第44話 試験



シュイン……!

甲高い音が演習場内に響き渡る。フェリノが振ったフィーアが鳴らした音だ。澄んだ響きの音だがその結果が引き起こしたのはかなりのものだ。まず周囲にフェリノが立てた土柱は全てサイコロ状になるまで二秒と掛からずに切り刻まれた。それが途轍もない速度で行われたことは地面に刻まれた轍のような足跡で分かる。

当然だがフェリノも合格だ。担当の男性が青い顔しているのが特徴的だ。フェリノが合格したことでステラとディーンの緊張が少し和らぐ。アルフとフェリノはこういう場では緊張しなかったようだがステラとディーンは使う武器の特殊性ゆえに緊張していたのだ。それも二人があっさりと合格したことで和らいだようだが。

ステラは普通に渡された剣であり得ない軌道で剣を振り続けた。振った瞬間に剣が逆再生するかのようにすぐに戻ったり途中で曲がったりと軌道が読めない。これは恐らくヴァルトの制御に使う魔法で剣を制御しているのだろう。応用まで出来るようになっていたのでそろそろヴァルトを百本ではなく二百……いや三百本位にしても大丈夫かもしれない。最終的には一騎当千に……意味はまるっきり違うが千本位使ってみて欲しいものだ。

ステラもまた合格だ。ヴァルトを使っていたが四本しか使わなかった。実力を全部見せる必要はないということか。弓は試験者には使えない者の方が多いのでパスだ。

ディーンがある意味一番危なかった。ディーンが使うのは鉤爪。その理由も剣を持ってまともに振るうだけの力がないからだ。一番軽い剣を渡されていたが少しよろけていた。剣技などまともに出来はしない。しかしステラに次いで高い魔法の威力と鉤爪に変えてからの動きを見ると男性は少し考えた後に合格を言い渡した。ディーンの笑顔を見ると私は頭を撫でていた。少し恥ずかしそうにしながらも嬉しかったためかいつもなら文句を言うのだが大人しく撫でられていた。可愛い。

そして私の番だ。先程から見ていたから魔法を使ってその後は剣技を披露して個人の武器を使う。分かっているが困ったのは魔法だ。実は火球ファイヤーボールは未だにちゃんと成功しない。まともに使えるのは自ら作り上げた魔法だけだ。

しかしスイが作り上げた魔法は獄炎ゲヘナやら暴禍メイルシュトロームなどかなりの広範囲を攻撃する高威力魔法ばかりだ。かといって攻撃魔法以外では特に点数にはならない。あくまでこの学園は戦技養成学園の名の通り戦う技術の養成をメインにする。補助魔法などならもう一つの学園をおすすめされてしまう。仕方無いので少しだけ男性に離れるように言うと比較的被害が少なそうな魔法を使う。


「……天雷ケラウノス


呟くと私の身体から膨大な魔力が出ていき空に展開される。範囲は極小、威力はかなり抑えたが使った魔力量的に少し危険かもしれない。発動までに時間をかなり長めに取ったのでその間にアルフ達を下がらせ範囲内を囲むように結界を張る。男性が青い顔しながら下がっている。少しやり過ぎたかもしれない。そう思った瞬間発動した。

一瞬にして演習場を眩い光が蹂躙していく。魔法こそ結界内で収まったがそれによって発生した光までは防がなかったのだ。強烈な光によって演習場内に居たほぼ全ての人の目を焼いた。当然だが先程からずっと見ていた試験者達や担当の男性は直接光を見たということで。


「…………ごめんなさい」


スイが発動した魔法で目を焼かれた者達がその場で目を押さえながら唸る光景が出来上がった。



暫くしてからようやく復活した男性は未だに目をグリグリ押さえながら合格を言い渡した。剣技を見る前に合格を言い渡されたのはある意味例外かもしれない。けどスイはやるならとことん上を目指したいので無理矢理剣技を披露することにした。アルフ達は苦笑いだ。


「さっきみたいなのは勘弁してくれよ」


そう言いながら剣を渡してくる男性。


「……大丈夫です。それより評価が高いのってどんな感じのやつですか?」

「言うわけないだろう」

「そっか。残念です」

「……何でそんな点数高くしようとしてるんだ」

「やるなら負けたくないので首位を目指してます」

「……さっきの魔法で結構高いがなぁ」

「それでも万が一にも負けたくないので」


スイはかなり負けず嫌いなのだ。そのせいで前世ではスイ、湊、拓也の順番で常にテスト上位に居た。拓也と湊は順番が逆になる場合もあるが大体この順番である。幼馴染みはスイと拓也に引っ張られて成績がやたら高くなっていた。ちなみに体育などはスイは最初から諦めていたので運動の成績自体はかなり下である。

だが前世とは違い今は身体がかなり強い。諦める必要などないのだ。そう思うと負けたくないという気持ちが溢れてくる。

スイは渡された剣を持つとゆっくりと構えた。そして動き始めた。優雅に華麗に動くスイに初めて見たアルフ達も目が釘付けになっている。スイの剣技披露はおよそ十分ほどだったがその間誰も声を発さずただじっと見つめた。

剣が空を斬る音だけが響く。そして最後にまた同じ体勢に戻る。どこまでも優雅に華麗に動いたがそれはあくまでも敵が居ないからだ。その場に居た者にはそれが分かった。もしも敵として居れば全く歯が立たないほどに隔絶した実力を持った者となるだろう。

剣速は速い上に空を斬る音は重厚感すらある程大きい音が響き渡る。敵として相対すると剣が速く重く技術もある。勝てる要素の方が少ない。その上実際には高威力の魔法も使ってくる。この場に居た誰もが敵にならないことを祈ったであろう。

その中でもアルフだけはスイの剣技をじっと見ていた。その目は強者の在り方を見る一人の戦士の目だ。フェリノ達はそこまでとはいかないがスイの剣技に呑まれてはいなかった。優秀な子達である。

スイ達はその披露を終えると演習場から出ていく。その際にスイはつい最近会った少女の姿を見付ける。魔族擬きの戦いを見ていたあの少女、ルゥイだ。彼女も試験者らしく堂々と演習場内に入っていく。ルゥイもスイが見ていたことに気付いたのかこちらを見ると笑顔を見せる。しかし少し離れているのもあり話し掛けに来たりはしない。なのでスイは手を振るだけに留めた。ルゥイもまたそれに気付いて手を振る。そしてそのまま男性に引き連れられてルゥイは演習場の奥に向かう。スイ達も今度こそ演習場から出ていった。


「さて……私たちにとっての試験本番は明日だよ。皆勉強したけどしっかり覚えてるかどうかチェックするよ」


演習場を出てすぐに言ったスイの言葉に四人は引きつった笑みを見せた。




──ある獣達──

『ふむ……ここはどこだ?』

『えぇ……師匠分からずに移動してたんですか?』

『ふん、ここ何百年ほど移動していなかったからな』

『ここは……オルディンじゃないかなぁ?多分』

『オルディン……ノスタークでは無いのだな?』

『違いますねぇ。むしろ通りすぎちゃってますよぉ』

『では戻るぞ』

『ここまで来たのにですかぁ?折角初めて来た街だしゆっくりしたいんですけどぉ』

『我等がか?馬鹿なことを言ってないで行くぞ』

『師匠と違って私は入れますよぉ』

『知るか。ノスタークまで案内しろ』

『どうしてノスタークなんですかぁ?』

『我が友の娘の初めて訪れた街らしくてな。それなりの期間居たと聞いている』

『それでぇ?』

『だから我が暫くの間居て憂いを無くしてやろうと思ってな』

『その娘さんが私達が居てること知らなければ意味無いんじゃ?』

『…………どうしても伝わらなければ鳥、お前が帝都に飛んでいけ』

『私伝書鳩じゃないですからねぇ?』

『知るか。あとヴェルデニアが来た時も帝都に飛んでいけ』

『……私居る意味あります?』

『特には無い』

『……』

『何だ』

『いや私何処か飛んでいきたいなぁって。具体的には師匠に見付からないところを』

『ふっ、そんなものはない。我が死ぬか貴様が死ぬかのどちらかのみだな』

『何その究極手段ー。最悪ですよぉ』

『それぐらいでなければ……何だあれは?』

『ん~?人っぽく見えますねぇ。女の子でしょうか』

『女か男かはどうでも良い。魔族だろうあれは』

『ですねぇ。どうします?』

『娘のようなものも居る。話ぐらい聞いてやろう』

『内容次第だと?』

『そうだ。敵でないならわざわざ殺す必要もない。そもそも味方かもしれんのだからな』

『師匠って娘さん好き過ぎません?』

『む?決して嫌いではないな。ああいうのは今まで見たことも無かったからな。面白い者だ』

『ほぉ……会ってみたいですねぇ。とりあえず貴女はどうします?抵抗するなら切り刻まれますよぉ?師匠の爪で』

『……自分ではせんのか』

『しませんよぉ。そもそも私の爪だと切り刻むまでは出来ませんし』

「……喋る鳥と喋る狼さん、ここはどこかな?」

『む?ここは……どの辺りだ鳥』

『いやさっき言いましたよぉ?オルディン付近です』

「えっとそうじゃなくて……この世界の名前は?」

『世界の名前だと?』

『……この子って師匠が言ってた娘さんと同じ感じじゃ無いです?』

『そんなポンポン出てくるのか?』

『いや知らないですよぉ』

「……娘さん?私と同じ……まさか、まさか…!あの!その娘さんの元に連れていって!お願い!」

『食い付いたな』

『食い付きましたねぇ。どうします?師匠』

『ふむ……』

「お願い……!」

『悪い者には見えん。連れていっても良いだろう』

「ありが……!」

『但し条件がある』

「条件……?」

『うむ。まずは我等と共にノスタークに向かう。そこで貴様は鍛えてもらえ。我等も手伝う。理由は分かるな?』

「……えっと、貴方達みたいなのが居るから?」

『……まあ我等のようなものは少ないが我等と起源を同じくする知性持たぬものは居る。出会ってすぐに殺されては意味無いだろう?』

「確かに……分かったわ。条件を飲む」

『決めるのが早くないか?』

「どっちにしても貴方達に付いていかないといけないもの。ここに居てもすぐに殺されるんでしょう?なら生き残る道を選ぶわ」

『そうか。では行くぞ。我の背に乗ると良い。鳥はこやつを支えよ』

『分かりましたぁ。あっそういえば自己紹介とかした方が良いですよねぇ?』

『む、そうだな。我はイルナだ。そこの鳥はシェティスという』

『シェティスですぅ。よろしくですよぉ』

「あっ……私は」

『この世界の名前が無いか。なら我が付けてやろうか。力ある名でルーレというのはどうだ?進む者という意味だ』

『あっ、私も名付けたいですぅ!ホルポンファンクスとかどうですか!意味は峻厳なる谷底に潜みし者です!』

「……ルーレでお願いします」

『えぇ!ホルポンファンクス駄目ですか!?ならトーランナイクスとかどうです!天刻みし闇の者とか!』

「……ルーレで」

『えぇ!そんなぁ!』

『鳥よ。貴様はセンスがない。諦めよ。それと元の名前は何だ』

「あっ、そうね。私の名前は……湊よ。榛原湊。よろしくねイルナ、シェティス」


そう言って魔族の少女湊はにこやかに笑った。

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