第8話 後悔しています。反省はしません
現在スイは西風の王味亭に来ていた。一人から四人に増えたのを見て女性は訊きたそうにしていたが泊まることと食事を部屋に持ってきて貰うように頼んだ後はさっさと昨日も泊まった部屋に上がっていった。
入ってからスイはようやく気付いたのだが三人はそれはもう凄い怯えていた。やり過ぎたと思う。買われたと思ったら初っぱなから目の前で人が死んだのだ。しかも買った主人が殺した。怯えるなと言う方がおかしい。
「えっと……とりあえず話すことを許可」
「あっ……あのっ…!私達はどうしたら良いのでしょうか…?」
話すことを許可したら白狼族?の女の子の方が話し掛けてきた。
「…先に名前教えてくれる?私はスイ」
「あっ……はっ、はい!私はフェリノといいます!白狼族です!年齢は十五歳です!」
「俺はアルフ……十七歳でフェリノの兄…です」
「……エルフのステラといいます。十六歳です。これからよろしくお願いしますスイ様」
「フェリノ、アルフ、ステラだね。恐がるなって言うのは難しいかもしれないけどこれから慣れてくれると嬉しい」
「はっはい!了解ですスイ様!」
「……とりあえずフェリノは落ち着いて」
「す、すみません!」
謝るとフェリノは何故かこちらに差し出すように頭を下げる。
「えっと……なに?」
「……?殴らないのですか?」
「殴らない」
はっきり告げるとフェリノは驚いたようだが別にスイは怒ってなどいない。
「とりあえずあなた達に幾つか命令するね」
三人は顔を強張らせた。
「別に大したことは言わない。命令の形にするのは私の安全のためだから」
「な、何でしょうか…?」
フェリノがびくびくしながら問う。スイは目の前で力なく垂れる犬…じゃない狼の耳を見て撫でたい気持ちを抑える。
「私に対して直接的・間接的を問わず敵対行動を取らない。不利益となる行動の原則的禁止。何らかで取る必要がある場合は私への申告を。あとは……私のことを私の許可なく誰にも話さないこと。……今はそれぐらいかな」
「えっ……?あの…それだけなのですか?」
「ん。それだけ。後は特にない。いやあるけど今はまだ大丈夫だから良い。その時が来たら言う」
吸血に関してはまだ衝動が起きてない。恐らく一度飲み始めたら抑えることが出来なくなるだろう。抑えれる限り抑える。今飲めば三人は主人である自分を完全に畏怖の対象としてしまい気楽に接することが出来なくなるだろう。それは好ましくない。三人が困惑していると少しして食事が運ばれてくる。
「とりあえず食べて。お腹…減ったでしょ?」
三人はスイから許可をもらうと我先にと食べていく。随分と酷い扱いを受けていたようだ。あまり怪我が無いことからまだマシだったのかもしれないがそれでも子供の段階で受ける仕打ちではないだろう。スイはどうしようかなと考えながら食事を楽しむことにした。
食事したあと思い浮かんだのは三人の服と寝る場所だ。本来四人で宿屋に入ればその時点で四人部屋を案内されるはずだが部屋が空いていないらしく他の宿屋も知らないので元の部屋に案内してもらったのだ。服に至っては早急に用意するべきだろう。三人の服はぼろぼろで服というより布を巻いていると言っても違和感がなかった。だがオークションが行われたのは夜だったこともあり服屋らしきものは開いていなかった。明日朝早くから見に行こうと思う。
「……ん、フェリノとステラがベッドで私とアルフが床で。アルフには悪いけど我慢して」
「な、なにを!?スイ様がベッドをお使いください!私達は大丈夫ですから!」
「…そうです。スイ様私達は身体が丈夫ですのでお気になさらないで下さい」
「……良いから。二人とも疲れてるみたいだしベッドで詰めたら寝れると思うから。男の子だし少しだけアルフは我慢してね。今晩だけにするから」
「スイ様!」
「命令されたくなかったら大人しく寝て。夜だし防音しっかりしてるとしても隣には聞こえるかもしれないんだから」
ベッドで寝るように指示された二人は不満のようだが命令をされたら抵抗する事も出来ない。二人を無理矢理ベッドに寝かせアルフは床に<黒羽ティル>を敷いてその上に寝るように指示する。三人は横になるとすぐに眠ってしまう。かなり疲れていたようだ。眠ってしまうと寝た振りをしていたスイは静かに魔法を使う。
「光と風と水よ、その清さを持ちて彼の者等を癒し穢れを祓え。悪しき力も祓え」
三人の軽い怪我を治した後に汚れを飛ばし、奴隷紋に組み込まれていた異物を消して干渉不可の領域を三人に展開する。異物は抵抗しようとしたが魔力を多量に含んで無理矢理押し潰す。
「あの男が仕込んだのかな……まあ、これで干渉出来ないはず」
今度こそスイは深い眠りに落ちていった。
朝早くからスイは起きる。まだ三人は眠っているので自然に起きるのを待つことにする。待っている最中に手早く服を着替える。今回は明るい茶色のドレスだ。
三人はまだ起きそうになかったので指輪から昨日と一昨日に着たドレスを取り出し魔法で汚れを吹き飛ばす。心情的にはしっかりと洗濯をしたいところだが残念なことに魔法が発達してしまっているせいか洗濯の文化が無いようなのだ。三人が起き始めたので指輪にドレスを収納して話し掛ける。
「おはよう……良く眠れたみたいだね良かった」
「おはようスイ様。身体は大丈夫ですか?」
「お、おはようございます!スイ様!」
「おはようございますスイ様。スイ様のお蔭です」
アルフ、フェリノ、ステラが順番に答える。
「…………昨日も思ったけどスイ様ってやめて。あと敬語も。私とあなた達は一応主従関係だけど年が近い子に敬語なんて使われたくない」
「えっと、では何とお呼びすれば良いでしょうか?」
「……普通にスイで良い。あと敬語」
「ス、スイ…さん!あのっ!怪我が……」
「……ん、治した。汚れも一応取ったけど身体ぐらい洗いたいよね……何で風呂文化無いんだろう。最悪風呂場を作ろうかな。あんまり目立ちたくないけど」
そうなのだ。何故かこちらの世界には風呂の文化が無く身体は川や魔法で造り出した水を浴びて終わり。沐浴とかあるくせに風呂の文化だけ無かった。変な発展の仕方をしている世界であった。
「とりあえず一階でご飯食べたら服を買いに行くよ。あと冒険者ギルドに行く。そこで登録してもらうよ。私が居なくなったときに働けないのは困るからね。あとは皆の奴隷紋見せて。ちょっとだけ改良するから」
「奴隷紋の改良……ですか?そのようなことがスイ…さんは出来るのですか?」
「ん。見た感じ複雑な部分もあるけど改良するのは簡単な部分だから。奴隷の皆と主人の私が離れても大丈夫なようにするだけ」
「簡単……ですか。私も出来ないのに……」
見た目より大人びた感じのするステラは自分より年下にしか見えないスイに少しばかりの嫉妬とそれ以上の驚愕を受けていた。アルフとフェリノは首をかしげているためあまり魔法には詳しくないのかもしれない。とりあえず三人の首にある奴隷紋の一部を魔力を込めて変質させていく。首輪をしていた為か少しばかり赤くなっているのが目に映る。ほんの数秒で改良が終わったので三人を連れて一階に降りる。一階で女性に食事を頼み待っていると入り口からシャーリーがやってきた。そして、スイの姿を見付けるとにっこりと微笑んで歩いてくる。
「おはようございますぅスイちゃん♪」
「ん……おはようございますシャーリーさん」
「まぁ…♪話したこと無いのに知っていてくれたのですかぁ♪嬉しいですぅ♪」
「あの人が呼んでいたので……それで私に何か用ですか?」
「モルテさんから聞いたのですけどぉスイちゃんって魔法が随分と得意なようですのでぇちょっとギルドの仕事お手伝いしてみませんかぁって言いに来たんですぅ。スイちゃんはまだ依頼を受けれないですし少しではありますがお給金も貰えますよぉ?どうでしょうかぁ?」
「ん……断ります」
少し考えた後断るとシャーリーは明らかに落胆した表情を見せる。一緒に働きたかったのだろうがスイはギルド員じゃなくて冒険者として生きていくつもりなのだ。今了承するとなし崩しにギルド員にされそうな気がひしひしと感じる。
「そ、そうですかぁ……。でもそうなるとスイちゃんお金大丈夫ですかぁ?」
「大丈夫です。この二人のパーティーに同伴する形で稼がせてもらいますので」
「えっとぉ……そういえばその子達は誰なのでしょう?」
「ん、白狼族のアルフとフェリノ、エルフのステラです。私の所有する子達なので手を出したら怒ります」
「所有……奴隷…ですかぁ…?スイちゃん……あんまり言いたくないですがぁ奴隷というのは良い見方をされません。出来るだけ隠した方が良いですよぉ?」
ウォルのようにシャーリーは奴隷というものに対して嫌悪まではいかないが忌避感を抱いているようだ。
「分かった。……だからシャーリーさん服屋さんと武器売ってるところとか教えて欲しい」
「えっとぉ…本当にその子達と一緒にぃ?」
「アルフとステラは十七歳と十六歳だから冒険者でやっていける。二人には頑張って貰う」
それを聞いてる二人は緊張でかなり顔が強張っているがスイはそれを無視する。スイとしては二人に頑張って貰うしかない。スイの姿は十二歳程度にしか見えないため見た目で侮られる可能性は高い。そういったものを避けたいため信頼できるようになったら二人に大人達への対処を任せたいのだ。ついでに戦えるようになったら色々と楽になる。
「そ、そうですかぁ……分かりました。今偶然書類を持ってるのでぇ二人の審査しちゃいましょうかぁ?」
書類を持ってるのは偶然じゃなくてスイをギルド員にするためな感じがするが突っ込みはしない。
「お願いします。……ご飯食べてから」
ちなみに食事は既に届いてる。ここのご飯は届くのが本当に早いのだ。三人も届いたのにお預けを喰らって何とも言えない表情だ。昨日の食事で胃袋を掴まれているようだ。王味亭というだけある。
「あっ、ごめんねぇ。食べちゃって食べちゃってぇ。私も食べよっかなぁ。ルーニちゃ~ん♪私にも朝御飯作って~♪」
宿の女性はルーニというらしい。初めて知った。五人で食事しているとシャーリーが若干驚いてたようだがかつての拓の言葉を思い出すとこういう食事の時は奴隷を主人と同じ食事じゃないとか食べる時間が違うとかだろうか。スイからしたらどうでも良いが。スイの食事は少し遅いので先にアルフ達の審査をして貰うことにする。
「アルフ君、十七歳、出身地はセロニア大陸…と大雑把ねぇ、適性が火と土ね。武器は無し。まあ問題なしっと。で、ステラちゃん、十六歳、出身地は内緒ね、適性が水と土と風、凄いわねぇ。流石だわ。武器は無しっと。まあ、武器無いんだから書けないわよねぇ。特に問題無さそうだからこっちで処理しとくわね♪」
「ありがとうございます」
「それではい。適当に地図書いといたからそこに向かったら服屋さんと武器・防具屋が少し歩いたらあるから色々と売ってくれるはずよぉ♪ちょっと高かったりするからもし買えそうになかったらギルドの方に来てねぇ。武器の貸し出しも受け付けてるから♪じゃあまたねぇ♪」
食べ終えたらさっさと帰っていってしまった。ほんわかした見た目と裏腹にパワフルな女性だったようだ。スイはとりあえず食べ終えると三人を連れて服屋へと向かうことにする。
……ルーニに四人部屋を頼んでから。
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