第31話 拷問と吸血とほわほわ
スイはレクトと別れた後アルフの方を見ると何故か不機嫌そうにしていたのでどうしたのか訊いてみたが何でもないと言ってそれ以上何も言わなかったので言いたくないこともあるだろうと思って馬車の作成に入った。
「ん、出来た」
二台も作ったお陰か多少効率的に作れたので機能を多少追加したりした。馬車内の温度調整や馬がいなくてもある程度なら車輪を回転させて移動することが出来るようになる自走機能、盗難防止用に地面と連結して動かないようにする簡易錬成機能、分解は一個の岩みたいになってるので出来ないと思うが溶かされたりしたらどうなるか分からないので防衛機能と修復機能を追加した。大きさがそれなりにあるのでまだ魔力回路的には他にも追加出来るが今のところ思い付かないので一旦保留とする。
車輪が回転するのならば馬が必要にならなさそうだがそんなことはない。舗装などされていない道はかなりの悪路で車輪の回転の力だけでは動けなくなる可能性もある。それに当たり前だが目立つ上そもそも速度が大して出ない。あくまでも魔物などに馬がやられた際の予備の機能でしかないのだ。
「そういえばアルフ依頼を受けた?」
「ああ、郵便配達の依頼で適当に済ませといた。もう移動するのか?」
「ん、この街好きじゃないからね。捕まえてきた男達を洗脳して放ったら出るよ」
「洗脳って……あいつら何かしたのか?」
「襲ってきて…いや襲う前に気絶したから何もされてないね。まあ考え方を多少……結構変えるだけだよ」
「そっか。まあ程々にしとけよ」
スイは宿に戻ってハルテイア達の部屋に入る。気絶した男達を見られたら面倒なので偽装魔法で見えなくしてから入れたため部屋を取っていないのだ。
部屋にはハルテイアと熊の男の子、フェレットのような尻尾を持った女の子が二人いた。女の子の方は姉妹のようで二人とも少し儚げな感じの美少女だ。そして床に縛られて置かれている男達。十一人も居たので床が男達で埋まってしまっている。何人かの男達は既に目を覚ましていてスイを睨んでくる。気絶したことは忘れているようで都合の良い頭だなと思う。
とりあえず鬱陶しかったので目を覚ましていた男を通り過ぎ様に顔を軽く蹴る。軽くと言っても男達からしたらかなりの力だが。
「さて、ハルテイア達はどうする?見ていたいなら良いけど気分悪くなるようなら他の部屋に行ってて良いよ?」
そう言うとハルテイアは三人を連れて出ていく。ハルテイアは残っても気にしなさそうだったけど三人は子供だから気にしたのだろう。
「ん~、どうしよっかな。魔法で無理矢理性格でも変える?それとも従順になるまで半殺しかな?」
スイはとりあえず目を覚ましていない男達を起こすため魔法で部屋の中を水で満たしてみる。制御はしっかりしているので部屋の外に水が漏れることはない。溺れたことで目を覚ましたので敢えてゆっくりと水を減らして息を止めて我慢している男の腹を蹴飛ばしたりして死ぬ寸前まで全員を追い詰める。当然部屋には既に静寂の箱を使用している。
「従順になるまで半殺しにしよっか。それでも無理ならお腹の中に爆弾でも入れたら良いよね」
ぜいぜい喘いでいる男の顔を蹴り腹を踏み股間を潰し足を砕き手を逆に曲げ指を切り取り目を抉り鼻を削ぐ。何回か死にかけたので神癒で回復させてあげる。
「意外と拷問って心に来ないね。敵って割り切ってるからかなぁ?それとも必要なことだと気にしないようにしてる?まあどうでも良いか」
呟きながら男達をひたすら拷問する。思い付く限りの痛みを与えていたらついに廃人になってしまった。目が虚ろになって口は半開き、痛みを与えても唸りはするけどそれ以上には何にもならなくなった。
「
本来なら悪夢を見させる魔法だが精神干渉の魔法なので逆に使用して精神を改善する。廃人になった程度で終わらせるわけがない。
「二回戦」
そう呟くと正気に戻った男達を再度拷問にかける。爪を剥ぎ耳を千切り肉を切り骨を外していき内臓をぐちゃぐちゃにかき回す。神癒をかけ丁寧に肉を切り取って内蔵と骨だけにしていく。
男達は涙を流し糞尿を撒き散らしてただ悲鳴をあげる。廃人になったら正気に戻して三回戦に突入、四回戦、五回戦と終わらせた時には既に暗くなっていた。
「ああ、ちょっと時間掛けすぎたかな。ご飯食べてこよう」
スイが部屋から出る際に男達に呟く。
「逃げたらずっとだよ」
男達はただ震えて涙を流すだけだった。
「アルフ、食べ終えたら私の部屋に来て」
スイは食事を終えた後アルフにそう呼び掛ける。男達の拷問のときに血を見ていたらほんの少しの渇きを覚えたので吸血をしようかと思ったのだ。初めて自分から吸血を行うことに多少の緊張を持って臨む。それなのにアルフは分かったと言って特に何の緊張もしていないようだ。いや緊張する必要がないから当たり前なのだが。
アルフが来るのを部屋で待つ。当然だが男達の居る部屋ではない。あそこはハルテイア達の部屋だからだ。ちなみにハルテイア達は今は他の子達と一緒に居るはずだ。緊張してドキドキする。
「ごめん。待たせた」
ノックをされたので扉を開けるとアルフが部屋に入ってくる。
「それでどうしたんだ?」
「えっと……その、血を……」
「ち……血、ああそういうことか。フェリノとかも呼んだ方が良いか?」
「大丈夫」
「そっか。で、俺はどうしたら良いんだ?」
「ベッドに腰掛けてたら私が勝手に吸うよ」
「分かった」
アルフがベッドに腰掛けたのを見ると後ろに回り込みそっと首を抱く。アルフの身体が少し固くなる。緊張したようで少しだけ笑う。そのままアルフの首筋に口を近付けていく。口先が首筋に当たったところでスイも緊張でドキドキし過ぎて少し震える。小さく口を開いて尖った犬歯を押し当てる。ぐっと押し込むと小さな抵抗の後に歯がアルフの首筋に傷を付ける。
じわっと滲んできた血を舌先に乗せて転がすように味わう。何時までも味わっていたいほどの甘美な味にスイからほうっと甘い吐息が漏れる。その吐息が色っぽかったためかアルフは思わず横目でスイの姿を見る。
スイの表情は常からは考えられないほど妖艶で見るものを釘付けにするような色気が発されていた。幼い姿に不釣り合いなほどの大人の色気は不思議な魅力に溢れていて目を離せなくなる。アルフが見ていることにも気付かずにスイは夢中で血を飲んでいる。
暫くした後スイはアルフが見ていることに気付いたようだが飲むことはやめなかった。小さな口と傷口から垂れる唾液は糸を引いている。その姿はあまりにも扇情的でまるで男を引き寄せ喰らう悪魔のようだ。
「ん……ちゅ……ぺろっ……はぁっ……」
アルフはスイから発される色気に惑わされないように必死に目を逸らして耐えた。体感では一時間か二時間は掛かったような気がしたが実際は十分ほどだったようだ。終わったときアルフは少しげっそりしていた。
「大丈夫?顔色悪い。吸血のせい?治癒魔法かけておけば良い?」
スイがアルフの顔を覗き込んで言うとアルフは顔を赤くして大丈夫だからと言うとさっさと部屋を出ていってしまった。アルフが少し心配だが本当に危ないのなら言うだろうと思ったので追い掛けたりはしない。
吸血を終えた後は再び男達の元へと向かう。
ハルテイア達の部屋に入ると男達が泣いていたので軽く頬を叩く。拷問が始まると思ったのか既に意識が虚ろになりかけている者もいる。
「ん、貴方達次第だけど拷問はもうやらないよ」
スイがそう言うと男達は一縷の希望でも見たのかスイを見る。
「ん、従順だね。貴方達には魔族の悪評を改善して貰いたいんだ。具体的には魔族に助けてもらったとか魔族も人族や亜人族とあまり変わらないとかそういうことを言って欲しいんだ」
スイが男達に言うと男達は首を折れるんじゃないかと思うぐらい縦に振る。スイはそれに対して冷たい微笑みを返す。
「でも私のことを覚えてたら駄目なんだ。だから……」
スイは呟くように言うと男達に向けて右手を向ける。
「今言ったことを心に刻み込め。
スイは男達が死なない程度に雷撃を与える。痛覚に直接痛みを与える雷撃は男達の意識を刈り取るのに充分すぎた。意識を失った男達を魔法で浮かせると窓の外から適当なところまで飛ばす。ついでに男達が漏らした色々なものも床にこびりついたものも分離させて一緒に飛ばす。心情的には床に触りたくもないが分離させたし床の一部を薄皮のように剥がしたため一切残っていないはずだ。
「ふぅ、これで終わりっと。明日にはこの街出よう」
スイは呟くとハルテイア達を呼びに行った。
余談だがこの時の男達は拷問されたせいか人が変わり所持していた奴隷達を謝罪しながら解放して奴隷解放運動や魔族の手先と呼ばれても魔族の印象改善に勤めたという。
『スイよ。鳥を見付けた』
スイ達が翌朝ハジットの街を後にし次の街シェアルを目指して馬車を進ませているとイルナが突然声をあげた。スイが周りを見渡すと極々小さな粒のような黒い影が空に浮かんでいた。
「あれ?」
『あれだ。見付けたことだし我は離れる』
スイが話しながらも影を見ると此方から離れるように飛んでいるようだ。というかイルナから全力で離れているようにしか見えない。
「…………」
『ふむ。また機会があれば会えるだろう。ではなスイ。我が友の仇を討つのは任せた』
イルナは言うが早いか駆け出していく。途中で本来の姿に戻りながら空を駆ける。その速度は尋常ではなく一瞬で豆粒のようになってしまう。しかしスイは何とも言えない微妙な表情になってしまった。それというのも途中でイルナが叫んだ内容のせいだ。
『逃げるな!この馬鹿弟子がぁぁ!!』
やっぱり逃げてたんだとスイは思った。
馬車で移動すること四日、ようやくシェアルの街が見えてきた。丘から見た感じではシェアルの街は三段階の壁で守られていた。一番外側は貧困層で真ん中が平民層、内側が貴族や豪商達による層らしい。
「拓なら典型的な異世界の街って感じだって言いそうだなぁ」
「タクって誰?」
スイの呟きが聞こえたのかフェリノが問い掛けてくる。
「ん、私の弟。双子じゃなかったけど凄く似てた可愛い弟」
スイが言うとフェリノがあっという感じにおろおろする。スイの弟ということは前世の弟だ。つまり二度と会えない。スイがフェリノを呼び頭を撫でる。
「気にしなくて良いよ。大丈夫。拓も死んじゃってるから。それよりシェアルにさっさと入っちゃおう」
スイがそう言うとステラが馬を歩かせ門へと向かう。
「止まれ!これ以上は許可証が必要だ」
門番が先頭を走るカレッド達の馬車を止めると聞き慣れない言葉を発する。それはカレッド達もそうだったのか門番に問い返す。
「許可証って何だ?そんなものが必要とは聞いてないぞ」
「ブルノー子爵が決められたのだ。許可証の発行は横の受付で作れる。無いなら一旦下がれ」
門番はそう言うとカレッド達の馬を槍で叩き無理矢理進路を変えた。仕方無いので横の受付へと向かう。
「許可証の発行か?なら銅、銀、金から選べ。銅なら銅貨五枚、銀なら銅貨二十枚、金なら銀貨一枚だ。銅なら三層目だけ、銀なら二層目、金なら一層目まで行ける。奴隷ならその半分だ」
「はぁ!?高過ぎるだろ!意味が分からないぞ!」
カレッドが声を荒げたが受付の男は素知らぬ顔で無視をする。
「ああ、あと許可証は持っていたら何時までも使えるんだ。だから高過ぎるってことでもないだろ」
男はそう言うがそもそも冒険者は死と隣り合わせの者が多い。何度も行き来すれば確かに元は取れるだろうがそこまで頻繁に出入りしていたらいつか魔物に殺されるし盗賊にやられるかもしれない。リスクを考えたら明らかに高い。
それにそもそもシェアルの街には特産らしきものがあまりない。旨味もないのだ。だがシェアルの街は城塞都市と並んで帝都と他の街を繋ぐ街でもある。だからこんな商売も成り立つのだろう。
「カレッドさん、気にしないで。お金が心配なら私が出す」
スイはそう言うとファルの袋から銀貨を四枚取り出す。
「銀を全員分で、奴隷は二十五人」
「二十五人って……まあ分かった。んじゃあ釣りは銅貨十枚な。ほら、これが銀だ」
そう言って渡されたのは質の悪そうな銀板だった。銀板を持って再び門へと向かう。
「許可証は手に入れたか?」
「ああ、銀だ」
「ふん……確認した。中に入って良し」
門が開いたのでスイ達は馬車を中に進めていく。三層目はかなりの貧困層にようでスイ達を遠目でギラつく目で見ている。二層目に入ると決して貧しくはないが裕福でもない人達が居た。平民層だと思ったがこれだと順貧困層といってもおかしくない。
「表通りはやめて裏通りで宿を取ろう。何だか表通りは嫌な感じがする」
スイがそう言うと馬車を裏通りへと走る。暫く走らせると寂れているが大きな宿があったのでそこに入る。
「いらっしゃいませ~!!」
中に入るとまだ五、六歳にしか見えない白髪の女の子が接客をしてくれた。
「ん、部屋を取りたいんだけど空いてるかな?」
「何部屋か余ってます!何名様ですか~?」
「三十二」
「三十二名様ですか~。んと十部屋は空いてるから大丈夫です!」
大きな宿なのに泊まる客が居ないのかかなりの部屋数が余っていた。
「というかお泊りさんが居ないので全部屋空いてます!」
女の子が凄いカミングアウトをしてきた。
「こら!イルゥ!変なこと言うんじゃありません!」
厨房だと思われる場所から三十代の女性が出てきて女の子イルゥを叱り付ける。
「ごめんなさい」
「まったく……ああ、すみません。部屋は余っていますのでどうぞ。一泊辺り鉄貨二十枚、食事ありです。無しになされるなら十枚です」
「ん、食事はありでお願いします。一応一週間で」
スイはそう言って銅貨を四十五枚出す。
「お釣りは……この子にお小遣いとしてあげてください」
そう言ってイルゥを指す。
「まあ、ありがとうございます。では食事はもうしますか?」
「お姉ちゃんありがとうございます!」
「気にしないで。お願いします」
スイはそう言うとハルテイア達に手伝うように言う。三十人以上は辛いだろうからだ。ちなみにスイはしない。料理関係はある程度出来るが食材が変なものしかないのでまともにやれないのだ。
ハルテイア達が料理が出来るのは野営のときに分かったので頼んだのだ。そしてスイはイルゥを掴んで自分の膝に乗せて待つ。あまりに自然に乗せられたのでイルゥも一瞬気付いていなかった。
「貴女はここ、そんな小さな身体で手伝うとか許さない」
料理が出来て持ってこられるまでイルゥはスイの膝の上で頭を撫でたりぎゅっと抱き締められたりして過ごすことになったのだった。
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