころかアルドゥスが落とされたら洒落にならないからね」


自分の母親であるローレアが色々動いているのは分かっていたがそういうことだったのかとスイは納得した。イルミア帝国の大臣らしいローレアが何故ノスタークに居たりしたのかがようやく分かった気がする。


「まあそれは偽装でスイを然り気無く迎えに行くのが目的だったけどね。ただ少し変な…いや何でもない」


何か気になるのかゼスは言い淀んだ。まるで聞かせるつもりではなかったのをぽろっと溢してしまったような感じだ。隠し事をされているようだがスイはつつくことはしなかった。無理矢理暴く必要はないしされたくもないだろう。そう思いゼスを見ると苦笑いを浮かべてスイの頭を撫でた。


「そうだわ、スイ。貴女にお願いがあったのよね」


撫でられているとルゥイが突然そんなことを言う。


「お願い?聞ける範囲ならやっても良いけど」

「簡単よ。スイって今までアルフ達を鍛えていたんでしょう?」

「ん?そうだね」

「それを私にもお願いしたかったのよ。やっぱり人災だなんて言われても強い魔族には敵わない。けどそれじゃ嫌だからもっと強くなりたいの」


そう語るルゥイの目は真剣だ。


「良いよ。けど代わりにルゥイ剣を教えて?私のは自己流……というか適当に振ってるだけだからこの辺りでしっかりと身に付けたい」

「ええ、ならお互いに鍛練しあいましょう?きっと楽しくなるわ」


ルゥイの目は楽しみで彩られている。スイは仕方がないなぁといった表情だが雰囲気は楽しみで仕方がないといった感じだ。それを見たゼスは似た者同士だなぁと思い、参加出来ない自分を少し苦々しく思った。



――???――

「本当にやるのか?」

「ああ、作戦に変更はない」

「我らの想像主よ。我らに力を」

「あいつは放っておけ。やるのは明後日」

「時代が変わるのか」

「我らで変える。今の世を流し新しき世を」

「死を恐れるな。我らの死は未来に続く道となる」

「「「そう、我らの血は、肉は、魂は永遠に」」」

「……頑張ってね、狂った人形達」

「「「はい。我らの想像主ルル様」」」

「……あっは。じゃあ精々派手に暴れてね」

「「「我らの死を捧げましょう」」」

「……気持ち悪いな。じゃあいってらっしゃい」

「「「聖戦の時は近い。世を流してきましょう」」」

「……さて、貴女はどうするかな?ウルドゥア」

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