第45話 試験二日目



実技試験を行った翌日再びスイ達は学園に来ていた。場所は昨日とは違い階段状になった教室だ。地球にもあるような教室なので地球の人も関わっているのかもしれない。というか調べた限り学園自体に関わっているようなので間違いなく関わっているだろう。

教室内には既に結構な人数がいた。子供が最も多いが成人している者もそう少なくない。亜人は少ないが決して居ないわけではない。但し奴隷なのが半分以上を占めている。奴隷であっても学園に通わせるだけマシかもしれない。それが好意によるものか悪意によるものかは分からないけれども。

とりあえず私達は適当に窓側の空いている席に座った。アルフが通路側でその隣にフェリノ、私、ディーン、ステラと座った。席順に特に意味はない。試験者の子供達は私達を時折見ている。その視線に含むものはあまりない。言い切れないのは明らかに不快そうな視線があるからだ。成人している者はそれが更に顕著になる。好意的なのはとことん好意的だが逆もまた酷い。

嫌悪感だけならまだ良いが一歩間違えれば殺意に等しい感情を抱く者すら居ている。恐らく亜人に対する殺意というよりは半魔族と呼ばれているからだろう。つまり魔族への殺意がそのまま亜人族に向かっているものと思われる。

スイは特に気にしないがアルフ達は微妙に居心地が悪そうだ。アルフの方には何だか嫌悪感より嫉妬?っぽいものが送られてるように感じる。ステラやフェリノは可愛いからね。ディーンも話したりしなければ女の子っぽく見えるし仕方ないかも。その辺りは我慢して欲しい。

暫く待つと先生というより教官という感じの男性が入ってくる。良く見ると昨日の担当の男性だ。あの時既に教室毎に分けられていたのかもしれない。それならルゥイも居なければおかしいのだけど。


「よし、揃ってるな。なら早速試験を始めようと思う。この中には昨日居ない者もいるが気にするな。単に別の日にやってるだけだからな。ってことで配るから時間内に終わらせろよ」


疑問も解消されたので配られた用紙に目を向ける。内容は様々だ。教科毎に分けることはしていないようだ。分けていないのは分類が難しいからかもしれない。もしくは分けるのが面倒だからか。

とにかく用紙に答えを書いていく。ペンは学園側が用意したものだ。さっさと書き終わり周りを見るとまだ結構な人数が用紙とにらめっこしている。どうやら早く終わり過ぎたようだ。

アルフ達もうんうん唸りながら用紙に向かっている。暇だ。かといって話し掛けたりするのは駄目なので時間が来るまで答えを見直したりチラチラ周りを見ていた。ペンは置いているのでカンニングとは間違えられない。おかげで四回も見直しすることになった。


「時間だ。全員ペンを置け」


アルフ達は最後まで結構唸っていた。大丈夫かな?


「アルフ兄、フェリノ姉大丈夫?」


ディーンが二人に声を掛ける。ディーンとステラは結構早い段階で終わっていた。勉強会の時も二人はそれなりに賢かったからね。魔法の勉強とかをしていたからかな?アルフとフェリノも賢くない訳じゃないんだけど今までしていなかったから二人より劣るのは仕方ない。勉強していったら取り返せるだろうし頑張って貰いたい。


「大丈夫……だと思いたい」


不安な一言を呟くアルフ。大丈夫だと思いたいな。出来るなら全員で通いたいし。


「よし、じゃあ最後に全員付いてこい」


担当の男性が声をあげる。


「ん、皆行くよ」


私が声を掛けるとアルフとフェリノは少しだけ不安な表情で立ち上がりディーンとステラは余裕が見える表情で立ち上がる。昨日と立場が逆転してるね。何だか面白い。私は知らないうちに笑顔になっていた。



「これから行うのはお前達の実力を測るものだ。昨日とは違うぞ。今回のは魔力量や属性を調べるものだからな」


男性に連れられて来たのは昨日と同じ演習場だ。そこに魔力を放つ紫色の珠があった。


「…………」


私は自分が険しい表情になっているのを自覚していたけど戻そうとは思わなかった。険しい表情といってもいつもと一緒で無表情だと思うし。けれど最近私の雰囲気を読むことが出来るようになったアルフは分かったようだ。


「どうしたんだ?スイ」

「ん、あの珠……素因なんだよ。持ってた人も知ってるからちょっと…ね」


そう呟いてその素因、≪把握≫を見つめる。あれを持っていたのはテスタリカだったっけ。父様が良く武器をメンテナンスしてもらっていた。あれはテスタリカの基幹素因だったから既に亡くなったということなんだろう。誰に殺されたのかは分からないけど必ず仇は討ってあげるからね。

そう心の中で誓っていると説明が終わったらしい。聞いてなかったや。まあ大丈夫だよね。


「よし、次ステラ。珠に触れるんだ」


ステラは微妙に私の言葉が聞こえていたようでこちらをチラチラ見る。それを見て男性が少し考えてから私に向かって声を掛ける。


「スイ、君が先に触るんだ」


どうやらステラが奴隷だから遠慮していると思ったのだろう。ステラはそういうつもりではなかっただろうけど都合がいい。


「ん、珠に触ってどうしたら良いですか?」

「ああ、自分の持ってる魔力を全て叩き付けるんだ。それは壊れる心配はないから気にしなくていい」


壊れる心配がないのは素因としての特性で元に戻るからだろう。スイは頷くと≪把握≫に触れた。


「……テスタリカ、私に力を貸してね」


小声で呟くとスイは自らの魔力を全力で叩き付けた。その瞬間にサッと≪把握≫を回収した。スイの魔力はとてつもない奔流となって辺り一面に拡がると爆発した。

爆発が治まるとスイの周囲はクレーターになっていた。深さはおよそ二メートル半程で範囲は半径二メートル程。スイの立っている場所だけ残っているので不思議なことになってしまっている。


「ん、珠が壊れたけど弁償しろとか言わないよね?」


スイはしれっと男性にそんなことを言う。男性は青い顔をしている。まるで化け物を見るような目だ。鬱陶しい。スイはアルフ達の元へ戻る。試験者の全員が呆然としている。


「あ、あぁ~。どうすっかな。珠壊れちまったな。仕方ねぇ。また日にちを改めて調べるぞ。ギルドの方で借りたら大丈夫……だろ。多分」


ギルドの方にあるのは恐らく≪把握≫を参考にした魔導具だろう。いったいいつテスタリカは亡くなったのだろうか。仇の情報は積極的に調べていくことにしよう。誰か分かったら報いを受けてもらおうか。



「昨日振りねスイ」


あの後解散した私達が学園から出るため歩いているとルゥイと出会った。


「ん、昨日振りだねルゥイ」


そう返して私はルゥイの頬を触る。


「……スイって実は女の子が好きとかじゃないわよね?」

「違うよ。ルゥイのほっぺた何だか気持ちいいから触ってるだけだよ」

「まあ良いわ。いや良くはないけど良いわ。それでこの子達は誰?奴隷っぽいけど」


そう言ってルゥイがアルフ達を指す。


「ん、私の奴隷だよ。きっと恋に落ちてる」

「……どういうこと?」

「……ごめん。冗談だから」

「えっと、自己紹介した方がいいよな?俺はアルフだ。こっちが妹のフェリノ、エルフのステラと…」

「ディーンだよ。よろしくね」


アルフの自己紹介を自然に遮ったディーン。亜人であると分からない方がディーンにとっては都合が良いからね。


「ふぅん。私はルゥイよ。一応人災なんて呼ばれてるわ。気軽にルゥイって呼んで。スイみたいに気軽過ぎるのもどうかとは思うけどね」


さらっと混ぜられたカミングアウトに驚く。


「人災?」

「そうよ?というか知らなかったの?ちょっと調べたら剣聖ルゥイって分かった筈だけど?」

「知らなかった。調べてないから」


確かに人災とまで呼ばれる者なら隙がないのは良く分かる。というか何故気付かなかったのか私。


「そう。まあ人災なんて呼ばれてるけどこの学園じゃただのルゥイよ。気にしないで」

「ん、分かった。ルゥイ」


そう返すとルゥイは少し微笑む。


「とりあえずスイにはさっさと私の頬から手を離すことを提案するわ」

「暫く嫌かな」


すぐにそう返してルゥイの頬っぺたに手のひらを当てたりしていた。私はそっち系ではないからね?



――ある獣と少女――

『ここがノスタークだ』

『そんなどや顔で言われてもここに来るまでに三回はずれたことを忘れたりしないですからねぇ?』

「何でも良いわ。早く入りましょう?」

『ふむ。では入るか』

『素直には入れないと思いますけどどうするんですぅ?』

「私がイルナ達を使役してるとかどう?」

『魔物を使役出来るわけがないだろう。それが出来るのは魔族の男ただ一人だけだ』

「そうなの?」

『ゲームでしたっけ?そういうのとは違いますからねぇ。出来ないものは出来ません。というかその男であっても私達みたいなのは無理ですよぉ。仮にも魔物の頂点に座するものですからねぇ』

「じゃあどうするのよ」

『ふむ?普通に話せば良いのではないか?我等は意志疎通が可能であるからな』

「そうね。そうしましょう」

『あっ、でもルーレも気を付けないとですよぉ?今は世界中で魔族嫌われてますから。ばれたらすぐに首が吹き飛びますからねぇ』

「それ本当?」

『嘘ではないな。だがノスタークには娘の協力者が居るようだからな。何とかなる可能性は高い』

「そっか。なら期待しましょう。危なそうならイルナが助けてくれるのでしょう?」

『ふん、面倒だが仕方無いな』

『とりあえず私が門番に声を掛けてきましょう』

「シェティスに任せたら変なことになりそうだから私が行くわ」

『酷くないですぅ!?』

『酷くはないな。正当な評価だ』

『ぶーぶー』

『煩い。くわえるぞ』

「食べちゃ駄目だからね?とりあえず向かうわ」

『我等はどうする?』

「……そうね。一緒に行きましょう。万が一があったら私だけじゃ逃げれないから」

『了解だ。では行くか』

『おー』

「えぇ……何もないことを祈るわ」


そして湊達はノスタークへと向かった。

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